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第152話 ミーネの試練 ③ ミーネ side

 目が覚めると知らないベッドの中だった・・・


 ここどこだろう?


 寝ぼけた頭で身体を起こして辺りを見回すと声が掛かった。


「おはようございますミーネ様」


 思わず声の方を向いたけど、そっちを見て私は驚いちゃった。




 なんで仮面?


 よくよく考えると聞き覚えのない声も怪しかったけど、それ以上に見た目がおかしい。


 なんでメイド服に仮面なの?


 私が驚いて固まっていると彼女から更に声が掛かった。


「ミーネ様、ご機嫌は如何でしょう? 昨夜、旦那様がお連れになった際には気絶されておられましたので少し心配しましたが、大丈夫そうでございますね」


「え?な、なに?」


 私はそれしか言葉に出せなかった。


 そして私は彼女の言葉で少しづつ思い出して来て、昨日何があったかをはっきり思い出した時、私はクラっと眩暈がした。


 あ、あの鎧の巨人に私は捕まっちゃったんだ!


 ど、どうしよう?!


 どうしたら良いの?逃げなくちゃ・・・でもどうしたら良いかわかんない。


 あー、頭の中ぐちゃぐちゃだよー、どうしよう。と頭を抱えて私は目の前が真っ暗になった気がして怖くなって泣いちゃった。




・・・




 最初は何をされているのかわからなかったけど、少しづつ落ち着いてきた私は漸く仮面の彼女が私を抱きしめて背中を優しく撫でてくれていることに気付いた。


 撫でながら彼女は「大丈夫ですよ~、怖くないですよ~、旦那様は優しいですよ~」と言う声を私に掛け続けてくれていた。


 彼女のその言葉に優しさを感じたのか、どうしてなのかわからないけど、私は不思議と安心することが出来た。


 それは王都を出てから暫く感じる事が出来なった、心から安らぐことが出来た時間に思えた。




 私が落ち着いた後は彼女から色々と教えてもらった。


 昨日サムソン達が何をしようとしたのか。


 それによってサムソンの行動が成功していた場合、このウェルズの街がどうなっていたかを聞かされた。


 その内容に私は衝撃(ショック)を受けたけど、1番驚いたのは昨日サムソンがしようとした酷いことが私の所為になると言う事だった。


 なんで?


 私何もしてないのに!なんでサムソンがしようとしたことが私の所為になるの?


 あんまりな言葉に私は声を上げていたけど、それに対して彼女は淡々と答えてくれた。


「サムソンが率いている騎士団達は今、ミーネ様の麾下に入っています。

 つまりサムソン達はミーネ様の管理下にあると言う事です。

 なのでサムソンが何かした場合、その責任は管理者となっているミーネ様が背負う事になるのです。

 サムソン達がした事は良い事であっても、悪い事であっても、ミーネ様がした事になるのです。

 つまり、今回のようにサムソンがしでかした街を危険に晒すような王国への大逆にも等しい行いについてもミーネ様の責任となるのです」


 彼女のその言葉に私の咽喉は詰まったように言葉を出せなかった。


 何故なら、私は昨日、鎧の巨人に言われた事を思い出したからだ。


 鎧の巨人も彼女と同じことを言っていた。


 私は王命に絶対的な権力(ちから)がある事を知っている。


 だって国で一番偉い王様の命令なんだから。


 そして今回、私は王命によって領主の自領の統治権すら超えて私の命令が最優先になっている事も理解はして(知って)いた。


 そして私は王命以外の命令を、その権限を、一度も行使したことは無かった。


 私は子供だから、大人のサムソンが指揮を執るのが当たり前だと思っていた。


 でもそれはサムソンが自分で(サムソンの)権限で命令していると思っていたのに、でも、本当は、サムソンが、私の名前を使って、私の権限を使って、私が出したと嘘を吐いて、命令していたなんて・・・




 私は知らなかった。


 サムソンが勝手に私の名前を使って、私の権限で、命令していることを・・・


 最初は裏切られたと衝撃(ショック)を受けた。


 でもすぐに、なんでそんなことをするのかとサムソンに腹が立って思わず拳を握りしめ、怒りに震えていた。


 その様子を仮面の彼女に見つめられていることに気付き、今自分が置かれている状況に青褪めてしまう。


 ど、どうしよう・・・このままだと、私、サムソンの所為で・・・


「大丈夫ですよ。

 ミーネ様が罪に問われない様に昨日、旦那様がミーネ様を助けたんですから」


 そういって仮面の彼女は優しく私の頭を撫でた。


「え?」


「旦那様はね。ミーネ様をサムソン達から引き離すことで、サムソンにミーネ様の名前を使う事を封じたんですよ」


「ど、どういうこと?」


「あの屋敷にミーネ様が居なければサムソンが何をしようと思ってもミーネ様の許可を得られないでしょ?

 そうなれば、サムソンがいくら『ミーネ様の命令だー!』って言っても許可をとる相手がいないんですもの。

 誰がどう見てもサムソンの独断って事になるでしょ?」


 そう言われて『なるほど!』と思うと共に鎧の巨人が何故そんなことをしたのか不思議に思った。


「でも、鎧の巨人はなんで私を助けてくれたの?」


「鎧の巨人?・・・ふふw ご、ごめんなさい。

 えーっと、旦那様ね。旦那様のことね?」


 確認して来る彼女に私は首を縦に振る。


「旦那様はね。

 ああ見えてとても優しい方なのよ。

 行動は破天荒で厳しい言動もよくされるけど、それは色々な人を助ける為でもあるのよ。

 今回で言えばミーネ様をお助けしたのは、あなたが子供だから・・・かしらね」


 そう言って彼女は柔らかい笑みを浮かべた。


「子供だから?」


「あら、少しお喋りが過ぎたみたいです。

 旦那様が貴方を鍛えてくださるそうなので、着替えて中庭へ行きましょう」


 そう言って私はお着替えをすることになった。


 初めて自分でお着替えをしたけど、なにか新鮮で自分でできた事が嬉しいと感じた。


「さぁ、中庭へ行きましょう」


 そう言われて私は中庭へと行くことになった。











 中庭には私以外にも何人も集まっていて、私は仮面の女の人と一緒に待っていると、少し経ってから仮面を付けた男の人が私の前に現れた。


「さて、今日から貴様を鍛え上げる事にする。


 喜べ、強くなれるぞ!まぁ、その代わり気を抜けば死ぬ。


 なのでその覚悟で生き残れ!」



 有無を言わせない迫力の声で、思い出す。


 この人、鎧の巨人だ!


 鎧の巨人の恐ろしさを思い出し、そして今言われた言葉の怖さに私は泣きながら拒絶した。



 でも、仮面の人はすぐに私に恐ろしい視線を向けて問いかける。



「ならば今死ぬか?」



 私はその恐ろしい視線に、その言葉に本能的に抗って答えていた。



「し、死にたくありません!が、頑張ります!」



 私の答えに、男はにっこりと笑った。


「よろしい。

 ではまず体を解すとしよう。

 俺と同じ動きをするように」


 私は自分の口から、私の素直な思いが、望みが、こんなに簡単に出た事に驚いた。


「返事はどうした?」


 自分への驚きに固まっている私に男は更に問いかけ、私は慌てて返事をするけど、今度は返事の仕方を指摘されてしまった。


 指摘された事自体はあれ?と思ったけど、私が従い、仮面の人と同じ格好(ポーズ)をすると仮面の男はまたにっこりと笑う。 仮面を付けているのになんでわかるんだろう?この人、器用なのかな?


 そんな事を思っていると柔軟体操?とか言うのが始まった。


 私は仮面の人に言われた様に仮面の人と同じ動きをする。


 体を前に倒したり、後ろに反らしたり。


 腕を振り回してグルグル上半身を回したり、足を曲げたり伸ばしたり。


 右手を肩から背中に回して左手を腰から背中に回して後ろで組む・・・え? う、腕が届かない?!


 今度は逆にして・・・や、やっぱり届かない。


 一人必死に唸っていると仮面の人のじとーっとした視線を感じた。


 う・・・な、なにか不味い気がする・・・


 仮面の人の重圧(プレッシャー)に私は焦って必死に真似をするけど、柔軟体操が進んでいくと、全然真似できなくなって、嫌な汗が全身から噴き出してくる。


 な、なんであの人、背中側で両手を繋げるの?


 なんで体が足にぴったりくっつくの?!


 え?なんで足が真横に広がるの?


 え?その状態で体を前に・・・なんでできるの?!


 す、すごいけど、私じゃ無理だよ。


 ・・・や、やれるだけ頑張ろう。


 そう思って必死に体を動かしていると仮面の人から声が掛る。


「貴様、子供のくせに体が硬すぎないか?」


「え?」


「周りを見てみろ」


 そう言われて周りの人を見ると、私は衝撃(ショック)を受けた。


 周りの人たちは全員同じことが出来ていた。


 両足を真横に開いてそのまま上半身を地面に倒した格好でこちらを見ている。


 その表情は、ドヤ顔でこちらに見せつける様にしてくる人もいれば、笑顔でサムズアップしてくる人もいるし、逆に黙々と体を動かしている人もいる。


 でも、その全員が信じられない位に身体が柔らかい。


 そんな状況に信じられない程驚いた。


 でも、それ以上に自分だけできない事に衝撃(ショック)を受けたし、自分だけできない事に悲しい気持ちになり、何とも言えない申し訳さで落ち込んでしまう。


 そんな私の様子に仮面の男は溜息を吐きつつ「仕方ない、まずは股割りから始めるとしよう」と言った。


 そして、その言葉に周りの人達の私を見る目が一変する。


 なんて言えばいいんだろう。


 可哀そうな人を見るような。

 気の毒な人を見るような。

 過去の自分を思い出しているような。


 なんて言うか、『生暖かい』と言えばいいのかな?


 なんでだろう?


 そう思ったのも少しの間だけだった。



・・・



「痛ぁぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃ!」


「痛いのは最初だけだから、頑張って、我慢しなくて良いから、声を出して頑張って!」


「た、助けてぇ~~~~!お願いします!誰か!誰かぁぁぁぁー!」


「嬢ちゃん。こればっかりは無理なんだ。助けになれねぇ。済まねぇな。でも、これも嬢ちゃんの為なんだ・・・」


「むりむりむりむりぃぃー!裂けちゃう!私のお股裂けちゃうから~~~~~~!」


「すまない。俺達にはどうすることもできない。でも、ここに居る全員が同じ道を辿っている。・・・がんばれ!」


「お前等、俺が好きでやっているとでも思っているのか?」


「いえいえ、そんな事、これっぽっちも思っていません!ただ、嬢ちゃんを励まそうと・・・」


「ふん、まぁ、いい。それでも出来るまで続けるのは変わらんがな?」


 そう言って仮面の男は股割りを続け、私は泣き叫び、許しを請い続けることしかできませんでした。


 そんな私に皆は謝り、励ましの声を掛けてきたけど、そんな事は何の慰めにもならない。


 そして私はこの時、自分の無力さと、誰の助けも得られない恐怖と、終わらない苦痛と言う恐怖を味わいました。











 それからどれだけの時間が経ったかわからないけど、私はこの時、自分に力が無いことが、こんな、抗う事も出来ない理不尽が、恐ろしく、ただ、ただ、涙するしかできませんでした。


 そして、力が無いことが、これ程の恐怖となることを初めて知りました。


「さて、朝の柔軟体操は終わりだ」


 全身が上げる悲鳴に呼応するように泣き叫び続けた私は唐突な仮面の人のその言葉と共に痛みと恐怖から解放された。


 体中に痛みはまだ残るが、それでも拷問が終わったことで安堵し、全身を地面に投げ出す。


「お、終わった・・・ 終わったよぉ~。よかった。助かったよぉ~」


 そう言って泣きじゃくる私に仮面の女の人が掛け寄って抱き起してくれる。


「頑張ったわね。うんうん偉いわよ。ほんとによく頑張ったわね」


 幼子をあやす様に優しく声を掛けてくれたけど、仮面の男の人の言葉で、私は更なる絶望に突き落とされた。



「いや、まだ鍛錬は始まってもいないぞ?

 今やった体操は単なる準備運動だ。

 これから毎日、俺の鍛錬が終わってもこれだけはずっと続けるようにしろ」



 こ、こんな地獄を毎日・・・ぜ、絶対むりぃぃぃぃぃぃぃ!



「慣れれば痛みはほぼない。と言うか健康な身体作りと言う意味では必須と言って良い程に重要な運動だ。

 が、やめてしまうとまた体が固まるから怪我をし易くなるし、同じように体を解そうとするとまた痛みを伴うようになる。なのでしっかりと継続するように、わかったな?」


 ほ、本当かな・・・仮面の人の言葉を信じられず、思わず返事の声も小さくなってしまう。するとすぐに指摘されてしまったので、思わず反射で大きな声で返事をすると「よろしい、では朝食にしよう」と言って仮面の人は私に笑顔を向けた。

 驚きで少し固まっていると、涙や埃なんかで汚れていた私の顔を優しく拭いてくれて、その後に食堂へと連れて行ってくれた。


 よくわからないけど、なんか、少し、うれしかった。











 食卓に着くと私は今日のこれからを考えて心細くなって下を向いていた。


 仮面の人が私を鍛えると言っていたけど、あの恐ろしい柔軟体操ですら鍛錬じゃないって言ってたから、もっと痛いのかな?


 そう思ってさっきの柔軟体操を思い出すと、お股に痛みが走る様な気がして怖くなる。


 鍛錬したくない・・・けど、そんな事、怖くて言えない。


 私がこれからの事に恐怖していると仮面の人が急に立ち上がってどこかへと行ってしまった。


 私が不思議そうな顔をしていると仮面の女の人が教えてくれた。


「旦那様はね、厨房に行かれたのよ」


「え?どうして?」


「ミーネ様が落ち込んでいるように見えたから元気付ける為に美味しいものを作ってあげようと思われたんだと思うわ」


 そう言われて戸惑ってしまう。なんでそんな事を・・・


「旦那様はね、言葉と態度は厳しいけど、本当は優しいのよ」


 そう言って彼女は笑顔を浮かべる。


「本当に?」


「えぇ、私達もね、今日のあなたと同じ目に遭ってるのよ?」


「えぇー?!」


「覚えてるかしら?あれ、『股割り』って言うんだけどね。

 皆あれをミーネ様と同じようにされて男の人も女の人も皆大泣きしてるのよ?」


 そう言って彼女は思い出したように苦笑する。


 私は信じられなくて驚いた顔をする。


「だから皆、ミーネ様が股割りされるのを見て、過去の自分を思い出して何とも言えない表情をしてたでしょ?」


 確かに私が助けを求めた時、周りの皆は何とも言えない表情をしていたけど、誰も助けてくれなかった。


「それに旦那様が言った事に嘘はないから、我慢するのは最初の内だけで今は全く痛くないし、身体の調子も良いのよ?みんな痛がってなかったでしょ?」


 確かに私以外は皆当たり前のように出来てたし、痛そうじゃなかった。


 それなら私もこれからは痛くなくなるのかな?


 そんな事を考えていたら、女の人が2人食堂に入って来た。


「おはようー、昨日から大変だったみたいね」


「おはようございます。キャ・・・お二人共、旦那様から申し送りがございます」


「うん?その子は誰?」


「それも含めて申し送らせて頂きます」


 そう言って仮面の女の人が昨日からの出来事について2人に説明を始めた。


「あー、そう言う事ですか。わかりました。しかし、旦那様が居なかったら今頃この街終わってましたね」


「本当に、危機一髪でしたわ」


 昨日のサムソンの行動がどれだけ危険な行為だったのかを改めて思い知ることになった。


 そして私が『股割り』をされた事が話題になると2人は私の方を見て何とも言えない表情で「頑張ったね」と声を掛けてくれた。


「それで、旦那様はこの子を助けるの?」


「えぇ、旦那様はミーネ様の身の安全を第一と考え、短期間で出来得る限りの鍛錬をされるそうです」


「具体的には?」


「わかりませんが、恐らくミノタウロスから逃げられる位には鍛えられるのではないでしょうか?」


「ふーん。そうか・・・」


 なんだか不安になる会話が続いていると、甘く良い匂いが部屋に入って来た。


「あら、良い匂いがしてきましたね」


「本当に」


「先程旦那様が厨房へ行かれたのでもう少ししたら戻られるかもしれません」


「あら、では残りの申し送りをお願いします」


 そう言って仮面の女の人を促して話を足早に終わらせると、仮面の女の人が席を立つ。


「ミーネ様、それではお先に失礼します。お二人も後の事をよろしくお願い致します」


 そう言って仮面の女の人が頭を下げて食堂から出て行った。


 私は彼女を止める事も出来ずに見送ると、酷く心細く感じてしまってまた俯いてしまう。


「あらあら、ミーネ様。どうしました?」


 そう言って女性の一人が声を掛けてくれたけど、うまく言葉が出てこない。


 焦ってモジモジしていると仮面の男の人が食堂に戻って来たので私は縋るような目を思わず向けてしまったけど、男の人は私の様子を察してくれたのか、女の人2人に話しかけてくれた。


 私はホッとしたけど、また話が続く。


 どうやら彼女達はキャシーさんとエマさんと言うらしい、あと仮面の女の人はエロイーズって名前なのか・・・


 そんな事を思っていると、仮面の男の人が改めて私がこの街に来てから王命として何をしてどういった状況になり、この街を危険に晒して来たかを懇切丁寧に教えてくれた。


 その内容は、私が知らないことばかりなのに、私の名前でサムソンが行ったことで、私が悪者にされている。

 そんな内容ばかりで、私はサムソンへの怒りを覚えながらもそれ以上に恐怖した。


 勝手に名前を使われた所為で、色々な人に迷惑を掛けて、それが私の所為にされて、私が悪者にされて、罰を受ける事になる。


 それだけじゃなくて、私がやってないのに私が悪い事をやったことにされて責められて、色々な人に嫌われる。


 想像もしたくない程、恐ろしい。


 それでも仮面の人は私の恐怖を煽るように話し続け、私が泣きそうになっていると、キャシーさんが怒ったように「旦那様!悪ふざけが過ぎます!」と言って仮面の人を諫めようとするけど、仮面の人はそれでも止まらない。


「・・・だが、俺が昨日防がなかったらあり得た事だと思うんだがな?」


「それは・・・」


 キャシーさんもそう思っているのか、反論できない。

 その事が私の恐怖を更に煽って怖くなる。


「否定できんだろう?と言うより、そうなった場合、俺は率先してその話を広める立場なんだが、お前達も理解しているのか?まぁ、それ以上にキュルケ教とウェイガン教も率先して話を広めると思うがな?」


 仮面の人の言葉に私は彼が街を守る立場である事を理解する。


 彼は街を守る為に戦っている。だから街を危険に晒す私の事が嫌いなんだ。


 私を嫌っている彼が、私に何をするのか想像するだけで、恐怖に震えてしまう。


「言い方は悪いが昨日奴等の行動が成功した場合はほぼ確実に起こり得たことだ。

 それを阻止した俺はミーネの名誉とこの街を守った英雄とも言えるんだがどう思う?」


 そんな彼の続いた言葉に私はビックリしてしまう。



 私のミーネの名誉(・・・・・・)と街を守った?



「た、確かに、らく、旦那様の行動は英雄と言って差し支えないでしょう。

 旦那様が居なければミーネ様の名誉は地に落ちたであろうことも否定できません。

 でも、ミーネ様は子供なんですよ?!」


「子供だからこそだよ。

 王族なんて言う権力闘争の渦中に生まれた時点で権謀術数に巻き込まれない生活なんて望めない。

 望めないからこそ蝶よ花よと育てるのではなく、現実を知らしめ、己の立場の危うさを教え、その上で自衛できる力を付けてやらねばミーネは翻弄されるだけの道化にしかなれんのだぞ?」


 彼の言葉に、私は更に驚く。

 今まで誰も、何も、教えて貰えなかった。

 自分の立場が、本当はどういうものなのか、何をするべきなのか、知ろうともしなかった。


 そんな私の事を、この街を守る立場の彼が助けようと思ってくれていた。


「やはり旦那様はミーネ様のことをお考え下さっていたのですね」


 キャシーさんは彼の本心を見抜いていたのか、口元をニヤリと三日月の形に変える。


 その言葉に私は驚愕するしかなかった。


「・・・ちっ、余計な事を」


 そう言って少し顔を赤らめている彼の表情が、彼の言葉が、私を気遣ってくれている言葉であることを教えてくれた。


「ふふふふ、やはり旦那様は厳しくも優しい人ですね」


 キャシーさんが揶揄うように言うけど、私もようやくわかった。



 仮面の人は厳しいけど、優しいんだ。



「キャシー、お前も今日はミーネの鍛錬に参加決定だ。

 血反吐出るまで鍛えてやるよ」


 そんな事を思っていると、仮面の人は苦し紛れにキャシーさんに反撃したけど、キャシーさんは笑顔で返した。


「まぁまぁ、ありがとうございます。

 と言う事でエマ、今日のお仕事はあなたにお任せするわね」


 そう言ってキャシーさんは嬉しそうにエマさんに仕事をお願いする。


 そんな会話を聞きながら、私は仮面の人や女の人達を信用してみようと思った。







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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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