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第188話 新たな局面へ

「納品です」


 そう声を掛けて品を差し出す俺。


「はい、ありがとうございます。

 数を確認致しますので、少々お待ちください」


 そう言ってホクホク顔のマルコム氏が執事のジェロームを呼び、納品物の確認を行う。


 その光景を死んだ魚のような目をして眺めること暫し、数と品質に問題なかったようでジェロームがマルコム氏に頷くと、マルコム氏も頷き返す。


「確かに、品質・数共に問題ありませんでした」


「では、これで終わりですね」


「えぇ、大変助かりました!

 それでですねぇ、ご相談したい事があるのですが・・・」


「追加注文は受け付けませんよ!」


「いえいえ、そちらではなくてですね、本題に関しての事です」


 そう言って声を潜める。


 その言葉に俺は「気配察知」を使って周りを確認するが怪しい気配は無さそうだ。


 俺の仕草を見て何となく察したのだろうマルコム氏がこちらを窺うので俺は頷きを返す。


「そちらについてですか、何か進展でも?」


「えぇ、今回の納品で最重要アイテムは勿論、それ以外の必要物資もほぼ確保できました。

 そしてこの街以外のキュルケ教とウェイガン教も着々と準備を整えつつあります。

 つきましては我々も作戦を次の段階へと進める為、動く必要があると考えております」


 この街の問題だったダンジョンの穴は塞いだ。

 そして後顧の憂いとなる王都から来た騎士団連中の処理も済み、物資の確保も出来た。

 後は速やかに行動して人類の敵を葬り去るのみとなった訳だ。


 まぁ、王族や貴族の確保については俺や俺の屋敷の警備から解放された『スピードスウィング』と『誰がために』の2パーティが居れば概ね問題ないだろう。


 ただ、確保した後のお仕事が問題なのだ。


 俺じゃ制圧後の王位の譲渡・新体制の構築や問題ある貴族家の取り潰し等々、様々な問題には対処できない。


 ただ唯一決まっているのは称号『人類の敵』を持つ者の奴隷化に伴う引き取り先は俺と言う事だけだ。


 最後の一件で一気に渋い顔になった俺はマルコムに話し合いの場を持つことを了承し、今夜この街の主要メンバーを集めてボコポの工房で会議を行う事が決まった。


 近々この街を離れ、見知らぬ王都へと向かう事になりそうだが、王都観光は出来そうにない。


 と言うより王都ではミーネの家族を奴隷化するお仕事が待っているのだ。

 何かを楽しみにすること自体不謹慎かもしれない。

 そう思うと気が重い仕事しかない事に溜息を吐いて家路を辿る。


 足は自然と重くなっていた。





















「ふぅ、少し疲れたかな」


 そう言ってニール・マイス・イーガンは食後の団欒中に眉間を揉み解す。


「あなた、大丈夫なの?

 少し休んだ方がよろしいのではありませんか?」


 そう言って心配そうに声を掛けたのは彼の妻であるローレン・マリア・イーガンだった。


「あ、あぁ、大丈夫だ。

 だが、少々仕事が立て込んでいてな。

 すまないがこの後は書斎に暫し籠る事にする。

 その間、集中したいので書斎には誰も近付けさせないでくれ」


「まぁ、まだお仕事をなさいますの?

 そんな調子では本当にお身体を壊してしまいますわ!」


「大丈夫だ。

 こう見えても私はこの国の宰相だぞ?

 これしきの事で簡単に壊れる程軟な身体はしておらんよ。

 それよりもくれぐれも書斎には誰も近付けさせないでくれよ?」


 そう返すニールにローレンは呆れた声で「わかりましたわ」と応える。


「よし、では私は書斎に向かう。

 ローレンは先に休んでおきなさい」


「あなたもお仕事は程々にしてしっかり休んでくださいまし」


「あぁ、わかったよ。

 それじゃ、ローレンおやすみ」


「おやすみなさい」


 そう言って言葉を交わすとニールは執事を連れて書斎へと向かう。


「ステファン、ここで見張れ」


「了解しました旦那様」


 両省の言葉と共に頭を下げる執事を横目にニールは素早く書斎の扉を開けて中へと入る。


 書斎の手前には応接セットが一組あり、その奥には応接セットと対面するような形で執務机が一つ置かれており、その後ろには書棚が所狭しと並べられているが、部屋自体は一国の宰相のものとは思えない程こじんまりとしていた。


 ニールは執務机の上に置かれている書類の山を見詰めると一つ溜息が出たが、気を取り直し執務机の底を手慣れた手付きで弄る。


 ニールが机を弄って暫く。


 後ろの書棚の一部がカコンと言う音と共に左右に開き奥へと続く階段が現れる。


 ニールは書棚が開き切ると階段脇のスイッチを押す。

 スイッチが押されると一拍遅れて階段が魔法の光に照らされた。


 ニールはその様子に満足したように一つ頷くと顔を綻ばせながらゆっくりと階段を降り始める。


 そして鍵のかかった扉の前まで辿り着くと改めて周囲を見回し、問題ない事を確認すると鍵を開けて中に入る。


「ふぅ、漸く一息つけるな。

 それにしても・・・

 まったく、あの業突く張りのクソ婆め!

 最後まで競ってきやがって!

 お陰で随分と高くついてしまったではないか!」


 怒りを露わにそう言うと(おもむろ)に懐から拳大の細かい装飾の施された箱を取り出す。


「だが、それでもこ奴にはそれだけの価値がある!

 いや、それ以上のな!」


 そう言って箱を開けると、中には巨大なブルーダイヤモンドが収められていた。


「ほぉーーー、流石は竜眼(ドラゴンズアイ)と呼ばれるだけはある。

 深く青い色合いであるにも関わらずその透き通るような透明感!

 それにもましてその佇まいはなんと神秘的で優雅な輝きを放つのだ。

 このような素晴らしき至宝を手に入れる事が出来るとは・・・実に素晴らしい!

 お前はもう私のものだ!

 絶対に放しはしないぞ!」


 一人大興奮のニールは何かに憑りつかれたかの様にブルーダイヤモンドをギュッと握りしめ、矯めつ眇めつ、うっとりと存分に眺めた後、満面の笑みで頬擦りし、更にしゃぶり付こうとしたところで手が止まる。


「・・・誰だ!」


 ニールの唐突な誰何の声に果たして応える声はあるのか?


 そう思われる程の時間が空いた後、唐突に声が響いた。


「ふむ、まだまだ勘は鈍っていないようだな、ニール・マイス・イーガン」


「そ、その声は・・・ぎ、ギル、ゴマ・・様?」


 ニールの表情は驚きと警戒の色が色濃く出ていた。

 ニールは油断なく辺りを見回すがギルゴマらしき姿は見えない。


「そんなに警戒することも無いだろう?」


 ギルゴマがそう声を掛けるとニールは内心ギクリとしながら笑顔で誤魔化す。


「今回はあまり時間がないのだ。

 なので要点だけ話すとしよう。

 なに、簡単な話だ。

 貴様との契約で幾つか貸しがあっただろう。

 それを一つ私に返してもらおうと言う話だ」


 ギルゴマのその言葉にニールの咽喉が鳴る。


「な、何をすれば、よろしいのでしょうか?」


「今ウェルズの街にラクタローと言う人物がいる。

 そいつを消せ!」


 淡々とした声音で話していたギルゴマの口調が最後の台詞だけ荒く乱れる。


 常にない荒々しさに不審を覚えるニールであったが、疑問や反論は許されない。


「それはどういった方法でも?」


「方法は問わない。

 だが、私が関わっていることは知られずに消すのだ」


 ギルゴマのその言葉にニールは呆れる。


 一国の宰相が悪魔と契約しているなどと知られたらどうなる事か・・・

 ニールにとっても知られずに実行するなんて言うのは当たり前の話だ。


 それにニールにとっては人一人消す事など造作もないことであり、躊躇う事もない。


 だが、疑問も生まれる。


 人一人消すだけであればギルゴマほどの人物が態々私に命じる必要もないだろう。

 なぜ自分でやらないのか?


 その疑問はギルゴマの次の言葉で氷解する。


「ニール、貴様にこれを授けよう。

 もし貴様が失敗し、奴に捕まりそうになったらこれを握り『ヒューズ』と唱えよ。

 さすればこの場所まで貴様は転移される。

 いいか、くれぐれも私のとこは知られるんじゃないぞ!」


 そう言ってギルゴマは黒い球を宙に浮かべる。


「こ、これは・・・なんとも素晴らしい。

 全ての光を吸い込むかのような漆黒。

 手触りも硬質な金属のようでありながらスベスベの表面。

 そしてほんのりと温かみもあり、いつまでも握っていたくなるような触り心地。

 あぁ、この素晴らしい宝石はどんな味が・・・」


「えぇーい!舐めるな変態宰相!

 それは宝石ではない!

 いいか! 必ずラクタローを殺すのだ!

 わかったな!」


 趣味の世界へ没頭しかけたニールを怒鳴り付けギルゴマは去って行った。


「ふむ、ラクタローか。

 一体どういった人物なのか気にならないと言えばうそになる。

 が、どうでもいい。

 そいつを殺すだけでギルゴマへの借りが一つ減ると思えば安いものだ。

 だが、今ひと時は・・・」


 そう言うと秘蔵のコレクションを取り出し、存分に堪能するニールであった。






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小説家になろう 勝手にランキング
ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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