第150話 ミーネの試練 ①
感想ありがとうございます。
大変励みになっております。
ただ、時間が経つと返信した方が良いのかどうか葛藤して結局返信していないヘタレです。
すみません。
遅くなっても返信した方が良いのでしょうか?
今更?とか思われるかな。とか色々要らんことを考えてしまって・・・
屋敷から抜け出した後、気絶したミーネを連れて取り敢えず家に戻る事にした。
本当なら貴族屋敷に直行してもう少しミーネのレベルを上げたかったのだが、気絶してしまっては仕方がない。
それに冷静に考えてみると夜中に子供を寝かせないのもよろしくないだろう。
なのでミーネが気絶した時点で今日は色々と諦めることにした。
後、庭でミノタウロス達を引き連れていた女兵士二人は死なれるのも俺の精神安定上よろしくないので八つ当たりのように軽く凹って気絶させるとミーネと一緒に担いで塀の外へ出る。
死なれるのも気分は良くないし今から引き返して建物の中に放り込むのも面倒だからな。
まぁ、こいつ等が安全圏に出ても特に何もできないだろうし、中に戻る事も無いだろう。
中の連中からしたらこいつ等の姿が見えなければ勝手に死んだと思ってより行動が慎重になるかもしれない。
なのでこのまま放置で良いか。そう思っていると、凹った二人が身動ぎした。
・・・
思ったより早く復帰しそうだ。
こんな夜中に動き回られでもしたらボコポ達に迷惑が掛かりそうだな・・・
しばし考え、出た結論。
うん、面倒だ。
朝まで身動きできない様に縛っとこう。
そう思い二人の武装を剥ぎ取って縛り上げると近くの街路樹?に引っ掛ける。
これで身動きは出来ないだろう。
因みに剥ぎ取った武器防具は街路樹の脇に綺麗に並べて置く。
「これで良し!」
そう言って手を叩き、ミーネを担いで家へと戻る。
気絶したミーネを一旦自宅に連れ帰った際、迎えに出てきたのはエロイーズだった。
見知らぬ幼女を担いだ俺を見て驚きの表情をしたエロイーズであったが、すぐに詮索することはなかった。
俺は彼女に使っていない寝室に案内してくれるようにお願いをすると、彼女は頷き歩き出した。
そして案内された部屋のベッドに俺がミーネを転がすとエロイーズは優しくシーツを掛ける。
その手慣れた様子に一瞬見とれた俺はミーネと接触する際には顔を見られないように指示を出した。
そうすると彼女は「しばしお待ちください」と言って席を立つと部屋から出て行く。
そして少しすると目元だけを隠す仮面を付けて戻って来た。
「仮面なんてよく持っていましたね」
「視力を失っていた時に傷が醜いと言われて暫く付けさせられていたもので・・・」
そう言って彼女は言葉を濁した。
そう言えば彼女は・・・その境遇を思い出し、胸が罪悪感でチクリと痛んだ。
「申し訳ありません」
「とんでもございません。私は旦那様に救われた者でございます。謝罪の必要などございません」
その言葉に「すまない」と言いかけた言葉を止め、「ありがとう」と言い直す。
「いえいえ、それよりも旦那様。今回の事についてご説明をお願いいたします」
笑顔で返してきた彼女に暫し考えて返す。
「知らない方が良い事もあるのですが、それでも知りたいですか?」
「私は知りたいと思います」
「うーん、場合によっては命に係わる・・・と言うか、聞いた場合、私と一蓮托生になるんですけど・・・それでも?」
「はい、それでもです」
俺の脅しともとれる発言に仮面を付けたエロイーズは、笑顔ではっきりとそう声を発した。
「・・・肝が据わってますね」
降参と言うように両手を上げるとエロイーズは「ふふふ、ではお願いします」と説明するように促してきた。
俺は一息吐くと観念したように状況を説明し、この先の俺の行動についても説明する。
俺の話を聞いてエロイーズは驚きはしたが咀嚼するように状況を飲み込むと直にキャシーとエマも巻き込むことを提案してきた。
なので俺は彼女達にエロイーズと同じ覚悟があるのであればと言う条件を付けて許可した。
因みに彼女達は昼間の勤務なので今は就寝中である。
奴隷が主より先に寝てるのおかしくないかって?
おかしくないよ?
彼女達の仕事は基本的にお家の管理だから直接的に俺やその他のお世話をする必要が無い。
寧ろ奴隷達のトップとして家の管理を最優先にしてもらう為に雇っているのだ。
「わかりました。では明日の朝にでも彼女達に話しておきます」
「えぇ、よろしくお願いします。あ、それとミーネは明日から暫く鍛えますので基本的には動きやすい服装に着替えさせておいてください」
そう言って俺は自室へ戻り寝る事にした。
「さて、今日から貴様を鍛え上げる事にする。
喜べ、強くなれるぞ!まぁ、その代わり気を抜けば死ぬ。
なのでその覚悟で生き残れ!」
早朝の裏庭から俺の声が響く。
因みに早朝から鎧なんて着たくないので俺はベネチアンマスクの様な目元だけ隠すタイプのマスクを急遽付けている。
こんなマスクよくあったものだと疑問には思うが言葉にはしない。何となく嫌な答えが返ってきそうなので・・・
「い、いやぁ~」
涙を浮かべてミーネが泣き言を吐く。
「ならば今死ぬか?」
俺は剣呑な視線を向けてミーネに問う。
「し、死にたくありません!が、頑張ります!」
「よろしい。
ではまず体を解すとしよう。
俺と同じ動きをするように」
「・・・」
「返事はどうした?」
「は、はい!」
「返事をする時は背筋を伸ばして両足の踵を合わせろ!右手の指先を蟀谷に軽く添える!左手は体の側面に沿って真っ直ぐに下ろせ!」
「はい!」
「違う!こうだ!」
俺はビシッと敬礼のポーズをとる。
俺の姿に何かを感じたのか一瞬呆けたような表情をしたミーネが思い出したように俺の真似をする。
ふむ、悪くない。
「よろしい、では柔軟体操を始める」
「はい!」
と言う事で柔軟体操を始めたのだが、思った以上にミーネの体が硬い。
前屈で足先を掴めない。開脚も90度ちょいまでしか開かない。両手を背中側で組めない。
結論として、ミーネは俺と同じ動きが全くできなかった。
本人はいたって真剣にう~う~唸っているが、全くダメだ。
・・・
「貴様、子供のくせに体が硬すぎないか?」
「え?」
「周りを見てみろ」
ミーネの周りにはいつの間にかエロイーズを始めとした屋敷の従業員達が柔軟体操をしているが、皆俺と同様しっかりと前屈や開脚が出来ており、俺と同じ動きが出来ている。
まぁ、こいつ等もここに来た当初に俺が仕込んだので出来て当たり前なのだが、何人かはミーネと視線が合うとドヤ顔をしてこれでもかとアピールしている。
それを見てミーネが落ち込んだ表情をする。
「仕方ない、まずは股割りから始めるとしよう」
その言葉を最後にミーネの悲鳴が木魂し続けた。
「さて、朝の柔軟体操は終わりだ」
俺の言葉にミーネは涙と鼻水でグシャグシャになった顔に安堵の表情を浮かべる。
「いや、まだ鍛錬は始まってもいないぞ?
今やった体操は単なる準備運動だ。
これから毎日、俺の鍛錬が終わってもこれだけはずっと続けるようにしろ」
続く俺の言葉にミーネは絶望したような表情を浮かべる。
「慣れれば痛みはほぼない。と言うか健康な身体作りと言う意味では必須と言って良い程に重要な運動だ。
が、やめてしまうとまた体が固まるから怪我をし易くなるし、同じように体を解そうとするとまた痛みを伴うようになる。なのでしっかりと継続するように、わかったな?」
「は、はい・・・」
「声が小さいな・・・」
「はい!」
「よろしい、では朝食にしよう」
「はい!」
「まぁ、その前に顔を拭かねばな」
そう言って俺はミーネの顔をエロイーズが持って来たタオルで優しく拭くと、ミーネは茫然とした表情をする。
そうしてミーネの顔が綺麗になったところで二人を伴って食堂へと向かった。
さて、今日は一日ミーネのレベル上げに当てるつもりだ。
途中で倒れないようにしっかり食わせないとな。
そう思いミーネを見るが、表情が暗い。
・・・
うーむ、辛気臭い。
はぁ、仕方ない。
モチベーションを少し上げてやるか。
俺は仕方なく厨房へと向かった。
「ランドさん、すいませんが今から言う材料を出してくれませんかね?」
「え?旦那? 了解だ!」
一瞬戸惑った様子だが、直ぐに満面の笑顔でランドが返事をする。
「なんか気持ち悪い顔してますね?」
「失礼な!って旦那が来たってことは新作作るんだろ?」
その返事にそう言えばこう言う奴だったと改めて思い出す。
「まぁ、料理を作るのは作るんですが、非常に簡単なものなので既にある料理だと思いますよ。
いや、料理と言うよりおやつに近いかな?」
「うん?菓子に近いのか?」
「まぁ、作った方が早いので材料言いますね。
まず小麦粉と砂糖に塩、それから牛乳に卵と油をお願いします。
あ、後、レイモンを一つ取ってきてください」
「お、おぉ、了解!
えーっと、小麦粉、小麦粉っと・・・」
そう言ってランドが材料を集めている内に俺はボールやブライパン等の準備をする。
砂糖は高いが、高いと言って使わないんじゃ意味がない。
そうこうしている内にランドが材料を集め終える。
そこで俺は追加で重曹を取り出す。
「旦那、その粉はなんだい?」
「重曹です」
「重曹?」
「えーっと、面倒なんでその内に教えますよ」
そう言って重曹の入った小瓶をランドに渡す。
「使うと生地を膨らませる作用があります。ただ、これ自体に苦みがあるので使う際は少量を心掛けてください」
「ほぉほぉ、なんだよそれ、面白そうな素材だな。もっと教えてくれよぉ~」
おっさんに求められても嬉しくない。てか怖気が走るわ!
「そんな事よりランドはサラダを「それならシャーベットにやらせてるから大丈夫だ」」
仕方ないので俺は手早く材料を適量ボールに入れると一気に混ぜる。
因みにこの世界「エターナルプレイス」には撹拌器が無かったのでボコポにお願いしたらすぐ弟子に作らせてくれたので家にはある。まぁ、それ以外にも色々と調理器具を作って貰ったんだが、その際には「俺ぁ武器職人だぜ?武器を依頼しやがれ!」と言われたが、その後も無理を聞いてくれている。
因みに今は攪拌器をハンドルを回して使う手動のドリルみたいにできないか依頼中である。ボコポのお弟子さん、頑張ってください。
っと、話は逸れたがその間に生地も良い感じにできたのでフライパンを火に掛けて油を引くとお玉で生地を焼く。
暫くすると生地の焼ける良い匂いと共に生地が膨らみ始め、表面にも気泡が幾つも現れる。
その様子にランドは驚いた表情を浮かべるが無視だ。
さて、そろそろか。
そう思いフライ返しを生地の下に滑り込ませる。
よし、生地の下側は程良く焼き固まっているようだ。
生地とフライパンを引き剥がすようにフライ返しを小刻みに動かし、完全に離れたところで一気に生地をひっくり返す。
「よし!良い色だ」
焼き目のついた生地を見て俺は会心の出来に満足する。
後は裏面を焼けば完成だ。
ひっくり返した後も適度に膨らんでいく生地を眺めていると料理スキルのお陰かここだ!と言う予感が働く。
俺は素早くフライ返しで生地をフライパンから引き上げると皿へと移す。
「よし、出来た」
少し行儀は悪いが味見の為、出来立てのパンケーキを手で引きちぎる。
「あっち!あっち!あっち!」
そう声を上げつつ引き千切ったパンケーキの欠片を口へと放り込むと熱いがふわふわの触感があり、徐々に仄かな甘さが口内に広がる。おぉ、久しぶりに食べると美味いもんだな。
「あ、旦那ズルいぜ!俺にもくれよ~」
そう言ってランドも俺と同じようにパンケーキを手で千切ると口へと放り込む。
「むぐむぐ、ふむふむ・・・うーん、美味い。
このふわふわの触感はすげぇな。パンよりお手軽でこんなに柔らかい触感になるとは・・・
だが、パンとしては甘いけど、菓子としては甘みが足りないような気がするんな・・・」
ランドがそんな事を言っている。
まぁ、その通りなんだが、俺はあえて今回砂糖を少なめにしておいたのだ。
何故なら、今回はあくまでも朝食だからだ。
「ランドさん、メープルシロップとバターはありますか?」
「うん?あぁ、あるぜ」
そう言ってランドはメープルシロップとバターを取り出す。
「ありがとうございます」
そう言って俺は残っているパンケーキを二つに切り分けると半分にメープルシロップを塗り、残りの半分にバターを塗る。
片方にはメープルシロップの甘い香りが漂い、もう片方は焼き立てのパンケーキの上で溶けるバターの良い匂いが香る。
「食べてみてください」
そう言ってランドに差し出すと、ランドは最初の一口は味わうようにゆっくりと咀嚼したが、残りは一気に頬張った。
「旦那、こりゃ確かに菓子、いやデザートにもなりますぜ!」
満面の笑顔でそう言って来る。
「満足しましたか?」
「そりゃ、もう!」
「それなら残りは焼いて出して貰えますか?あと、ベーコンと目玉焼き、それにサラダとスープも付けてくださいね」
「わかりやした!ところで今日作ったこれってなんて言うんです?」
「パンケーキですよ」
「いやいや、別もんでしょう?普通のパンケーキはもっとこう、平べったくてこんなふわふわじゃねぇんだよなぁ」
ランドはそう言って苦笑いしながらもパンケーキを焼き始めた。
どうやらこの世界にもパンケーキはあるようだ。
まぁ、調理法は簡単だから誰でも思い付くんだろう。
食堂に戻るとエロイーズの代わりにキャシーとエマが待っていた。
ミーネは既に食卓に着いていたが、人見知りを発揮しているのか、どこかオドオドしている感じだ。
そんな感じで俺を見付けると助けを求めるような視線を向けてきたが、俺はそんなミーネを一旦無視してキャシーとエマに「おはよう」と挨拶をする。
「おはようございます。ら、旦那様」
笑いを含んだ挨拶に少々顔が引き攣るのを覚える。
仮面を付けているのが笑いを誘っているのだろう。
「キャシー、エマ、エロイーズから話は聞いているか?」
俺の口調の違いに少し驚いた表情をする二人。
「はい、私達は全てをお聞きしました」
・・・
「そうか。お前達を巻き込むことになった。すまんな」
「いえ、あなたに助けて頂けなかったら私達はどの道あのダンジョンで死んでいたんです。
寧ろ恩返しが出来ると喜んでいますよ」
「そう言って貰えるだけでも少し心が軽くなるようだ」
「「いえいえ」」
二人は可笑しそうに返事をする。
俺も普段通りの口調で話したいがミーネが居るので演技をやめられないし、ここで咎める事も出来ない。
くそぅ、なんか悔しい!
そんなやり取りをしつつ俺はミーネのいるテーブルに着く。
「遅くなってすまんな」
「え?いえ、だ、大丈夫です・・・」
ミーネは一瞬驚いた顔でそう言うが、直に下を向く。
「ふむ、まぁ、朝食まで少し時間がある。キャシー、エマ、この街の状況は理解しているか?」
「「はい」」
「では丁度いいからミーネにこの街の状況を説明してやってくれ。
王命によってどれくらい危機的状況に陥っているのかを分かり易く、しっかりと説明してやれ」
「わかりました。ではエマから説明させて頂きます」
「ミーネ様、エマと申します。お聞き苦しい内容とは思いますが、どうかよろしくお願い致します」
「は、はい」
そうしてミーネ達が来てからこの街にどのような危機が訪れ、それに誰が対処したのか、そしてこの街を更なる恐怖に落し入れたのが誰なのかをエマが微に入り細に入り説明する。
俺が思っているよりもしっかりと把握しているようで俺もエマの説明の正確さに驚いたくらいだ。
「・・・と言う事なのですが、何かご質問はありますか?」
エマは優しくミーネに告げるが、内容に衝撃を受けたのか、ミーネの顔色は悪い。
まぁ、内容的にミーネ達が来てから王命や騎士団・外から来た冒険者の所為で街中に凶悪な魔物が徘徊する事態に陥り、剰えそれを何とか対処したところで騎士団による反逆行為で街が崩壊する寸前だったのだ。
その代表にされたミーネはその事を一切知らされていない。
「まぁ、昨日、もし俺が気付かず騎士団がやらかした場合、ミーネ、お前はウェルズの街を滅ぼした王女として悪名を歴史に刻むどころか即処刑もあり得たんだが、どう思う?」
俺のその言葉にミーネは真っ青な顔になり震えだす。
「そ、そんな事・・・」
「もし、あのまま街にミノタウロス達を解き放った場合、サムソン達は口を揃えてこう言うぞ『ミーネ様の身の安全を第一に考え、最善を尽くしました』とな、そう言われた王はお前を守るかな?それともお前に責任を押し付け処刑するかな?」
俺の言葉に何も言えなくなるミーネ。
「まぁ、どちらにせよお前の名は悪名として世界を駆け巡る事になっただろう。もしかしたら童話として残ったかもしれないな?『昔々ゴルディ王国にはとても悪い王女様が居りました。その名はミーネと言い「旦那様!悪ふざけが過ぎます!」』・・・だが、俺が昨日防がなかったらあり得た事だと思うんだがな?」
「それは・・・」
俺を諫めようとしたキャシーだが、俺の反論に否定できない。
「否定できんだろう?と言うより、そうなった場合、俺は率先してその話を広める立場なんだが、お前達も理解しているのか?まぁ、それ以上にキュルケ教とウェイガン教も率先して話を広めると思うがな?」
俺が自身の立場と実際に動くであろう組織名を上げると全員が押し黙り、ミーネは震える。
「言い方は悪いが昨日奴等の行動が成功した場合はほぼ確実に起こり得たことだ。
それを阻止した俺はミーネの名誉とこの街を守った英雄とも言えるんだがどう思う?」
自分で英雄って言っちゃったけど、なんか恥ずかしい。
「た、確かに、らく、旦那様の行動は英雄と言って差し支えないでしょう。
旦那様が居なければミーネ様の名誉は地に落ちたであろうことも否定できません。
でも、ミーネ様は子供なんですよ?!」
自分で使っときながらなんだけど、英雄って言葉は恥ずかしいのでやめて欲しい。
っと、そうじゃなくて、何故かキャシーは感情的にミーネを擁護する。
いや、そうじゃないだろう?
「子供だからこそだよ。
王族なんて言う権力闘争の渦中に生まれた時点で権謀術数に巻き込まれない生活なんて望めない。
望めないからこそ蝶よ花よと育てるのではなく、現実を知らしめ、己の立場の危うさを教え、その上で自衛できる力を付けてやらねばミーネは翻弄されるだけの道化にしかなれんのだぞ?」
俺の言葉にキャシーがニヤリと笑う。
「やはり旦那様はミーネ様のことをお考え下さっていたのですね」
その言葉にミーネが驚愕の表情でこちらを見る。
「・・・ちっ、余計な事を」
「ふふふふ、やはり旦那様は厳しくも優しい人ですね」
「キャシー、お前も今日はミーネの鍛錬に参加決定だ。
血反吐出るまで鍛えてやるよ」
「まぁまぁ、ありがとうございます。
と言う事でエマ、今日のお仕事はあなたにお任せするわね」
そう言ってキャシーは嬉しそうにエマに仕事を押し付ける。
く、なんか負けた気がするが、まぁ良い。鍛錬に参加したことを後悔させてやる。
ふはははははは!
そんな事を話していると甘く食欲をそそる良い匂いがしてきた。
「お、飯が来たようだな」
俺の言葉に呼応するようにランドが入って来る。
「旦那!お待たせしました!
今日の朝食はいい出来ですぜ!」
そう言ってランドが俺とミーネの前に料理を並べる。
最初の頃はランドはコース料理のように順に料理を出そうとしていたのだが、俺はそう言った食事方法があまり好きではないのでデザート以外はテーブルに並べるようにお願いしている。
個人的には三角食べが好きなのだ。色々な料理を同時に楽しみたい。
なのでテーブルの上にはパンケーキにサラダ、ベーコンエッグにスープが所狭しと並べられている。
そしてパンケーキの横にはミルクピッチャーに入ったメープルシロップが添えられている。
「ランド、ありがとう」
「いえいえ、では」
そう言って退出しようとするランドを見送っていると、キャシーとエマの視線がこちらに突き刺さる。
どうやらパンケーキに興味津々のようだが、ミーネもパンケーキを興味深そうに見ている。
俺は視線を突き刺してくる二人を無視してミーネに話し掛ける。
「ミーネ、パンケーキは知っているか?これはパンケーキと言うんだ」
「パンケーキは知っていますが、すみません。私が知っているパンケーキとは大分違う気がします・・・」
先程から落ち込むような話ばかり聞いていたせいか、ミーネはすっかり落ち込んでいるようだ。
少々大人げない事をしてしまったかもしれない。
「ま、まぁ、これもパンケーキなんだが、多分ミーネが知っているパンケーキより美味しいと思うぞ?
ほら、こうやってメープルシロップを掛けて食べてみろ」
少しフォローしつつミーネに見せるようにパンケーキにメープルシロップを掛けて切り分けて食べて見せる。
うん。美味い。
ミーネは俺の様子を見て真似するようにメープルシロップを掛けて小さく切り分けてパンケーキを口に入れると表情が激変する。
「美味しい!」
本日初めての満面の笑顔を見せるミーネに内心少しだけ安堵する。
「そうだろう。これは俺が作ったんだ」
「「「え?!」」」
ミーネだけでなくキャシーとエマも驚きの声を上げる。
「なんでお前らまで驚くんだ?俺が料理をするのは知ってるだろうが?」
「い、いえ、その、見たことのない料理でしたので・・・」
「あぁ、さっきランドに作り方を教えがてら作ったからな、ここでは初めて作ったかもな」
その言葉に二人はミーネを置いてけぼりにしてそわそわし始める。
「どうした、二人とも食事は摂ったんじゃないのか?」
「た、確かに軽く頂いたのですが・・・その、私達も、もう少し食べたいかなぁ~なんて思いまして・・・」
俺はニヤリとして先程の意趣返しをする。
「ふはは、仕方ないミーネ、そこの残念なお姉さん達の為にベルを鳴らしてやってくれ」
「ふぁ、ムグムグ、はい」
そう言ってミーネはテーブルに置いてあるベルを鳴らした。
「ありがとう」
ミーネは俺のその言葉にこちらを呆然とした表情で見て来る。
「どうした?」
「いえ、ありがとうって言われたので、驚いちゃっ、驚いてしまって・・・」
「ここでは別に言い繕う必要はない。思ったように話せば良い」
「は、はい」
「しかし、お礼を言うのが不思議なのか?」
「はい、私は目下の者は従って当たり前と教わったので、礼を言う必要はないと言われてきました」
はぁ、なんてこった。面倒臭い。
「それは間違いだ。
確かに身分の違いによって言葉使いが変わる事があるのは認めよう。
だが、身分は違ったとしても同じ人間であることに変わりはない。
自分の要望に応えてくれた相手に対して感謝の言葉を返すことに何の問題がある?」
そう言われてミーネは考えるように視線が宙を彷徨う。
「確かに、感謝の言葉を使う事は問題無いと思います。
でも、それならなんで私は礼を言う必要が無いなんて言われたのかな・・・」
「恐らくそれを教えた人物は傲慢な人間だろうな。
自分より身分が下の者を見下すような奴だったんじゃないか?
そうだな、そいつは侍女や付き人、メイドなんかには命令口調だったんじゃないか?」
俺の言葉を受けてミーネが思い出そうとしているのか視線が上に向けられる。
「確かに、言われてみればそんな感じでした。
私には笑いかけてたけど、サーラ、侍女には冷たい感じがしました」
「やはりか、そう言った人物は信用できない者が多い。
もしそう言った人物から助言を受けた場合は疑った方が良いぞ。
真に受けるとひどい目に遭うからな。
俺も昔騙されて酷い目に遭ったことがある。
まぁ、きっちり報復してやったがな」
そう言った俺の表情を見てミーネが固まった。
「ま、まぁ、そういうことだ。
さて、辛気臭い話はもういいだろう。食事を楽しもう」
「は、はい!」
そう言ってミーネは美味しそうにパンケーキを頬張った。
そんな感じで話が途切れた頃、タイミング良くランドが戻って来る。
「旦那~、何か御用で?」
俺はキャシー達のことを思い出し、ランドに向き直る。
「あぁ、そこの食いしん坊二人がパンケーキをご所望でな。
悪いんだが、二人分追加で用意してくれないか」
そう言ってキャシー達の方をチラッと視線を向けてニヤリと笑う。
「「ちょっと、旦那様?!」」
キャシーとエマは食いしん坊と言う表現が痛くお気に召したようだ。
「はは、了解しやした!」
「よろしくな!」
批難の視線を向けて来る二人を無視して俺はランドに良い笑顔で伝えた。
「さて、じゃぁ二人共座ってくれ」
「は、はい」
そう言って少し恥ずかしそうに席に着く。
そして暫くしてパンケーキが届くと食卓には色々な花が咲いた。




