第157話 ミーネの試練 ⑤ 裏-3
再考することをやめました。
その所為か正月早々書き続ける事が出来ています。
起床時にウェイガンの襲撃を受けた俺は奴の爆弾発言に一人で耐え切るのは難しいと判断した俺は胃の辺りを擦りながらそそくさとボコポの工房へと向かった。
早朝の為か、殆ど通りに人はおらず、閑散とした街並みを眺めていると少々肌寒さを感じ、多少頭が冷えて来たが、胃の痛みは幻痛ではないようだ。
そんな益体もない事を考えながらもボコポの工房へと足を進め、到着と同時に工房の扉をやや乱暴に叩くと、幸いなことにボコポは起きていたようで直に声が返って来る。
「誰でぇ!こんな早朝に来る奴は!」
半分怒鳴りながらも扉を開けるボコポに笑顔で挨拶をすると取り敢えず中に入れてもらう。
「こんな朝早くにどうした?」
怪訝そうな表情で当ボコポに俺はその言葉を待ってました!とばかりに笑顔で説明を始めた。
「マジかよ・・・」
ボコポはその一言だけを発すると頭を抱えて下を向いて蹲ってしまった。
「ふふふ、やっぱりそうなりますよね?」
「ラク!お前ぇが!お前ぇが! あぁー!なんでこうなんでぇ~!」
「いやいやいや、流石に私の所為じゃないですよね?
誰が悪いって言えば私達の与太話を盗み聞きしてたウェイガンさんですよね?
もしくは与太話やもしもの仮定を話して愚痴っていた私達ですよね?
ウェイガンさんはボコポさんの意見を大分取り入れているようでしたよ?」
「うぐぅ?! うあぁぁぁぁー」
私だけに責任を取らせようなんてさせないよ?
しかし、他の人が取り乱す姿を見ると、なんだか落ち着くし、心成し胃痛が和らぐのなんでだろう。あぁ、安らぐ。
こうしてボコポが半狂乱になって取り乱す姿を暫く眺めた後、仕切り直しをする。
「それでボコポさん。相談があるんですけど、良いですかね?」
「嫌だ!」
即座に拒絶するボコポに俺は生暖かい視線を向けて無言で眺める。
・・・
「嫌だが、聞くしかねぇんだろ? 話せや」
ムスッとしていたボコポだったが、観念したように息を吐くと、聞く姿勢をとる。
「では、ですね。
まず、既にウェイガンさんがやらかした事についての対処ですが、まず2択です。
1つは、ウェイガンさんを巻き込んで事態の収拾に動きますか?
もう1つはウェイガンさん達神の力を借りずに事態の収拾に動きますか?
どちらにします?」
俺は簡単な二択を迫った。
「うん?んー、どういう事だ? 何が違う?」
「えーっと、前者の方ですと最初からウェイガンさん達を巻き込むので神の力を借りられるかもしれませんが、神の都合にも合わせる必要があるので、ボコポさんが願うウェルズの救済だけでは済まない可能性が高いです。
それで、後者の方ですと、神の力を借りられませんが、神の都合に合わせる必要もないのでボコポさんの願うウェルズの救済だけで済む可能性が高いんじゃないかと思います・・・」
俺は少々歯切れ悪く説明する。
「うん?なら軽々に神々のお力にお縋りするもんじゃねぇだろ?
それなら後者の方法でウェルズを救えれば良いんじゃねぇのか?」
そう言って俺の顔色を窺うようにこちらに視線を向けるボコポ。
「では、後者の方法で良いですか?」
「うん?なんで俺に確認してんだ?
ん? あ!
お前ぇ!俺に決めさせようとしてんな?」
「なッ?!
そんな事ないですよ?」
図星を突かれて思わず目が泳いでしまった俺は悪くないと思う。
「じゃぁ、お前ぇならどうするんだ?」
「えぇ?わ、私ですか?」
「あぁ、ラクならどうする?」
「私なら速攻でこの国から出て逃げますね」
「はぁ?!」
俺の回答にボコポは目を真ん丸にして驚く。
「なんで逃げるんだ?」
「いや、だって、そのぉ、面倒くさい、じゃ、ないですか」
俺の歯切れの悪い言葉にボコポの目が次第に窄まる。
「何が面倒で逃げるんだ?」
「・・・もうこの国、終わっちゃったじゃないですか?」
「どういうことだ?」
「さっき説明しましたよね?
この国の貴族どころか国王に『背信者』と『人類の敵』って言う最悪の称号が付いているって」
「うん?だから?」
「だーかーらー、他国からしたらこれ以上ない大義名分が出来ちゃってんじゃないですか!
ウェイガンさんの言葉だと王命にハイハイ答えたり長いものに巻かれた貴族達には軒並み同じかそれ以上に不味い称号付与されて吊るし首待ったなしの最悪の状況になっちゃってんでしょ? 私の勝手な想像ですが、恐らく王侯貴族の大半はそんな状況で、他国からすれば国そのものがもはや人類の敵と言える状況なんですよ?
余力があって侵略する意志がある国なら即座に飛び付くし、その侵略行為に敵対するってことは、もれなく人類の敵認定されるって言う事でしょ?だって侵略行為ではあるけど、人類の敵から人類の生存権を奪い返すって言う大義の元での侵略行為なんだから・・・」
俺の説明にまだよくわかっていない感じになっているボコポ。
「あー、つまり神に『人類の敵』認定されたゴルディ王国の国王討つべし!という理由で他国が宣戦布告をした場合、その侵略行為に対してゴルディ王国国王が『敵を討て!』と言って自国の軍を動かしたら、その命令に従った軍に所属する者達は皆『人類の敵』に加担したことになるからその軍属の者達も漏れなく『人類の敵』になるんですよ。
だから現国王の命令を実行する者達は軒並み討伐されて当然の『人類の敵』って事になるんです。
つまり『自衛=人類の敵認定』って事になって、この国は自衛することもできない状況になるんです。ね?この国終わってるでしょう?」
俺の言葉に絶句するボコポ。
「まぁ、昨日の今日ですべて露見するとは思えませんが、徐々にでも一気にでも露見するのはほぼ確定だと思いますから、この事実を真っ先に知った者としてはさっさと逃げたいと思うのも仕方ないでしょう?」
「な、なぁ、俺達の馬鹿話が基で国が亡ぶのか?」
ポツリと呟かれた一言に俺の胃が悲鳴を上げるが、俺は認めない。認めたくない。
なので何とか責任転嫁を・・・
「ぐぅっ?! だ、だからあなたに相談に来たんですよ」
「俺だって責任なんぞとれねぇよ!」
くぅ、こういう時だけ察しが良い!
「ですよねぇ?そうですよねぇ?
私だってまさか現状のやるせなさに思わず口から出た愚痴や与太話で一国滅ぼすことになるなんて思いもしないですよ!ねぇ?」
「お前ぇ、認めたな?」
「何をですか?私は何も認めてません!認めるわけないでしょう?!」
そんな感じで半ば狂乱状態で一頻り騒ぐことになった。
「それで、これからどうするつもりだ?ラク?」
少しだけ落ち着いたのかボコポが前向きな意見を聞いてくる。
「なんで私に振るんですか?
一国を滅ぼしたボコポさんも考えてくださいよ」
「まだ亡んじゃいねぇだろうが!」
「えぇ、まだ、ですね」
「冗談になってねぇんだよ。マジでそうならねぇように何とか考えろや!」
「はぁ、まぁ、無くもないですが、この案だとミーネが茨過ぎる道を歩く羽目になるんですよね・・・」
「あんのか! どんな案だよ!何でも良いから教えろよ!」
物凄い形相で喰い付いてくるボコポを引き離しながら訊ねる。
「その前に、ミーネって第3王女でしたよね?」
「その通りだが?」
「なら他にも王女が最低2人いるわけですよね?
他に王子とかいましたら悪魔のダンジョンに対する考え方とかわかる範囲で教えて貰えませんかね?」
そう聞くとボコポは思い出しながら話し出す。
「確か、第1王子がシルバ=ゴトフリート=ゴルディラン様だな。
悪魔のダンジョン攻略についてはあまり乗り気ではなかったと思うな。
寧ろ攻略に割く経費を削ろうとしていた筈だ」
はい、第1王子アウト!
間違いなく『背信者』と『人類の敵』が付いちゃったね。
「次に第2王子がデビット=カッパー=ゴルディラン様だな。
悪魔のダンジョン攻略については積極的に支持していたと思うんだが、
ショートカットを推進していたかはわかんねぇ。
ただ、第1王子への対抗意識が随分強いとは噂で聞いた覚えがあるな」
ふむ、こっちは微妙な感じだが、積極的ってのと第1王子への対抗意識が強いって時点でショートカット提案されたら推進しそうだ。
こっちもアウトっぽいぞ。
「次に第3王子がイアン=ザブリ=ゴルディラン様だな。
この方はまだ5歳だ。
なんで悪魔のダンジョンについてどう考えてるかはわかんねぇな」
はい、思想的にはアウトじゃないけど違った意味でアウト。
「あとは、第1王女のミネルバ=シーモア=ゴルディラン様だな。
悪魔のダンジョン攻略に奴隷を使っていることに否定的だったはずだ。
攻略そのものについてはどうだったか・・・わかんねぇ」
微妙にアウトっぽい気がする。
多分あのウェイガンのテンションだとかなりゴッソリやった感じがするからな・・・
「んでもって最後に第2王女のミルシェ=ラダナ=ゴルディラン様だな。
この方については、結構な変わり者で細工物を作る事に興味があるとかなんとかって噂がある程度で悪魔のダンジョン攻略についての何某かという話は聞いたこともねぇからわかんねぇ。
取り敢えず俺が知ってる王族に関してはこんな所だな。
さて、それじゃ、この国救う方法教えろや!」
そう言って話を締め括るボコポ。
うーん。殆どダメだな。多分、第3王子と第2王女以外は漏れなく付いてる気がする。
本当に使えない奴等だ。
そうなると・・・やっぱミーネにやらせるしかないか。
そう思うと同時に気の重さに思わず溜息が出る。
「わかりました。
私が思い付く限り、この国を立て直す方法は一つしかないと思います」
「おう、それは何だ?」
「第3王女ミーネによるクーデターを成功させることです」
「はぁ?!」
俺の提案にボコポが間の抜けた声を上げて固まった・・・
久しぶりに銭湯に行きましたが、気持ち良かったです。
リラクゼーション風呂。最高。




