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第142話 ボコポの根回し

感想読ませて頂いています。

モチベーションにもなっていますが、定期投下は難しいのでご勘弁を<m(__)m>


返信はこれから出来たらと考えています・・・


 疲れる朝をやり過ごした俺はゲルドを連れて貴族屋敷へと向かい、ヤコボ親方にゲルドを再会させた。


 ヤコボ親方は顔をクシャリと歪ませて喜んでいた。

 また、ゲルドも頭を下げつつ涙を流していた。


 そんな二人を眺めているとヤコボ親方にゲルドの右腕について聞かれたので魔道具で補っていると伝え、ゲルドの仕事については魔道具の耐久テストも兼ねているので特別扱いをしないようにお願いして使ってもらえる様に伝えた。


 警備に就いていたケイブリスに異常がないかを確認し、何かあったらすぐに俺に連絡するように伝えてその場を後にした。












 さて、次はどうするか・・・


 本来であれば家の管理を回せるようにしたので悪魔のダンジョン攻略に行く予定だったのだが、昨日の騒ぎで身動きが取れなくなってしまった。


 自宅の壁の補修は危険と隣り合わせなので念のため街に残っておいた方がいいだろう。

 ダンジョン攻略に出て知り合いが死にました。では寝覚めが悪いし後悔する。


 それに貴族()商業ギルド()冒険者ギルド()にそれ相応の報いを受けさせ、その上で身動きが取れないように牽制もしておかないと何をされるか分かったものではない。


 はぁ、仕方ない。


 今日はランドに料理を仕込むとしよう。

 取り敢えずドミグラスソースにフライドポテトに唐揚げの作り方を伝授して山ほど作らせるぜ!




























「あー、すまんがモニカは居るか?」


 キュルケ神殿の入り口にいた顔見知りに声をかけると、丁度執務室にいるとの事だったので俺はそのまま執務室に進むことにする。


「ちょ、ちょっとボコポさん?!待ってください。御用であれば私がお呼びしますから」


 一瞬驚いた表情になるが直に俺を穏便に止めようとする。しかし俺にも急ぐ事情があるので止まってやれんのだ。


「すまんが急いでんだ。お、そうだ。お前さん序でだからトッチーノが居たらモニカの執務室まで連れて来てくれ!その方が話が早い」


 俺は返事を待たずにずんずんと神殿の中を進んでいく。


 そんな姿を見て諦めたような表情で彼女はトッチーノを呼びに行ってくれた。


 神殿内をしばらく歩くとモニカの執務室に着き、一応ノックしてから扉を開ける。


「な! ボコポのオッチャン?!」


「よう、モニカ! 面倒事が起きたんでちぃっと手ぇ貸せや」


 俺の愛想笑いに驚いた表情から一変、嫌そうな顔をするモニカ。


「まぁ、面倒ではあるが話を通しておいた方が良いと思ってな。

 お前さんだけだと心配なんで今トッチーノも呼んでるから少し待ってくれや」


 そう前置きするとモニカの顰め面がニタリとした表情に変わる。

 面倒事を全部トッチーノに押し付けるつもりにでもなっているんだろうな。

 正直、俺から話す内容はこの街の勢力図が一変しかねない程の内容なんだからトッチーノだけでは絶対に収まらないんだが、今はそっとしておこう。


 取り敢えずトッチーノが来るまではモニカと世間話をして待つことにする。


 序でに神殿の最近の動きも聞いとくか。


「そういや、最近お前ぇ等は何やってんだ?」


「何の話よオッチャン?」


「いや、悪魔のダンジョン攻略とか、街の警備とかだよ。

 治安を守るだけなら衛兵でも良いが、ミノタウロス相手じゃどうしようもないだろ?

 その辺お前ぇ等キュルケ教やウェイガン教はどう対応してるかと思ってな?

 ほら、昨日は王都から来た近衛兵達がバカやったせいで大変な目に遭っただろ?」


 そう言うとモニカは奇声を上げて呻いた。


「昨日なぁ・・・本当に馬鹿をやってくれたもんだよ。

 お陰で私は昨日から寝てないんだから!」


 そう言って机を叩くと愚痴と共にモニカは色々と吐き出した。



 愚痴が8割を超えるモニカの話を要約するとキュルケ教とウェイガン教は小康状態を保っていると判断し、悪魔のダンジョン攻略と各自のレベルアップをこれまで以上に重要課題と捉え、ダンジョンに潜る事が最優先と考えていたらしい。


 そして準備を進めていた所に昨日の出来事が発生した所為で計画はとん挫して白紙に戻ったと言う事らしい。



 只でさえ街中に魔物が発生していると言う事で不安を覚える住民が神殿にお参りに来る事が増えていたのに、それを助長するような出来事が昨日起こってしまい、今後さらに増えるだろう街の住民への対応を昨日から練っていたらしい。


 それと共にラクの貴族屋敷の警備体制や貴族街に散った魔物の討伐漏れが無いかの確認。

 それらに回す人員の確保も頭の痛い問題の一つとなっているらしい。


 なにせラク達以外にミノタウロスを倒せる人材がいない。


 ラクは別に隔離したミノタウロス達以外は全て倒したと言っていたが、キュルケ教としてはそれを鵜呑みにして万が一があっては堪らないとのこと。


 なので独自に確認が必要となったらしいが、見付けても倒せない魔物が相手なのだ。

 もし討伐漏れの魔物を発見してもキュルケ教では討伐が難しい。


 発見した場合の対応についてどうするのか、そもそもそんな危険な相手と対峙する可能性があるのだ、参加させる者の実力はどの程度の実力を最低限の目安とするのか?等々、一事が万事そんな感じで話が遅々として進まなかったらしい。


 モニカとしては志願制にして其々の自主性に任せるのがシンプルで良いと思ったらしいが、トッチーノ等から無駄な犠牲は避けるべきだの犠牲が出た場合、キュルケ教の責任問題が問われてしまう等の反対意見が多くてとにかく大変だったとの事だ。


 考えるよりも先に体が動くモニカにとっては地獄のような時間だったんだろう。


 そんな不毛な会議についての愚痴が8割、後はトッチーノへの不満が時々挟まれていた。

 モニカも大分溜まってるようだ。


 俺はそんな話に適当に相槌を打っていると、リディアーヌやルイン、エリーと言ったキュルケ教の主だった者を連れてトッチーノが現れた。


 これでようやく本題に入れる。

 そう思うと同時にこれでモニカの愚痴から解放される事に少しホッとした。


 俺は街の現状についての話、第3王女ミーネ(サムソン)・領主・商業ギルド・冒険者ギルドの無謀な行動、街の為に今後職人ギルドとして(・・・・・・・・)どう動くか、それについて協力してくれないかと言った事を話した。




・・・・・・




 俺の話が終わると静寂が場を支配したが、暫くするとモニカが声を上げる。


「私としては協力した方が街の為になると思うんだけど、皆はどう思う?

 キュルケ教としてどうするべきか、率直な意見を頼む」


 モニカの言葉に最初に賛同したのはリディアーヌだった。


 他にはトッチーノが商業ギルドへの対応と冒険者ギルドへの対応について細かい質問をしてきたが概ね協力してくれる方向で話は進んでくれた。


「オッチャン。その話に乗るのは良いんだけど、バージェスには話したん?」


 その名前に俺は顔を顰める。

 バージェス=オラクル。ウェイガン教の神殿長だ。


 バージェスは中々にできる(空気が読める)奴でラクが宗教関係者と関わる事を嫌がると知ったら、積極的な接触を避けた程だ。


 まぁ、その代わりに俺とは密に連絡を取るようになったんだが、その所為で数日前に俺が黒鉄(ブラックアイアン)製の鍛冶道具一式を持っていることがバレた。


 正直、自分の工房内だった事もあって油断しちまったが、まさか工房に踏み込まれるとは思わなかったぜ。


 奴はオレの道具を見るなり飛び付いて確認しやがった。


 奴はウェイガン教の信仰厚き信徒であり立場ある神殿長と言う肩書も持っているが、俺と同じで根は鍛冶狂いの職人だ。

 当然どうやって俺が黒鉄を手に入れたのかとしつこく聞いてきたがラクとの約束もあり教えられない。

 だから「神のダンジョンでコツコツ貯めた」と言ったんだが、嘘と断じて信じやしねぇ。


 まぁ、実際嘘なんだが、それから面倒な事になった。


 顔を合わせる度、事ある毎に俺がどこで手に入れたのかとあの野郎はしつこく聞いてきやがる。


 正直今は顔を合わせたい相手じゃねぇ。


 だが、幸いな事に昨日から一週間程は顔を合わせなくて済む事になっている。


 街で唯一の黒鉄製の鍛冶道具がある工房を昨日からバージェスが使っているのだ。


 使用期間は1週間。


 1週間で完成しなくても使用期間の延長は出来ない。

 また使いたいなら予約して半年待ちだ。


 だからこの期間中は奴は絶対ぇに工房から出てこねぇ!


 嫌々ながら早朝に足を運んだウェイガン教の神殿でパリスからそのことを聞いた時、俺は思わず「よし!」と声を出しちまった。


 そんな事を思い出しながら俺はモニカに答える。


「あぁ、奴なんだが、今魔銀(ミスリル)武器の作成してんだよ。なもんで一週間は会えねぇんだわ・・・

 一応代理のパリスには伝えたんだが、神殿長不在を理由に返事を保留されちまったんだ。

 モニカ、何とか協力してくれねぇか?」モニカからもキュルケ教の今後の動きも含めてもう一度伝えてくれねぇか?」


「わかった。じゃぁ、エリー。今からウェイガン神殿まで急いで行ってパリスを呼んで来てくれないかな」


 そう言うとエリーが肯定の返事と共に頭を下げ退室した。


「それじゃ俺からの用事はこれで(しま)いなんだが・・・」


 そう言いかけると、トッチーノが慌てて声をかけてきた。


「ボコポさん、商業ギルドと冒険者ギルドについては結局どうするつもりなんですか?」


「どうするって何がだ?」


「今回の件でどこまで追い込むかですよ。商業ギルドについてはここ数年あまり良い噂はありませんし、赴任しているギルド長のカタリナについても権力を盾にしてこの街の商人を窮地に追いやっているそうじゃないですか」


「あぁ、あいつか・・・俺も出来れば潰しておきてぇんだがなぁ、中々尻尾を掴ませねぇんだ」


「ふむ、それなら先程の話にあった無謀なダンジョン攻略を強引に進めたことについてですが、『主導したのは商業ギルドのカタリナ=スフォルツェンドである』としてみてはどうです?」


「どういうことだ?」


「いえ、正直、今の状況で冒険者ギルドに潰れてもらっては困ると言うのが本音でして、今回馬鹿をやったサントゥスとそれに関わった者達は仕方ないとしても冒険者ギルドそのものに矛先が向くと街の治安やダンジョン攻略・産業に影響が出過ぎると思いましてね。

 それと国に楯突くと思われるのもあまりよろしくない。

 なので今回の件は商業ギルドのカタリナに泥を被って貰って近衛騎士(サムソン)様や領主様、冒険者ギルドは(くだん)の者の口車に乗せられただけ、と言う体裁にすることで事を治めた方が街の為になるのではないかと思いましてね」

 トッチーノの言葉に賛成したい気持ちを抑えて口を開く。


「その意見は俺にとっちゃすげぇ魅力的な提案なんだがな、今回は頷けねぇんだわ」


「何故です?」


「そんなこともわかんないのか?」


 俺に対する質問をしたトッチーノに対してモニカが口を挟む。


「モニカ、どういうことです?」


「この街に住む私達にとってはカタリナが一番の厄介者だろうけど、ここのところ問題を解決してくれているラクタローにとっては国が一番の厄介者で、直接的な被害を与えた冒険者ギルドが二番目って事になるんじゃないの?」


 その言葉を聞いてトッチーノも心当たりがあったのかしまったと言ったような顔になる。


 トッチーノもラクへの対応を間違えた結果、相当嫌われていることを自覚している。

 それなのに更に関係が悪化するような提案をしたことに気付いて頭に手を当てた。


「私達も問題解決に走り回っちゃいるけど、直接問題を解決してるのはラクタローなんだよ。

 今回の件で私達が話の内容を歪めて国家権力と冒険者ギルドが野放しになってまた問題を起こした時、私達がそれを解決できるの?

 それともまたラクタローに動いてもらう?

 少なくとも私はラクタローにお願いなんて恥ずかしくて出来ないよ?」


 トッチーノを揶揄うようにモニカがお道化て言った。


「・・・すみません。

 間違っていました。

 聞かなかったことにしてください」


「あぁ、そうするぜ」


 トッチーノも優秀ではあるんだろうが、状況判断が甘い。


 まぁ、モニカはモニカで好き嫌いがはっきりしている所為で態度がコロコロ変わる。

 別の意味でまだまだだと言える。


「そんじゃ、俺はこれでお暇させ「オッチャン待った!」て・・・」


「なんだ?」


「丁度良いからオッチャンも暫く会議に参加してよ。

 オッチャンの所為で議題も増えたんだしさ!」


「あぁ、わりぃが「職人ギルドも私達と足並みを揃えないと上手く行かないんじゃないかな?」・・・わかった」


 さっさと逃げだそうとした俺はモニカに捕まった。


 どうやら俺は逃げられなかったようだ。


 その後ウェイガン教の神殿長代理のパリスを筆頭に何名かのウェイガン教の者も参加して会議は本格的に始まり、時々使いを走らせながら結局会議が終わったのは日がとっぷり暮れた後だった。






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ナニかがいる。
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