第158話 ミーネの試練 ⑤ 裏-4
「私が思い付く限り、この国を立て直す方法は一つしかないと思います」
「・・・」
「第3王女ミーネによるクーデターを成功させることです」
「・・・」
「私が思い付く限り、この国を立て直す方法は一つしかないと思います」
「・・・」
「第3王女ミーネによるクーデターを成功させることです」
「いや、繰り返さなくていいから、お前の言葉は届いてるから、少しだけでいいから俺の心を落ち着かせる為に黙っててくれねぇ?」
「そうですか」
「おう、頼むわ・・・」
・・・・・・・・・
静寂が辺りを支配し、ボコポが固まっている中、俺も自身の中で何が起こっているのかを整理する。
そしてボコポのお弟子さん達が出勤し、少しずつ声が漏れ聞こえて来た頃、俺はかなり落ち着くことができた。
その上で1つの結論に達した。
『俺には関係ないじゃないか』と言う結論に。
俺は愚痴っただけだし、それを聞いて勝手に実行したのはウェイガン達だ。
それで国が亡ぶなら亡んでも俺の所為ではない。
そもそもの話、神との誓約を守らない者達が悪いのだ。
それどころか神々への制約を破らせようと率先して動けば、神々の不興を買うのは自明の理である。
この国の王侯貴族はそんな当たり前のことを弁えなかったのだから、当然の結果と言えるだろう。
そこに対して、俺に責任があると言うのか?いや、ない。断じてない!
つまりこの国は亡ぶべくして亡びの道を歩んでいるのだ。
それについては誤魔化しようのない事実だろう。
そして、そもそもの話、神々が下した処罰を俺の所為にされては困る。
それでも何か言われるなら俺はこの国から出れば良いだけだし、そう考えると背負ってしまったと思っていたモノが実は何もなかったと言うことに気付き、急激に心が静まって行った。
そんな心境に達した頃、漸くボコポが再起動した。
「ラク、少し待っててくれ」
そう言ってボコポが部屋を出て行くと、お弟子さんの驚く声が聞こえたかと思うと、再び静かになりボコポが戻って来た。
「悪いな、弟子達には今日は休みを取らせた。
腹も括った。
お前の考えを話してくれ」
「わかりました。
では、お話しますね」
「お、おう」
と言う事で大まかな流れを話した。
結果、ボコポが撃沈した。
「第3王女が、ミーネ王女が、気の毒過ぎる。
無理じゃねぇか?流石に第3王女がもたねぇって、まだ10歳なんだぞ?」
「無理・無茶・無謀はわかってます。が!それなら代案を出してください。
他に方法があればこんな方法は放棄しますし、私としては別に私の案を実行しなくても問題ないので好きにしてください」
「なんでだよ!」
「私としてはこの国は旅をする上で偶々通り掛かっただけの国ですから、よくよく考えたらこの国を救わなきゃいけない理由ってないんですよね。
冷静に考えたら、別に私には関係ないかな? と思いまして・・・
なので私の案を採用して実行するもよし、実行しないもよしって事で、後はボコポさん次第かな?という結論に達しました」
そう、ボコポが盛大に悩んでいる間に俺は大分冷静になれてしまったのだ。
結果、別に関わらなきゃいいんじゃね? とか、この国にどうしても拠点持たなきゃいけない訳でもないしー。とか、貴族屋敷とか色々諦めれば何も問題ない事に思い至った。
と言うか、この国の王族や貴族に対して恨みがある俺としては国が亡べばむしろ『ざまぁ!』まであるな。とか思えてきたのだ。
思考が180度クルリと入れ替わってしまったが、そんな思考に思い至った次第です。
まぁ、現実逃避と言われればその通りかもしれないけどね。
「な?! くっ、おまッ?! あぁぁぁぁぁぁー!」
あ、ボコポが発狂しかけてる。
起きた出来事を冷静に整理して自己保身できた俺とは違ってボコポは真面に受け止めてしまったようだ。
彼の中では1人じゃないと思ったら、俺が『関係ないね』って言っちゃったから孤立して耐えられなくなったのかな・・・
少しフォローしないと立ち直れないかな?
そう思い俺はボコポに言葉を掛ける。
「まぁまぁ、落ち着いて下さい。
確かに切欠はボコポさんの言葉だったかもしれませんが、神々は遍く下界をご照覧遊ばされる存在なんですから、偶々ボコポさんの言葉に目を向けられただけです。
ボコポさんにはどうすることもできない事態だったんです。
そもそもの話、神々を軽んじたこの国の特権階級の自業自得なんですよ。
決してボコポさんの所為ではありません」
「お、お前ぇぇぇ!何サラッと俺だけの所為にしてんだよ!
そもそもがラク!手前ぇが称号云々言い始めたんじゃねぇか!」
そう言って掴み掛かろうとするボコポ氏を宥め賺してなんとか話を続ける。
「そんなこと言っていると話が進まないじゃないですか。
今こうしている時もこの国の特権階級は破滅の道を突き進んでいるんですよ?
それよりもこの先どうするんです?
私としては当初の目的通りミーネを使って貴族屋敷の穴を塞いで悪魔のダンジョン攻略に専念できればこの国が亡んだとしても別に気にしないでいられる心境に達しているんですが、ボコポさんはどうしたいんですか?」
俺の返しにボコポは一瞬固まるが、暫くすると意を決したように答えを返してきた。
「俺としては流石に祖国に亡んでもらっちゃ困るんだよ。
第3王女様にゃ悪いとは思うが、ラクが言った方法でなんとかしてぇ」
「では、まずはウェイガンさん達を巻き込みますか。
それとミーネにはもう少し深い教育が必要ですね。
あぁ、そうそう、ボコポさん、出来れば今日中に教会関係者を集めて話し合いの場を設けてくださいませんか?
場所は神殿以外でお願いします。なんならボコポさんの工房でも良いですよ?」
「あぁ?!
そんならお前ぇんところでいいだろ?」
「絶対嫌です!
あんな奴等を家に入れるなんてありえない!」
「はぁ、わかった。なら会場はここって事にしてやるよ」
そう言うと今後の方針を手短に話し合い、お互いに忙しなく動き出した。




