表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/199

第143話 水面下

 とある酒場の扉を開けて一人のドワーフが入ってきた。


 彼は暫く店内を見回すと目当ての人物を見付けたのか小走りで目的地へと向かった。


「おい、聞いたか?」


「何をだよ」


「昨日貴族街に魔物が出た件だよ!」


「あぁ、その件か。

 聞いたぜ、何でも王都から来た野郎が悪魔のダンジョン攻略が短縮できるって言ってダンジョンに開いた穴から潜ろうとして失敗した奴だろ?」


「そぉ~そ、その件だ」


「知ってるよ、それより先に座れよ」


 そう言って座っていた男は杯を傾ける。


「お、おぉ、そうだな」


 そう言うともう一人の男も向かいの椅子を引いて座ると手を上げる。


「お~い!こっちにエールとつまみを1つ頼むぜ!」


 ウェイトレスの返事を聞くと改めて向かいの男に視線を向ける。


「それなら冒険者ギルドのギルド長が捕まった件はどうだ?」


「はぁ?」


 盃を傾けていた男は思わず聞き返してしまったが、男のやや大きな声は周りで飲んでいる者達の耳にも入っていたようで、静かに周りの耳目を集めていた。


「お?その顔は知らねぇようだな!」


 そんな事をのたまう男は周りの反応を気にすることもなく、相方の反応に気を良くしてニヤリと顔を歪めて得意気に話し始めた。


・・・・・・


「なんだよ。ってこたぁ、そもそも街が危険に晒されたのはサントゥスとカタリナの野郎共の所為かよ!

 しかも悪事の隠蔽をしようとして本当に街を救ってくれた恩人を殺そうとするなんて不逞ぇ野郎共だ!」


 話を聞いた男が憤り盃に残った酒をグイッと呷る。


「姉ちゃん!エールもう一杯!」


 その反応に「だよな」と相槌を打ちつつ男は更に続ける。


「しかもな、実際その貴族屋敷を警備してたのもその恩人が個人的に雇った冒険者とキュルケ教とウェイガン教の神官達だし、危険な魔物だらけの場所からの攻略事態危険だって散々忠告していたそうだぜ」


「なんだそりゃ、普通は衛兵とか冒険者が警備するんじゃねぇのか?

 つくづく役に立たねぇ野郎共だな」


「そうなんだよ。こんなことになってんのに衛兵は貴族街の入り口までしか警備してねぇのよ。

 一番危険な貴族屋敷を警備してんのは恩人が雇った冒険者とキュルケ教とウェイガン教の神官達だし、逃げた冒険者達に壊された塀を命がけで補修したのはヤコボ親方達職人ギルドの精鋭って話だ。

 王都から来た悪魔のダンジョン攻略するってイキってた奴等なんか魔物が出たら我先にと逃げ出して貴族街の安全な屋敷に引きこもって街の防衛すらしなかったらしいぜ」


「つくづく役に立たねぇ野郎共だぜ!

 そういやラグン子爵様はなにしてんだ?」


「その役に立たねぇ奴らの頭の近衛騎士サムソンとか言う奴の言いなりらしいぜ。

 まぁ、ラグン子爵様は昔から保身第一の事なかれ主義であてになんねぇからな。

 下手したら街から逃げるんじゃねぇか?」


「揃いも揃って俺たちから税金を搾り取ってるくせにいざって時には真っ先に逃げるなんてなぁ、

 そんなのがこの王国の貴族や騎士だってんだから世も末だぜ・・・」


「商業ギルドもギルド長がカタリナになってから揉め事も増えたしよぉ~

 今回みたいにあちこちで余計な事吹き込んで碌でもないことしやがるしよぉ~

 あぁ~腹が立つよなぁ~」


「お?

 お前もなんかあんのか?」


「あぁ、実はなぁ~」


・・・・・・


 こうしてウェルズの街の夜は更けていく。






















 そうして一週間が経った。


 その間俺は家でコーラ作りの研究をした。

 中々理想の味にはならず、やはり手持ちの材料では難しいようだ。

 色付けのカラメル作りには何度も失敗してランド達に泣かれたが、何とか材料が残っている間に完成させることができたのでカラメルも早速ドリンクサーバーに登録した。


 完成品については料理人達に味見だの作り方だのと色々質問されたので、序でにプリンの作り方も教えておいた。


 そんな感じでコーラ作りの研究や日々の食生活の向上に励むことが出来、中々に充実した日々だったが、その中でもランドが獲物の解体ができる事を知れたのが一番の収穫だったかもしれない。


 知らなかったことだが、この世界の料理人は大抵解体作業ができるらしい。

 なので肉屋のお姉ぇ店長に断られた事を聞いてみると『場所の問題じゃねぇですかね?解体にゃぁ水捌けのいい場所と綺麗な水がそれなりに必要になるんでねぇ』なんて言われたので自分の勘違いに気が付いた。

 てっきり解体する技術が無いと思っていたが、技術があっても場所が無いと言う事だったのかと。


 話が逸れたがランドのお陰で無事牛肉(ミノタ肉)をゲット出来た。

 そしてランドは今裏庭で只管ミノタウロスと格闘し続けると言う苦行に挑んでいる最中だ。

 その裏で俺は他の従業員に料理を教えていたので興味津々のようだったが、お肉確保を厳命したので恨めしそうな視線で睨んできた。


 なので「肉が十分確保出来たらみんなの料理にも肉が出るんだがなぁ~」とわざとらしく他の従業員に聞こえるように零すと手の空いている従業員が良い笑顔でランドの解体作業を監視するようになったのでランドが手を止めると叱責が飛ぶようになった。


 苦情は一切受け付けないので俺に恨めしそうな視線を送るのはやめてもらいたい。


 そんなランドの感情とは裏腹に従業員の食事にも牛肉を出す事が出来ているので従業員達のランドに対する評価はかなり上がっているようだ。


 他にも悪魔のダンジョンで手に入れた木々を木材に加工してもらう交渉をしたり、次のダンジョン攻略に必要そうなものの買い出し等、細々とした作業をしたり、インディとメルと遊んだりしていた。


 また、メルはメープルシロップが毎日食べられるので最近はご機嫌のようだ。


 インディも散歩や狩などで遊ぶ機会が増えたのでここ数日は機嫌が良い。

 ただ、人の顔を舐めようとするのは勘弁してもらいたいのだが・・・


 一応日課として壁を修復中の屋敷の様子を確認していたが、特に問題はなく急ピッチで進められたので4日で壁の修復が完了しており、その後もミノタウロス達が外に出るようなことは無かった。


 そんな感じで俺の生活としては平穏そのものであったのだが、ウェルズの街の雰囲気は大分変って来ていた。



 それまでの活気ある喧騒に包まれていた街ではなく、刻々と険悪な雰囲気にのみ込まれて行くような剣呑な雰囲気漂う静かな街へと変貌しつつあった。



 その主な原因はいくつかあるのだが、一つは冒険者ギルド長のサントゥスが殺人未遂で未だに牢の中にいる事。

 しかもその内容がウェルズの治安維持に善意で協力していた者に対しての犯行の上、現場に職人ギルドのギルド長を始めとした各神殿勢力の実力者達が居た事もあり、言い逃れも出来ない状況でその前後にしでかした失態も相まって冒険者ギルドそのものの進退も極まっているらしい。


 その結果冒険者達に向けられる街の住人の視線は冷たいものとなっており、冒険者達は全員肩身の狭い思いを強いられている。


 また、商業ギルドも同じような状況だ。

 商業ギルドのカタリナが何故か不在らしく、(おさ)不在の状況は冒険者ギルドとは変わらないが、その隙を突くようにマルコム等の地元の商会が結託して今回の商業ギルドの失態を(あげつら)い、カタリナの地盤を揺るがしたようだ。

 その勢いもあってか、カタリナがこれまで行ってきた不正も内部の協力者から次々暴露され、カタリナ肝煎の商会や役職者が次々と更迭される等、こちらもかなりごたついている。


 更にその内容が噂として街中に流れた為、こちらも住民からの視線は厳しいものになっている。



 その逆に住民からの評判が上がっているのが職人ギルドと宗教関係者・それと商人ギルドと対立した商会等だ。

 こちらは単純に街の危機的状況に率先して対応し、問題が起きる前から再三の警告も行っていたことが知られて(噂を流して)おり、街中の評判が上がっている。


 個人的には宗教関係者の評判が上がる事に何も感じないわけではないが、街の人々の心の支えになっているのも事実なので極力考えないようにした。



 そんな感じで街の中での組織間の勢力図は大きく傾きつつある。


 そしてそれに伴い、宗教勢力や職人ギルドからの再三にわたる警告を無視し続けた国や街の統治者であるラグン子爵への不信や不満がすごい勢いで吹き上がっているらしい。


 ボコポに聞いたんだが、元々ラグン子爵って自己保身第一の事勿(ことなか)れ主義の人らしく非常に腰の重い人物との事。

 今回の件は王家の勅令をこれ幸いと静観していたのだろうが、その所為で自己の評判が急速に落ち込んでいる。


 元々大した評判もない人物らしいが、評判が落ちてマイナスになると言うのは貴族の面子に関わる大問題らしく、数日で広まった噂に危機感を募らせたのか重い腰を上げて王都にこれ以上街の被害を広げないように直談判をしに行くらしい。


 なんでそんな話を知っているかと言うと、直談判云々の話が出る前にモニカやボコポがラグン子爵から地下通路に開いた穴を塞ぐことが出来るのか相談されたらしく、話が俺にまで来た。


 またその際、単に『塞げる』と答えると『塞ぎに行けるならそこから攻略ができるだろう?』なんて返されると思ったので『地下通路の入り口を土砂等で埋める事で魔物の出現を防ぎ、街を守ることができる』と伝えた。


 つまり、地下通路の奥までは行けないが穴は塞ぐことが出来る事を伝え、王家が考えているダンジョン攻略の短縮策は不可能であることも遠回しに伝える。


 まぁ、これまでの経緯を考えると遠回しな表現を理解してもらえるかは甚だ疑問ではあるが直接的な表現では不敬罪とかになりそうなのでそのこともボコポには伝えた。


 ラグン子爵に対する回答はしたので後はラグン子爵の交渉力次第だろう。


 まぁ、そんなことより個人的には街が危機的状況に陥っている時に統治者のラグン子爵が街から離れるのは如何なものかと思ってしまった。


 街の住人からすれば王都へ直訴すると言う言い訳をして街から逃げた様にしか見えない。


 統治者であればそれこそ現場で指揮を執る事で支持を集める事も出来るだろうにと思うのだが、まぁ、ラグン子爵の本心が何処にあるかは俺にはわからないし、正直ラグン子爵がどうなろうがどうでもいいので突っ込むことはしなかった。








 俺は夕食を済ませ、夜空を見上げる。

 そろそろ中の様子を見に行くか。


 俺は自室へと戻ると黒い鎧を『無限収納』から取り出した。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


小説家になろう 勝手にランキング
ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
― 新着の感想 ―
[良い点] 好きな小説なので続きが読めるの嬉しい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ