第170話 解放と粛清 ②
ミーネが敷地内にいるミノタウロス達を駆除していた頃。
屋敷内にいた騎士達も外から聞こえるミノタウロス達の怒号に異常を感じて外の様子を窓からそっと覗く者達がいた。
絶望に染まったその者達であっても身近に迫る変化には敏感になるようで、目を皿のようにして見詰める。
「おい、あそこ見てみろ、ミノタウロスが戦ってるぞ」
「はぁ、奴等にゃ敵わねぇんだ。
んなもん見たってどうせまた誰かが無駄死にするのを見ちまうだけだろうが。
んな胸糞悪い光景なんぞ見たくねぇよ」
声を掛けられた男の目には絶望が宿っている。
もう助からないと確信し、死に抗う事を諦めていた。
「いや、違う。
ミノタウロスが吹き飛ばされてるんだよ」
そう反論して振り返った男の声に被さるようにミノタウロスの断末魔の悲鳴が上がる。
慌てて視線を外に戻すと、男の顔が驚愕に歪む。
「マジか・・・
ミノタウロスが動かねぇ・・・殺したのか」
男の呆然とした呟きに、絶望していた男も気になったのか外を見ようと体を起こす。
そして外を眺め、隣の男が指す方に視線を向けて暫くすると目を見開く。
「あれ、本当か? 現実・・・だよな」
「多分・・・俺も幻覚でも見てるのかと思ったが、お前にも見えるって事は現実じゃないのか?」
まるで夢でも見ているような心持ちでミノタウロスとミーネの戦闘を眺めている。
そしてミーネが1匹、また1匹とミノタウロスを倒す姿を2人の男は、何時しか食い入る様に見詰めていた。
「な、なぁ、俺達、助かるんじゃないか?」
藁をも掴む思いでそう誰に問うでもなく言葉を発するが、誰も答えない。
目の前の光景が、あまりにも現実離れしていたから。
そしてあまりにも自分達に都合の良い光景だから、信じ切れずに不安になったから。
食い入る様に只々見つめ続けた・・・
ミーネが何体かミノタウロスを倒すと後から来た奴等は警戒したのか咆哮を上げ、仲間を呼び始めた。
「仲間を呼びましたよ。
さて、こういう時はどうします?ミーネ」
「こういう時は先殴りで殺ります!
待つのはダメです!先手必勝!」
そう言ってミーネは一番近いミノタウロスにと突撃する。
「そうですね、ただ、それは合流前に叩ける場合だけです。
合流前に殲滅できそうにないなら逃げるようにしてください」
楽太郎の言葉にミーネは元気よく返事し、その返事をもって楽太郎は別のミノタウロスに向かって行く。
そして楽太郎は絶妙の手加減でミノタウロス達を瀕死にし、ミーネは撲殺し続けた。
こうして一通り出て来たミノタウロス達を倒すと、楽太郎はナイフをリディアーヌへと渡す。
「はい?」
「私が倒した奴はまだ息があります。
止めを刺してサクッとレベルアップして下さい」
「え? いいんですか?」
そう言って嬉しそうにするリディアーヌに楽太郎は事も無げに告げる。
「いいんですよ。
あなたはどうにも不運属性が付いていそうですからねぇ。
今後の事も考えると、あなたも自分の身くらい守れる程度・・・は無理ですね。
まぁ、逃げ遅れない程度にはレベルを上げておかないとあっさり死ぬかもしれません。
キュルケ教で唯一の伝令役なんですから、おねがいしますよ?」
「ちょっと!
嫌なこと言わないでくださいよ!
不運属性って何ですか!
神殿の巫女が不運属性って、そんな洒落にならないこと言わないでくださいよ!
それに不運の元はそもそもラクタローさんじゃないですかぁ!」
言われて考えてみると思い当たる節が幾つかある。
「あー、まぁ、因縁付けて来た神様を恨んでください。
と言うか、信仰する神様間違えたんじゃないですか?」
その言葉にリディアーヌが青褪める。
「ちょ!洒落にならないですって!
今現在進行中で神罰執行してるんですよ我が神は。
怖いもの知らず過ぎますよ!」
「私、キュルケ教の信者でもウェイガン教の信者でもないですから関係ないですよ。
そもそも事実を言っただけで敵対するなら神様でも容赦しないですよ私は・・・」
「そ、それは、どうなんですけど・・・でも、本当に、気を付けてくださいよぉ・・・」
そう言うとリディアーヌは黙り込んでミノタウロスに止めを刺す作業に移った。
リディアーヌが離れたのを見計らうと楽太郎はミーネに話し掛ける。
「さて、ミーネ。
これから騎士団の所へ行きます。
何をするかわかっていますね?」
「はい!
まず騎士団全員を引き摺り出します。
そしてサムソンに金棒でお仕置きします!」
そう言って金棒を一振りする。
「いいですねー、しっかり覚えていますね。
その後もわかりますか?」
「はい!
他の騎士達もみんな金棒でお仕置きです!」
そう言ってまたも金棒を一振りする。
「うんうん、いいですよー。
非常にいいです。
でも一つだけ注意しましょう。
お仕置きする時は頭は止めましょうね。
一発で死んじゃうかもしれないので、出来ればお腹の辺りを狙いましょう。
全力でやりたい場合は太もも辺りを狙いましょう。
太ももなら死なないですからね!」
「はい!わかりました!了解です!」
そう言って敬礼するミーネ。
その姿に満足したように頭を撫でるとミーネも笑顔になった。
そしてリディアーヌが作業を終えると楽太郎はミノタウロス達を『無限収納』へと仕舞い、淡々と告げる。
「では、屋敷へ行きますよ」
「はい!」
「はい・・・」
ミーネは元気に、リディアーヌは不安そうに返事をした。




