第164話 ミーネの試練終了 そして・・・
あれあから数日が経ち、ミーネの特別ハードコース(肉体的怪物)編(改)が漸く終わりを迎える。
レベルも当初より高めの115まで上げる事が出来たのでミノタウロスもワンパンKOが可能となった。
最後の試験としてミノタウロスと1対1で戦わせた際は涙目になっていたが実際やらせてみると泣きながらワンパンKO。
その後、執拗に滅多打ちにする姿は何かの冗談のように思えたが、肉塊になったミノタウロスが現実を突きつけて来たのは良い思い出だ。
「さて、ミーネ。
これで君への鍛錬は一旦終了だ。
今後は自分自身で続けるか辞めるかは決めなさい。
ただ、人生と言うのは力が無ければ踏み躙られ、抗う事も出来ないと言う事も覚えておいてください。
今回あなたの身に降りかかった様々な困難も本来であればあなたは抗う事が出来ず淘汰されていたでしょう。
私が手助けするのも、この街の人達が手を貸してくれるのも偶然と幸運によるものです。
毎回そのような奇跡は起こりはしません。
そのことを心に刻んでおいてください」
「はい!ありがとうございました」
そう言ってミーネは頭を下げる。
「最後にあなたへ武器を送りましょう」
そう言って俺は2メートルはありそうな一振りの大きな金棒を渡す。
不思議そうな顔をするミーネに説明する。
「あなたの見た目には釣り合わないように見えますが、今の力なら問題なく扱えるでしょう。
本当は刃物の方が良かったかもしれませんが、流石に剣術や槍術を仕込むのは時間的に不可能だったので、これなら握って叩き付けるだけなので汎用性も十分かと思いました。
一度持って振ってみてください」
そう言ってミーネに金棒を振らせてみると、金棒を軽々と持ち上げるだけではなく、軽快に振り回して見せ、本人もしっくり来るようで満面の笑みを浮かべた。
「気に入って貰えたようですね」
「はい、ありがとうございます。
大事に使わせてもらいます」
「どういたしまして」
そう言うと俺は何とも言えない表情になる。
決して本意ではないのだが、実用を考えていたらいつの間にか完成してしまっていたのだ。
撲○天使が・・・
と言う事で、ミーネの鍛錬も終わったので、翌日にも貴族屋敷の穴を塞ぐ事にした。
一応、王命で禁じられていたので、ミーネには王族として貴族屋敷の穴を塞ぐ命令書を書いてもらう。
その上で翌日の早朝、貴族屋敷の前に神殿関係者と職人ギルドや商人ギルド、それとこの街のお役所のお偉方のお歴々に集まって貰い、改めてミーネに命令してもらう。
これくらいの事をすれば多分、穴を塞ぐ大義名分としては問題なくなるだろう。
そんな事を説明し、止めとばかりにミーネにその場で宣誓と命令をして貰いたい旨を伝え、本番に向けて練習してもらう。
「ゴルディ王国国王ミラディン=ファーム=ゴルディランの名において先日発令された勅命について一部撤回致します。
王の名代として派遣された私、ミーネ=フォルマー=ゴルディランが王に代わり現場を視察した結果、この貴族屋敷に開いたダンジョンへ続く穴は非常に危険なものと判断致しました。
もし排出された魔物が一匹でも逃げ出せばこの街の治安だけでなく、ゴルディ王国全体の治安を著しく乱すであろう事は明らかである。
よって、このまま放置することはゴルディ王国の国益を大きく毀損すると判断し、前回の勅命にあった穴を塞ぐ事を禁じると言う勅命を撤廃し、可及的速やかに穴を塞ぐ事を命じます!」
「そうそう、とてもいいですよ。
明日はもっと大きな声で読み上げて頂ければもっと良くなると思います。
それと文章そのものは素人の私が考えたものなので、もしあれならエロイーズでもエリーでもミーネでも良いので直して頂けると助かります」
そう言うと3人は『これで大丈夫です。問題ありません』と言って太鼓判を押してくれた。
うーん。褒めているのに目が泳いでいる。
これはあれか、下手に直すと責任が発生すると思って誤魔化しているのか?
俺は疑心に駆られながらもミーネに確認する。
「今なら計画を取りやめる事も出来るけど、どうする?」
しばしの沈黙が流れる。
「やります」
どれだけ経ったかはわからないが、やがてミーネは決意を込めた視線で静かにそう返事をした。
「わかった。
明日からは一気に事が動くから、今日はゆっくり休んでおくと良い」
俺は何となくミーネの頭をそっと撫でた。
ミーネも最初は驚いたのか目を見開いていたが、不快感はないようでされるがままに、気持ち良さそうにしていた。
この数日で大分打ち解けたのは良いが、距離感が掴めない。
お陰で俺の口調も丁寧語になったり子ども扱いな口調になったりと微妙な感じになってしまう。
誰か幼い王女とか貴賓との無難な話し方とか接し方を教えてくれないかい?
そんなこんながありつつも翌日、俺は漸く穴を塞げると思い意気揚々と貴族屋敷の前に移動する。
ミーネはエロイーズとエリーに護衛役の冒険者パーティ『スピードスウィング』に付き添わせて先に行かせているので既に来ている筈だ。
そんな事を考えているとボコポに声を掛けられる。
「よう、ラク。この街の主要な奴等を集めといたぜ。
これで漸くあの穴を塞げるな!」
ボコポの顔も心なしか明るい笑顔だ。
「えぇ、これで漸く一歩前進って所ですよ。」
それよりもボコポさんはこんなところで油売ってていいんですか?」
「あぁ?」
「ほら、今日の司会進行とかは良いんですか?」
「あぁ、それならバージェスに任せたから、ウェイガン教の連中で進めてるよ。
モニカ達も積極的に参加しようとしていたんだが、お前に対するやらかしが広まった所為で大分立場が悪くなったみたいでな、今回はウェイガン教が主導することになったんだとよ。
お陰でトッチーノがモニカに滅多打ちされたらしい・・・物理的に」
そう言ってボコポは顔をある方向に向けるので釣られてそちらを見ると顔に包帯を巻いた誰か、恐らくトッチーノだろう人物が無言で突っ立っていた。
まぁ、自業自得だとしか言いようがないな。
「罰として回復魔法やポーションで治すのを禁じられたんだとよ。
暫くは法衣を着たミイラ男が街中を徘徊するみたいだぜ」
そう言うと人の悪い笑みを浮かべるのでつい笑ってしまった。
件のミイラ男がこっちを向いたので俺とボコポは慌てて後ろを向いた。
「まぁ、そんな感じで進むんだが、俺としちゃぁどっちが主導でもこの街が安全になりゃそれでいいんだ。
今回の話を衛士長にも話したら奴も内心ホッとしたようでな、こっちの計画にも協力してくれるってよ」
それを聞いて俺も味方が増えたことに嬉しくなるが、見落としが無いようにこの集まりに来た人達を「鑑定」して称号を確認することにした。
今回、非常に厄介な事態ではあるものの、敵味方の判別が比較的容易なのが唯一の救いでもある。
何せ「鑑定」スキルで称号を確認するだけで一目瞭然なのだから。
そのお陰で味方の裏切りやスパイなんかの心配は必要なくなるからだ。
逆に街中や身近にいる敵の炙り出しが容易になって助かっている部分もあるくらい。
おまけに「鑑定」スキルは持っている人が商人・職人になったり、商人や職人が後天的に体得する者が比較的多いとの事で、今回の協力者にもそこそこの人数がいた。
その中でも特に信頼できる人物を厳選して今回の件に協力してもらっているらしい。
そんな事を考えていると後ろの方が騒がしくなる。
そちらを見ると衛兵を前にして見知らぬ人物が声を荒げて騒いでいる。
俺は直ぐにその人物を「鑑定」し、行動を起こす。
「貴様!この俺にこんなことをして許されると思っているのかぁぁぁあがぁ?!」
有無を言わさず頭を殴りつけて昏倒させる。
「あなたを殺しても許されますよ」
「「「なぁ?!」」」
「そこのあなた、この方は例の称号をお持ちだったんですね?」
「は、はい」
その一言で周囲も察したようだ。
「そこの衛兵さん、後はお願いしますね」
「わ、わかりました」
そう言って衛兵は緊張した面持ちで昏倒している男を拘束すると連行して行く。
「流石だな、あいつに暴れられたら結構厄介なことになった筈なんだが、お前ぇにかかりゃ赤子同然だな」
「さっきのは誰なんです?」
「カイラム=スティント 冒険者ギルドの副ギルド長だ。
結構な難物で面倒な人物だったんだが、例の称号が付くって事はさもありなんって事だな」
「ふむふむ、元々が厄介さんだったけど、それなりの権力があるので手を出し難かったってことかな?
それが例の称号持ちってわかったから排除もあっさり行くんで万々歳っと、街が綺麗に掃除されていくようでボコポさん的には嬉しい限りと言う事で合ってます?」
そう言うと嫌そうな顔をしたが返答は無かった。
概ね当たっているって事だろう。
「前の会議の後からはあんな感じで結構な人数が見つかってな、特に商業ギルドは酷かったんだぜ。
カタリナの肝入りで他所から入って来た奴等は全員例の称号持ってたから全員捕らえたんだが、それ以外にもカタリナの言いなりだった連中もほとんどがもっててな、その序に帳簿なんかも調べたら次々と不正の証拠が出るは出るは、あれよあれよと言う間に豚箱行きよ。
その際、奴等も抵抗してきたんだがな、衛兵に混じってヤコボ親方達なんかも出張って来ててな、親方はゲルドの件もあったから嬉々として暴れ回ってな、抵抗した奴等はみんなボロボロになってて痛快だったぜ!」
語りながら思い出したのかボコポは良い笑顔で話してくれた。
そんな感じで近況報告と情報交換をしていると開始時間になったようでミーネが登場し、演説が始まる。
バージェスの前口上から始まり、本日の趣旨が伝えられ、次いでミーネがダンジョンの穴を塞ぐ命令を出すと集まった街の人々の顔は笑顔になる。
が、次いで本当に穴を塞げるのかと言う疑問が駆け巡った。
それもその筈で街中では攻略を行った冒険者の失敗や、騎士団の敗走等、明るい情報が何一つなかったからだ。
それについてもバージェスが懇切丁寧に説明し、今までとは違い、これまで悪魔のダンジョン攻略を数限りなく行って来た実績のあるウェイガン教とキュルケ教が主体となって街に損害が出ないように穴を塞ぐという方針をやんわりと伝えることで納得してもらう事に成功した。
この話術には幾度となく説法を続けて来たであろう実績に裏打ちされた老練さが滲み出ており、伊達に一組織の長をしているわけではないと感心した。
と、まぁ、そんな感じで問題なくミーネの演説と勅命の発令が恙なく終わり、これで晴れてダンジョンの穴を塞ぐ事が出来るようになった。
これで長らく俺を悩ませていた問題が解決する。
そう思い、俺は喜色を浮かべ、アップを始めた。