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第153話 ミーネの試練 ④

 現在、俺はミノタウロス達に占拠されている貴族屋敷(我が家)にてミノタウロス達に半包囲され、次々と突撃されている真っ最中。


 どうしてこんなことになっているかと言うと、まぁ、ミーネのレベルアップ目的なんだけど、ミーネの護衛に連れてきたキャシーが原因だ。




 決して俺が原因ではない。




 最初は安全性もそれなりに考慮して一匹ずつボコって抵抗できなくなった所をミーネに止めを刺させていたんだが、この作業に見ているだけだったキャシーがお手伝いをしたいと言い始めた。


 確か、「旦那様にある程度弱らせて頂ければ私でも無力化することは難しくないと思います。そうすればもっと早くミーネ様のレベルアップが可能になると思うんです」と言われたのが始まりだったかな?


 俺はそれならとキャシーに許可を出し、俺はミノタウロスにキツイ一発を喰らわせて、弱ったところをキャシーが無力化。最後にミーネが止めを刺すと言う流れでミーネのレベルアップを図る事にした。


 そして実際に効率は上がった。


 それに気を良くしたのかキャシーがもっともっとと欲しがった。


 ただ、キャシーの言葉を聞いているミーネの表情は青褪め、引き攣っていた。


 うーん。流石にこれだけ連続で屠殺させるのは精神衛生上、きついか?


 続けるか一旦止めるかと考えるが、そう言えば自分の時はどうだったかと思い、過去を振り返ってみる。


 この世界に来た時は魔物とは言え命を奪うのも死体に触るのもかなり勇気が必要だったけど、今じゃ魔物を殺すことに躊躇は無くなったし、解体見学もある程度は大丈夫になった・・・と思う。


 それに死体を触るのは今でも嫌は嫌だが、必要に迫られたこともあって大分抵抗は無くなっている。


 ふむ、まぁ、ミーネも自然と慣れる・・・か?


 腕を組んで暫し黙考。


 いや、考える暇がない程屠殺させれば嫌でも慣れるな。と、結論を出した結果、屋敷内のミノタウロスをかき集めて処理を始めた。


 俺の後ろには顔を青くして固まったミーネと驚愕の表情でアワアワしているキャシーがいる。


「お前等!呆けてないでさっさと準備しろ!」


 俺の一喝に正気を取り戻したのか、二人が動き出す。


 そして俺はほぼ正面から次々と突っ込んで来るミノタウロスを眺めながら右に左にと横移動して躱し、すれ違い狭間にミノタウロスに手に持つ天秤棒でキツイ一発を叩き込む。


 天秤棒を叩き込まれたミノタウロスは自身の勢いそのままに地面に顔面から突っ込むとそのままの勢いで俺の後方へと吹っ飛んで行く。


 中々の手応えを感じつつ俺は後ろを振り返ることなく流れるように次々と後方へとミノタウロスを吹き飛ばし続ける。


「ちょ!ちょっと旦那様?!もう少し加減してくださいません?!」


 俺を非難するキャシーの声が後ろから聞こえるが俺は気にせず次々と突進して来るミノタウロス達の足をへし折りキャシーの方へとミノタウロス達を吹き飛ばして行く。


「ま、待ってください!お願いしますから!こ、こっちが追い付かないんですってぇ~!」


 折角乗ってきているのに五月蠅い声だ。


「私の一撃で大分弱ってるんですから、キャシーさんなら楽勝でしょう?

 それとも私と位置代わります?」


 話しながらも途切れることなくミノタウロスに突進され続けている私を見てキャシーが叫ぶ。


「無理!絶対に無理です!」


「なら文句言わないで続けてください」


「そ、そんな?!」


「幼いミーネだって文句も言わずに止めを刺しているじゃないですか?なのに年上のキャシーさんが文句を言ってどうするんですか?ねぇミーネさ・・・」


 反論しながらも言葉を重ねるキャシーを窘めようと後ろを振り返ると、顔を青褪めさせたままアルカイックスマイルを浮かべて槍を突き刺しまくっているミーネの姿が視界に入る。


 撲○天使・・・いや笑う○豹。あー、何の悟りを開いたの? なんか怖い。


 一瞬硬直してしまったが、何とか身体を動かしミノタウロス達を捌き続ける。


「あー、えー、が、頑張れ・・・ドンマイ」


 よくわからない励ましの言葉しか出なかった。


 その後も屠殺作業は続き、キャシーはひぃひぃ言いながらも俺が残した残りの四肢を剣で斬り付けて次々と行動不能にしていき、その更に後ろではミーネが止めを刺して回っていた。


 ・・・俺がやらせていることではあるが、(よわい)10歳の少女が悟った表情で次々と屠殺しまくっている姿は、得体のしれない狂気を感じるな。


「さぁ、そろそろこのラッシュも終わりが近いですよ。これが終わったら家に戻りましょう」


 俺の宣言にキャシーはあからさまな安堵の息を吐き、ミーネの屠殺スピードは気持ち早くなった気がした。








 こうしてミーネのレベルアップを終えた俺達は家に戻るとキャシーとミーネを連れて中庭に移動する。


 ここで本日最後の鍛錬を行うのだ。


「さて、それでは本日最後の鍛錬です」


 俺の言葉にやっと終わると言った安堵の表情を浮かべる二人に俺は木剣を投げ渡す。


 キャシーは無言で受け取り、ミーネは慌てて掴み取る。


「ミーネは素振り1000回、キャシー、あなたには素振り10000回です」


「な、なんで私はミーネ様の10倍なんですか?!」


「キャシー、あなたの型が酷いからですよ。

 変な癖がついているので矯正する必要があります。

 体に染みついた変な癖を抜く必要があるのでより多くの素振りが必要になるのです」


「そ、そんなぁ~」


「恨むなら変な癖をつけた自分自身を恨みなさい。

 でなければ弱いままですよ?」


 そう言うとキャシーは恨みがましい視線をこちらに向けたが、反論はしなかった。


「では今日は『真っ向切り』の素振りです。先ずはミーネから」


「はい」


「声が小さい!」


「は、はい!」


「よろしい、では構え!」


 そう促し、ミーネが木剣を構える。


 ・・・全然だめだ。すっかり忘れられているようだ。


「あー、まず、構えはこうだ」


 俺は見本を見せ、ミーネもそれを真似しようとしているが、なんでか違う形になる。


「・・・」


「・・・?」


 しばしミーネと見つめ合うが、埒が明かない。


「そのまま剣を持っていろ」


「は、はい」


 そう言ってミーネが固まるが、俺は気にせずミーネの足を持ってる木剣で軽く小突く。


「右足を前に出して左足を後ろに下げる。踵は両足共に軽く浮かせろ」


 そう言うと何と言うか、ミーネはつま先立ちをして重心が不安定になっている所為でフラフラと揺れている。


 ・・・


「違うよ? つま先立ちするんじゃなくて重心をつま先に移動させるんだ。

 踵は軽く、軽く地面に着くか着かないか位に浮かせるんだ」


 俺の指摘にカクカクと体をぎこちなく動かしながらも形を整えて行き、そこから更に微調整をする。

 そんな感じで細かく修正を加え続けること1時間余り。


「よ、ようやく『真っ向切り』の型は何とかできるようになったな」


 俺は何とか1つの型を覚え込ませることに成功した。

 何故か達成感より疲労感の方が強いけど・・・


「は、はい」


「では素振りだ。まず10回繰り返せ!」


 そう言うとミーネは覚えたての型を慎重に繰り返し型を崩すことなく10回素振りを成功させる。


「よし、では後は一人で素振りを1000回だ」


「え?い、今までの分は?」


「素振りをする最低条件を整えただけだ。

 これからが本当の素振りだ。

 これから回数を熟すことで自然と体に動きを染み込ませるんだ」


「わ、わかりました」


「よし、では始め!」


 これでミーネは良しとして・・・後ろで素振りをしているキャシーに目をやる。


「次はあなたの番ですよ」


 そう言ってキャシーの素振りを止めると、キャシーが反論する。


「え?私は既に素振りを始めていたんですけど・・・」


「最初に言いましたよね?まずはあなたの型を矯正するって」


「そ、そんな・・・それじゃ今までやった素振りは?」


「カウントされる訳ないでしょう?」


 私のその言葉にキャシーはその場に崩れ落ちた。


「そんなところに座り込まない!サッサと立て!」


 泣き崩れるキャシーの喝を入れ、強制的に起動させて素振りの型を指導する。


 そうして苦労しながらも何とかキャシーの型を矯正した後、二人の素振りを視界に収めつつ自身は天秤棒を使った型稽古を行う。


 最初はゆっくりと丁寧に、身体の動きを確認するように型をなぞる。


 次はその動きを少しだけ速める。


 動きにブレが無い事を確認し、次は更に少しだけ速く。その次も更にもう少しだけ速く繰り返す。


 そうして少しずつ動きを早くし、型から動きがずれたらまたゆっくりと動き、型をなぞり確かめる。


 そんな風に型の動きを繰り返し続け、自己を錬磨する。


 本当ならそのまま鍛錬に没頭したいところだが、二人の素振りも見なければと視界に納め、素振りの型が崩れたら指摘し、修正させる。


 そんな事を繰り返し続けていると、ミーネが素振りを1000回終える頃にはすっかり日が暮れていた。


「さて、最後に柔軟体操をして今日のミーネの鍛錬は終了とします」


 そう言って見本を見せるように腰を下ろして足を広げるとミーネの顔が引き攣ったが、朝と同じように前屈をさせてみると、思ったよりも痛みを感じない事に驚愕した表情になっていた。


 そうして柔軟体操も終わり俺が終了の言葉を発するとミーネはその場にへたり込んだ。


「あのぉ~、旦那様、私まだ終わってないんですけど?」


「流石に付き合いきれませんよ。なので後は一人で行ってください」


「そ、そんな?!」


「別にやらなくても良いですが、やらないなら今後二度と教えませんから、そのつもりでいてください」


「そんなぁ~」


 そんな批難がましい声を無視してミーネを見ると、疲れ果てたせいか意識がないようだったので、ひょいっと小脇に抱えて屋敷内へとさっさと戻ることにした。


「あ。木剣は片付けておいてくださいね」


「?!」








 そうして屋敷内へ戻るとエロイーズが待っていた。


「おや、どうしました?」


 たしかエロイーズは昨日夜番をしていたので今日は休みの筈だ。


「少しミーネ様の事が気になりまして」


 そう言って俺が抱えているミーネに視線を向けるエロイーズ。


「そうか、先程今日の鍛錬が終わったばかりだからな、気が抜けて寝てしまったようだ」


 丁度良かったのでそう言ってエロイーズにミーネを手渡す。


「私は少し用事があるので外に出ます。ミーネはよく頑張ったので後は食事とお風呂にでも入れてしっかりと休ませておいてください。それとあなたもしっかり休んでください。よろしくお願いしますね」


「ふふふ。ありがとうございます。後の事はお任せください」


 そう言ってエロイーズは玄関に向かう俺を見送った。



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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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