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第173話 解放と粛清 ⑤

 とりあえずミノタウロスの排除と騎士団の制圧が終了したが、まだ俺はこの隔離された屋敷内に留まっていた。


 それは気になったことを試してみようと思ったからだ。


 言い方を変えれば実験とも言うのかな?


 まぁ、そんな感じなので取り敢えず死にかけのサムソンに回復魔法を掛けて頭を引っ叩(ひっぱた)いて起こす。


 一度では起きなかったので2度3度と繰り返すと呻き声と共に目を覚ます。


 少しぼぉっとしていたが、俺が声を掛けると状況を理解したのか声を荒げ始める。


「こ、これは?

 何故俺が縛られているんだ?」


 そう言って暴れ始めるので取り敢えず腹部に蹴りを入れて黙らせる。


「ぐはぁ?!

 き、貴様ぁぁぁぁ!何をする?!」


「黙れ」


「さっさと拘束を解けぇぇぇ!」


 埒が明かない。


 叫ばせるだけ叫ばせようと思ったが正直声がでかくて五月蠅い。


 そう思っているとミーネも両耳を塞いでいた。


 ミーネは俺の視線に気付いたようで俺が顎でサムソンを示すとミーネは濁った瞳で笑みを浮かべると、倒れているサムソンの足に金棒を叩きつけた。


「がぁぁぁ!

 なんてことしやがる貴様ぁぁぁぁぁあ!?

 み、ミーネ様、な、何故こんな仕打ちを?!」


 衝撃と痛みに喚いていたサムソンだったが、それをやった人物に視線を向けて驚愕する。


「黙れ、五月蠅い」


 短く感情の籠らないミーネの声に痛みに喚いていたサムソンも驚愕の表情を浮かべて固まる。


 うーむ、以心伝心とはこの事か?

 ミーネの急成長に俺も驚きを隠せないよ。


 そしてミーネがニコニコ顔で俺の傍に戻って来たのでよくやったと頭を撫でる。

 その光景にサムソンの双眸が一層見開かれる。


「漸く静かになりましたか。

 では今の状況を説明しますが、よろしいですか?」


「・・・」


 無言は肯定と捉えて俺は話し始めた。


 サムソンが推し進めた2回目の攻略の失敗した為、最悪このウェルズの街そのものを放棄しなければならない程の危機があった事を含めて何が起きたのかを説明していく。


 街に解き放たれたミノタウロスに対して民を守るべき騎士団が尻尾を巻いて逃げた事から始まり、神殿関係者や街の衛兵達が如何に努力して貴族街に押し止めたか、そして貴族街に残るミノタウロス達を苦労して隔離した経緯等を掻い摘んで説明していく。


 そしてこの地の本来の統治者であるラグン子爵が王都へと抗議の旅に出た経緯や冒険者ギルド長の暴走とその顛末。

 そして商業ギルドの不正と関係者の更迭。


 そしてサムソンが独断で行った脱出作戦についても成功していた場合、最悪ウェルズの街に多大なる被害を出すだけでなく都市そのものの放棄にも繋がる可能性があった事も指摘し、その行為が人類に対する悪質な裏切り行為であることもふわっと説明した。


 ここまでの説明に関してはサムソン自身の失態が原因の後始末である為、何度か「いや、違・・」「そう言う意図では・・・」等と言っていたが、無視できるレベルだったので無視して説明を続けた。


 その後も説明を続け、ミーネと街の有力者達での会議の末、ダンジョンの穴の封鎖が決定された事を説明すると、サムソンが大声で口を挟んだ。


「それは勅命によって許されていない!

 その行為は王国の近衛騎士として認められない!

 これは明らかに王国に対する反逆行為だ!」


 俺は内心ほくそ笑んだ。


 思いの外、良い喰い付きだった。

 俺はサムソンに鑑定スキル遣い称号欄を確認するが、あるのは『背信者』のみ。


「許されないとはどういう意味ですか?

 この街が晒されている危機の原因ですよ?

 穴を塞ぐだけでこの街は以前と同じような安寧を取り戻せるのですよ?」


「それでもだ。

 私は近衛騎士だ。

 王の剣であり、王の盾でもある。

 王の命に従うのが道理だ」


「それはあなたの意志で王に従うと言う事ですか?」


「そうだ」


 その瞬間、サムソンの称号欄に『人類の敵』が追加された。




 ・・・




「はは、はははははは!

 やっぱりそう言う事か!!」


「「「?」」」


 突然俺が上げた哄笑にその場にいた全員の視線が集まる。


「あぁ~、すまない。

 だが、ははは!

 これは傑作だ。

 傑作だが、面倒な事にもなったな」


 一人納得して嗤っている俺に意味がわからず訝し気な表情を浮かべる面々に俺は話は終わりだと告げ、俺は無慈悲にサムソンの意識を刈り取った。











 その後はカタリナだけは逃がさない様に俺が荷物よろしく担ぎ上げる形で適当に持ち上げると屋敷の外に出る。


 再封鎖した入り口を崩して待っていた者達に中のミノタウロスの排除と制圧が完了した事を告げ、屋敷内で縛り上げた騎士団や使用人達を庭に運び出すように指示を出す。


 それと共にカタリナは逃がさない様に俺が預かる事も説明し、ミーネを待機していたエロイーズに預けると俺はその場で休憩する。


 ボーっと適当に周りを眺めているとキュルケ教のモニカも今回待機していたのか視界に入る。


 あぁ、そう言えばリディアーヌの事を抗議しないとなぁ。


 そんな風にぼんやり思っているとエロイーズを伴ったミーネがモニカに何やら話し掛け始めた。


 そちらに耳を傾けるとどうやらリディアーヌへの抗議を行っているようで、リディアーヌが如何に中で邪魔をしたのかをミーネが語り、モニカは驚きの声を上げて慌ててリディアーヌに確認をしていた。


 ミーネも忘れずにしっかりと抗議できるようになったのかと俺はミーネの成長に少し嬉しくなる。


 そして確認内容に全肯定したリディアーヌをモニカは信じられないものを見る目で見つめ、「何故背信者を庇うんだ?寧ろ責め苦を与えて殺したって問題ない連中だぞ?!」と声を荒げ「お前もトッチーノと一緒に修行のし直しだ!」と罵声を浴びせる。


 それにリディアーヌが抗議するが、同志である筈の他のキュルケ教関係者もドン引きした後、汚物を見るような視線をリディアーヌに向け誰も擁護しなかった。

 寧ろ楽太郎から出来るだけ離そうと無言で連行して行った。


 そんな光景を眺めつつ、なんでリディアーヌが巫女に選ばれたんだろう?と心底疑問に思うが、まぁキュルケが何を考えているかなんてわからない。


 そう言う俺も彼女を伝令役にした経緯もあり、よくよく考えてみると本当にアウトな人間を除くとキュルケ教には見知った人物がリディアーヌしかいなかったことに戦慄を覚えた。


 他がダメ過ぎてリディアーヌが真面に見えていただけだったんだ。


 そういうこともあるのだろうか? いや、ないだろ?

 そう思いこの異世界で出会った人物たちを思い浮かべ・・・たくない。

 うん。そういうこともあるな。


 なんか、俺の常識が揺らいだ気がした。




 その後モニカから丁寧な謝罪を受けた。


 謝罪は受けたが俺はそれよりもサムソンに『人類の敵』と言う称号が付いた状況に思考を向け、今後どうするかを考える。


 最初、サムソンには『人類の敵』は付いていなかった。


 だが、付いていてもおかしくない行動をサムソンはそれまで取り続けていた。


 俺の主観ではあるが、それが何故かわからなかった。

 ただ本人の意志が関係するのでは?と言う仮説だけがあった。


 なので今回、状況説明と称してサムソンが取った行動が如何に悪魔のダンジョン攻略を阻害しているのか、そしてウェルズの街(人類の生存圏)を脅かす行為をしているのかを暗に含めて説明した。


 神との誓約を破り、人類の生存圏が縮小されるかもしれない行動の有無を指摘。


 その上でこの国の王(人類の敵)に自分の意志で従うのか?と問いかけた。


 結果、是と答えたサムソンには『人類の敵』と言う称号が付いた。


 今回の結果として、本人の意志で行っていることがわかれば『人類の敵』が付くことが分かった。


 だが、今回はサムソン自身の行動を指摘し、如何に人類にとっての害悪であるかを暗にではあるが説明している。


 では、今度は自身の罪業を説明せずにこの国の王(人類の敵)に従うかを確認した場合はどうなるのか?


 もし称号が付かないのであればどの程度の説明がいるのか?


 「神に対する背信行為であっても王に従うのか?」と問えば良いのか、それとも「人類の敵である王に従うのか?」と問えば良いのか。


 そもそも今挙げた例だって突然言われれば「何を馬鹿な事を」と思い真面に取り合わない可能性が高い。


 サムソンにした内容を一々説明するのはいかにも面倒だ。


 出来るだけ簡略化したいけど、そうすると何回か試す必要があるんだけど・・・面倒臭い。


 それでも今後の事を考えると必要だろう。


 仕方ない、面倒だけど試すとしますか。


 溜息を一度つき、気合を入れ立ち上がる。


 すると丁度屋敷から兵士達が運ばれるのが視界に入り、俺は好都合とばかりにそちらへと歩みを進めた。











 





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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
― 新着の感想 ―
人類の敵である王国と王と王族とその取り巻きの貴族と手下の兵隊たちを滅ぼすべきであると周辺国の連中が考えたら一斉に攻め滅ぼしに来そうですな。 それにしても、人類の敵の称号が出てきたことを知ったらようやく…
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