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第189話 王都への道 ①

 ムドーの街の門前は街へ入ろうとする人々の列が出来ていた。


 門番を務める兵士はその人数の少なさに安堵の表情を浮かべた。


 それは数日前に通達があったからだ。


 毎年行われているキュルケ教とウェイガン教の祈祷祭。


 普段通りであればウェルズの街で来月行われる大祭なのだが、今年は王都で行われる事になった。


 原因は数カ月前に起きた悪魔のダンジョンの変遷。


 その所為でウェルズの街は凶悪な魔物が街中に現れており、とても危険な状態になっていると言うのだ。


 貴族街を犠牲にしてなんとか隔離する事は出来ているらしいが、ウェルズで祈祷祭を行うには危険すぎる。


 と言う事で今年は王都での開催となったらしい。


 そのお陰か、いつもなら王都方面から途切れることのない人の波が押し寄せて来るような状況に陥るのだが、今年はウェルズ方面からのみである為、随分と少なく感じる。


 あぁ、これからも祈祷祭は王都で開催してくれないかな・・・


 門番たる兵士はそんな些細な願いを思い浮かべるのであった。











「それじゃ、身分証の提示を」


 門前に並んだ馬車の御者に声を掛ける。


 御者は一行の代表に声を掛けると馬車から祭服を着た女性が降りて来る。


「どうぞ」


 そう言って御者が身分証を提示する。


「司祭様ですか」


「はい、リンギの街で司祭を務めさせて頂いております。

 ジャネットと申します」


「お疲れ様です。

 それで彼等は護衛と言う事でしょうか?」


 そう言って兵士は2台の馬車を囲む様に立っている男女を差す。


「えぇ、その通りです」


「了解です。

 それと馬車の中を確認させて頂いても?」


「えぇ、いいですよ。」


 そう言うとジャネットは馬車の扉をノックしてから開けると、中には男と少女が居た。


「彼等は?」


「代々祭具のメンテナンスを請け負っている工房の職人とその妹さんです」


 ジャネットがそう紹介すると男は軽く会釈する。


「念の為、身分証の提示をお願いしても?」


 兵士のその言葉に男はカードを差し出す。


「ふむ、ウェルズの街の職人ギルド所属 細工師のラーク=エンジョイ」


 そう言ってカードを確認した兵士はラークにカードを返すと「後ろのも確認させて頂きますよ」と言い、手早く確認すると門を通した。











 問題なく門をくぐったジャネット達は暫く進むと、ラークが(おもむろ)に口を開いた。


「中々緊張しましたね」


 その言葉にジャネットは溜息を吐く。


「楽太郎様、偽名を使う必要があったのですか?」


「今はラークですよ?

 それに様付けはやめてください。

 それと偽名を使う理由はありますよ。

 カタリナを尋問した時に居た人物の名は例のモノ(ギルゴマ)に知られている可能性が高いんですから、どこにその手先が潜んでいるかなんてわからないでしょう? それにこの子の事もありますよね?」


 そう言って眠っている少女(ミーネ)の頭を優しく撫でる。

 因みにミーネの偽名はミネア=エンジョイとなっている。


「ですが、もし細工師として疑われたり実力を見せてくれと言われたらどうするんです?」


「大丈夫です。

 錬金術にはその手の知識もありますし、今回は錬金道具だけでなく細工道具も持参しているので問題ありません。

 それにそんな事もあろうかと念のために作っておいたお守り(アミュレット)もあります」


 そう言いはしたが、本当は錬金道具を手に入れた際にどれ程の物が作れるかを試す為に作ったお試し品である。


 試作は比較的大きめのブローチから始まり、最終的には指輪サイズにまで正確に魔法陣を刻むことが出来たので結果としては大成功だった。


 そんな事を思い出しながら鞄から幾つかの小箱を取り出して開くと中には幾つもの装飾品(試作品)が並んでいる。


 それを見たジャネットは目を丸くする。


「こ、これ、作られたのですか?」


「えぇ、私が作りました。

 こちらの指輪に嵌められた中石はDランクの魔石を削って研磨したものを使用しています。

 色味はワインレッドの様な落ち着きのある赤味を帯びた感じで中々味わい深いと思うんですが、どうでしょう?

 リングや石座なんかは加工し易い金で作りました。

 リングの形状はフラットにしてシンプルなデザインですが、リングの内側に結界の魔法陣を刻んでいるので意図的に魔力を流せば一度だけ身を守る事が出来ます。

 ただその場合は中石の魔石が壊れてしまうので使い捨てになってしまいますけどね」


「え?えぇ?!」


 よくぞ聞いてくれましたとばかりに楽太郎は説明し始めるが、正直、ジャネットとしては指輪の造形については全く詳しくない。正直、じっくり見ても『綺麗だなぁ』と思ったり、『これなら細工師と言っても通用するわね』と言った程度の感想しか出てこなかった。


 ただ、その説明の中で聞き逃せない内容も出て来た。


 結界が張れるってなんぞ?


 え?それどんな魔道具?


 細工師なんだから彫金が出来て貴金属の装飾が出来ればいいんじゃないの?

 なんで魔道具作成してるの?


 これ、もしかしなくてもかなりお高いわよね?


 ・・・


 もし、もし、キュルケ様とウェイガン様の地上代行者であらせられる楽太郎様の作品って触れ込みで売り込んだら、一体幾らになるのかしら?


 そんなもしもの話にジャネットが戦慄を覚えている間も楽太郎の説明は続いており、腕輪やネックレス、ブローチにイヤリングと次々と説明が続く。


 いけない、話をちゃんと聞いておかないと。


 そう思って改めて楽太郎の説明に耳を傾けていると、ミーネ様の身の回りの世話役として同行しているエロイーズ、エリー、リゼルの3人の目が楽太郎の手元にあるお守り達に釘付けになっているのに気が付いた。


 ・・・


 背筋がゾワリとした。


 うん、見なかった事にしよう。


「う、うぅん」


 気持ちを切り替えて楽太郎の説明に耳を傾けようとしたところでミーネ様が起きたようだ。


「おや、ミー、じゃなくてミネア、起こしてしまいましたか?」


「え?」


「ほら、今私達は兄妹と言うことになったでしょう?」


「あ、そ、そうでした」


「敬語は無しで」


「そ、そうだった」


「よろしい」


 そう言って笑顔を見せると、ミーネも楽太郎の持っている物に気が付いた。


「何それ?」


「これですか?

 これ等は私が作ったお守りですよ」


「きれい・・・」


 そう言ってミーネは目を輝かせる。


「良いなぁ~」


 そう言ってお守りを見詰めるミーネの表情は物欲しそうである。


 そう言えば武器や防具なんかは与えたが、子供らしいものは何も与えてなかったな。


 自分が子供の頃を思い出す。


 誕生日にはプレゼントを貰ったし、正月やクリスマスなんかの年中行事には色々と貰っていた。

 それ以外にもスーパーなんかでお菓子とかを買ってもらう事もそれなりにあった。


 そう考えると、自分がミーネに何も与えていない事に気が付いた。


 一応、保護者的立ち位置だしな・・・


 若干の罪悪感を感じつつ声を掛ける。


「ミネア、欲しいですか?」


「え? いいの?!」


 満面の笑みで答えるミーネ。


 目の前に広げているお守りは20点。


 細工師としての辻褄合わせの説明(カバーストーリー)には欠かせない品だ。


 流石に全部は無理だが1、2点であれば問題ないだろう。


「2つまでなら良いですよ」


「本当に?」


「えぇ」


「わぁー、ありがとう」


 そう言って満面の笑みを浮かべるミーネに笑顔を返して選ぶよう勧めると、ミーネは真剣な表情で選び始めた。


 子供とは言え女性である。

 装飾品は大好きと言う事だろう。


 そんな様子に満足していると横から声が掛かる。


「だ、旦那様、ミネア様だけ贔屓するのはズルいと思います」


「え?!」


 見るとエリーがミーネを羨ましそうに眺めている。


 よく見るとエロイーズとリゼルもお守りに釘付けになっている。と言うか、その表情がなんか魅入られているみたいで怖い。


 そ、そんなにか?!


 そう思いジャネットの方に視線を移すと丁度目が合った。


「さ、流石にこれらはやり過ぎだと思いますよ。

 普通の細工師は魔法陣を知りませんし、魔道具は作れませんから」


 ・・・想定外の言葉に楽太郎は絶句した。


「え?

 じゃ、じゃぁ、これらは・・・」


「人に見せたら優秀な魔道具職人として認識されて目立ってしまいますよ」


 その言葉は、楽太郎の心を抉った。











 その夜、ムドーの宿屋では満面の笑顔を浮かべる女子4人と申し訳なさそうな表情を浮かべた聖職者はゆっくりと眠りにつき、楽太郎は泣きそうな顔で必死に普通の装飾品作りに精を出し、徹夜する運びとなった。







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小説家になろう 勝手にランキング
ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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