第18話 寄り道
蛇足が多くなってきました。
ご指摘あれば、よろしくお願いします。
クレオ氏、意外と頭いいんだな。
そんなことを思いつつ、ギルドを後にし、宿屋に戻ってインディを連れて行こうとしたら、リンスさんに捕まってしまった。
どうやら納屋でインディの世話をしてくれていたようだ。
「ラクタローさん! ちょうど良い所に! 私仕事終わったんで、昨日の串焼きのお店教えてくださいよ」
第1声がそれかよ・・・ ホントに美味しかったんだな。 昨日の串焼き。
「先程ぶりですね。リンスさん。お教えしたいのは山々なのですが、私これから仕事なんですよ」
そう言ってインディを納屋から連れ出そうとするが、リンスさんに止められる。
「昨日連れてってくれるって約束したじゃないですか! 嘘だったんですか?!」
悲しそうに見詰めてくる。
昨日の今日とは言ってないんだけど。
うーん。俺悪い事してないのに、大声で嘘吐き呼ばわりされると、なんか焦ってくるんだよね。どうしてだろう?
「いや、そんな事はないんですけど、私もお金を稼がないと、ほら、宿代も払えなくなっちゃいますし・・・」
「既に前払いで5日分貰ってますが?」
疑いの眼差しに変わった・・・ なんか怖い。
ぐぅ、確かにお金渡したが・・・ 参ったな。
仕方ないか。
「はぁ、分かりました。連れて行きますよ」
ため息雑じりに了解すると、リンスさんの表情が一変。
嬉しそうな笑顔になる。 いい笑顔だ。
「やったー♪ それじゃお父さんに出掛けて来るって言って来ますから、逃げないでくださいね!」
良い笑顔でそう言って走っていく。
ホント良い笑顔だ。
「インディ。餌付けされるなよ。 頼むからな・・・」
俺はそう言って頭と顎の下を撫でてやると、インディは気持ち良さそうに一声鳴いた。
ということで、現在ルッツさんの屋台目指して通りを歩いてます。
インディは納屋に留めたまま来てます。
あまり注目されても困るからね。
インディは居なくても、時々リンスさんが街の人達に絡まれ、隣に居る俺とのことを揶揄われることがあったが、リンスさんの知り合いみたいだから仕方ない。
もちろん彼女は顔を赤くすることなく素で受け答えしてたけどな!!
まぁ、こんな体型じゃさもありなん。・・・って、自分で言ってて凹むわ・・・
ま、まぁ、そんなこんなで、リンスさんと雑談しながら歩いていたんだが、
「そう言えば、ラクタローさんって、どの辺に住んでたんです?」
リンスさんのこの質問にどう返答したものか迷ってしまった。
固まった俺の顔を不思議そうに見てくる。
まずったな。適当に答えるか。
「えーと、ここよりもっと東の方ですかね。最果てと言っていい位遠くの方ですよ」
「東の方って言うと、聖竜皇国ですか?」
「いあ、もっと遠いです」
「え?! もっと東ですか? それって、暗黒領域って事ですか?」
なんか、物騒な単語が出てきた。
適当に答えたら、とんでもない事になってしまいそうだ。
誤魔化さねば・・・
「い、いえ。そのぉ、聖竜皇国の東にある小さな島の出身なんですよ。基本、島の外には殆んど出る事がない民族なので、あまり知られていないんです」
「なんだ、そう言う事でしたか。吃驚しましたよ」
そう言って胸を撫で下ろすリンスさん。
俺も胸を撫で下ろしたわ。 あー危なかった。
聖竜皇国の東側って、余程物騒なんだろう。
出身地について設定してなかったな。次からは気を付けよう。
そんな事を話していると、目的地に着いたようだ。
肉の焼ける良い匂いがしてくる。
俺は屋台に顔を出し、挨拶する。
「こんにちわ、ルッツさん」
「おう! らっしゃい! って、ラクタローじゃねぇか。昨日はありがとよ!」
そう言って嬉しそうな笑顔になるルッツさん。
「いえ、こちらこそ儲けさせてもらいました。 今日はお客さんを連れて来たんですよ」
そう言ってリンスさんを紹介する。
「初めまして。昨日ラクタローさんから頂いた串焼きが美味しかったんで、買いに来ちゃいました」
「おう! そいつはありがてぇ! が、すまんな嬢ちゃん。今日は串焼きじゃねぇんだよ」
「え?! 串焼きないんですか?」
「すまねぇな。今日はシチューとステーキなんでぇ」
そう言って鍋と切り分けた肉を見せてくれた。
鍋の中には色とりどりの野菜や肉が入っている様だ。
出汁はほぼ透明だな。シチューと言っていたが、何かごった煮と言うか、塩味の鍋物みたいだな。
お肉は大き目のステーキサイズに切り分けられ、すぐにでも焼ける状態になっている。
当てが外れたリンスさんはがっかりしてるかもと思い、顔を覗くと、鍋やお肉を見て嬉しそうに見ていた。
杞憂だったな。 良かった良かった。
さて、っと、そういやそろそろお昼頃か、ちょっと早いが腹拵えしますか。
「リンスさん。私はお腹減って来たんで、序でに食べようと思うんですが、リンスさんもどうです?」
俺がそう誘うと、リンスさんは2つ返事で即答した。
「それじゃルッツさん。その煮込み料理とステーキを2人前ずつお願いします」
「おう! 毎度! 合わせて銀貨2枚と銅貨4枚だ!」
そう言って鍋料理を出し、ステーキを焼き始める。
俺は素直に鍋料理を受け取り、銀貨2枚と銅貨4枚を手渡した。
「はい、リンスさん。そこの椅子に座って食べましょう」
「た、高いんですね。ここ」
そう言って丁寧に受け取るリンスさん。
「そうなんですか? 確か今日からはオーク肉を使うって聞いてるんで、高いのはその所為では?」
「え? オーク肉なんですか!」
「おう! その通りだぜ嬢ちゃん。 そこのラクタローが仕入れてくれてな! 今日からオーク肉で商売してんだ」
そう言ってニッカリと笑うルッツさん。
「そんな・・・ だって、最近オークってほとんど獲れないって言われてて、元々高級肉だったのが更に値段も上がってるのに」
そう言って驚くリンスさん。
まぁ、食肉そのものの供給が減って値段が上がってるらしいからね。
「オーク肉なら、これでも安いですよ。ラクタローさん!」
「そうなんですか。それは良かった。 それじゃ、早速いただきましょう」
そう言って食べるよう勧め、自分も一口食べる。
おぉ! 美味しいじゃないか。オークだから豚肉をイメージしていたけど。どっちかと言うと、牛肉だな。
他の野菜からも出汁が出てて美味い。
しかし、やっぱりシチューと言われた所為か、ちょっと味の深みが物足りないな。
シチューのあのトロッとした食感。
デミグラスソースの芳醇な味わい。
あぁ、思い出してると食べたくなってくる。
1人物思いに耽っていると、隣から良い声が上がった。
「美味しいぃぃぃぃぃ! あぁ、ホント、これは美味しい。 ラクタローさんに無理言って連れて来てもらった甲斐がありますよ」
そう言ってシチューと言う名の鍋料理を勢いよく食べていくリンスさん。
・・・食いしん坊キャラなんだろうか?
そんなことを思いながら食べていると、後ろから声がかかった。
「おう! ラクタロー! オーク肉のステーキ2人前! 焼けたぜ! 早く取りに来なぁ!」
そう言って大声で俺を呼ぶ。
ふむ、オーク肉の宣伝をする絶好の機会って事か。
昨日はお世話になったし、ルッツさんの宣伝をチョロッと手伝うか。
「ありがとうございます。 そう言えば、お代は幾らでしたっけ?」
ルッツ氏も気付いたようだ。 一瞬こっちを見てニヤッと笑った。
「おう! オーク肉のステーキは銅貨7枚で、オーク肉のシチューは銅貨5枚でぇ!」
おぉ、大きな声だ! 流石商売人。
「オーク肉にしては安いですね?」
「おう! 昨日、偶々知り合いの冒険者から直接買い付けることが出来たんでよ! 中間マージンも無く、新鮮なオーク肉が手に入ったんだ。その分安く出来るってわけよ!」
「なるほど、今日食べに来た私はついてますね」
そう言って笑顔でステーキを受け取ると、リンスさんの所まで戻る。
リンスさんは感心した様にこちらを見ていた。
「どうしたんです?」
そう言ってステーキを一皿渡す。
「いえ、ラクタローさん。商売人の素質ありますね」
「何のことです?」
そう言って惚けてみる。
「そう言って惚けるところも商才があるって事ですよ」
褒められると、照れちまうよ。 まじで。
多少は空気読める男だからね。俺は。
そう思いつつ、表情を崩さない様に努力するが、顔はニヤケ始める。
「ささ、冷める前にステーキ食べましょう。ステーキ♪」
表情の変化を悟られない様にそう言ってステーキを勧める。
「そうですね、では早速いただきまーす♪」
「美味ひぃぃ♪ ステーキも美味しいです」
そう言ってモグモグ食べてるリンスさん。
これだけ美味しそうに食べてたら、リンスさんも十分宣伝になるよ。
そう思いつつ、俺もステーキを味わう。
ふむ、確かに美味いな。
オーク肉は程よい噛み応えがあって、噛む度に肉汁が溶け出てくるようだ。
だが・・・
「あとは胡椒でもあれば言う事ないんだがな」
思わず声が漏れた。
「え? 胡椒ですか? そんな調味料、貴族様でもない限り使えませんよ~」
この世界にも胡椒あったのか!
というか、リンスさん。俺の独り言聞いてたのね。
ちと恥ずかしい・・・
「あるんですか? 胡椒!」
「えぇ、ありますよ。 ただ、原産国はソーヤ神国という隣の大陸にある国で、生産方法が門外不出となっている為、こちらの大陸では非常に高価な調味料となってるんですよ」
リンスさんは説明口調でそう教えてくれた。
なるほど。そういや、地球でも元々はインド原産で、気候の関係でヨーロッパや日本じゃ育たないから、中世では黄金と等価で交換されてたとかなんとか言ってたな。
まぁ、あるならその内手に入れてやろう。
一寸した良い情報を手に入れて、ほくほく顔でステーキを頬張っていると、段々周りに人が増えてきた。
宣伝効果かな? そう思っていると、
「人が増えてきましたね。皆ステーキやシチュー食べてますよ♪」
そう言って周りを見回しているリンスさん。 小動物っぽくて癒されるわ・・・
少し離れたところではルッツさんが嬉しそうに接客している。
今日はこのままのんびり一日を過ごすのも悪くないかもなぁ。
そんな考えが浮かんでくるが、魔物のことを考えると、悠長なことは言ってられない気がする。
ま、仕方ない。お金も稼がないといけないしね。
胡椒もベラボーに高いらしいし、貯蓄貯蓄っと!
そんなことを考えながら、食事を終える。
美味かったが、やはり日本人の俺からすると、ちょっと物足りない味であった。
お、そか、ニンニクでも付ければ・・・って、それも探すか。
あとは食後にコーラ・・・いや、他の炭酸ジュー・・・ いかんな。考えちゃだめだ!
妄想に傾きかけた思考を振り払い、この後の行動を考える。
1.カーチス防風林でレベリング。
2.出来たら森にも入ってみる。
3.日が暮れる前に宿屋に戻る。
なんか忘れてるな・・・あ、冒険者ギルドで報告も必要か。
1.カーチス防風林でレベリング。
2.出来たら森にも入ってみる。
3.冒険者ギルドへ報告。
4.日が暮れる前に宿屋に戻る。
おし、これでOKだな。
そんなことを考えていたら、リンスさんも食べ終わったようだ。
その後少しだけ休憩を兼ねてリンスさんと雑談し、宿へと戻った。
宿に戻ってインディを連れ出したのだが、俺から美味しそうな匂いがしたのか、恨めしそうに鳴いて来たので、マークさんの肉屋に行って肉の塊をインディに購入した。
インディは嬉しそうに齧り付いていた。
今日は奥さんが店番をしていたので、マークさんを呼んで貰うが、やはり昨日と同じでスプラッターな格好だった。
食肉業者って言うより殺人鬼みたいだよな、その恰好・・・
「お!ラクタローじゃねーか! 今日は早いな。どうしたんでぇ」
「昨日言ってた、オーク肉を持ってきましたよ」
「マジでか! 早いな。 俺はもっと掛かると思ってたんだが・・・ まぁいい。 それなら昨日と同じ解体所行くぞ!」
マークさんはそう言うとノシノシと解体所へ行く。
俺も後を追って付いて行く。
中に入ると、相変わらず、グロくてデンジャーな匂いだ・・・ 吐きそう・・・
「おう! それじゃこのテーブルに頼むぜ」
そう言って場所を指定してきたので、「無限収納」からオークを3体出す。
「これでいいですかね? あと、魔石はまだ回収してないんで、解体するなら魔石を先に取り出して貰えますか?」
出した瞬間からオークを値踏みしていたマークさんは呆れたような声で応える。
「おう! 分かったぜ。 しかし、ラクタロー。こりゃすげぇな。殆んど無傷で痛みが無ぇ。新鮮獲れたてってのが良くわかる」
そう言ってオークを逆さに吊って血抜きを始めるマークさん。
残り2体も同じように値踏みしていたが、終わったようだ。
マークさんは嬉しそうに笑いながら、値段交渉に入った。
「よし、ラクタロー。値段は昨日言った通り、1体金貨4枚と大銀貨5枚でどうだ?」
昨日と同じ値段だが、昨日ルッツさんには3体纏めて大金貨1枚で売ってるし、同じ値段でいいか。 人によって値段変えるのなんかやだしね。
「昨日ルッツさんには3体で大金貨1枚で売ってるんで、同じでいいですよ」
「おめぇ、もうちっと欲張れ!」
なんか、値段下げたら怒られた・・・
「いや、ルッツさんにもその値段で売ったし、俺としては元手0でそんだけ手に入れば十分だと思うんですが」
「オークって言ったら、中級冒険者が何とか戦えるって位強いモンスターのはずだろう?」
やっぱ、マークさんは良い人だ。見た目は殺人鬼なのに、昨日今日知り合った俺の心配をしてくれてるようだ。
「私にとっては・・・」
「あぁ、おめぇ化け物だったな。 そのなり見てると、ついつい忘れちまうぜ」
言い淀んだ俺の言葉を察してくれた様だが、化け物ってひどくない?!
ま、まぁ、そう言って考え始めるマークさん。
「ふむぅ、それじゃ、大金貨1枚でいいんだな?」
どうやら諦めてくれた様だ。渋々と言った様子でこちらの提示した金額を飲むマークさん。
なんか、安くしてるのに、こっちが悪いことしてるみたいだな。
何かないかな、交渉に使えそうなこと・・・あ、そうだ。
「マークさん。序でにお願いがあるんですが。良いですか?」
「なんでぇ?」
「実は、オークを1体解体してほしいんですよ」
「そんなこと位、構わねぇぜ!」
「あ、あと、解体したら骨も残しておいてほしいんですよ」
「骨もだと?」
「えぇ、お願いします」
そう言ってオークをもう1体「無限収納」から取り出す。
「おめぇ、どんだけオーク殺したんだよ」
マークさんが呆れた声を出す。
「まぁ、集団に襲われまして」
俺は作り笑いを顔に張り付け、適当に言葉を濁した。
「期限はいつまでだ?」
「うーん、それじゃ、今日の夕暮れくらいでどうです?」
「それまでなら楽にできるぜ」
「それじゃ、それでお願いします。 あと、魔石とオークの代金もその時にお願いしますね」
そう言ってさっさと解体所から出る。
「おめぇ、そんなに俺を信用すんじゃねぇよ!」
そんな言葉がかけられるが、俺は大丈夫だと確信を持っているので問題ない。
俺はそのままマークさんの店を出て、カーチス防風林へと向かった。