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第181話 解放と粛清 ⑩ 愚者の処遇 裏

 俺の名前はコーキン。


 少し前までゴルディ王国、王都第1騎士団、第1大隊所属、第3中隊の小隊長をしていた者だ。


 少し前までと言うのは、最後の作戦が失敗した後、どうする事も出来ずにいた所、誰とも知れない武力集団に捕まり尋問の末、首に直接奴隷紋を刻まれ『終身犯罪奴隷』とされてしまったからだ。


 何故俺がこんな目に・・・


 俺の中で怒りと憤りが沸々と湧き続けているが、拘束された状態ではどうすることも出来ない。


 この部屋には俺以外にも4人囚われている。


 現状を把握する為に幾らか会話はしたが、誰も現状を把握できていなかった。


「隊長、俺達これからどうなっちまうんすかね?」


「それはわからない。だが、何があっても良いように今は体力を温存しろ。

 いざと言う時に動けなかったら死ぬかもしれんのだからな」


 何度目かわからないグリンの質問に俺も前と同じ答えを返す。


 他の者も表情は其々だが俺の言葉に賛同し、静かに体を休めている。


 幸いな事にミノタウロスに囲まれた時とは違い食事はしっかりと食べられる。


 監禁はされているが、命は繋がっている。


 その事実が、その安心感が、俺の理性を保たせているのだろう。


 最初に感じた怒りや憤りは少しずつ鳴りを潜め始めた。


 そんな頃、急に外に連行された。











 どうやら第3中隊の連中は全員集められたようだ。


 ほぼ欠けなく集められ、仲間が無事だったことに安堵したが、次の瞬間には理不尽な扱いへの怒りと不満が俺達の中で再燃した。


 俺達は国軍だ。


 俺達にこんなことをすると言う事は国家への反逆になる。


 仲間が無事で皆が集まった事で気が大きくなったのかもしれない。


 そんな俺達の機先を制するように一人の男が前に出た。




「奴隷である貴様等に命ずる!

 1つ、自殺を禁じる!

 2つ、逃亡を禁じる!

 3つ、人類に対する暴言、暴力の行使を禁じる! その他、あらゆる犯罪行為を禁じる!

 4つ、嘘を吐くことを禁じる!

 5つ、相手の犯罪行為に対しては抵抗する事を許可する。が!殺人は禁じる!

 6つ、俺の課す懲罰に対するあらゆる抵抗を禁じる!

 7つ、貴様等は既に人ではない、畜生にも劣る存在であることを自覚しろ!

 以上を絶対なる命令として厳守しろ!」




 あいつが俺達にこんなことをしたクソ野郎か!


 男に対する怒りが爆発すると同時に頭を握りつぶされる様な痛みが走り、一拍遅れて喉を絞められたかのように呼吸が出来ない苦しさに襲われる。


 ぐぅ、痛い! 苦しい! た、助けてくれ・・・


 救いを求めようと周りに目を向けると、俺の周りの連中も全員苦しんでいる。


 無事でいる者は一人もいない。


 ヤバい。そう思った瞬間、俺は本能的にあの男に屈する選択をする。 いや、選択したのではなく、俺は俺の生存本能に従ったのだ。


 逆らってはいけない、逆らえば死あるのみ。


 その事実を受け入れ、命令に従う事を決めた瞬間、頭痛は治まり息苦しさも無くなった。


 数回深く息を吸い、身体を起こすと隣でグリンが苦しんでいた。


「グリン、生き残りたいならあの男の言った事を受け入れろ。

 無駄に抵抗すればそのまま死ぬぞ?」


 俺のその言葉に一瞬絶句したような顔をしたが、グリンも俺同様受け入れることにしたのだろう。


 少しするとグリンの様子も落ち着いた。


 少しすると俺達の拘束が解かれる。


 拘束は解かれたが男の命令を受け入れた俺達は逃げる事が出来ない。


「コーキン隊長、俺達、なんかヤバくないですか?

 これからどうなるんでしょう?」


 それは俺だって知りたい。

 だが、こういう時こそ冷静にならねば。


「わからん、だが、多分あの男が俺達の今後を今から説明するんじゃないか?

 だから今は様子を見るしかない。

 状況がわかるまでは変に騒いで目立たない様にしろ」


「了解です」


 グリンはどうやらまだ俺の事を隊長と思っているらしい。

 すでにお互い奴隷の身だと言うのに律儀な奴だ。


 俺は様子を見つつ周りを見ると少し離れたところにマシアスを見付ける。

 奴も俺に気付いたようで軽く頷いてきたので俺も頷き返す。


 そうしていると男から指示が出る。


「全員、整列!」


 俺はその命令に逆らう事無く普段の隊列を組む様に動く。


 グリンやマシアスも俺と同様に動いたが、大半の者は反抗したように動こうとしなかった為、無駄に苦しんでいる。


 その様子に苛立ったように男は「さっさと動け!」と強烈な殺意を込めた命令を下す。


 素直に従った俺達に向けられたものではない筈なのに冷や汗が止まらない。


 固まる身体を無理矢理動かして対象になった連中の顔を見れば全員が顔面蒼白になって震えながら整列し始める。


 どうせ従うなら最初から従えばこんな無駄な思いをしなくて済むのに・・・


 内心の愚痴を吐き出すように溜息を吐く。


 その後も男が話し始めるが男の言葉を遮る者がいた。


 サムソンだ。


 正直、俺からすれば奴は間違いなく疫病神だ。


 あのクソッたれが居なきゃこんな事にはならなかったのに・・・


 腹の底から煮えたぎる怒りが湧いて来るが、男から放たれた凄まじい威圧(プレッシャー)にサムソンは苦悶の表情で頽れる。


 先程のが全開じゃなかったのか・・・


 先程よりも明らかに圧が強い。


 俺の驚きなどお構いなしに男はサムソンへ侮蔑の言葉を吐くと俺達に質問をした。


「さて、貴様等は終身犯罪奴隷となっているが、何故かわかるか?」


 そんな事を言われても俺には意味が解らない。


 他の奴等も同様に答えを返せるものはいなかった。


「自身の罪も理解していないとは、何と嘆かわしい」


 男の落胆した声が木魂する。


 だが、俺にはわからない。

 何故こんな仕打ちを受けなければならないのかが。



「誰もわからないか・・・


 これはいよいよもって狂っているな。


 良いだろう、改めて教えてやろう。


 自身のカードの称号欄を見ろ」



 その言葉に素直に従い、自身のステータスカードを確認する。


「そ、そんな馬鹿な?!」




----------------------------------------

名前 :コーキン

性別 :男性

年齢 :26

種族 :人間

職業 :奴隷

称号 :背信者 人類の敵

レベル:48




 思わず声を上げてしまったが、俺のステータスカードには『背信者』と『人類の敵』と言う凶悪な称号が付いていた。


 称号はその人物の行いによって付くものと言うことは誰でも知っている。


 つまり、称号とはその人物の為人が端的に現されていると言っても過言ではないものなのだ。


 それなのに、俺の、称号には、『背信者』、と、『人類の敵』、こんな、こんな有り得ない、有り得てはいけない称号が付いている。


 これは今の俺が神に背き正道を踏み外した極悪人であり、人類を破滅へと導く人類にとっての絶対悪と言う事になっている。




 あまりのショックに俺は知らず知らずの内に膝を付いていた。


 すでに他者を気遣う余裕など吹き飛んでいる。


 なぜ? どうして? と、疑問しか出てこない。


 何故俺にこんな称号が付いたのか?


 理解できない。


 これまで任務に忠実に働いていたじゃないか・・・


 それなのに何故こんなことになったんだ。


 こんな最悪な称号があったんじゃ、殺されたって誰も文句なんか言える訳が無い。


 それどころか家族の命すら奪われる危険だってある。


 俺はしがない男爵家の三男でしかないが、こんな不名誉な称号持ちになったなんて知れたら実家が取り潰されるどころか族滅じゃないか?


 そんなことよりも去年結婚したばかりの姉さんだって離縁されて殺されるかもしれない。


 全て俺の所為で・・・


 俺は不幸のどん底に突き落とされ、絶望した。




 そんな中、男の声が再び聞こえてくる。



「全員理解したな?


 つまり、貴様等は本来であれば何をされても、それこそこの場で処刑しても、どこからも文句の出ないどころか良くやったと褒められてしまう程の存在に成り下がっているのだ」



 嫌だ、もう聞きたくない。


 なんで俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ。



「それどころか、この事が広まれば貴様等の家族や親類縁者もそれはもう筆舌に尽くし難い迫害を受ける事になるだろう。 たった一人の愚か者の所為で一族郎党が滅びゆくとは・・・実に、実に残念なことである」



 自分が正に懸念したことを他人に言われると一気に現実味が増すように感じて恐怖が身体を震わせ、ジワリと涙が頬を伝う。


 終わった。


 親父、お袋、皆、本当にごめん。ごめんなさい。


 俺の所為で、俺の所為で・・・


 絶望に打ちひしがれる俺に男の声が響く。



「だが、俺もそこまで鬼ではない。


 なので貴様等に贖罪の機会を与える事にした。


 それが終身犯罪奴隷の身分である。


 その身分になる事で貴様等は俺の所有物となり、庇護下に置かれる。


 そして俺が貴様等に社会奉仕をさせる事で貴様等の贖罪となるよう、この俺が計らってやろう」



 こ、こんな称号がある俺に、殺されるべき存在に、庇護を与えてく、れる、だと?!

 神に背き、人類に仇為す存在と言われた俺に・・・ 贖罪の、機会を、与えて、くだ、さ、る?!


 俺は男の顔を見上げる。



 こんな俺に、まだ救いはある、のか?


 まだ、挽回できる。 可能性がある?


 そんな事を考えていると、男の声が俺の耳朶を打つ。



「理解したようだな。


 では、まず最初に貴様等のリーダー、隊長を決めるとしよう。


 そうだな・・・ふむ、よし、貴様等はこれから全員で戦え。


 最後に残った一人が隊長だ。


 ルールは簡単だ。


 武器や魔法の使用は何でもあり。


 負けを認め声を上げた者は脱落。


 気絶した者は脱落。


 行動不能になった者は脱落、以上だ」



「ま、待ってください、我々は人に危害を加える事を禁じられています。


 戦う事が出来ません!」



 愚か者が見当違いの質問をする。


 折角慈悲を与えてくれると言うのに機嫌を損ねてどうする!


 思わず声を発した者への殺意が湧く。


 ぶん殴ってやりたいが整列隊形を崩す事になるので動けない。



「貴様等は既に人ではないと命じた筈だ。


 つまり人でない者同士なのだから問題ない」



 男の言葉が朗々と紡がれる。


 その言葉に怒りが無い事に安堵はするが、呆れが含まれている事に焦りを感じる。



「待ってください! この条件では死人が出てしまいます!」



 再びの愚かな質問に頭がおかしくなりそうな程の怒りを覚える。



「貴様等は既に人ではない。それ以上に貴様等が死ねば『人類の敵』が減るのだ。問題ないどころか寧ろ喜ばしい事だ」



 当然の言葉ではあるが、多くの者はまだ理解していないのか驚きと動揺が含まれる声を発している。



「そ、そんな・・・」




「俺は貴様等に贖罪の機会を与えると言っただろう?


 貴様等が殺し合って死んだとしてもそれは『人類の敵』を減らしたと言う功になる。


 つまりそれは人類に対する立派な贖罪と言えるだろう」




 この言葉が俺の認識を改めさせた。


 周りの連中を『贖罪を共にする仲間』と思っていたが、この中には本当の『敵』がいると言う認識に変えた。

 変えてくれた。


 こいつ等を殺す事は『人類に対する貢献』となる。


 つまり、こいつ等を殺す事が俺の贖罪となり得るのだ。


 そう考えた時、何故こんな称号が俺に付いたのか、何となく理解した。


 今回の任務だ。


 このウェルズの街に来ることになった任務。


 そして自分達がこの街で行った行動。


 この任務で命令を下した存在、それに従い唯々諾々と命令を実行したことが原因だと。


 つまり、命令を下したサムソン、作戦立案をしたデブニー。


 この二人は、この二人だけは絶対悪であると確信した。


 そして、この二人を我々の隊長に据えることなど、絶対にありえない。

 何としてでも阻止、いや、殺さなければ!

 俺を、いや、俺達をこんな地獄に突き落としたのだ、報いを受けさせてやる!



 そう覚悟を決めた時、男の声が響く。


「では、心置きなく、全力で戦え、では、始め!」




 その声を合図に俺はサムソンに向かって駆け出し叫ぶ。


「サムソンを殺せぇぇぇ!」


 すると呼応するように別の叫び声が聞こえる。


「デブニーを許すな! 殺せぇぇぇ!」


 俺以外にもわかっている奴がいる!

 その事に少し嬉しくなりつつ、逃げ出すサムソンの後頭部に飛び蹴りを決める。




 こうして俺達の贖罪と言う名の死闘が幕を開けた。




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ナニかがいる。
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