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145話 それぞれの行動

 日がとっぷりと暮れた頃、俺は黒い鎧を着てサムソンの屋敷の塀の上にいた。






 サムソン達を隔離してから一週間。


 その間、サムソン達にはこれと言った動きはなく、大人しくしている。


 俺が意図的に隔離したので、これ以上放置して暴発されても寝覚めが悪い。


 俺の怒りも奴等の隔離と邪魔をした冒険者ギルドや商業ギルトの騒ぎもあって大分下がっている。


 そうなると元来の小心者の心が俺に子供が中にいる事を思い出させた。


 確か、ミーネとか言う王女だったかな。

 今回の件は精神的外傷(トラウマ)になるかもなぁ・・・


 まぁ、王女なら()が蒔いた種だ。

 恨むなら自分の親を恨んでもらおう。


 王の判断ミスでウェルズの街が崩壊しかけたのだ。


 ならばその身内が被害を被ったとしても王の責任となるのは自明の理と言うものだ。


 娘が精神的外傷を負うのも仕方ない出来事だ。


 まぁ、小心者の俺の中では元々見殺しにすると言う選択肢はないのだ。


 ミノタウロス包囲網は少し怖い思いをして反省させる程度の意味しかなく、ミノタウロスに関しても手を出さなきゃ反撃を受ける事もないのだ。


 大人しく亀のように縮こまって只々反省していれば良いだけのこと。

 もし隔離状態でも問題を起こすようなら死なない程度に残飯でも投げ込んで隔離期間を延長する。


 そんな事を考えつつ時々様子を見ていたのだが、幸いこの7日間、サムソン達には何の動きもなく奴等はようやく反省したのだ。


 そして本当の意味でミノタウロス達が如何に脅威であるかを理解したのだろう。


 そう判断した俺はサムソン達の解放に向けて行動を起こすことにした。


 まぁ、身バレするのは嫌なので黒鎧で正体を隠しているけどね。


 ただで開放するのもあれなので3日程かけて徐々にミノタウロス達を駆除して行くことにしよう。




 さぁ、始めるぞ。




 俺は気合を入れて塀から敷地内へと飛び降りようと身構えると、建物から一条の火線が足元に飛来し、轟音と共に足元が崩れて俺は塀から落下した。











 サムソンは屋敷の執務室で一人頭を抱えていた。


 デブニー副長からの提案は正直酷いものであった。


 しかし、ミーネ王女を含む屋敷に取り残された者達にとっては、現状を打破する方法として最も効果的であると断言できる内容ではあった。


 しかし、それは王族・貴族としての矜持を、名誉を、著しく毀損する行為であった。



 そもそものデブニーからの提案は単純なものだ。



 騎士団の魔術師が屋敷を囲っている塀に向かって攻撃魔法を放ち穴を開ける。


 その穴からミノタウロス達が出て行くのを待つ。


 もし待っても出て行かない場合は騎士団から囮を使ってミノタウロス達を屋敷外に誘導し、その後警戒しつつウェルズの街から離脱し、王都へ帰還する。



 それだけの事だ。


 だが、これは真面な王族や貴族・騎士団にとっては受け入れ難い行為であった。



 基本的な前提として王侯貴族は民を守るものでる。


 命を賭して守るからこそ特権が与えられ、民に対しても我儘が許されている。


 民は弱い。


 弱いからこそ強き者に阿り、税を納めて庇護下に入る。


 そして命を賭して民を守るからこそ王侯貴族は(とうと)ばれる。


 今回デブニーが提案した内容はウェルズの街にミノタウロスと言う明らかな脅威を民を守るはずの王侯貴族が自分達の命惜しさに解き放つのだ。


 つまり、王侯貴族(国家権力者)の力の象徴である騎士が、守らなければならない民を恐怖のどん底へと己の手で叩き落すと言う、騎士として唾棄すべき行為であった。



 サムソンはその事実に思い悩む。


 騎士の矜持を捨てデブニーの提案を実行するか。それとも騎士の矜持を胸に死を選ぶか。


 私一人であれば迷わず死を選ぶ。しかし、ミーネ様をお守りするのが私の役目。


 ミーネ様の為を思えば私の矜持など・・・くぅ。


 未だ回答は出ない。


 そうして一人思い悩んでいると、執務室の扉がノックされる。


「誰だ」


 声を掛けると返事が返って来る。


「カタリナです。不躾とは思いましたが、中々サムソン様がお出でにならないので伺わせて頂きましたの」


 ・・・


「わかった。入り給え」


 若干の苦手意識からか、間が空いてしまったが入室を許可する。


 「それでは失礼しますわ」声と共に姿を現したのは商業ギルドのギルド長のカタリナ=スフォルツェンドだ。


 彼女は笑顔ではあるが、しっかりとこちらの顔色を窺うように視線は鋭い。

 いったい何の用なのだろうか。


「さて、何の用だろうか?」


 私の問いかけに彼女は眉間を寄せ、思わせぶりに話し始める。


「実はデブニー様から現状を打破する策についてお聞きしまして・・・」


「はぁ、あのお喋りが!」


 あの厄介者の顔を思い出し、悪態をついてしまうが、カタリナは少しビクついただけでそれ以外は笑顔を張り付けたまま表情にも出さなかった。


「その件につきまして実行されないのはどうしてなのかと思い、こうして伺わせて頂きました」


「それはどういうことだ?」


 デブニーの作戦を実行することを当たり前のように捉えているカタリナの言葉に疑問を返す。


「現状この屋敷は高い塀に囲まれて隔離されています。

 その上恐ろしい魔物が敷地内を闊歩しており、屋敷から出る事すらできない状況ですわ

 それなら、少しでも私達が助かる為の努力をするべきではないのでしょうか?」


「確かに我々の生き残りを考えるのであればその通りだが、デブニーの案では問題もある。

 我々が屋敷の塀を壊してしまえば街中にミノタウロスを解き放つことになってしまう。

 我々騎士は民を守るのが役目。

 その我々が民を危険に晒す行為をすることは出来ない」


 表情が強張るのを自覚しながらもなんとか答えるが、カタリナはこちらに驚いた顔を向ける。


「あら、ですがサムソン様は近衛騎士。第3王女のミーネ様を守るのがお役目ではありませんか?」


 サムソンは思わず顔を顰めるが、カタリナは話し続ける。


「それにウェルズの街に魔物を解き放つと言われますが、ウェルズでは件の貴族屋敷だけでなく貴族街そのものを既に隔離しておりましたわ。なので貴族街にあるこの屋敷の塀を打ち壊したとしても住民への被害は無いに等しいのではないでしょうか?」


 カタリナは一旦言葉を区切ってこちらの様子を伺い、そして憐れむような表情で言葉を続ける。


「それよりも実は既にウェルズの街は放棄されており、この屋敷内に閉じ篭って死んでしまった場合、主君を妄言で死なせた愚か者として死後、末代まで語り継がれてしまうのではないでしょうか?」


「そ、それは?!」


 カタリナの語ったことを想像するだけで身震いがした。


 カタリナの言った通り、もしそうであれば、俺自身だけでなく、ここに籠っている第3騎士団の騎士や兵士の名誉が穢されてしまうし、騎士の中には貴族出身者もいる。であればその貴族家も・・・


 想像し得る最悪の状況に囚われ思考の海に飲まれそうになるのをカタリナの言葉が遮る。


「サムソン様。

 正しい判断をお願いします。

 ミーネ様の為にも、サムソン様自身の名誉の為にも・・・」


 そう言ってカタリナは頭を下げる。

 そして彼女の言葉に囚われたサムソンは暫く震え、深い溜息をくと口を開いた。


「わかった。

 デブニーの策を実行する。

 決行は明日の夜としよう」


「ありがとうございます」


 そう言うとカタリナは執務室から退室した。


 そしてサムソンはデブニーと第3騎士団の主だった者達を呼び実行に向けて準備を進める。






 そして明くる日の深夜。



 サムソンは作戦を実行に移す。



「では、これより作戦を開始しろ」


「了解しました」


 サムソンの静かな宣言に略式礼でデブニーが返答し、魔法兵に指示を出す。


「全魔法兵に告ぐ。

 目標は前面の壁!

 詠唱始めぇ!」


 魔法兵の詠唱が終わると、デブニーの合図により攻撃が開始された。











 俺は何とか防御姿勢を取ろうと空中で必死に体勢を整える。


 そして着地と同時に前回り受け身よろしく地面を転がる事で着地の衝撃を逃しつつ敵の攻撃範囲から離れることに成功する。


 そして素早く立ち上がると何があったのか辺りを見回し、状況を理解する。


 恐らく第二波であろう魔法攻撃がそれまで楽太郎が立っていた塀に向かって放たれ、第一波で崩れて穴の開いた塀が更に爆発した。


 爆煙が収まると、そこにはミノタウロスでも余裕で通れそうな大きな穴がポッカリと開いていた。



「はぁ?」



 ・・・



 一瞬呆然としてしまったが、次の瞬間には何が起こったのか。そしてサムソンは何を目的としてこんなことをしたのかをを理解すると同時に俺の頭が沸騰する。


 「ありえねぇ!!」という罵声が自身の咽喉から吐き出される。


 それとほぼ同時に俺は「無限収納」から小型爆弾(リルボム)を仕込んだ小石を掴み取ると怒りをぶつけるようにサムソンが居るだろう屋敷の1階に向かって投げつけ、屋敷の壁に小さな穴が開くと同時に轟音が響き屋敷の壁が崩れる。


 それでも収まらない怒りをぶつけるように2度、3度と繰り返して屋敷の壁の彼方此方に穴を開けていると爆音を聞きつけたのかミノタウロス達が寄って来たので塀の穴から遠ざけるように殺気を放ち、塀とは反対にある屋敷の方へと追い返す。


 ミノタウロス達が遠ざかる様子を確認し、俺は慌てて屋敷の塀に空いた穴を土壁(アースウォール)で塞ぐ。


 速度重視の為、多少(いびつ)になってしまったが穴は塞がったので取り敢えず何とかなったと安堵の息を漏らす。




 しかし、俺の考えは甘かったようだ。


 奴等には反省と言う言葉が存在しないのだろう。


 それともミノタウロス達が恐怖の対象であると理解していないのか?


 いや、テイルの話では直接戦っている奴等もいた筈だ。恐怖を感じていない訳が無い。

 むしろ強く恐怖を感じたからこそ街の住人を犠牲にしてでも助かろうとしたのか?


 ・・・


 どんな考えがあったにしてもろくでもない奴等だ。


 自身の行いに対してその報いを受けるのも致し方ない事だろう。


 何より俺自身、腹が立つしむかつく。


 俺は穴を塞いだ塀の前で仁王立ちになって屋敷の中にミノタウロス達が入って行くのを見送り続けた。







 俺が小心者で見殺しにするしない云々とか言ってたが、すまん!あれは嘘だ。


 屑は死ねばいいと思った。


 ・・・・








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小説家になろう 勝手にランキング
ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
― 新着の感想 ―
[一言] 王族と貴族とろくでなしの商人が死ねばすこしは風通しとか不正腐敗とか賄賂文化などがなくなり世界が良くなりますかねえ。 それにしても、貴族も外国とつながってそうな商人ギルドのカタリナもろくでなし…
[良い点] 更新ありがとう御座います♪ やっと馬鹿達にざまぁが開始されて、ゲスいですがよっしゃ〜と思いました。 ミーネも幼いといっても王族ですから、権利には義務がつくと云う事で(笑) サムスンも無知は…
[一言] コレも町の住人に伝わってヘイトが天元突破するんだろうな
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