第22話 楽太郎の料理実験
遅くなりました。
すいません。
宿屋に着くと、俺は早速ラディッツ氏に料理の実験に付き合って貰おうと、食堂のカウンターへ向かう。
自分自身の料理の腕は、まぁ、自炊は何とかできてたくらいだ。
時々凝ったものを作りたくなることがあって、カレーを市販のルー抜きで作ってみたり、ピザを生地から自作したことがあったくらいだ。
因みに成功率は5割程度 ・ ・ ・ 実は3割以下・・・だったと思う。
ま、まぁ、低確率なので、今回はプロにお願いしたいのだよ。
ということで、ラディッツさんにお願いしに来たのだが・・・
「新しい料理のレシピだと?」
忙しそうに料理を作るラディッツさん。喋っていても手つきは精確に料理を作っている様だ。これなら安心だ。
「ええ、故郷の料理のソースなんですが、私は料理が苦手でして、その再現に手を貸してほしいんですよ」
「俺の状況見て言ってくれやラクタロー」
そう言われ、状況を見るが・・・ いつも通り忙しそうに料理を作って、出来上がりを告げると、それをリンスさんが客に出している。
・・・ こりゃ無理だな。
仕方ない、自分で実験するか・・・ 成功率3割以下だが、しかし! 作りたくなっちゃったんだもの・・・
「うーん、それじゃ、何処か料理できそうなとこ無いですかね?」
「あぁ、自炊する冒険者もいるんでな、中庭の方にある炊事場に薪と炊事用具一式は置いてあるぜ」
そんなとこに有ったのか、炊事場。 柔軟体操しかしてなかったから、気付かなかったな。
「分かりました。それじゃぁ、お借りすることにしますね」
「おう、頑張れよ。薪束は一束銅貨3枚だ。器具は壊さなきゃ無料だ」
「分かりました。それじゃ、薪を3束お願いします」
そう言ってカウンターに銅貨9枚置いて食堂を後にした。
中庭に出ると、周りを見回して炊事場を探す。
お? あそこかな? そう思い近付くと、炊事場があった。が、うーん、学生の頃に行ったキャンプ場の炊事場みたいになってるな。
調理器具の整った現代日本で成功率3割、キャンプの炊事場なら何割なんだ・・・
そう考えると、ほぼ失敗するな。
ま、まぁ、挑戦あるのみだ! 失敗しても捨てれば良いんだしな!
そう思い、取り敢えず井戸から水を汲み、水瓶に目一杯溜める。
次は竈に火を入れるか、そう考え、薪を組む。
火種は・・・っと、食堂から貰ってくるか。
そう考え、再度食堂へ行って火種の薪を手に入れ、火を入れる。
うし、最初の段階はクリアだな。
まずは、『無限収納』からオークの肉と骨を取り出し、骨を軽くへし折り、鍋に放り込み、肉も塊のまま放り込む。
そこに水を入れて、火にかける。
さて、次はもう一つ鍋を用意して、バターを塊で鍋にぶち込み、火にかける。
バターが溶ける間に水をピッチャーに移し、小麦粉を用意する。
小麦粉は篩にかけたいんだが、篩がないから仕方ない。
そのままぶち込むか! ダマになっても強引にかき混ぜて溶かしてやるぜ!
そんな勢いに任せて、溶けたバターの中に小麦粉をぶち込むと、木べらで捏ね繰り回し始めた。
右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。 右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。
右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。 右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。
その間に薪を焼べる。
右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。 右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。
右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。 右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。
その間に薪を焼べる。
右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。 右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。
右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。 右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。
その間に薪を焼べる。
右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。 右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。
右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。 右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。
その間に薪を焼べる。
右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。 右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。
右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。 右手で鍋をかき回し、左手で灰汁を取る。
その間に薪を焼べる。 焼べる。 焼べる。
と、ちょっとおかしなテンションで只管グルグルかき混ぜつつ、灰汁を取る。その間に火が弱らない様に薪を焼べ・・・の作業を20分程続けると、混ぜていた方が漸く茶色のルーっぽいものになった。
単純作業にダレはしたが、ステータスが高いお蔭か、疲れはほとんど感じない。
そろそろか、と思い、ピッチャーの水をルーの3倍くらい鍋に注ぎ込む。
そのままかき混ぜるが、暫らくしてもルーと水が分離した状態のまま混ざらない。
うむ、失敗かもしれん・・・ 取り敢えず、続けて煮込もう。
もう一つの鍋も灰汁はもう殆んど出なくなったが、そのまま煮込み続ける。
どちらの鍋も一先ず焦げ付きそうになくなったので、その間に次の作業へ移ろう。
『無限収納』から今度は玉ねぎ、人参、セロリを取り出す。
こっちの世界に来ても、何故か食材は鑑定すると、『地球』と同じ名称のままだった。
俺に分かり易い表示にしてるんだろうか?
まぁ、店にはもちろん聞いたことのない名前の野菜もいっぱいあったが、自分に馴染み深い食材はそのままの表記だった。
そう言えば金属も鉄とかあったよな、『地球』と共通の物質は名称がそのままになるのかねぇ。っと、そんな悠長な場合じゃなかったな。
料理中だったことを思い出し、2つの鍋を軽く掻き混ぜる。
さて、次の作業に移りますか。
取り出した玉ねぎをみじん切りにし、フライパンを火にかけ、バターを少量入れる。
フライパンが温まってきたら、玉ねぎをぶち込み炒め続ける。
炒め続ける事30分。玉ねぎが黄色くなってきて、少しドロッとしてきた。
そろそろ良いか、そう思い、フライパンを火から降ろす。
その間も他の鍋は定期的にかき回すことを忘れない。
残った人参とセロリもみじん切りにして、玉ねぎのフライパンに放り込む。
その後、バターと小麦粉の鍋を一旦火から降ろし、オーク肉の鍋を小一時間煮込んだ。
鍋がグツグツと煮立ち、出汁も十分取れただろう。 そう思い、鍋の中から骨とオーク肉を取り出し、出汁を清潔な布で濾す。
濾した後の出汁をバターと小麦粉の鍋にぶち込み、序でにフライパンの中身もぶち込む。
序でに酒屋で買った赤ワインもコップ2杯分くらいぶち込む。
後は煮詰めるだけだ。 只管火にかけ、焦げない様に掻き混ぜつつ、薪を焼べる。
そんな作業を3時間ほど続け、鍋の中身が煮詰める前の1/4程度になったところで火から降ろして試食する。
うむ、トロッとして、濃厚なソースに仕上がった。 個人的には塩気が足りない気がするが、それは今後の調理の際に加減すれば良いだろう。
失敗するかと懸念したが、上手く行ったみたいだ。
それにステータスが高い所為か、重労働の単純作業だったが、精神的に疲れても、肉体的にはあまり疲れずに済んだようだ。
俺は出来上がったソースを自分で買った鍋に移すと、そのまま『無限収納』にしまった。
やり切った達成感は確かにあったが、二度とやりたくない。とも思った。
面倒臭過ぎる。
使うのは今度でいいや、お腹も空いたし、ご飯食べたい。
そう思ってふと周りを見ると、既に真っ暗になっていた。
今何時くらいなんだろうか? 一瞬そう思ったが、どうでもいいか、今は空きっ腹を何とかしないとね。
そう思い、俺は再び食堂へと向かった。
こうして異世界『エターナルプレイス』初のドミグラスソースが誕生した。
料理ネタでした。
炭酸ネタは・・・ねぇ?