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第182話 解放と粛清 ⑪ 思いがけないディルクとの商談

 昨日のバトルロワイヤルの結果、リーダーはコーキンと言う男に決定した。


 不幸な事に死者は一人も出なかった。


 最初に出た脱落者2名はボロ雑巾の様な姿になっていたがギリギリ生きていた。


 その後もそれなりに怪我をした者が多数出たが最初の2人程酷い状態の者はいなかった。


 余程恨まれていた輩だったのだろう。


 サムソンとデブニー、今後もこの二人には要注意や!


 ・・・


 まぁ、そんな感じでリーダーは決まったので、今日はエリクとクルト、ティム、ジーナに命じて奴等に徹底的に柔軟をさせる事にした。


 まぁ、簡単に言うと股割りから始まるいつものフルコースだ。


 今日から三日程かけて人間の柔軟性を取り戻してあげようと言う俺なりの優しさだ。


 そして、そんな事を考えながらやって来たのはディルクのお店である。



 昨日ボコポに頼んだ件についてディルクから相談したい事があると言われたそうな。


 急な依頼をした手前、早急な対応が求められると考えこうして足を運んだ訳だ。


「おはようございまーす!」


 そう言って店の扉を開けると「おーう、はよー、ちっと待ってくれ」と返事が返って来る。


 その返事を受け、俺は店の中を物色する。


 ふむ、普通の防具屋に見えるが、時々普通の服に見える物や普通の帽子に見える物なども、防具屋なのか服屋なのか悩ましく感じる。


 そんな感じで待つこと暫し、ようやくディルクが顔を出す。


「すまん、待たせたな」


「いえいえ、それよりも相談って何です?」


「その前に兄貴からは何か聞いてるか?」


「ボコポさんからは『ディルクが今回の件、引き受けるにあたり相談したい事がある店に来てくれってよ』としか言われてませんが?」


「ちっ、ヘタレたな兄貴め・・・、まぁいいや、それなら仕方ねぇか。

 なぁ、今回の件だが、女性用防具ってどれくらいいるんだ?」


 急な質問に思い出しながら答える。


「えーっと、多分4、50人位ですかね?」


「おぉ、なら丁度良いな。

 実はお蔵入りになった女性用防具が丁度100人分あってだな、これを納品に回しても良いか?

 納品に回せるなら残り150人分。

 7日の納品にはキッチリ間に合わせられるぜ?」


 それはありがたい!


 そう言いそうになったが、思い止まる。


 何か怪しい。


 態々俺に事前に断りを入れるあたりが気になる。


 お蔵入り(・・・・)と言う言葉も気になる。


「ディルクさん、一応念の為にその防具、直接見せてもらえませんか?」


 ・・・


 ディルクの表情が笑顔で固まる。


 こりゃ決まり(確信犯)だな。


「念の為、その防具を直接見せてください」


 ・・・


「はぁ、先に言っておくが、別に騙そうと思ったわけじゃねぇんだ。な? わかるだろ?」


「わかりませんねぇ~、私は商人ではないので」


「くぅ~、お前さん本当にガキかぁ?

 勘が良すぎんだよ!」


「いえいえ、ディルクさんがわかり易いだけですよ」


 そう言いながらディルクは奥から装飾がされた大きめの箱を2つ持ってくる。


 なんだか高そうなんだが・・・


「こいつだ」


 そう言ってディルクが中から取り出したものに俺は驚愕する。


「これって、ビキニアーマーじゃないですか?!」


「あぁ、そうだ」


 アリエール・アリエナーイ論争の最たるもの。


 (いにしえ)から論争が吹き荒れながらも未だ明確な答えが出ない一品。


 ビキニアーマー



「こ、これ、防具として使えるんですか?」


「あぁ、防具としてはかなりの高性能だ。

 値段に見合うかと言われれば見合わない」


 そして次に取り出したのが、レオタード・・・いや、タイツ・・かな?


 イメージし易く言うなら透け透けの全身タイツを腰の部分で二つに分けたような衣服?と言うのも烏滸がましそうな代物が並べられた。


「そしてこれがクィーンスパイダーの糸で作ったクィーンシアーシルクの全身防具だ」


「ちょッ! これが防具って舐めてません?!」


「お前さんに前に売ったスパイダーシルクよりも高級品だぞ!

 その上、クィーンスパイダーの糸ってのは視認し辛い程の細さと透明度でありながら鋼鉄よりも頑丈で一度絡め捕られたら最後、生還は不可能とも言われているんだ。

 そんなクィーンスパイダーの代名詞である『森の暗殺者』って二つ名はこの糸の所為でもあるんだ!

 狩るのも超高難易度なら、この糸を布にするのも非常に高度な技術が必要なんだ!

 しかもこの糸、伸び縮みは当たり前、100年着古してもすり減ることもなく、まるで新品のような輝きが持続する耐久性!

 それに鋼鉄よりも頑丈でありながら滑らかな伸縮性も持つ奇跡の素材だからな、布地を切断するだけでもものすっごい大変な超一級品なんだよ!

 それにスパイダーシルクは炎に弱かったが、こいつは違う! 鉄が溶ける温度でも原型を留めている優れものなんだ!」

「えぇ、その素晴らしい素材をなんでこんなピッチリタイツに仕上げたんです? しかも100着も」


 力説するディルクに俺は冷静に突っ込む。


 ・・・


「い、依頼があって・・・仕方なく、な」


「ほぉぅ、どんな依頼だったんです?」


「そ、それは・・・」




 そうしてディルクの自白が始まった。


 なんでも10年程前にとある公爵からの依頼があったそうだ。


 それは自領の騎士団に女性騎士のみの部隊を設立するからそれに見合った防具を作って欲しいと言うものだった。


 当時から防具作成において有名だったディルクに白羽の矢が立ったのは当然の帰結だったのだろう。


 ただ、その公爵は中々の好色家であり、好事家でもあった。


 そして指定された防具が「ビキニアーマー」だった。


 騎士団の花となるに相応しい「最強のビキニアーマー」をご所望為された。


 その内容にディルクは絶叫した。


「んなもん無理ぃぃぃ!!」


 それに公爵は「いいからやれ!」の押し問答。


 最終的に公爵が権力と言う名のゴリ押しでディルクは依頼を受ける羽目になった。


 そこからがディルクの地獄が始まった。



 公爵からの絶対条件には全体的に女性らしく見えること。

 胴はビキニが見えること。

 そしてパンツも前垂れ等で隠すことは絶対に許さん!

 あ、あと、鎖骨も見えるようにね!



 と言う内容だった。


 ・・・


 『そんなんで命が守れるかぁ!』とディルクは絶叫と共に吐血した。


 それでも何とか要望に応えねばとディルクは努力した。


 まず腕の防御力を上げようと前腕のアームガードをさらに伸ばして上腕の半ばまでを覆う形にし、関節部も滑らかに動くように複層構造にして極力体のラインに沿うように設計。


 足の装備もレガースを膝上から太ももの半ばまでを覆う形で防御力を上げつつ、複層構造にすることで女性らしい丸みを持たせた。


 そして腰回りだが、パンツが見えるように前面は覆えないのでせめてもの抵抗として横と後ろのみ半スカートのような形で複層構造のプレートで覆って防御力を上げた。


 上半身はビキニが見えること。

 この制約の所為で背中が無防備状態になってしまう。

 前面はなんとかビキニっぽく見える小さめのブレストプレートに仕上げた。

 冒険者でも動き易さを重視する戦士は胴回りに防具を付けない者も一定数いたから何とか妥協できた。

 しかし、背面が・・・

 悩みに悩んだ末、マントを付けた。

 肩パットを使ってマントを固定。

 そのマントに鋼糸を織り込み防御力を上げる。


 こうして納得は出来ないまでもギリギリディルクが妥協できる範囲で設計した防具が完成した。


「それがこれなんだがな」


 そう言って見せられたが、いや、これで良いじゃんねーって思える出来栄えだった。


「これで良いじゃないですか」


「俺もそう思うんだが、あの公爵はこれにダメ出ししやがったんだ・・・」


 その後もディルクの苦行は続く。


 公爵のダメ出しは以下のようなものだった。


「露出が全然少なすぎる!

 もっと肌を出せ!いや、晒せ!

 腕も足もゴツ過ぎる!

 それになんか蛇の鱗みたいでなんか気持ち悪い。

 それにマントは要らないし、腰回りもゴツゴツし過ぎ、もっとシンプルにしろ!」


「これ以上は真面な防具になんねぇって!

 あっという間に騎士や兵士が死んじまうぞ?!

 それに騎士団なんだから威厳を保てないような装備じゃお前さんだって困るだろう?!」


「い・い・か・ら・や・れ・!」


「クソッたれがぁ!!」



 その強権に発狂しながらも何とか改良して案を提出するが通らない。


 その内段々とディルクの心荒れに荒れて荒んで行った。


 そして何回目のダメ出しだっただろう。


「わかった、お前さんの言う通りのモノを作ってやろう。

 ただし、滅茶苦茶金が掛かるが問題ねぇだろうな?」


「ふん! 最初から言っている。

 金に糸目は付けん! やれ!」


「くそぉー! もう知らねぇからな!

 お前さんがどんだけ笑われようが俺には関係ねぇ!

 やってやる、恥を覚悟でやってやんよぉぉぉ!」


 プッツンキレたディルクは覚醒した。


 素材の手配から入手まで公爵家の権力を思う存分利用した。


 その結果、超高級素材が面白いように集まった。


 そして騎士団の装備としては異例の高額であり、そして騎士団の装備としては異例の破廉恥さを誇る装備が完成してしまったのだ。


 そのディルクの作った防具の出来に公爵は大喜び、早速と言う事で100人分の発注を受けることになった。


「一応納品までは漕ぎ着けたんだけどな。

 素材の入手に公爵様の伝手をフル活用したのがいけなかった」


 どうも件の公爵は奥方に内緒にしていたらしい。


 それが公爵の名前で次々と高額素材の買い取りが始まった事でお茶会や社交界でも話題になり、奥方の耳に入ったとのこと。


「正直、ボロ雑巾の様にズタボロになった奴、おっといけねぇ、公爵様の姿を思い出すと今でも笑いが止まらねぇ」


 ディルクが納品に向かうと件の公爵はボロボロ、その隣に奥方が居たらしい。


 その場で中身を確認した奥方は怒りが再燃、更に公爵を叩き伸めしていた。


 そして奥方から「引き取ってもらえるかしら」の一言。


 流石にディルクも青褪めた。


 超高級素材で作った代物100セット。


 こんなん引き取ったら大赤字もいいところ。


 何せこんな防具、どんな高級素材を使っていようが売れる訳がない。


 ディルクも必死に抵抗し、弁明した。


 一応、公爵の言質や証書もあり、引き取りは無理と断固断ろうとしたところで奥方から提案があった。


「わかりました。

 代金は支払います。

 ただ、我が家がこんな破廉恥な装備を作らせたと噂が広がっては我が家の沽券に関わります。

 我が家に実物があるのも我が家が処分するのも障りがあるのでそのまま引き取りなさい。

 わかりましたか?」


 ディルクは絶句すると、奥方に詰め寄られた。


「わかりましたわよね?」


「は、はい」




 こうしてディルクの元へとこのビキニアーマーが戻って来た。


 戻ってきてしまった・・・


 こうして10年、誰に知られることも無くディルクの店に死蔵されていたとのこと。


「流石にこんだけの高級品だしな、職人としては勿体ないから手入れしない訳にもいかねぇんだが、売れねぇもんに手を掛け続けるのも面倒だし、何より場所がな、嵩張っちまってどうしようもないのよ」


 そう言って困り顔を作る。


「全部引き取ってくれるなら格安にするぜ?」


「・・・お幾らですか?」


「そうだな、1セット金貨10枚でどうだ?」


「ディルクさん、代金回収済みで損してないですよね?」


「あぁ、だが突き返されて不良在庫として10年も俺の商売の邪魔物になってた代物だ」


「なら処分費用って事でこっちがお金貰って引き取っても良い位じゃありません?」


「おいおいおい、そりゃねぇぜ!」


「今私が引き取らなかったらあと何年ディルクさんの所に留まるんでしょうねぇ~」


「クッソ、値段の件まで喋るんじゃなかったぜ。

 1セット金貨1枚、100セット全部で大金貨10枚だ、これ以上はまけらんねぇ!」


「50セットだけ売るのは?」


「なしだ!

 売るなら全部だ!」


「はっはっは、わかりました。

 全部買います」


 そう言って大金貨を10枚カウンターに置く。


「おぉ、毎度!」


「納品は他の装備も揃ってからでお願いしますね」


「おう、残り150人分は全部男物で揃えりゃいいんだろ?」


「えぇ、お願いします」


「任せとけ!」


 その言葉を背に俺は上機嫌でディルクの店を出た。


 奴隷の女性陣には顰蹙(ひんしゅく)を買うだろうがそんなものは知ったこっちゃない。


 それよりも住民に多少の媚でも売れれば奴等の安全も多少増すだろう。


 個人的にも出費が減って万々歳な取引だった。




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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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