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第159話 ミーネの試練 ⑥

 ボコポの工房に集まった面々は皆一様に机に突っ伏していた。


 いや、一部を除いては、と言うべきか。


「流石はキュルケ様とウェイガン様だ!ようやく愚か者共に天罰を下された!」


「えぇ、全くです。

 これまで我らが神々の慈悲深き御心に付け込んで愚行を積み重ねてきた者共にようやく鉄槌が下されたのです。

 この国も正されるでしょう」


 満面の笑顔でそう言ってのける者達もいた。


 キュルケ神殿の神殿長のモニカとウェイガン教の神殿長補佐のパリス=ジェンスキーである。


「君達、今、どういう状況かわかっていての発言なのかね?」


「あぁ、わかっているに決まっているじゃないか!

 神に弓引く者共へ鉄槌を下す大義名分を我らの神々が我々に与えて下さったのだ!

 神敵必滅の理により背信者を、人類の敵を捕らえ!処刑するに決まっている!」


 そう力強く息巻くモニカに声を掛けたトッチーノは頭を抱える。


「モニカ神殿長!その通りです!」


「あー、パリス君。君、少し黙ってようか」


「何故です?!」


「話が進まないから。

 モニカは単純だから仕方ないけど、君はわかっててモニカに乗っかってるでしょ?」


「・・・」


 ウェイガン教神殿長のバージェス=オラクルも溜息を吐きつつ疲れた顔で指摘するとパリスも図星だったのか黙り込む。


 楽太郎がウェイガンに連絡を取り協力を仰いだ結果、神殿関係者は有無を言わさず即座に集められていた。

 因みに楽太郎から先に今回の件について其々の聖女に神託を下すようお願いして実行して貰った為、召集前にウェイガン達がやった事については伝達済みとなっている。



 そして俺が改めてウェイガンから聞き取りをしたことによってある程度の状況が掴めた楽太郎はこの国のキッツい状況にもはや乾いた笑いが出る心境であった。


「えー、まぁ、取り敢えず、先程説明しましたように現在のゴルディ王国の王家で国王、王妃、王子二人は『背信者』と『人類の敵』の称号が付いており、既に終わっています。

 ミーネを除いた王女二人につきましては『背信者』は付いていますが、まだ『人類の敵』認定はされておりません。

 なので王女二人についてはまだ何とかなる可能性はあるようですが、私は関知しませんので皆さんにお任せします。

 あと、この国の貴族の半数程とこの国に駐在しているジルキル帝国の貴族全員、それと同じくこの国に駐在しているミルス共和国の一部議員が終わっています。

 最後に、

 この国を何とか存続させるのであれば、唯一負の称号を与えられていないミーネを擁立するしかないと私は思うのですが、皆さんはどう思いますか?」


 そう問いかける楽太郎の言葉に即座に返す声は無く、何人かは頽れるように机に突っ伏したりと、しばしの沈黙が流れた。


「すまない楽太郎君。

 そのぉ、少し情報を集めて整理してから対応をしたいと思うのだが、どうだろう?」


 重苦しい沈黙を破るのを申し訳なさそうに声を上げたのはトッチーノだった。


「はぁ、私は別に構いませんが、これだけは言っておきますね。

 時間が経てば経つ程この国は間違いなく亡びに向かい、あなた達の今後も暗いものになるでしょう。

 勿論、そんな結論に達した時点で私も私の従業員達もこの国から即座に離れるでしょうがね」


「な、何故?」


 驚いた顔でトッチーノが聞いてくるが、なんでわかんないんだろう。


「先程バージェスさんがパリスさんを窘められていましたが、何故窘められたのか、私には理解できませんでした」


「どういう意味かね?」


 指摘されたバージェスは不服そうな声を上げる。


「奇しくもモニカさんとパリスさんが仰っていた通りではありませんか。

 300年もの間、裏切られてきた神々が、それでもこの国の人々を信じようとした神々に、後ろ足で砂を掛けるようなことをした者達にでさえ慈悲を与え、直接的な神罰ではなく称号の付与と言う極めて軽い処罰で収めた。

 つまり裏切り続けた人々をそれでも信じてみようと、この世界の人々の自浄作用に期待したと言うのに、あなた方も神の意を違えようとしている。

 いや、寧ろ神の意を実行しようとしたモニカさんやパリスさんを押し止めることで神の意に逆らっている。

 私にはそう見えましたが?」


 私の意見にバージェスだけではなく、モニカとパリスを除いた神殿関係者は皆眼を剥いて驚いている。


「そもそも、神々が直接手を下す神罰をどういうものだと思っているんですか?」


 そう尋ねると神殿関係者の一人が手を上げ、発言する。


「1000年程前に神罰が下されたと言う記録はありますが、何分、1000年も前の記録で滅ぼされた国の名前を残すことも憚られたようで詳しくは残されていません」


「そうですか、では私が知っている神罰の例を幾つか挙げましょうか。


 一つは善き人である数人の人々と一対の動物達を箱舟に乗せて大洪水を引き起こしました。

 その大洪水は40日間続き、水は150日もの長きにわたり地上で勢いを失うことはなかったそうです。

 こうして箱舟に乗った人々や動物達以外は一度全て亡んでしまいました。

 その際、人々の代表だった人にその神は二度と大洪水を起こさない事を誓いました。


 もう一つはとある街がありました。

 そこは悪徳の都と呼ばれ、その住民は皆信仰を忘れ、私欲に走り、道徳を投げ捨て背徳に満ちた生活を送っていました。

 神はその行いを嘆き、街を滅ぼそうとします。

 ただ、そんな悪徳の都の中でも信仰を忘れず、道徳に則った生活を営む善なる家族がいました。

 神はその悪徳の街に神罰を下すことを決めましたが、その善なる家族は救おうと神罰を行う使いをその都に遣わし、彼等に街の外へ逃げるように伝えます。

 ただ、その際、遣いの者は一つだけ『何が起きようとも、後ろを振り向くな』と言う警告を善なる家族にしました。

 こうして善なる者達は街を離れるのですが、一つの過ちが起きます。

 善なる者達を逃がした遣いが街を火柱で滅ぼそうとした時、善なる者の妻が振り返ってしまったのです。

 そして神の警告を無視した妻は塩の柱へと変えられてしまいました。

 大分内容を端折っていますが、私が知っている神罰としては概ねこんな感じで圧倒的な力で広範囲を滅ぼしてしまいます」


 私が話し終えると息を呑む音があちこちから上がりました。


 まぁ、こっちの世界の神罰ではないんだけど、その力の矛先が自分達に向けられていると言う状況に漸く自分の尻に火が付いていると気が付いたようだ。


 現実を知ってもらうと言う意味では十分な威力があったようで、誰も声を上げられない。



「さて、神が直接神罰を下すと言う事は一握りの善人以外を全て浄化してしまいます。

 神ではなく神の遣いが行った神罰ですら、街一つを一瞬で焼き尽くす規模です。

 そして救うべき善人であっても神の警告に従わなかった者には神罰が適用されます。

 そこには『うっかり』とか、『つい』なんて言う言い訳が通用するような余地はないのです。

 基本、神々は慈悲深い。非常に慈悲深いでしょう。

 しかし、その慈悲に胡坐をかき神の逆鱗に触れれば歴史に残すことも憚られるような存在へと落とされ、死後も無限の苦しみに喘ぐ事になるでしょう。

 私は今回の称号付与はこの国の住人に対しての警告と私は捉えています。

 神々から負の称号を与えることで悪人を可視化されたのです。

 神々から討つべき、滅ぼすべき存在を明示されたのに特権階級だからと尻込みした場合、神々はどう思うでしょう?

 皆さんも、想像できるでしょう?」




 私の言葉に殆どの者が顔を青くして固まっているが、その中でモニカとパリスはドヤ顔で胸を張っている。


「ふふふ、私は忠実なるキュルケ様の信徒! モニカである!

 正義は我にあり! 悪人を捕らえ処刑するのだー!」


「その通りです。そして私こそがウェイガン様の忠実なる信徒!パリス=ジェンスキーである!

 バージェス様! 神の意に反する行いはお控えください!」


 唐突に始まった勝ち名乗りに、パリスを諫めてしまったバージェスは更に顔を青くする。


 うーん。同じ宗教家であっても一枚岩ではないってことだぁね。

 モニカはトッチーノをこれ見よがしに見下し、パリスはバージェスを煽る。


 まぁ、そんな事はどうでもいいんだけど。


 俺は話が進まなくなりそうだったので両手をパンパンっと叩いて注目を集める。


「はいはい、脱線はそこまで!

 内輪揉めは其々の拠点に戻ってからにしてください」


 私の言葉に場が静まる。


「はぁ、私も政治や情勢等には明るくないのですが、今のこの国が亡びかけていると言う事はわかりますか?」


 そう言うと皆が頷く。


「では、具体的にどう言った脅威があるかわかりますか?」


 そう言うとトッチーノが手を上げる。


「どうぞ」


「あぁ、すまない。

 まず、この街の悪魔のダンジョンについて、貴族達の考えを大まかに分けると3つの派閥に別れているのだよ。

 1つ目は悪魔のダンジョン攻略中止派で、王侯貴族の4割程がこの派閥に属している。

 2つ目は悪魔のダンジョン攻略推進派で、この街の領主も所属しているんだが、王侯貴族の3割程だ。

 3つ目は悪魔のダンジョン攻略に興味のない中立派で、王侯貴族の残り3割が静観していると言った状況だ。

 先程の楽太郎君の情報から半数の貴族が負の称号を与えられたことを鑑みると、恐らく中立派の貴族で中止派に傾いていた貴族達にも与えられたと考えられるね。


 これらを鑑みると、攻略中止派と負の称号を与えられた中立派がどう動くかわからない。

 これが一番の不安要素であり、不確定要素でもある。

 時間を空ければこの国からの逃亡を図るかもしれないし、負の称号を与えられたことを誤魔化したり、隠したりもするだろう。

 そうなると神敵の討滅が難しくなるね。

 なるほど、そうなる前に始末をつけないといけない。

 だが、我々だけでは力が足りない。

 そうなると推進派や他の中立派も味方に引き入れなければ・・・

 そうか、だから時間が無いのか・・・」


 トッチーノは話しながら思考を纏めているようだが、彼の意見は微妙だ。

 それにも関わらず他の参加者は頻りに頷いている。


「トッチーノさん。少し聞きたいのですが、この国と戦争しそうな周辺国ってあります?

 もしくはあまり関係が良くない国とかってありますか?」


 その質問に一瞬キョトンとした表情を浮かべるが、トッチーノは素直に答えた。


「あ、あぁ、あるねぇ。

 ジルキル帝国は山脈を挟んで反対側にある国なんだが、あそこは何かといちゃもんを付けて攻めようとして来るんで小競り合いが絶えないし、ミルス共和国は商売関係で色々と揉め易い国だね」


 そう言うとトッチーノは机の上にある紙に大まかな地図を描いた。


 ゴルディ王国の西側にジルキル帝国があり、南西にスキーム王国、南に神聖王国サスティリア、そして東にミルス共和国が存在する。


 俺はその大雑把な地図を見て改めて思う、


 やっぱりこの国ヤバい。

 と言うか、こんな話をしているのに気付かないのかな?


「えー、皆さん。国内の事しか考えていないようですが、それ以外にもっと大きな脅威があります」


 俺の指摘に首を傾げる面々。


「えー、この国の王族はミーネを除いて全員『背信者』が付いています。王女二人を除いては『人類の敵』まで付いています」


 ここで言葉を区切ると、沈黙に耐えかねたのかバージェスが声を発する。


「それはわかっています。

 だから私達はそれを何とかしようと今話し合っているのでしょう?

 その他にどんな脅威があると言うのです?」


 その言葉に俺は少し呆れた表情になって返す。


「まだわかりませんか?

 ゴルディ王国の国王が『背信者』で『人類の敵』認定されたことが他の国に知られたら、この国が終わるんですよ?

 何故かって?

 ゴルディ王国の国王が人類に対する諸悪の根源だって神の太鼓判を押されているんです。

 これって最高の大義名分になりますよね?

 先程トッチーノさんが挙げたジルキル帝国やミルス共和国にとっては喉から手が出る程の大義名分でしょう。

 それに南の神聖王国サスティリアは宗教国家です。

 神敵必滅とばかりに攻め込んでくるかもしれませんね」


 まぁ、神聖王国サスティリアは他所にチョッカイ掛けれるだけの余力はないだろうけど、その事はあえて伝えない。


 そして俺の言葉に只でさえ青かった一同の顔が青を通り越して白くなっていく。

 それでも俺の言葉は止まらない。

 煽るように、蔑む様に言葉を紡ぐ。


「その場合、大義名分を掲げ、ゴルディ王国に攻め込んでゴルディ王国の住民を虐殺しても、『神に背き人類を滅ぼしかねない敵と認定された者を国の代表に頂く頭のおかしな国の住民なんぞ死んで当然』と言われても反論できませんよね?


 寧ろゴルディ王国が侵略に対抗しようとしても、『抵抗すると言う事はやはり人類の敵である』と言われる訳ですよ。

 何をどうしようが人類の敵認定された国王が君臨する限り、この国はいつどの国に滅ぼされても文句が言えない。

 寧ろ占領された後の住民の扱いなんてもっとひどい扱いでしょうね。

 奴隷落ちは勿論の事、下手をすれば遊び半分で処刑されても全く問題視されないまでありますよ。

 まぁ、後は筆舌に尽くし難い行いも平然と行われる事でしょう」


「い、幾ら何でもそれは言葉が過ぎるぞ!

 何もしていない者達を奴隷にしたり虐殺や処刑することは許されない行為だ!」


 そんな感情的な反論をしたのは・・・誰だっけ?

 座っている位置はパリスの隣だから神殿関係者か?

 うーん、あ、確か・・・ビーンだっけ?

 そんな事を考えながらも反論する。


「何もしていないから問題なんですよ。

 何もしていないと言う事は、神から明確に悪と断じられた王に(おもね)り、悪に屈して何もせず、それどころか己が上位者として悪を頂き続け、悪に抵抗しなかった愚かで怠惰な邪悪な人間って事なんですから、()を滅ぼし、正義を行った者達に悪として断じられても文句なんて言えないでしょう?

 信賞必罰は世の常なんですから」


 俺の反論に誰も声を上げられなかった。


 そんな中、私はとどめの一言を放つ。


「先に私は言いましたよね?

 『時間が経てば経つ程この国は間違いなく亡びに向かい、あなた達の今後も暗いものになるでしょう。

 勿論、そんな結論に達した時点で私も私の従業員達もこの国から即座に離れるでしょうがね』と・・・

 どうです?

 漸く自分達の状況が理解できましたか?

 ボコポさん、あなたにも最初から提案してましたよね?

 『私が思い付く限り、この国を立て直す方法は一つしかないと思います。第3王女ミーネによるクーデターを成功させることです』と、悠長に貴族の派閥排除なんかするよりも、まずは国の頭をすげ替えるのが先なんですよ!

 貴族の排除はミーネが王になった後に行えばいい事です。

 それが出来ないのであれば、この国は亡びます。

 ここまで説明した上で、私が大虐殺の現場となるこの国に留まる理由なんてあります?」


 一頻り捲し立てると、俺は参加者の顔を見回すが、目を合わせる者は居なかった。


 私は溜息を吐き、続ける。


「まぁ、今言った事は私の考えであって、その通りになるとは限りません。

 他にも何か気付いた事や、脅威になりそうなことがあれば意見してください。

 繰り返しますが、私はこの国の住民ではありません。

 旅人です。

 それを念頭に入れてよく考えて発言してください。

 トッチーノさん、後の進行はお任せしますよ」


「あ、あぁ」


 曖昧な返事をするトッチーノを尻目に言うべきことを言い切った俺は椅子に深く座り込む。


 周りの雰囲気は最悪と言って良いだろう。

 誰もが項垂れたように頭を垂れている。


 そんな中、モニカが助けを求めるようにこちらを見詰め、声を上げる。


「な、なぁ、ラクタローは助けてくれないのか?」


「助ける理由がありますか?

 今まであなた方が私にした仕打ちを良く考えた上で発言してください」


「うぅ・・・」


 俺の発言にキュルケ教の面々は更に気不味そうに身動ぎする。


「何かおありで?」


 そう言ったのは奴隷商のマルコム=スタンリーだ。

 彼もこの街を代表する商人として参加していたが、まさかこんな大問題に引き摺り込まれるとは思っていなかった、今回唯一と言って良い程の被害者である。


「あー、そうですねぇ、

 キュルケ教の面々にはこの街に来てからと言うもの、色々と迷惑を掛けられ続けているんですよ」


 面倒臭いと言う内心を隠すことなく告げると、マルコムは更に困惑した表情になる。


「はぁ、説明しても?」


 そう言ってトッチーノに視線を送ると、自分達の失態を詳らかにされる事に難色を示そうとするが出来ず、諦めたように首肯する。


 そして議題とは全く関係ないが、キュルケ教が俺に対して行った無礼の数々が事細かく説明されて行く。


 そして話が進むにつれ、参加者がキュルケ教関係者に向ける視線が厳しくなっていく。


 その中でもウェイガン教の面々の視線は特に厳しかった。


「とまぁ、そんな感じで彼らはキュルケ教の信徒を名乗っていますが、己が主神の意を酌むこともしなかった似非信徒。もしくは愚か者の集団と言うのが私の見解でして、まぁ、そんな感じなのでこの街の宗教関係者とは関わりたくないんですよね」


 キュルケ教関係者だけでなくウェイガン教関係者にも嫌そうな視線を送っておいた。


 ウェイガン教の面々も不満はあるだろうが、キュルケ教のやらかしが酷い為、表立って抗議はせず、ただキュルケ教の面々を睨んでいた。


 ウェイガン教としても、それ以外の者にとっても有用な戦力となり得る者の協力を仰げなくなった元凶には腹も立つだろう。


「話が大分逸れましたね。

 それよりも本題について話し合ってください」


 横道に逸れた話を本題に戻した俺は話し合いを促した。











 そうして粛々と話し合いは進み、一つの結論に辿り着く。


 そして厳かな声でバージェスが語り掛ける。


「と言う事であなた様には大変な重荷を押し付ける事になり、恐縮ではありますが、これも神々からの試練と捉え、何卒、何卒我らの旗頭としてお立ち下さいませ。ミーネ様」


 そう言うとバージェスはミーネに対して恭しく頭を垂れる。


「え?なに?」


 困惑するミーネは不安な顔になり、俺の方を見て来る。


「あー、端的に言うとだな。

 このバージェスさんは、この国を救うためにお前の親兄弟を殺して王になってくれってミーネにお願いしてるんだ。

 そしてそれが出来ないのならお前はこの国を道連れに親兄弟共々死に果るしかないって言っている。

 酷い選択肢しかないが、お前はこのどちらかの道を選ぶことしかできない。さぁ、どうする?って言ってるんだ」


 親兄弟を殺せって、本当に酷い言葉だ。


 ミーネを気の毒には思うが、この国を救うには最善の方法ではある。


 かみ砕いた言葉でわかり易く伝えると、ミーネは次第に理解出来て来たのか目は驚きに見開かれ身体はぶるぶると震えだす。


 そして、ボコポの工房に幼女の純粋な魂の叫びが迸った。































 うん。


 ない。


 流石にない。


 流石にこれはない。


 改めて考える必要もない。


 と言うか、なんで考えなかったんだろう。


 問題の解決にだけ目が行ってしまっていた。


 年端も行かない幼女に親を殺せ。兄弟を殺せって、どう考えても最悪じゃねぇか。

 いい大人が寄って集ってそんなことを幼女にさせようと言い募る。

 そんな、そんな世界って、何よ?終わってんじゃんね?

 って言うか、どんなデストピアなんじゃぁぁぁぁ!


 こんなん俺の心が死ぬんだが?


 ぬぅ・・・、でも、他に方法が思い付かん。


 いあ、そもそもこの方法自体がありえん。


 こんなことならイキリ散らしたり煽り散らすんじゃなかった。


 ミーネの絶叫でようやく我に返るとは情けない。


 子供を虐めてどうする。


 耳目に入るミーネの絶叫と泣きじゃくる姿に罪悪感が半端ない。


 これまで俺は関係ないね!ムーブをかましていたが、俺はこの糞みたいな救済案の発案者であることに間違いはない、つまり今ミーネを追い詰めているのは俺とも言える。

 そこに思い至ると、俺の視界に入るミーネの姿に胃がキュルルルルッと全力で締め付けられ、その痛みに顔を歪める。


 そして、俺は急激な胃の痛みに耐えかねて声を上げる。


「なし! この作戦はなし! 人としてダメ! ダメ過ぎる!」


「な?! 今更何を?!」


 トッチーノが声を上げるが、そんなの関係ない!

 俺の胃が!心が!悲鳴を上げているんだ!


「こんな幼女に親殺し、兄弟殺しを押し付ける事が正義であると言えますか?

 道徳に反しないとでもいうのですか?」


「あなたがそれを言うのですか!

 あなたが発案者でしょう!

 この修羅の道を歩めと言ったのは、あなたでしょうが!」


 バージェスはそう強く俺を非難する。

 それでも俺は叫び返す。


「発案者だからですよ!

 やっぱり駄目だ!駄目駄目!」


「しかし、我々には他に方法がない!」


 苦悩に満ちた顔でトッチーノが叫ぶ。

 何かないかと辺りを見回すが、モニカやパリスはオロオロと見守るだけで役に立たない。

 リディアーヌとノインは置物のように下を向いて固まっている。

 そしてボコポも苦虫を噛み潰したような表情で怒りを咬み殺しているが、何も動けない。

 ヤコボ親方は目を閉じて静観の姿勢。

 そしてマルコムは胃を擦って苦悶の表情を浮かべている。あ、仲間だ。

 一瞬ストレスに弱い仲間を見付けてほっこりしかけるが思い止まり歯を食いしばる。


「くぅ・・・」


 何か、何か方法はないのか。

 俺は憤る内心を必死で抑えながら何か方法は無いかと必死で知恵を絞る。


 今回の問題はこの国のトップであるミーネの家族が罪人であることだ。


 普通は罪を犯した者は警察に捕まるよな。

 それで裁判云々あって罪の大小によって判決が出るが、ミーネの家族は既に大罪人であることが確定している。

 罪が確定すれば罪人は刑務所行きだ。死刑囚であっても刑務所に収容され刑が執行されるまでは収容される。

 つまりミーネの家族は死刑であっても刑務所行きになる。


 じゃぁ、刑務所では何をする?

 受刑者は刑務作業をする。


 刑務所内であっても社会貢献することで更生を目指す。

 つまり、刑務所は更生施設でもある・・・はず。


 更生・・・そうか、ある。あるぞ。



「あ、あります。

 他の方法が、処刑しなくても良い方法があります!

 ただ、死ぬ可能性はありますが、処刑するよりは大分マシな方法です」



「・・・その方法とは?」



 バージェスの問いに俺は思い付いたことをたどたどしくはあるが説明し、何とか大虐殺(ジェノサイド)待ったなし!から少しマイルドにした作戦へと変更することに成功した。


 変更になったマイルド作戦に一同は少なからず安堵の表情を浮かべていた。

 誰しも好き好んで大虐殺はしたくないし、幼女に家族殺しの十字架を背負わせたくはないと言う事だ。

 その事に俺は少しだけ嬉しさを感じた。


 因みにマイルドになった作戦でも変更できない事はある。


 ミーネが玉座に着くと言う事に変更はなかった。

 と言うか、変更することがどうしても出来なかったのだ。







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ナニかがいる。
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