第155話 ミーネの試練 ⑤ 裏
「ふむ、中々面白い話をしているねぇ」
ボコポと楽太郎の話をこっそりと聞いていたウェイガンは思わず口の端を上げてしまう。
ウェイガンもゴルディ王国には色々と思う所が多かったが、何かをするには中々踏ん切りが付かなかったのだ。
最初に楽太郎が言っていたように称号を付けるにしても正当性が重要で、余程明確な理由が必要である。
直接誓約を立てたゴドフリールは誓約直後に兵を1万2千を投入しているし、当時の人類最強ともいえる者3人に要請し攻略を進めた。それでも達成できず、最後には自ら赴き誓約に殉じた。
誓約は果たされていないが、そこまでの犠牲を出しているのは事実。
ウェイガンも命を賭して誓約を守ろうとした当時の者達を背信者とは呼べないだろう。
だが、その後のゴルディ王国はと言えば、キュルケの慈悲を当たり前のように甘受するだけで悪魔のダンジョン攻略については御為ごかしもいいところ。
最初は同情的であったウェイガンであっても、いい加減腹に据えかねていた所でもあった。
そんな中、楽太郎が思い付きで言った愚痴ともとれる内容は、ボコポの推察によって現実的な意見にまで落とし込まれたと言えよう。
そんな感じで適当な息抜きとして『もしも話』を話し合っている二人にとっては知る由もないが、ウェイガンにとっては棚ボタ的に最適解を手に入れたようなものに感じた。
「あら、あなた?何か良い事でもあったの?」
「あぁ、キュルケ、実は今楽太郎君達が話しているのを何となく聞いていたんだけどね。とても面白い事を話していてね」
「楽太郎さんの?あなたまた盗聴しているの?」
「盗聴とは人聞きが悪いよ」
「楽太郎さんはこちらに配慮してくれたり色々協力して貰っているんですよ?彼はあまり干渉されることを嫌っているんですから、そう言う事は自重しなくては神としての面目が立たないわよ!」
そう言って咎めるキュルケを宥めつつウェイガンは言葉を返す。
「まぁ、確かにそうなんだけどね。バレなければ大丈夫だよ。
それに彼等が話していた内容はとても興味深くてね。
彼に利益があるのは勿論なんだが、私達にも非常に利益のありそうな話だったんだ。
偶々耳に入ってしまったお話なんだが、少し聞いて貰えないかな?」
「・・・もう、そうやって私を誘惑するんだから!」
「決して彼の損にはならないから、ね?」
「はぁ、わかりました。
お話を聞かせてちょうだい」
「ありがとう、やっぱりキュルケは優しいね」
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「中々面白いと思いわね。
今まで何もできないと思っていたけど、この程度の称号を付ける位なら何の問題もないと思うわ」
最初は盗聴云々と言っていたキュルケであったが、ウェイガンの話を聞くに連れ、その表情は楽し気なものに変わる。
「だろう?
いやぁ、楽太郎君様様だよ。
最初は困った子だと思ったけど、彼が関わる事で事態は徐々に好転してくれている。
本当にありがたいね」
「本当ね。
でも、称号を彼らの言っていた『背信者』そのままだと楽太郎さんに勘付かれそうで怖いわね」
「そうだねぇ、個人的には彼が言った『人類の敵』って称号が一番面白そうなんだけど、使ったらバレちゃうかな?
それとも敢えて使ってあとから『ありがとう』って言えば許してくれないかな?
彼ならそれくらい許してくれそうな気もするんだけど・・・」
ウキウキした感じでウェイガンが笑いながら先を促してくるが、答えはわかっているのだろう。
「確かに楽太郎さんなら許してくれると言うか、お礼を言われるかもしれないわね。
でも、勝手に動いたことを後で知られるより、先に私達から伝えた方が彼の心証も良くなると思うんだけど、どうかしら?」
キュルケの返しに少し気不味い顔をするウェイガン。
「あー、そうなると彼らの話を盗み聞きしたことも教えないといけなくなるんだけど・・・」
「そこは誠意をもってあなたが謝罪しないといけないわね」
「えぇー?! あー、しまったな。・・・はぁ、それは自業自得か。
わかった。わかりました。私が頭を下げて何とか許しを請うよ」
「えぇ、それが一番ね。よくできました。流石は私の旦那様」
そう言ってキュルケはウェイガンの頭を両手で優しく包み込むと、ウェイガンも気持ち良さそうに眼を閉じる。
「はぁ、君とこうして穏やかに過ごせるのは久しぶりな気がするよ」
「そうね、ここの所、悪魔のダンジョンから力を吸われている感覚が薄れている気がするわ」
「そうなの?」
「えぇ、楽太郎さんが悪魔のダンジョン攻略に赴いた後位からかしら、どうも内部エネルギーを大分奪ってくれたみたいで外にチョッカイかける力が無くなったみたいなのよ。
それにミノタウロス達を倒すことでも大分エネルギーを消耗しているみたいよ」
「流石と言うか何と言うか、楽太郎君には足を向けられないね」
「えぇ、本当に」
「よーし、それなら多少楽太郎君に怒られても畳みかけて行こう! 『背信者』の称号を付けるだけじゃなくて、思い切って他の有用な称号を全て剥奪して『背信者』以外の負の称号も付け加えたらどうかな?」
「他にも?」
「そそ、貴族連中には不正に私腹を肥やしている連中が居るだろう?そいつ等には『私腹を肥やす大罪人』とか付けちゃえば良いんじゃないかな?神に背く行為だけじゃなくて他のわかりやすい悪名も称号として付けてしまえば如何に悪人であるかがわかり易くなると思うんだ。それに奴等と取引している輩もそれなりに居るみたいだし、そいつ等に『人類の敵』って言うわかり易い悪評を付ければゴルディ王国の風通しもだいぶ良くなるんじゃない?」
「そ、そこまでしても良いのかしら?」
「今回は良いんじゃないかな?ほら、ボコポだっけ?彼も言っていたじゃないか、『悪魔のダンジョン攻略に反対する貴族は既にキュルケ神への背信行為を唆している立場だから既に背信行為をしている』って、我々神との誓約を反故にさせようと画策している時点で大罪を犯しているんだ。それを命も取らずに負の称号を与えるだけに留めているんだ。しかもそれらの称号は本人の日頃の行いから付けるんだし、その称号に偽りはない。とても慈悲深い行為だと思うんだけど、どうかな?それとも直接神罰でも下すかい?」
そう言われてキュルケも考えるが、神罰を下すにはそれなりに力も使う事になる。
神のダンジョンと悪魔のダンジョンに関することはキュルケの優しさによって行った事なので神罰を下せるのもキュルケにしか出来ない。
悪魔のダンジョンによって力を吸われている現状、無駄に力を使いたくはない。
それに比べて称号の付与であれば本人の所業に沿った称号を付けるだけなので殆ど力は使わないし、ウェイガンに任せても何も問題ない。
因みに通常、人の世で悪事を働いていたとしても神々が一々不名誉な称号や特別な称号を付ける事はない。
なので不名誉な称号や特別な称号を持つ者はそれだけで神の不興を買っていたりお気に入りであると見做される為、ある意味称号は人間社会ではその為人を表す重要な要素となっている。
「わかったわ。確かに神罰を実行するよりも称号を付ける方がいいわね」
「流石キュルケ、それなら早速やってしまおう。善は急げだ」
「そうね、それと楽太郎さんへの報告も急がないとね♪」
「えぇー?!」
「善は急げ!でしょ?」
「・・・はぃ」