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第185話 解放と粛清 ⑬ 急展開②

 豪胆なマルコム氏に奴隷の首輪の作成について問われ、逆に聞き返す。


「奴隷の首輪って結構お高いんじゃないですか?」


 そう問われてマルコム氏は「そんなの当り前じゃないですか、物が物だけに取り扱いや取引さえも厳しく制限されているんですから高価なのは当然です」


「あぁ、そういう認識ですか、なるほど」


 俺は一人納得するが、マルコム氏やボコポは納得がいかない様子。


「ラク、何が言いてぇんだ?」


「いや、奴隷の首輪ですが、あれ、原材料に魔銀(ミスリル)が含まれているんですよ。

 だから高いだろうなと思ったんですが、どうもそれ以外の理由もあったんだなと納得したんです」


「「な、何ぃ?!」」


 2人共驚いているが、何をそんなに驚くんだ?


「で、ですが、何故その事をラクタローさんは知っているんですか?」


「そりゃ知ってますよ。

 そもそも奴隷の首輪って錬金術で作られているんですから」


「「?!」」


 マルコム氏が絶句する。


「それじゃぁ、ラクが作れば問題解決だな」


「解決しませんよ」


「なんでだよ?」


「そもそもの材料がないでしょ?」


「あぁ? んなもんおめ・・・」


 ボコポは「俺が持っているだろう?」と言いたかったのだろうが、寸でのところで言葉を止める。


「おめ?」


「お前ぇんとこのメイドが少し前に職人ギルドに魔銀流してたじゃねぇか。

 まだ持ってんじゃねぇのか?」


「持ってるわけないでしょう?

 あれは偶々ダンジョンで運良く手に入っただけで、生活費の為に全部売りましたよ」


 マルコム氏の突っ込みに慌ててフォローしたボコポだったが、フォローになってねぇんだよ!


 ボコポに丸投げされた俺は適当に嘘を吐く。


「生活費ですか?

 それにしてはかなりの金額になったんじゃないですか?」


「結構な金額ですけど、私が買った屋敷の値段。

 それに改修代や魔道具代を差し引いたら結構カツカツですよ?」


 そう返すとマルコム氏もそれもそうかと納得した。


 ふぅー、危ない危ない。


 全く、無駄に危険を冒しやがって!そう思いボコポを睨むとボコポもすまなそうな表情で手を振る。


「まぁ、希少素材としては魔銀だけじゃなく黒鉄(ブラックアイアン)も使われているのでそれ等が手に入らなければ作れませんよ」


 そう返すとしばしの沈黙が流れる。



「ふむ、原材料があれば作れるのですね?」


 何やら思案していたマルコム氏が声を上げる。


「え、えぇ、私の錬金術とボコポ氏の技術力があれば可能ですね」


「ちょっと待て! 俺だって武器の量産があるんだぞ?!」


 そう言うボコポの抗議は無視して話を進める。


「もしかして素材を集められるんですか?」


「正直に申しますと、まだ原材料を集める方が難易度が低いかと思います。

 現状、私共が持つ伝手を最大限活用して集めた奴隷の首輪は53個です。

 最低でも200は集めたいとの事でしたので、最低でも残り147個は必要です。

 集められるだけ集めるつもりですが、最低限必要となる分量だけでも教えて頂きたい!」


 そう言われたので1つ作るのに必要な素材とそれぞれの分量を伝え、その147倍必要であることを伝えると、マルコム氏はカタリナを連れ出したジェロームさんを再び呼び出して指示を出すと、自身も「申し訳ありません、私も急ぎの用が出来てしまいました。素材が揃い次第連絡いたしますのでこれにて失礼させて頂きます」と言って慌ただしく退室して行った。


「おいラク! 俺は了承した覚えはないんだが?」


「こんな面倒事に引き込んだ張本人のボコポさんに拒否権あると思います?」


「おま・・・」


 泣きそうな顔で抗議も出来ず言葉に詰まる。


「それに私、神様達の代弁者みたいな立場になっちゃいましたからね?

 私のお願いを断ると言う事は・・・ね?」


 その言葉にボコポは顔に手を当てて項垂れる。


「ふはは、文句があるなら直接神様に言ってくださいね?

 まぁ、本当に無理なら相談には乗りますから」


 そう言って俺も家に帰ろうとすると再び呼び止められる。


「なぁ、ラク。 先程(さっき)のギルゴマとか言う悪魔、殺したのか?」


 真剣な表情でボコポがそう聞いてくる。

 マルコム氏が強引に話題転換した所為で忘れてくれたと思っていたが、早々忘れられるものでもなかったか。


「う~ん、どうでしょう。

 あいつの言動を加味すると本体は別にあるみたいなんですよね。

 多分、分身体と言うか、意識体みたいなのは殺せたと思うんですけど、本体は全くダメージを受けていないかダメージを負ったとしても箪笥の角に小指をぶつけた程度じゃないですかね?」


「それって滅茶苦茶痛ぇじゃねぇか!」


「はい、痛いけど大したダメージじゃないって事ですよ?」


「む、むぅ、それは・・・まぁいい。

 それよりも今回の件でその本体とかに俺達の事が伝わったんじゃねぇか?」


「そうかもしれませんが、多分大丈夫だと思いますよ?

 そもそもカタリナの前では大した話はしないように注意していましたし、私達の目的も把握できていないでしょう。

 それにあいつ、戦闘中に逃げ出そうとして逃げれなかったみたいですから、恐らく本体とは完全に切り離されてる分身体だったんだと思いますよ?

 もしくは・・・、まぁ本体と繋がってる分身体だったら本体の精神体自体が殺される可能性もあるわけですから、もっと強いと言うか、もっと必死に逃げると思うんですよね。

 どちらかと言うと情報を持ち帰ろうとしていたって感じの必死さと言えばいいんでしょうかね?

 何となくですが、死ぬ死ぬ言ってた割には死への恐怖を感じているとは思えなかったんですよね」


 途中俺が言い淀んだのは、今回使った十文字槍についてだ。

 ひょっとすると最初の一撃で分身体と本体を切り離した可能性があると思った事だ。


 咄嗟の事で武御雷様から頂いた十文字槍を取り出して使ったが、この武器、ぶっちゃけ3柱の女神(さんばか)位ならサックリ殺せそうな感じがするんだよね。


 3柱の女神殺れるんなら悪魔だってお察しレベルでしょ?


 でも、そんな物騒な代物だって言ったら何がどうなるかわからない。


 なので発言が中途半端になってしまったのだ。


「そ、そうか」


「ただ、あの場にいた私とボコポさん、マルコムさんはギルゴマに目を付けられていると考えた方がいいですね。

 なので私達はより警戒した方が良いでしょう。 闇夜に紛れて襲われるかもしれませんし、何かの拍子に奴に操られた人物に酷い目に遭わされるかもしれませんから」


「そ、そうだな。カタリナみたいな奴が他にいないとも限らねぇか・・・」


 そう言ってボコポは少し考えこむ。


「な、なぁ、ひょっとして王都の貴族達も悪魔に唆されてたんじゃねぇか?」


「そうかもしれませんね」


「なら、少しくらいは情状酌量の余地ってあるんじゃ「ありませんよ!」」


 俺はボコポの言葉を途中で遮り、はっきりと断言する。


「唆されようがされまいが悪魔のダンジョン攻略を否定した判断を下したのは其々の意志です」


「そ、それはそうだんだが・・・」


「何を日和っているんですか?

 ボコポさん、例えばあなたが『あんたの名工としての名前は素晴らしい。あんたの工房で作ったって銘があればどんな鈍らでも高値で飛ぶように売れるぜ? だから弟子を大量にとって打たせりゃ大儲け間違いなしだぜ? 儲けた金であんたが欲しがってる鉱石も好きなだけ買える。そうすりゃあんたも自分の渾身の武器作りに専念できる。あんたも俺も得しかしねぇんだ。だから俺と組まねぇか?』そう言われたらどうします?」


「んなもん断るに決まってんだろ!

 鈍らなんざ作らせた日にゃぁ俺の職人としての魂が腐っちまうだろうがぁ!

 魂が腐りゃぁ俺の作品も腐っちまう!

 そうなりゃ誰も俺の作った物なんか買わなくなっちまう!

 だから(おら)ぁ職人の魂は売らねぇ!」


「そういう事ですよ。

 あなたは唆されても折れない。

 だが彼等は折れ、目先の欲に溺れた。

 だから『人類の敵』となった。

 それだけの事です。

 あなたと同じく選択したのは彼ら自身。

 行動には責任が伴う。

 ただそれだけのごく当り前のことです。

 それにどんな情状酌量があるんです?

 なるべくしてなった結果じゃないですか」



 俺の言葉にボコポは何も言えなかった。


 と言うより、自身の発言自体が見当違いであることを理解した。


「す、すまねぇ、ここんところ神様とか悪魔とか次元が違う存在が次々出てくるから混乱しちまって・・・

 ラクの言う通り自業自得って奴だよな、確かに・・・」


 噛みしめる様にボコポが呟いた。



「わかればいいんです。

 そんな事より、マルコムさんの所為で更に忙しくなるんですから、さっさと工房に戻って仕事してください!」


「お、おう、そ、そうだな。

 そんじゃ俺ぁ戻るぜ!」


 そう言ってボコポが部屋を出た。






 真っ先に出ようとしていた俺が結局最後に取り残されてしまった・・・




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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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