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第174話 解放と粛清 ⑥ 思考実験と考察

 連行されている兵士達の中に一人大声で喚いている男がいた。


 とりあえず五月蠅いので殴ってから「次勝手な発言をしたら殺す」と脅したら急に大人しくなった。


 連行していたウェイガン教徒の中に見知った顔を見付け声を掛ける。


「たしか、マシューさんでしたっけ?」


「は、はい?! そ、そそ、そうです。

 その節はお世話になりました!」


 何の他意も含めずに声を掛けたのだが、少し怯えられた。

 どうやら脅す際に殺気が漏れていたようだ。


「いや、少し聞いておきたいことがあるのですが、鑑定持ちの人達って今どうなってます?」


「はい! 鑑定持ちの方々は今この街に3名いらっしゃいます。

 この場には1名来て頂いていますが、何か御用でしょうか?」


「あぁ、色々と試す・・・確認する必要が出て来たので鑑定するのを明日以降に遅らせてもらいたくてね。

 その事も含めて詳細は夜にでも説明できればと思っているので、その旨を伝えておいて欲しいんだ。

 面倒を掛けて申し訳ないとは思うんだけど、お願いできないかな?

 それと少しそこの奴を借りたいんだけど良いかな?」


 俺の言葉をしっかりと聞いたマシューは「面倒なんてとんでない!わ、わかりました! そいつに関しても問題ありません。どうぞどうぞ」と身振り手振りを交えて全肯定した後、早速と言わんばかりに指示出しに向かいその場を離れた。


「許可もらったし、こっちも始めるか」


 マシューを見送った後、俺は喚いていた男を荷物よろしく持ち上げると他の兵士達から少し離れたところに移動して言葉を交わす。


「さて、とりあえ、あんた誰だ?」


「・・・」


「声を出しても良いぞ」


「あ、あんた、何者なんだ?」


「質問しているのは俺だ。 名乗れ」


 俺は言葉と共に殺気を込めて威圧すると、男は怯えて素直に答えた。


 男の名前はデブニー=ホフマン。

 本人の言では王都第1騎士団第1大隊所属第3中隊の副長で今回派遣された騎士団の中ではテイル=マッサーの次に偉いらしい。


 最初は「隊長のテイルが死んだから今は俺が一番偉いんだ」と自慢気に語っていたがテイルの生存を伝えると信じられないとでも言わんばかりに驚いていた。


 まぁ、そんな事はどうでもいい。

 さっさと本題に入ろう。


 俺は『鑑定』を発動して称号を確認するが、やはり背信者のみが表示され、『人類の敵』は表示されていない。


「デブニー、お前は自分の意志でこの国の王に従っているのか?」


 まず最初に直球で確認してみる。


「は?何を言っているんだ?

 俺は王国の騎士団に所属する騎士だぞ!

 命令があれば従うのは当たり前のことだろう?」


「そ、そうか」


 予想外の返事に少し動揺するが、デブニーの称号には『人類の敵』は付いていない。

 俺は安直に『Yes』『No』を期待していたが、上手くはぐらかされてしまった。


 質問に答えているようで答えていない。

 まるで政治家の答弁の様な玉虫色の回答に辟易するが、そう言う返しをされることもあるかと思い直す。


 これはあくまでも実験だ。


 こいつに『人類の敵』と言う称号が付かなくても俺としては何も問題ない。


 『人類の敵』と言う称号が今現在、どういう条件で付くのかを確認できればいいのだ。


 ここで失敗してもそれもまたサンプルが増えるだけで、そこに問題はない。


 そう自身に言い聞かせ、落ち着きを取り戻すと、俺は再び質問を続ける事にする。


「では、王への忠誠心はなく、立場上、仕方なく従っていると言う事だな?」


「はぁ?

 ・・・あ、ち、違うぞ?!

 俺は王国の騎士として王に忠誠を誓っている!

 け、決して仕方なく従っているわけではない!

 忠義を尽くしているからこそ従っているのだ!」


 俺が間を空けて再度質問した所為かはわからないが、デブニーは何かを深読みしたのか慌てて訂正する。

 『忠義を尽くして従っている』と言質が取れたが、これでもまだデブニーの称号に『人類の敵』は追加されない。

 何故だ?

 そう思いながらも追い打ちをかけるように次の質問を投げかける。


「では、お前は自分の意志でこの国の王に従っているのだな?」


「あ、当たり前だ!

 俺はゴルディ王国の騎士だぞ?!」


 その瞬間、奴の、デブニーの称号に『人類の敵』が追加された。


「そうか、よくわかった。

 質問は以上だ」


 そう言って俺はデブニーを兵士達の元に戻すとその場から離れた。











 この結果に、俺はほくそ笑んだ。

 これでまた1つ、仮説が証明された。


 『人類の敵』と言う称号の取得条件は複数ある。


 前提としてこの称号は神々が認知し、意図して付けない限り多分付くことはないだろうと言う事。


 もし自動で取得出来てしまうのであれば、恐らく神聖王国サスティリアの為政者達の大半に付いていた事だろう。

 奴等は無駄な戦争をして自国のみならず他国の戦力も著しく貶め、人類の生存圏を失う危険を犯したのだ。

 この一事だけでも十分にこの称号が付けられる理由になる。

 にも拘らず奴等には誰一人『人類の敵』と言う称号が付いていなかった。


 まぁ、サスティナとか言う頭おかしい女神の指示で戦争を起こしたと言う経緯もあって付いていない可能性もあるけど、今回の件を考えるとキュルケ神かウェイガン神が意図して付けているのだろう。


 その前提での推測だが、称号『人類の敵』が付与される可能性が高い条件は2つ。



 1つは人類に対する反逆行為を行う事。



 大分大雑把で抽象的な内容だが、今回の件で該当する事象はわかり易い。


 今回抵触した事象は『人類の生存圏を脅かす行為』だ。


 わかり易く説明すると、人類が住める地域を意図的に減らし、人類の繁栄を阻害する行為だ。


 今回ゴルディ王国の国王は悪魔のダンジョンから溢れた高レベルの魔物に対し、有効な手段を意図的に封じ、ウェルズの街と言う人類の生存圏を滅ぼし掛けた。


 恐らくだが、冒険者の第一陣が攻略に失敗した時の報告を素直に受け入れ、方針を変更していれば『人類の敵』が付与される事は無かったんじゃないかと俺は考えている。

 誰だって目的に対して近道できる方法があるなら試してみたくなるだろう。

 それにもし上手く近道出来ていたら悪魔のダンジョン攻略の速度も上がるし、神との誓約も守れていた筈だ。


 ただ、今回は国王の思い通りには行かなかった。

 最初の攻略を失敗した時には一流冒険者達もミノタウロスの強さを理解したし、ショートカットなんてありえない。

 到底不可能だと判断し、冒険者達だけでなく、冒険者ギルドとしてもそう報告を上げている。


 それなのにこの国の王はその報告を完全に無視した。

 そして現実を直視しせず、王命は繰り返された。

 その結果、街にミノタウロスが解き放たれウェルズの街と言う人類の生存圏を滅ぼし掛けた。


 この時点で称号を付けるのに十分な条件が揃っていたのだろう。

 後はキュルケ神かウェイガン神が本人の行動に沿った称号を意図して付与をした。


 そして国王の行動を積極的に支持し後押しした者達も同様に条件が満たされ、軒並み『人類の敵』が付与された。


 これが今回、国王達に称号『人類の敵』が付与された顛末で、『人類の敵』が付与される条件の1つ。



 そしてもう1つの条件が『人類の敵』の称号持ちに自分の意志で付き従う者達。



 こちらは明確な意思表明が必要なのだろう。

 しかも、恐らく本人の本心とは関係なく意思表明する事(・・・・・・・)が重要なのだろう。


 デブニーとは短い質疑しかしていないが、何となく為人は察しがついた。

 恐らく彼は利己的な人間なのだろう。


 だから最初の質問では明確な答えを避けた。

 そして俺の次の質問についてだが、俺は最初の回答を逆手に捉えデブニーの忠誠心の有無を確認した。

 騎士は誓いにより、国に、王に忠誠を捧げる。

 忠誠を誓い、捧げるからこそ騎士となれるのだ。


 つまり、騎士を名乗るデブニーは本心はともかくとして対外的には忠誠を誓っていると公言しなければならない。

 否定すれば即座に騎士失格となるだろう。


 だから奴は焦って肯定した。


 それでも『人類の敵』と言う称号は奴に付かなかった。


 何故?


 そう思ったが、これはよくよく考えればわかる事だった。

 忠誠心とは唯々諾々と付き従うものではないからだ。

 主君が間違っていると思えば諫めもするし、反対もする。


 王に忠誠を誓っていても王の間違いを正しきれず、命令に従うしかない事もあるだろう。

 だからこそ忠誠の有無を公言しても称号『人類の敵』は付かなかったと俺は解釈した。


 その上で俺は重ねて確認した。


 『自分の意志で従っているのか?』と・・・


 話の流れから忠誠を誓っていると公言した直後での、この質問だ。


 デブニーは否定するなんて出来なかっただろう。


 そんな状況でも明確な意思表明(・・・・・・・)をした事には違いが無かったのだろう。


 俺はデブニーが『自分の意志でこの国の王に従っている』とは思っていない。


 初対面の俺ですら明らかな嘘とわかる。


 それでも『自分の意志でこの国の王に従っている』と肯定し、公言する事で称号に『人類の敵』が追加されたのだ。


 つまり本心でも嘘でも称号『人類の敵』が付いている者に同調することを公言するだけで称号『人類の敵』の付与条件を満たすことになる。


 つまり称号『人類の敵』を持つ者に自主的に協力していることを公言させる。

 もしくは認めさせる事で協力者にも称号『人類の敵』が付与される。


 これが2つ目の条件だろう。









 俺は自分で立てた仮説の確度を上げる為、数名の騎士・兵士に声を掛け、同じように質疑を繰り返した。




 結果は仮説通りの結果を得られた。





 この内容は俺の従業員達には共有するが、他の奴等、特にキュルケ教関係者には教えるべきか悩むところだ。


 この情報が漏洩した場合、今後邪魔をしてくる連中を排除し(黙らせ)辛くなる可能性が高い。


 ・・・


 色々考えた結果、情報共有は従業員とボコポ、それと奴隷商のマルコムだけに留める事にした。


 これで情報が漏れた場合、俺は即座にこの国を去る事も内心で決意した。




 流石にこれだけ面倒を請け負っているんだ。


 人の努力を無に帰すようなことをする奴等に協力する意味はない。


 とりあえず、今日の夜に開かれる会議で話す内容や『背信者』や『人類の敵』の称号持ちの処遇について等、色々と考える。






 そう言えば、俺の仕事ってもう終わったんだよな。


 帰っていい?




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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
― 新着の感想 ―
大変楽しく拝読させて頂いております(笑) 少し気になる点です。 楽太郎の最新の体型はどうなっているのでしょう? 転移?してから結構激しい運動をしているので、大分痩せて引き締まったかなぁ〜?と思いまして…
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