第156話 ミーネの試練 ⑤ 裏-2
「はい?・・・山並です」
起床一発電話に出た俺の第一声がこれだった。
「あー、朝早くに申し訳ない。ウェイガンです」
寝起きは声が枯れているので不機嫌そうに聞こえるらしい。
声のイントネーションで相手のテンションが低くなったのがわかる。
「うん?ウェイガンさん? ウェイガン、ウェイガン・・・あぁ、ウェイガンさんですか。こんな朝早くに何かありましたか?」
俺は窓から空が白み始めているのを確認して相当早い時間であることを認識した。
「あ、えーっと、そのぉ、ね。謝罪と感謝を伝えようと思ってね」
「はぁ。謝罪と、感謝?ですか?」
何とも要領を得ない話し方だが、謝罪とある時点であまりいい事ではない気がした。
「あぁ、まずは謝罪なんだが、すまない。
昨日、偶々下界を覗いていたんだが、その中で君とボコポ君の話が聞こえて来てね。
興味深い話だったのでついつい聞き入ってしまったんだ。申し訳ない」
「はぁ、昨日の話ですか・・・」
「ほら、称号云々の話なんだけど・・・」
「あぁ、あれですか。あれを聞いていたんですね。
まぁ、あれを聞かれたくらいなら別に問題ないですよ。
私も不敬な事を口走っていたような気がするので流して貰えれば幸いです」
「おぉ、許してくれるのかい。ありがとう」
ウェイガンは早くも肩の荷が一つ降りたことに破顔した。
「それでね、感謝はその話の内容を聞いていて、あぁ、これ使えると思ってね。
昨日早速キュルケと一緒になって称号を付けたんだ」
「・・・はい? え? どういうことです?」
あー、寝起きで頭が回らない。
何を言っているんだ?
「いやいやいや、昨日キミとボコポ君が話していた内容でね、悪魔のダンジョン攻略を否定する行為は、君たちの言った通り背信行為に当たるんだ。つまり神であるキュルケを欺く行為をしている奴等には神罰も適応できるんだけど、優し過ぎるキュルケは神罰まではと躊躇していたからね。負の称号を付けると言う君たちの意見はとても参考になったんだ。
だからそう言った輩には『背信者』や『人類の敵』って言う目に見える称号を付けたんだ。序でに余罪があれば『私腹を肥やす大罪人』や『悪魔と契約した人類の敵』とか、わかり易い称号も付けているからゴルディ王国も大分風通し良くなるんじゃないかな」
「は、はぁ・・・はぁ?! え? マジで?」
ウェイガンのウキウキ発言がようやく頭に染み込んだ時、俺は素っ頓狂な声を上げていた。
「いやぁ、本当、ありがとう」
「い、いや、ありがとうじゃなくて、なんでそんなことに?」
「そんなの単純な理由だよ。悪魔のダンジョン攻略を加速させたいからだよ。
停滞されるのも困りものだけど、攻略そのものを中止しようなんて不遜極まり暴挙には断固とした態度をとらないと」
ウェイガンのその言葉は切実な思いが乗せられているのがわかった。
わかったけど、王命で進められている今の間違ったダンジョン攻略の方を後押しされても困る。
その旨をウェイガンに伝えれば、「大丈夫。そっちの方を推進しようとしている奴等にも同じく称号を付けておいたから!」と、良い笑顔で帰って来た。
何ともアクティブな神様の行動に戸惑い呆れてしまうが、楽太郎は感情を何とか排除して状況を整理する。
えーっと、つまり、ウェイガン達が俺とボコポの話を聞いてやる気になって俺達にとって都合の悪い敵の炙り出しをサクッと行った。と言う事か?
そうなるとどこまでの範囲で称号を付けたのだろうか?
利己的な理由で加担しているのであれば自業自得と思う以外の感情が湧かない楽太郎だが、流石に何も知らずに利用されただけの者にも『背信者』とか付いていたら多少は気の毒だと思ってしまう。
「あのぉ、『背信者』等の負の称号が付いたのはどの程度の者までですか?」
「うん?どの程度の者って?」
「えーっと、例えば悪魔のダンジョン攻略を中止、ないしショートカットをするように仕向けた者達だけなのか、それとも仕向けられ、中止に賛同した者も含まれるのか、それとも逆らう事が出来ずに加担せざるを得なかった者も含むのか、何も知らずに加担させられた者も含むのか? どこまでを対象としたのでしょうか?」
「あぁ、そう言う事か、うーん。それで言うならまず君の言った内容でも王族と貴族には一律負の称号を付けたよ。
理由は簡単だ。
立場に見合った責任はとらないとね。
支配者階級なんだから上が間違ったことを言っているのであればそれを諫めるのも仕事だし、騙されない様に情報を取捨選択するのも仕事なんだ。
彼等はそれだけの特権を持っているんだからそれに伴う義務も果たさなければいけない」
ウェイガンの発言に楽太郎も納得する。確かに特権階級には当然の処置だと思うからだ。
「ふむ、そうですか。では平民は?」
「平民については仕向けた者と賛同した者位かな、平民だとどうしても王族や貴族には逆らえないからね。
騙されたとしても背信行為を行えばそれは悪であると断じたよ。
あぁ、それと特権階級もだけど、直接間接関係なく加担していれば一律で付けているからね。
特権階級だと言った言わないの水掛け論が酷いんだけど、私は神だからね、それくらいはお見通しさ」
淡々とした答えに楽太郎もようやく冷静になって来た頭で更に考える。
「あのぉ、因みに負の称号が付いたのはゴルディ王国の者だけでしょうか?」
「うん?あぁ、昨日の夜の時点でゴルディ王国に居た者に対して付与したよ。
ゴルディ王国の国民かどうかは関係なくね」
「つまり他の国の貴族にも負の称号が付いた者がいると言う事ですか?」
「あぁ、それなりにいるよ」
「因みにゴルディ王国の国王には付いてます?」
「バッチリついてるよ!『背信者』だけじゃなく、『人々を惑わす諸悪の根源』と『人類の敵』も付けたし、それ以外も複数ね!当然じゃないか!ハハハハ!」
つまり他の国の関係者が内政干渉している可能性が高いのか。
その上でこの国の王は『背信者』で『人々を惑わす諸悪の根源』と『人類の敵』にもなった。
他国にとって都合の良い大義名分が目白押しじゃないか。
・・・
終わってるなぁ、この国。
楽太郎にしてみればちょっとした現実逃避にも似た冗談の類で口走った事だったが、まさかウェイガン達に聞かれ、実行されるとは思わず、何とも言えないやっちゃった感と罪悪感がで胃がキュルルルルッと鳴いた。
悪い事してないのになんで罪悪感を覚えるんだろう?
と、取り敢えず一人じゃ耐えられない。
この痛みをボコポにも・・・




