第180話 解放と粛清 ⑩ 愚者の処遇
捕虜との面談が始まって一週間。
漸く全員との面談が終わった。
結果として騎士団員は全員真っ黒と言う事で終身犯罪奴隷の紋が刻まれた。
因みに俺は紋を刻む際に材料と混ぜる主人の血が必要なので毎日結構な量の血液を抜き取られていた。
正直、毎日『え?まじで?!』って思うくらい抜かれたけど、何故か貧血も起こすことなく乗り切れた。
地味に人間離れしてきたことを突き付けられたようで、背中にじんわりと嫌な汗が流れるのを感じた。
とまぁ、そんなこんなで面談が終わった。
因みに屋敷の使用人達はほぼ全員が無罪放免となった。
彼等は金銭でラグン子爵に臨時で雇われただけだったらしい。
ラグン子爵も急な要請で正規の使用人を増やせるわけもなく、急遽かき集めた人材でなんとか第3王女の身の回りの世話や騎士団の世話を回していたらしい。
そんな経緯もあって彼等は忠誠心ではなく、生活の為に従っただけとの事だった。
その上、こんなことに巻き込まれると知っていればこの仕事は受けなかったと心底後悔し、逆にあの地獄から解放されたことをすごく感謝された。
最後にミーネの専属侍女として来ていたサーラ=サウスパークは「私の忠誠はミーネ様に捧げております」と返答をした為、本心か運良くかはわからないけど、奴隷落ち回避となり今はミーネの側に控えているが、今後どうなるかは少し不安ではある。
と言う事で、俺の元に奴隷が200人来たことになる。
因みにマルコムの所には0人。
・・・
納得いかないけど飲み込むしかない。
取り敢えず躾ける所から始めるか。
と言う事で庭に拘束された200人が連行されてきた。
終身犯罪奴隷の紋を刻まれたことで半数は怒り顔で残り半数も不服そうな顔をしている。
まぁ、概ね反抗的な態度と言う奴です。
横にいるボコポに小声で確認します。
「最初に命令しといた方が良いですかね?」
「あぁ、お前ぇが主人だってことを最初にしっかりと教えた方がいいぜ。
さっさと奴隷紋で行動を縛れば後が楽できるからな」
「了解です」
そこで俺は思いっきり息を吸い込むと大声で命じる。
「奴隷である貴様等に命ずる!
1つ、自殺を禁じる!
2つ、逃亡を禁じる!
3つ、人類に対する暴言、暴力の行使を禁じる! その他、あらゆる犯罪行為を禁じる!
4つ、嘘を吐くことを禁じる!
5つ、相手の犯罪行為に対しては抵抗する事を許可する。が!殺人は禁じる!
6つ、俺の課す懲罰に対するあらゆる抵抗を禁じる!
7つ、貴様等は既に人ではない、畜生にも劣る存在であることを自覚しろ!
以上を絶対なる命令として厳守しろ!」
そう言うと200人から呻き声が聞こえたが俺はそれを無視する。
「ボコポさん、これで拘束を解いても問題ないですかね?」
「あぁ? あぁ、問題ないと思うぞ」
「じゃぁ、拘束を解いてください。
後は自分達が動いてもらいますから」
「わかった、そんじゃちょいと行って来るぜ」
そう言ってボコポが数人に声を掛けると奴隷達の拘束を解き始める。
俺は奴隷の拘束を解き終わるのを待ってから更に命令する。
「全員、整列!」
即座に命令に反応したものは数名、残りはその場で苦しみ始める。
苦しんでいる連中は命令に反抗しているのか、ただ鈍臭いだけなのかはわからないがこんなことで一々時間をかけたくない。
「さっさと動け!」
苛立ち紛れに殺気を込めて再度命令すると怯えたように整列し始め全員が整列する。
「ちゅうもーく!」
俺の言葉に全員の目が俺の方を向く。
「気付いた者もいるだろうが、俺が貴様等の主だ。
言動には気を付けるように」
そう言って睥睨すると、1人だけ反抗する者がいた。
「な、なんだと?!何を偉そうに言っているんだ!
我々にこんなことをして只で済むと思っているのか!」
よく見るとサムソンだった。
「ほぉ、貴様はまだ自分の立場が分かっていないようだな」
そう言って威圧すると苦しそうな呻き声を上げて頽れる。
「ただ立っていることも出来ない雑魚は黙っていろ」
そう言って俺は視線を切って話を続ける。
「さて、貴様等は終身犯罪奴隷となっているが、何故かわかるか?」
そう質問するが答える者はいない。
そこで俺はわかり易く溜息を吐く。
「自身の罪も理解していないとは、何と嘆かわしい」
如何にも落胆していますと言う態を装い、愚か者を見るかのように憐れみと蔑みを込めた目で見てやる。
俺のその態度に反感を覚える者、自分達に何か落ち度があったのか思考を巡らせる者。
反応は其々だが一様に黙り込んでいる。
「誰もわからないか・・・
これはいよいよもって狂っているな。
良いだろう、改めて教えてやろう。
自身のカードの称号欄を見ろ」
俺のその言葉に素直に自身のカードを見た面々は絶句し、あちこちで「そんな」とか「馬鹿な」と言った声が上がる。
このカードだが、俺が持っている冒険者ギルドのギルドカードと同じような物らしい。
俺も知らなかったが、貴族や官憲等の仕事に付く者達は必ず身に着けているものらしい。
軍属であれば首から下げており、身分証と言えばこのカードを指すらしい。
そしてギルドカードと同じく、自身のステータスやレベル、称号と言ったものが表示されるらしい。
冒険者ギルド特有だと思っていたと言った時にはボコポから「庶民でも普及しているものを国が普及できない訳ないだろうが」と笑われてしまった。
よく考えればそりゃそうだと納得した。
笑われながらも俺は逆に「こんなすぐ確認できるものがあるなら王や貴族は今頃自分の称号を見て慌ててるんじゃないか?」と聞いたが、「王族や貴族ってのは臣籍降下や陞爵や降爵、家督相続の時くらいしかカードを使わねぇらしいから問題ねぇ」らしい。
その返答に少し不安になったが、もしカードを見て『人類の敵』の称号を見たらどうするかを考えてみたが、どう考えても正直に誰かに話すような正直者はいないだろうと言う結論しか出せなかった。
つまり、その称号を必死に隠し、公にする事は無いと言う結論に至ったのだ。
そもそもそんな正直な奴が居続けられる状態だったらこんなひどい事態にはならなかっただろうから。
目の前の200人程が絶望に顔を歪めているのを眺め、俺は話を続ける。
「全員理解したな?
つまり、貴様等は本来であれば何をされても、それこそこの場で処刑しても、どこからも文句の出ないどころか良くやったと褒められてしまう程の存在に成り下がっているのだ」
その言葉に誰も何も言い返せない。
「それどころか、この事が広まれば貴様等の家族や親類縁者もそれはもう筆舌に尽くし難い迫害を受ける事になるだろう。 たった一人の愚か者の所為で一族郎党が滅びゆくとは・・・実に、実に残念なことである」
俺の語りに益々絶望に染まる面々。
そこに僅かな希望を与える言葉を掛ける。
「だが、俺もそこまで鬼ではない。
なので貴様等に贖罪の機会を与える事にした。
それが終身犯罪奴隷の身分である。
その身分になる事で貴様等は俺の所有物となり、庇護下に置かれる。
そして俺が貴様等に社会奉仕をさせる事で貴様等の贖罪となるよう、この俺が計らってやろう」
絶望していた者達に俺の言葉が浸透していくと、やがて全員が縋るような目で俺を見始める。
・・・気持ち悪い。吐きそう。
だが、グッと堪える。
「理解したようだな。
では、まず最初に貴様等のリーダー、隊長を決めるとしよう。
そうだな・・・ふむ、よし、貴様等はこれから全員で戦え。
最後に残った一人が隊長だ。
ルールは簡単だ。
武器や魔法の使用は何でもあり。
負けを認め声を上げた者は脱落。
気絶した者は脱落。
行動不能になった者は脱落、以上だ」
何とか戦いを回避しようと奴隷の1人が反論する。
「ま、待ってください、我々は人に危害を加える事を禁じられています。
戦う事が出来ません!」
「貴様等は既に人ではないと命じた筈だ。
つまり人でない者同士なのだから問題ない」
「待ってください! この条件では死人が出てしまいます!」
「貴様等は既に人ではない。それ以上に貴様等が死ねば『人類の敵』が減るのだ。問題ないどころか寧ろ喜ばしい事だ」
「そ、そんな・・・」
「俺は貴様等に贖罪の機会を与えると言っただろう?
貴様等が殺し合って死んだとしてもそれは『人類の敵』を減らしたと言う功になる。
つまりそれは人類に対する立派な贖罪と言えるだろう」
俺の返答に全員が絶句する。
「では、心置きなく、全力で戦え、では、始め!」
こうして奴隷達の死闘が始まった。
俺はその場を離れて一息つく。
「う~ん、この後どうしよう?」
「何がだ?」
「いえ、この人達をどう有効活用しようかと・・・」
「ふむ、神のダンジョンとかで採掘させたらどうだ?」
「流石に200人もいきなり増えたらボコポさん達職人や冒険者達と揉めるんじゃないですか?」
「ふむ・・・確かにな、しかも質が悪い事に元騎士団員だから戦闘力はお墨付きだしな・・・」
「私もあの連中にただ飯食わせるなんて業腹でしかありませんが、ボコポさん達に迷惑かけるのも違うでしょう?
もっと有効活用しないと・・・」
「いっその事。悪魔のダンジョンにでも放り込むか?
そうすりゃ神々の啓示に即した行動だし、贖罪って意味じゃぁ打って付けじゃねぇか?」
「おぉ、良いですねぇ。
最初の初期費用だけ出して後は悪魔のダンジョンで稼がせる。
余剰分は初期費用の回収に充てさせれば私の負担も無い・・・
ただ気を付けなければならないのは使い捨ての戦力ではなく本気の攻略を進める戦力として扱わねばなりません。
つまり装備と所持品もそれなりに持たせねば・・・」
俺はボコポの提案に乗っかる事にして悪魔のダンジョン攻略について話し合う。
「ボコポさん、奴等の装備なんですが、正直奴等が持ってた武器って使えますかね?」
「あー、無理じゃねぇか?
今その武器で戦ってんだろ?
あれが終わった後じゃ精々1/4位残れば良い方じゃねぇか?」
「では防具は?」
「それこそニコイチとかゴコイチとかして合わせても1/3・・・は無理じゃねぇかな」
そんな言葉を聞き楽太郎はガックリ項垂れる。
「はぁ、殆ど刷新しなきゃダメって事ですね・・・」
「おいおい、200人分の武器防具を揃えるのか?」
「オーダーメイドじゃなくて店売りの品で良いんですよ。
何なら不良在庫とかあればそれでもいいですよ?」
「俺の店に不良在庫なんてあるか!
てか、この街の職人は優秀なんだからあるわけねぇだろ!」
「いや、ディルクさんのとこではありましたよ?
しかも売り付けられましたし?」
「・・・す、すまねぇ」
「いえいえ、それよりも集められます?」
「あ、あぁ、うーむ、どれくらいの期間で集めりゃ良いんだ?」
「できれば3日」
「んなもん出来るわきゃねぇだろ?!」
「えぇ~、じゃぁ、7日?」
「あ~、剣だけなら行けるが、防具もとなりゃ他に回さねぇとな・・・
となると防具はディルクのとこに任せるしかねぇか。
防具は革でもいいか?」
「えぇ、構いません」
「ふむ、なら行けるかもな・・・」
「じゃぁ7日でお願いします」
「はぁ、わかったぜ。
それじゃ俺は忙しくなっちまったから抜けるぜ」
そう言ってボコポはその場を去った。
そして俺の目の前では未だに奴隷達が戦い続けていた。




