第24話 楽太郎 食堂の後始末をする。
遅れました。
読んで頂ければと思います。
翌日、朝食を摂ろうと宿の食堂に行くとシーツを被った芋虫が4つあった。
「おはようございます、ラディッツさん。朝食お願いできます?」
芋虫を無視して注文すると、ラディッツ氏が顰めっ面で芋虫たちの方を目で示してくる。
「ラクタロー、こいつ等どうするんでぇ?昨日はそのまま放置でって言ってったがよ。朝からこいつ等泣きっぱなしで困ってんだよ」
「あぁ、外に放り出しますか。邪魔ですしね」
そう言って芋虫4匹に掛かってたシーツを外すと、中庭の方にゴミ出しの要領で運んで放り出す。
何か喚いていたが、全面的に無視した。
「おめぇ、容赦ねぇな」
食堂に戻るとラディッツ氏が胡乱な顔で言って来た。
「えぇ、当たり前ですよ。向こうから因縁つけて来たくせに、返り討ちに遭ったら複数で騙し討ちかまそうって言う性根の腐った連中に与える慈悲なんぞ、私は持ち合わせていませんよ。むしろあの程度で許されてることに感謝して欲しいくらいですよ」
そう言うと、ラディッツ氏も「違いねぇが、おめぇの問題だ。俺の店を巻き込むんじゃねぇぞ?!」と言って4人の始末を念押ししてきた。
ま、まぁ、確かに俺が巻き込まれたトラブルだしな。後腐れが無いよう始末を付けないと・・・ はぁ、面倒だ。
「まずは飯食ってから解決してくれや」
そう言って朝食を出してくれた。
「ありがとうございます。 それじゃぁ、早速いただきます!」
手を合わせてから朝食を頂いた。
「さて、これからどうしましょうかね?」
そう言って転がっている4人に聞いてみる。
まぁ、昨日の夜から亀甲縛りで身動きできない状態なので、4人とも死んだ魚の様な眼をしている。
「・・・もう十分だろう」
昨日剣で斬り付けてきた女が口を開いた。
「何が十分なんです?」
そう問い返すと、怒りの篭った眼でこちらを睨んできた。
「私達を弄んだだろうが! それで十分だろう」
悔しそうに言ってくるが、俺は容赦しないよん。
格上だろうが、格下だろうが、相手に失礼な事したなら謝るのが基本だろうに。そんな事もわかっていない様だ。
謝罪ってのは、いつの時代も大事な事だと思うのよ。俺はね。
「あなた、昨日私に決闘を申し込んだ時、賭けの対象はお互いの命って言ってましたよね? なら、あなた達が死ぬ事が私への報酬なんじゃないですか?」
そう言うと、他の3人が怯えた。
「まぁ、私は条件を変えてあなた達に『地獄を見せてやる』って言ってしまったので、これから文字通りの地獄ってのを見せてあげても良いんですけど?」
そう言うと、また怯える3人。 どっちにしろ俺は彼らには恐怖の対象にしか映らなくなったようだな。 この3人はもう一押しってところか。
そんなやり取りをしていると、リンスさんが寄って来て、助け船を出す。
「ラクタローさん。もうその辺で許してあげたらどうですか? 流石に可哀想だと思うんですけど?」
「そうしたいのは山々なんですがね、反省してない奴が1人いるんですよ」
そう言って視線を女に向ける。
釣られてリンスさんも剣で襲ってきた女を見る。
2人に見つめられているのが、なぜ自分なのかと分かっていない様だ。
「仕方ないか。おい、そこの3人」
そう言って殺気を込めた威圧を他の3人に向ける。
「「「「「ひぃ!」」」」」
あからさまな恐怖を顔に貼り付けた5人が、短く悲鳴を上げる。 うん? 5人? あ、しまった。
一旦、威圧を解くと、リンスさんに離れて貰うようお願いする。
再び威圧を・・・と思ったが、なんか気が殺がれたのでやめる。
「そこの3人、あー、代表してジャン君。これから君達に1撃ずつ俺の攻撃を受けて貰う。 まぁ、俺のストレス発散がメインなんだが、その後解放してやろう。まぁ、解放後は俺の目の前に二度と現れないことだ。もし見つけたら、君ら、死ぬより酷い目に合わせてやるから。 どうだい?」
俺は笑顔で条件を言ったんだが、やっぱり怖かったようだ、怯えながら返事をされる。
「ほ、ほんとに、い、1撃でいいんだな?」
「あぁ、耐えれればそのまま解放しますよ」
そう言って肯定する。
「わ、わかった。 お前等もそれでいいよな?」
残りの2人に確認するジャン。2人ともかくかくと壊れた人形の様に首を縦に振り続ける。
「分かりました」
そう言うと俺は3人のロープを解いた。 これで亀甲縛りは1人のみ。
残された1人が喚いているが無視だ。
「因みに、逃げようとしたら、どうなるかは言わなくても分かるでしょう?」
そう言ってニッコリと笑ってやると、3人が怯えた。
「それじゃ、元凶のジャンから行きますか」
そう言うと、ジャンは体を強張らせた。
俺は軽く体を解すと、ワンステップでジャンの目の前に移動し、震脚と共に拳を打ち上げる。 ジャンの腹部に突き刺さるが、対して抵抗もなく、そのままの勢いで振り切ると、ジャンはそのまま空に打ち上げられて消えて行った。
・・・
最初は試しに半分くらいの力で打ち込んだだけだったんだが・・・ レベル補正ってすごいなぁ。・・・ま、まぁ、ジャンもLv15だし、死ぬこともないだろう。
「さて、次行きますか」
そう言って残り2人に向き直ると、女は腰を抜かして失禁した。
男の方は、後ずさり、逃げ出した。
「逃げるなと言っただろうが!」
苛立ち混じりにそう言って、男に向かって地面に落ちてた小石を蹴りつける。
小石は男の太ももに当たると、ゴキッと鈍い音がして、男は無様に転がった。
転がった男は、痛みより、信じられないといった恐怖の表情で固まっている。
「忠告したのに逃げるからですよ? あなた、ジャンよりもっと高く飛びたいようですね」
男が震えるが、無視して蹴り上げた。
本気ではないが、ジャンより少し強めに力を込めたつもりだったんだが、ジャンの数倍の速度で飛んで行ってしまった。 ありゃ死んだかもな・・・
手より足の方が力が強いのは分かるが、力の加減が分からない・・・
さて、後1人なんだが・・・
腰が抜けて立てないのか、ガタガタ震えている。おまけに漏らしてるから、下半身が泥に塗れてえらい事になってる。
うーん、正直触りたくない。1撃かます為でも嫌だな。
どうしよう・・・もう面倒だからそのまま解放するか。
そう思っていると、女が土下座してきた。
「す、すいませんでした。に、二度とこんなことはしません。 ゆ、ゆる、許して、 許してください・・・ お願いします」
ふむ、反省はしたようだし、軽く脅して終わらせますか。
「分かりました。反省している様だし、許しましょう。 ですが、二度と私の前に出てこないでくださいね。 次見付けたら、性的な意味でも酷いことしますからね」
そう言って厭らしく笑ってやる。・・・朝っぱらからなんてこと言ってんだろう俺。
女は俺の許しの言葉に、一瞬呆然とした顔をするが、すぐに笑顔で感謝の言葉を言い始めた。
「あ、ありがとうございます。 本当にありがとうございます」
そう言ってさっさと立ち去ろうとするが、腰が抜けてるせいで立てない様だ。
じーっと見ていると、何かされるとでも思ったのか、怯えた顔で必死に這って中庭から出て行った。
ふぅ、これで3人については大丈夫だろう。
「さて、それじゃ俺も出掛けますか」
そう言って中庭を出ようとすると、声がかかった。
「貴様! このロープを解け!」
まるで聞こえなかったかの様に無視して中庭から出てこっそり観察する。
暫らくは「戻ってこい」とか「誰かー!」と叫んでいたが、無駄だと知ったようで、大人しくなった。
因みに中庭に出ようとした人達には俺がお願いして他に行って貰った。
渋る人もいたが、金銭を少々握らせると納得してくれた。
こうして人との接触を断ち、孤立する事で反省を促してみたんだが・・・思いの外、手間がかかる。
あ、そか、納屋にでも放り込んでおけば良かったのか・・・
ちょっと失敗したな。
そんな事を考えつつ、さらに10分位したら、しくしくと泣き始めた。
まるで子供だな。押入に閉じ込められる某磯〇さん家のカ〇〇君みたいな感じだ。
暫らくそのまま観察を続けていると、またリンスさんに声を掛けられた。
「ラクタローさん。まだやってるんですか?」
「リンスさん?! あぁ、いや、彼女に反省を促そうかと、動けない状態で孤立させてみたんですよ」
そう言って彼女を指差すと、リンスさんは彼女の方を見て、気の毒そうな表情になる。
「ラクタローさん、そろそろ許してあげたらどうです? 成人した女性があんな風に泣いてるのって、見てると居た堪れなくなってきます」
ふむ、そうかもしれんね、傍から見てる分にはね。
命狙われた者からすれば、これ以上関わって来て欲しくないんだよね。 後顧の憂いを断つ的な意味で・・・
そういや、名前も知らんな、一応「鑑定」してみるか。
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名前 :ロミーナ=アルファーノ
年齢 :18
種族 :人間
職業 :冒険者(ランクE)
称号 :-
レベル:20
ステータス
HP : 470
MP : 231
STR : 250
VIT : 210
INT : 210
AGI : 350
DEX : 170
MND : 210
LUK : 32
特記事項
おぉ、思ったよりレベルが高いな。だが、それよりも家名があるってことは、貴族なのか?
こりゃまた厄介な事になりそうだな・・・
嫌な予感を感じつつ、泣き続けるロミーナを観察する。
暫らくして、漸く泣き止んだようだ。
さて、そろそろ反省出来たかな?
そう思って近づき、声を掛ける。
「そろそろ反省出来たか?」
驚いたのか、体を一瞬震わせ、こちらを見ようとするが、縛られてるせいで後ろを向けない様だ。
「反省ってなんのだ?」
「本気で言っているのか?」
「・・・」
本気でわからないと言った感じで首を傾げている。
マジ〇チかよ・・・ 親の教育が知れるぜ・・・全く。
俺は呆れながらも事の成り行きを説明してやった。 厭味ったらしくね。
「人様に無用な喧嘩を売って撃退された挙句、決闘だと狂言回しして更にブチのめされたんだよ? あんた達は。 普通これだけ人様に迷惑かけたら、謝罪やら賠償やらするのが当たり前だろう?」
ロミーナの顔色が変わる。
「それは違う! 私はお前がジャンの奴を弄んでいたから止めに入ったんだ!」
「ほぉ、止めに入るとは背中から殺す勢いで剣を振り下ろす事を言うのか?」
「それは・・・ お酒を飲んでいたから・・・ 加減できなかったのよ」
そう気不味そうな顔で言うが、根本が分かっていない。
「それ以前に、先に絡んできたのはお前のお仲間さんだ。 事の原因はお前の仲間なんだよ。 それは分かってるだろう?」
「それは分かっている。しかし、あそこまで辱める必要はないだろう!」
「そんな必要があるんだよ。 俺がまともに相手をしたら、1撃で死んでるよ? あの男。 先程の仕置きを見てれば分かるだろう? あれでも相当手加減してやったんだぞ? それくらい実力差のある相手に喧嘩売ったんだよ。お前のお仲間さんはな」
「それでも辱める理由には「なるんだよ!」」
ロミーナの言葉を遮って、俺は告げる。
「自分と相手の実力差も測れない様な馬鹿が、格上の相手に喧嘩を売ったんだ。 売られた格上の人間からしたら、格下に舐められた事になるんだぞ? それこそ酷い侮辱だ。 その上で相手を馬鹿にした格下の人間が無事でいられる道理がどこにある? 寧ろあの程度のお遊びで許して貰えるんだ。破格の対応だぞ?」
そう言ってやると押し黙るロミーナ。 全く都合がいいお口だこと。
「お前ら屑はいつもそうだが、なんでも見た目で判断するよな? 本質を見ようともしないから相手との実力差がわからない。その上、相手が弱そうだと思うと嵩にかかって威圧したり、やりたい放題で敬意を払うこともしない。だから相手に侮られるのに、その事にも気付かない。 おまけに弱者だと思ってる相手とはまともな交渉もしない、その上反省もできないんじゃ、本当に屑だな。 そんな奴、生きてる意味があるのか?」
そう問いかける。
「・・・私は違う」
ロミーナはこちらを睨んでそう言ったが、俺は容赦しない。
「違わないだろうが、 最初俺に襲いかかった時、俺の背中に剣で一撃加えようとしたよな? 酒場での喧嘩で刃物はご法度って言う暗黙のルールを破った。 それ以前に背後から必殺の一撃って時点でまともじゃねぇ。 これが1つ。その後、見た目で俺が弱いと思ったお前は、俺との問答でも自分の都合だけを優先し、威圧的に要求を突き付けるだけで、まともに対話しなかった。これが2つ。その後、決闘と称してそのまま襲い掛かってきた。 決闘を申し込む場合、宣言をした後、立会人を立て、決闘の内容を決めてから闘うのが決まりだろう? お前も冒険者なら、冒険者になる最初の説明の時に聞いただろう? 決闘の宣言をしてからの不意打ちに、決闘のルールを決めもしない。これが3つ。 これだけ見ても十分屑じゃないか」
「それは・・・」
ロミーナは口を挟もうとするが、二の句が継げないようだ。 まぁ、全部事実だから反論できんのだろう。
だが、これで終わりじゃない。
「それだけじゃないぞ? 決闘と言いつつ、複数人による一方的な私刑を実行。 まぁ、俺に返り討ちにされたがな。 これで4つ。 やっぱり屑だろ? 普通これだけやらかしたら、冒険者ギルドから除名はもちろん、今頃牢屋にぶち込まれてそれなりの仕打ちをされるだろ。大物貴族でもない限りな。 この犯罪者!」
そう言ってやったら、顔を真っ赤にして怒っているが、全て事実なだけに俺に対する反論もぞんざいだ。
「お前等が捕まらずにこの程度のお仕置きで済んでるのは、単に俺の実力のお蔭なんだぞ? その辺もわかってないのか?」
ため息交じりに言ってやる。
「どういう事だ?」
ホントにわかってないのか? 頭の中お花畑だな・・・
「俺が死んでたりしたら、お前今頃犯罪者で街に居られないぞ? そんな事もわからないのか?」
「・・・」
今更になって気付いたのか。 青い顔をしている。
漸く事の重大さがわかったようだな。
「すまなかった・・・」
小声で謝罪されたが、まだまだだな。
「うん? なんて言った?今?」
厭らしく聞き直す。
「すまなかった」
眉間に皺を寄せながら言われた。 まだ分かってない様だね。
「格下がまだ上から目線か?」
少し威圧しつつ、はっきり言ってやる。
「・・・申し訳ありませんでした!」
怯えた顔をしていたが、暫らく逡巡した後、意を決して謝罪してきた。
うし、これで終わりにするか。
「わかりました。これで終わりにしましょう。 ただ、今後私の視界に入らに様にしてくださいね。 次見付けたら、今度は容赦なくお相手しますから」
そう言って強く殺気を向けると、ロミーナはガタガタ震え、涙を流した・・・ って、そんなに怖いのか? 俺の殺気って・・・
ロープを解いて解放すると、ロミーナはそのまま中庭を去って行った。
はぁ、漸く終わったか。くだらない事で時間を潰してしまった。
そう思いつつ、気持ちを切り替え、俺は魔法屋へ向かうことにした。
ひょっとしたら、炭酸が出来るかもしれない!
そんな期待を胸に秘め、歩き始める・・・