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第166話 宴会

「「「カンパーイ!」」」


 某酒場では何度目かわからない乾杯の音頭が聞こえ、皆明るい表情と声で楽しそうに騒いでいる。


 店は満員で俺の座っているテーブルでは左側にはミーネにエロイーズ、エリーが順に座り、右側にはボコポに奴隷商のマルコムさん、そして正面にはヤコボ親方やそのお弟子さん達と言ったむさ苦しいおっさんがずらりと並んで飲んでいる。


 他のテーブルにはキュルケ教やウェイガン教の関係者も座っているが、みんな笑顔で楽しそうに飲んでいる。


 この世界の宗教は人の営みに制限を掛けるような戒律なんかは殆どなく、神官であってもお酒は飲めるし結婚もできるとのこと。


 道徳的な生き方を説いていることが多い。


 それと神様が実存するという事実が広く知られているので組織としての腐敗はし難いようだ。


 まぁ、今回のような神罰?が下るのであれば、不正は瞬く間に詳らかにされてしまうのだろう。


 まぁ逆に一部あれな神の所為でえらい目を見る信徒達もいるが、そう言った神の信徒達もあれなのでどうでもいいか。


 まぁ、そんな感じでみんなようやくダンジョンに開いた穴を塞げたことを祝しての宴会なんだが、始まって早々ドワーフ達は乱闘場で喧嘩を楽しんでいる。


 隣にいるミーネも最初は酒場の雰囲気に呑まれたようにあちこちをキョロキョロしていたが今は乱闘場に視線が釘付けになって、なんだかわくわくした表情になっていて漸く子供らしい表情が見られた気がして少し安心していると、声がかかる。


「ラクのお陰で漸くこの街のでっけぇ問題が一つ解決したぜ!

 本当にありがとよ! お前ぇはこの街の英雄だぜ!」


 ボコポが笑顔でそう言うと周りの者も同調するように「そうだそうだ!」と繰り返す。


 別のテーブルでも「ラクの兄貴にカンパーイ!」なんて調子で騒がれるので、俺は照れてしまう。


「いえ、私もようやく自宅を取り戻せそうなので胸を撫で下ろしている所ですよ」


「そう言やぁ、お前さん家の改修工事はセドリックが請け負っていたっけなぁ~。

 出来りゃ恩返しに儂が!とも思ったけんどもよぉ。

 弟子の仕事を儂が横取りする訳にもいかんでなぁ。

 だから手は出さねぇけんどよぉ、何か儂にできることがあれば遠慮なく言ってくれやぁ!

 力になるからよぉ~」


 俺の言葉を受けてヤコボ親方が話に割って入って来る。


「ありがとうございます。

 何かありましたらその時はよろしくお願いします」


 そう言って頭を下げるとその姿にミーネ達が驚く。


「何を驚いているんですか?」


「いえ、旦那様が普通の対応をしているもので・・・」


「失礼な!

 私だって社会人なんですから、人付き合いくらい普通にしますよ」


「あ、いえ、その・・・はい。

 申し訳ありませんでした」


 そう言ってエリーが頭を下げるとボコポとヤコボ親方が笑い出す。


「ちょっとボコポさん?!」


「ワハハ!悪りぃなラク。

 あぁ、嬢ちゃん、こいつはな鏡みたいなもんなんだよ。

 基本的には丁寧な言葉使いなんだが、相手が話す価値があるかを見極めているんだ。

 自分を見下してくる相手や高圧的に接する相手、利用してやろうという下心が透けて見える奴なんかには慇懃無礼な態度で接するんだよ。

 逆に誠意をもって接すれば同じく誠意をもって接して来るんだ。

 それも権力や権威なんかはあんまり気にしてねぇから一部の奴等にゃ酷い態度に見えるが、自分達の行いが返って来てるだけなのよ」


 笑いながらそう言うと、エロイーズが不思議そうに聞き返す。


「でも、その理屈ですと何故ミーネ様に対しても・・・」


「そりゃ、ラクの自宅を取り上げる命令をしたのが第3王女様だったからだろう?

 それに騎士団が立て篭もる屋敷から出ようとしてやらかした話も、奴等はこう言うだろうぜ。

 『ミーネ様の御身を第一に考えて行動したまで』ってな」


「でもそれはミーネ様の御意思ではない筈です」


「第3王女様の意思は関係ねぇのよ。

 王の名代として勅命を出したのは第3王女様で、第3王女様がいる所為でこの街が危機に晒された。

 この事実が第3王女様のやらかしって事なんだよ。

 王の名代については断れないかも知れねぇが、騎士団のやらかしは止められた筈だ。

 それを怠った、もしくは騎士団の動向を掴めなかったのは第3王女様の責任だろう?

 その両方の尻拭いをしたのはラクだ。

 最初から良い印象が無いのは当然じゃねぇの?」


 ボコポの言葉にミーネは下を向き、エロイーズも不用意な反論をしたことを後悔した。


 ボコポはこの街の住人として王の不条理な命令や騎士団の行いに純粋に怒っているのだ。

 ただ、ぶつける相手が目の前にいないので内に秘めていたのかもしれない。

 そして酒が入って少し理性の箍が外れたようだ。


「私が言うのもなんですが、ボコポさんもその辺で許してやってください。

 責任ある立場ではありますが、ミーネはまだ幼いのですから。

 それにね、ミーネ。

 そもそもの話、あなたの名前を勝手に使ってやらかしたのはサムソンを始めとした騎士達です。

 そうであるなら、その罪に対する罰を騎士達にはキッチリと与えてやらるのが上にある者の務めです。

 皆が納得する罰を騎士達に与えてやりなさい。

 彼等は街の住民だけではなく、ミーネにも多大な迷惑を掛けたのですから」


 そう諭すようにアルカイックスマイルでミーネに告げると、ミーネは良い(・・)笑顔で頷いた。


「はい!

 とびっきりの罰を与えます!

 騎士団の人達やお父様達にはしっかりと罰を与えます。

 なのでボコポのおじさん、ごめんなさい」


 そう言って元気よく頭を下げるミーネに「あ、あぁ」としか答えられないボコポ。


「良いですよ。その調子です」


 そう言って俺はミーネの頭を撫でる。




「「「・・・」」」




「な、なぁ、なんか、あれ、ヤバくねぇか?

 なんか、第3王女様の笑顔に冷たいものを感じたっつぅか、背後に暗い炎が見えたような気がしたんだが・・・」


 ボコポが引き攣った表情でエロイーズに小声で話し掛ける。


「申し訳ありません。

 私達にもどうにもできなかったんです。

 ミーネ様が正気を保つには必要な犠牲だったんです」


 少々不穏な話を聞いた気がしたがどういうことだ?


 俺はただ、ミーネがこれだけの事をしなければならなくなった原因が誰であるかを親切丁寧に教えていただけなんだが、まぁ、今はいいか。


「さぁさぁ、暗い話はこれ位にして!この宴を楽しみましょう!」


 空気を変える意味を込めてパンパンと手を叩いて音頭をとると乱闘場から声が掛かる。


「チャンピオォォーン!

 今ならお前にも勝てる気がするぜ!

 俺が怖くないなら掛かって来ぉーい!」


 そう叫んだのは乱闘場に立っているセドリックだった。



「やれやれ、レベルアップしたからって勝てるわけないでしょうに・・・」


 よく見ると乱闘場の外には若手と思われるドワーフ達が倒れている。

 何人かは見覚えがあるな、エッポにあれはスコティか、あとは・・・っと、まぁ、ボコポの弟子クラスだろう(やから)を蹴散らしたらしい。


「今の俺は無敵だぁーーー!

 掛かって来いヤァ! 腰抜けぇ!」



 ピクッと蟀谷が引き攣る。


「良いでしょう。

 特別に一対一(サシ)でお相手して差し上げましょう」


 そう言うと俺は乱闘場へと歩いて行く。


「お! やるのか?」


「えぇ」


「よし、レーネの嬢ちゃん!

 チャンピオンが登場だぜ!」


「了解です!」


 返事があったかと思うと、乱闘場の脇の席からでっかい声が響いてくる。


「えー、と」


『紳士淑女のみなさーん!


 今宵、チャンピオンが久しぶりに乱闘場へと帰ってきたぞぉぉぉぉ!


 そして対する挑戦者はセードーリィィィック!

 奴は本日、因縁の宿敵である、なんと!あの!ミノタウロスを打ち破りぃぃぃ!満を持しての登場だぁ!』


 でっかい声の出処を見ると、レーネさんがメガホンを持って、反対の手で乱闘場にいるセドリックを示し、それに応えるように手を上げて威嚇のポーズをとるセドリック。

 メガホンって確か拡声の魔導具だったな。


 そんな感想を抱きながら歩いているとレーネさんの視線がこっちを向いた。


『さぁ、今宵のチャンピオンは何を見せてくれるのかぁぁぁ!

 いやが上にも期待は膨らみます!

 さぁ、今、チャンピオンがぁぁぁぁリングイィィィン!!』


 レーネさん。すっかり嵌っちゃってまぁ・・・


 そんな事を考えながらロープを潜るとセドリックが待ち構える。


「今日は本当。

 チャンピオンには感謝しかねぇが、ここでは棚に上げさせてもらうぜ!

 そして感謝の気持ちを乗せてあんたを叩きのめしてやるぜ!」


「ほぉ・・・

 では楽しませて頂きましょうか」


 そう言ってニヤリと笑ってやる。


『それでは無制限一本勝負!

 レディィィィィィィィッ ファイ!』


 レーネさんのその声を皮切りに乱闘場中央へ向かってお互いが走り込む。


 そしてがっちりと組みつきロックアップの体勢になる。


「さぁ、あなたの実力を試させてもらいますよ?」


 そう言うと両腕に力を籠め、相手を押し込む。


「ぬぅぅぅ!」


 気合を込めてセドリックも押し返そうとするが俺はビクともしない。

 それどころかロープ際まで押し込める。


「中々の筋力ですが、私にはまだまだ及ばないようですね?」


「ぬかせぇぇぇ!」


 俺の挑発に激発するセドリックの力を利用して半歩横にズレて足を引っかけて転がす。


「お足がお留守ですよ?」


「くっそぉぉぉぉ!まだまだぁ!」


 そう言って突っ込んで来るので今度はフィンガーロックで力比べをする。


「ふふふ、まだまだ力が足りませんねぇ?」


 そう言って覆いかぶさるように力を込めて嘲笑する俺。


「こなくそぉぉぉぉっりゃぁ!」


 セドリックは純粋な力比べを諦めたのかブリッジの体勢から一転、自分からマットに背を預けるように倒れ込むと俺の腹を蹴り上げて投げを打つ。


 俺もそれに合わせて自分で前回りをするように飛び、ダメージを軽減する。


 お互い倒れるや否やすぐさま起き上がり距離をとる。


「確かに中々やりますね」


「ふはははは!今日の俺は今までとは違うぜ!」


「それでは楽しませてもらいましょう!」


 そう言って暫く技の応酬が続いた。


 その間レーネさんが実況をし、いつの間にか隣に座ったボコポが技の解説をしていたが、試合をしているのでよく聞こえない。


 そして観客も沸きに沸いていたが、そろそろセドリックが限界のようだ。


 ここらで止めと行こう。


 立っているのがやっとと言った感じのセドリックに目掛けて走り込むと飛び上がり膝で頭を挟む。

 そして体を後方へ捻りバク転の要領で回転するとセドリックの頭をマットに叩き付ける。


 こうしてフランケンシュタイナーを完成させた俺は思わず喝采を浴びるように両手を広げ、『ヘェ~イ!』と言ってしまった。


 一瞬の沈黙にやっちまったと赤面する俺だったが、一拍間を空けて店中に喝采が鳴り響き、ホッと安堵する。


 そして手を上げ観客に軽くアピールして乱闘場を一周する。


 よし、終わった。



 そう思い乱闘場を後にしようとロープを持ち上げる。



「ちょっと待ちなぁ!

 連れねぇなぁチャンピオンよぉぉ!」



 後ろを振り返ると、そこにはいつの間にかヤコボ親方が乱闘場に立っていた。


 いや、両脇に荷物を抱えているような感じで筋肉を強調するフロントラットスプレットポーズで決めなくても良いんじゃない?


 俺の中ではもうスイッチが切れちゃったんですけど?


「いや、あの、俺もう一仕事終えましたよね?」



「いやいやいや、弟子の仇は師匠が取らねば恰好がつかんじゃろうて」


 そう言ってにっかり笑うヤコボ親方。どうやらこのまま終わらせてはくれないようだ。


「それじゃ今度はヤコボ親方とですか?」


「いやいやいや、儂ももう歳じゃて、ハンデ貰わんとのう?」


 そう言ってヤコボ親方が手を上げるとヤコボ親方の弟子達が乱闘場へと上がって来る。


 1、2、3・・・追加で6人か。


「ほぉ、乱戦と言う事ですか」


「おうおう、そうよ。

 7人相手じゃが、チャンピオンは受けてくれるじゃろう?」


 はぁ、ドワーフって乱闘場だと大分人格変わるよなぁ。

 だが、挑まれたなら応えてやろう。


「ふふ、7人で相手になるとは舐められたものです。

 格の違いをお見せしましょう」


「望む所じゃて、ほれお前(おまい)ら、サクッと行ってこい」


「チャンピオンにゃ悪いが俺達も負ける気はないんでなぁ!

 行かせてもらうぜ!」


 一番近くにいたドワーフが突っ込んで来る。

 それに合わせて俺はマットに寝ているセドリックの足首をグっと掴むとタイミングを合わせて振り回す。


 鈍い音と共に突っ込んで来ていたドワーフが吹っ飛んでいく。


『おぉーっと! 突如始まった第2ラウンドォ! チャンピオンお得意の人間凶器で開幕の狼煙は上げられたぁー!』


 レーネさんの実況が再開。


 そして俺は第2ラウンドどころか第5ラウンドまで戦い抜くことになった・・・



 そして気付くと何故かミーネがリングサイドに移動してキラキラした目で俺の方を見ていたような気がするんだが、気のせいだよな?


 と言うかエロイーズ、危ないから止めろや!









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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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