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第141話 やりたい事 やりたくない事

 家に戻ると門前に人影が見えた。


「「お帰りなさいませ旦那様」」


 そう声をかけてきたのはクルトとティムの二人だった。


「ただいま戻りました。二人とも遅くまでご苦労様です」


 そう言って労いの声をかけると二人は恐縮していたが、こんな遅くまで本当にご苦労様です。


「こんな遅くまで門番をしなくても良いんですよ。日が暮れたら門を閉じて屋敷の戸締りをしておいて頂ければ後は休んで頂いて大丈夫ですから」


「いえいえ、主人を差し置いて休むなど以ての外です。それに我々にはあなたに報いる義務があります」


 そう生真面目に答え、自身の右手を掲げた。

 その言葉に合わせるようにティムは自身の右足を指さす。


 クルトの右手には長めの手袋に覆われた右手があり、同じくティムの右足には長めの靴下に覆われた右足がある。


 どちらも一時は失われていたもので俺が魔法を使って治したものだ。


 欠損部位が再生していることが対外的にバレるのはあまりよろしくないと言う事で大雑把ではあるが欠損していた部位に関しては肌を隠して『義手や義足を付けている』と言う事にしている。


 俺の職業は『錬金術師』としているので『再生した』と言うより『道具で補っている』とした方が納得され易いと思ったからだ。


 そうしておけば肉体的な訳あり奴隷を買い取っていても『新しい道具の実験台の購入』程度に捉えられるだろう。


 『再生する』場合、王侯貴族なんかに情報が洩れたら厄介事のオンパレード一直線間違いなしだ。


 だが、『実験する』場合、成否は不明だし『錬金術』事態が眉唾物の胡散臭い職業と見られているので情報が洩れても積極的に関わろうとする輩は少ないだろう。

 寧ろ避けられる可能性だってある。


 そう言った事を加味した上でできるだけ隠して貰っている。


「その件ならあなた方の言う(あるじ)として当然のことをしただけですよ。

 それに前のままでは仕事が真面にできなかったでしょう?

 あと、報いる義務(・・)であれば言われた通りの仕事をして頂くだけで十分に果たせると思いますよ」


「申し訳ありません。

 訂正させて頂きます。

 我々は旦那様に多大なる恩を頂いております。

 我々はその恩に只々報いたいとそう願っているのです」


 そう言って丁寧に頭を下げるクルトとティムに溜息を()く。


「そう思うのであればまず旦那様はやめて頂けませんかね?

 こう見えても私、まだ16歳なんですから」


「「え?!」」


「え?」



 ・・・



「わ、若旦「却下!」那様」



 ・・・



「ぼ、坊ちゃ「却下!」ま」



「・・・」



「はぁ、『楽太郎』で良いですよ。名前呼びでお願いします」


 俺は深くため息をつくと諦めたようにそう告げた。

 これ以上家の前で問答をしていても仕方ない。


「かしこまりました。楽太郎様」


 そう言って二人は頭を下げるとティムが先に玄関へと走っていく。


 その後を追うように俺は玄関へと向かい、クルトは門を閉じ始めた。



 そう言えば、冒険者ってこんなに礼儀正しい言葉使いだったっけ?











「「「お帰りなさいませ、楽太郎様」」」


 玄関に入ると夜勤の3人が待っていた。


「ただいま戻りました。あ、これお土産なので良かったら皆さんで食べてください」


 そう言って俺はお土産のフライドポテトを渡す。


「ありがとうございます」


 そう言うとエロイーズがフライドポテトを受け取った。


 さて、眠いし、そろそろ寝るか・・・


 そう思い寝る準備として体を拭く為のお湯とタオルを自室へと持って来てもらえる様にお願いをして自室へと向かうと、ゲルドに声を掛けられた。


「おう、旦那。頼まれてた樽だが、幾つかできたぜ。それと例のものもな! どうする?」


 そう声を掛けられてゲルドにメープルシロップを入れておく為の樽を頼んでいたことを思い出す。

 丁度良いタイミングだ。

 メープルシロップ量産実験を早速今夜してみよう。


「できましたか、では今から私の寝室に持って来てもらえます?」


「今からか?」


「ええ」


「了解だ」


「あ、それとゲルドさん、明日から別件でお仕事をお願いしたいので一緒に来てください」


「仕事か?了解だ旦那」


 そう言うとゲルドは樽を運びに歩き出す。


 さて、俺も部屋に行くか。


 そうして自室へ向かい休んでいるとノック音がしたので許可するとエロイーズとサロメがタオルとお湯の入ったタライを持って入ってきた。


「ありがとうございます。そこに置いておいてください」


「はい、わかりました」


 そう言うとエロイーズとサロメはタライとタオルを置き、俺の近くで待機する。


「ん?どうしました?」


「あのぉ、お身体をお拭きするんですよね?」


「そうですけど、自分でできますよ」


「そ、そうですか・・・」


「あぁ、そうだ。今日の夜勤はエロイーズさんとサロメさんですか?」


「はい、あとエリクさんも今日は夜勤です」


「そうですか、今晩はお二人に少しお願いしたいことがあるので、後でゲルドさんから呼ばれたらまた部屋に来て頂きたいのですが、大丈夫ですかね?」


「「え?」」


 そう言うと二人は何故か顔を隠して俯いてしまう。


「来てもらえますか?」


 再度尋ねると意を決したように二人は顔を上げた。


「「は、はい・・・」」


「では、またあとで」


 そう言って退出を促すと二人は足早に去って行った。

 なんか小声で「体を清めなきゃ」とか聞こえた気がしたが、お湯を運んで来たから汗でもかいたのだろう。


 身体をお湯に浸したタオルで拭いているとまたドアがノックされ、声が掛る。

 今度はゲルドのようだ。


「はい、どうぞ」


「おう、待たせたな旦那」


 そう言ってゲルドは樽を二つ抱えて部屋に入り、その後からエリクも樽を一つとホースと変わった形の漏斗を抱えて入って来る。


「おぉ~、3つも出来てたんですね。仕事が早くて驚きですよ」


「これくらい朝飯前よ!」


 そう言ってにっかりと笑うゲルドにこちらも笑顔で返す。


「それでこれが?」


「おう、前に言ってたやつだ。魔物の腸を丁寧に洗浄して作ったホースだ。

 一応漏斗の先にホースを繋いでおいたからそのまま使えるぜ」


 見ると漏斗の先には既にホースが繋がっていた。


「ありがとうございます。エリクさんも運んで頂きありがとうございます」


「それくらいは当たり前のことです」


 そう言うとエリクは畏まる。


 奴隷(従業員)達には話し方や態度について無理をしない程度の言葉遣いや態度で過ごしてほしい旨を最初に伝えている。

 伝えてはいるのだが、やはり奴隷と言う身分を気にするのか丁寧な言葉遣いの者が殆どだ。

 逆にゲルドのように砕けた口調の者は極少数で貴重な存在だ。


 まぁ、まだ購入して(雇って)日が短い。気長に関係性を構築していけばいいだろう。


 その後少し世間話をしてゲルド達が退出すると俺はベッド横のテーブルにドリンクサーバーを取り出す。

 次に変わった形の漏斗をドリンクサーバーの排出口に設置するとピッタリと収まる。

 俺は次に脇に並べた樽の一つの栓を抜いて漏斗に繋がったホースの先を垂らすと、丁度エロイーズ達が来た。


「どうぞぉ~」


 声をかけて入室を促すと何故か緊張したような声が聞こえた後、ゆっくりと二人が入室する。

 そして二人を見て俺は驚く。


 二人は何故かシックな感じのナイトガウンを羽織っており、先程来た時の服装とは全く異なっていたのだ。

 まるでこれから『情事を楽しみますよ♪』的な、煽情的な雰囲気を醸し出している服装なのだ。

 そんな見た目でありながら二人とも顔を赤らめており、恥ずかしそうに少しモジモジしている。

 そんな動きと表情は非常に男心を擽り、心と下半身に来るものがある。


「あ、あのぉ~?」


 呆然としていると沈黙に耐えかねた様にエロイーズが声を上げる。


「あ、あぁ、すみません!いや、あの、お二人はなんでそんな恰好をしているんです?

 流石に目のやり場に困ってしまうんですけど・・・」


「「え?」」



 ・・・・・・



 二人の話を聞いて申し訳なく思ってしまった。

 二人の身分は奴隷で『性交渉あり』となっていた。


 そんな二人が主人である俺に夜中に呼ばれる。


 まぁ、普通に考えればそういう事だと思うよね。


 いやぁ、現代日本でブラック企業勤めの童貞の発想には無かったわ。


 因みに俺が購入した女性奴隷の皆さんは皆『性交渉あり』となっている。


 その辺りを聞いてみると、エロイーズに関しては目が見えず、一人では生きていけない状況。

 仮に奴隷じゃなかったとしてもまともに仕事ができないのでは生きていけない。

 それに顔に傷があり目も見えないのだ、ただでさえ奴隷としての価値は無く、そのまま売れ残ってしまったらその行きつく先は凄惨なものになるだろうことが容易に想像できたそうで、そんな死に方をするくらいならと僅かでも生き残る確率を上げる為に『性交渉あり』としたそうだ。


 サロメについても似たような感じで顔に怪我を負い醜くなった上、体にも障害が残ってしまい普通に仕事ができない状況になってしまったが『このまま死にたくない!』と言う思いが強く、『性交渉あり』としたそうだ。


 二人とも逞しい精神の持ち主のようだ。


 ただ、俺としては『奴隷で性交渉ありだからやっちゃおう』と言うのは違うと思っている。

 自分や相手の立場を利用して致すのは後々自身の心に影を落とす。


 性欲処理なら〇慰で十分だし、セッ〇スに幻想を抱いているわけではないが後々心に後ろめたさを残すようなことはしたくない。

 自分がハッピー!相手もハッピー!お互いハッピーが一番!


 気持ち良いことに対して罪悪感や後悔等のネガティブ要素は必要ない。

 小心者であるが故に前向きに割り切ることが重要なのだ。


 そんな感じの事をオブラートに包みつつ暫く熱弁し、納得してもらった。


 そんな感じの脱線はあったものの、実験の内容を説明していく。


 簡単に説明すると俺が寝ている間は俺の指をドリンクサーバーに押し当て続け、樽が一杯になったら次の樽へと置き換えると言うもので、何か異変があればすぐに起こしてほしい旨も伝えた。


 まぁ、実験と言うより殆ど作業だ。


 実験要素としてはドリンクサーバーの使用者の意識が無くてもドリンクサーバーが作動するのか?連続使用にどれだけ耐えられるのか?の2点くらいだろう・・・どっちも実験ではなく動作確認か?まぁいい。


 要は樽にメープルシロップを貯めるのだ。


 この世界、中世世界のご多聞に漏れず甘未が少ない。

 なので甘い調味料としてメープルシロップを貯めてみようと思ったのだ。


 メープルシロップを貯めれば従業員達にも食べてもらう事が出来るだろう。

 多少であればボコポ達にお裾分けしても良い。


 メープルシロップ以外にも砂糖水を考えたのだが、そこから砂糖を取り出す作業が出てくるのでまずはそのまま使えるメープルシロップを優先してみた。


「・・・・と言う感じでお願いしたいんですが、良いですか?」


「はい、わかりました」


「今晩の実験に問題なければ暫く似た作業をして貰おうと思うので、成功したら明日の内に皆さんに今回の作業を伝えておいてください」


「はい、では最初は私が作業をさせていただきますね」


 そう言って笑顔でサロメが前に出ると俺の手を取ろうと動くが、それをエロイーズが押し止める。


「サロメさん、最初にこの作業について声をかけて頂いたのは私なので、ここは私に任せて頂けませんか?」


 そんな感じの仕事の取り合いが始まる。


 彼女達が動く度に煽情的なナイトガウンが翻り目が釘付けになる。


 もっと見ていたい気持ちもあるが、そうなると眠れなくなりそうなので会話に割って入ることにした。


「はいはい、言い争いはそこまでにしてください。

 確かに今回の仕事は最初にエロイーズさんに声を掛けたので最初はエロイーズさんにお願いします」


 そう言うとサロメが悔しそうに、エロイーズが嬉しそうにする。


「ただ、一人で単純作業を続けるのは大変だと思うので2時間おきにサロメさんと交代してください」


 続く言葉でサロメが顔を上げて納得したような顔をする。


 まぁ、これくらいが落とし所だろう。


「と言う事で私はこれから寝ますので、実験方はよろしくお願いします」


「「はい、お任せください」」


 そう言うと俺はベッドに身を投げ出して休み始める。


 エロイーズは樽にホースの先が入っていることを確認するとベットの横に座り、俺の手をとってドリンクサーバーに押し付けた。


 俺は寝る事に集中しようとしたがエロイーズの意外に小さい手の感触を感じ、気恥ずかしさから中々眠れず暫く悶々とする羽目になった。








 朝、目が覚めると右手に違和感を覚えそちらを見ると、サロメがドリンクサーバーに俺の手を押し付けていた。


 俺はサロメから手を離してもらいボーっとした頭でドリンクサーバーから続いているホースの先へと視線を移していくと、その先は樽ではなく大きなタライへと続いていた。


「・・・・・・・・・うん? 樽は・・・」


 俺の疑問にサロメが答える。


「おはようございます。

 申し訳ありません。

 樽は3つ共途中で一杯になってしまいまして、実験を続けるために他の容器で代用していました」


 うーん。なるほど、途中で足りなくなったのか。しかし、そこでやめても良かったんだが、どうやら続けてくれていたようだ。


「何か問題はありましたか?」


 そう聞くとサロメは少し顔を赤らめ答える。


「こちらの魔道具につきましては特に問題はありませんでした。

 ただ、ご主人様が途中何度か寝返りを打たれまして、その度に少し・・・中断することがあったくらいです」


「寝返りか・・・まぁ、それは仕方ないね。流石に同じ姿勢で寝続けるのは出来ないからね」


 俺は実験に付き合ってくれたことにお礼を言うと、ドリンクサーバーを『無限収納』に仕舞い、サロメに実験の後始末をお願いして部屋を出る。



 部屋を出て食堂へと辿り着くとリゼルが待っていた。

 彼女は元スキーム王国の貴族令嬢らしく、計算やお金関係に強く、エマ共々この家の財政管理の様な事をしている。


「おはようございます」


 朝の挨拶を交わすと、早速と言った感じでリゼルが話し始める。


「ご主人様、昨夜の実験で生み出されたものについてですが・・・」


「あぁ、メープルシロップのことですね。

 とりあえず実験してみましたが結構な量が出来たようなので皆さんも使ってくださいね」


「はい?いえ、あのぉ、私達も使ってよろしいのですか?」


「もちろんですよ。あれだけの量があるんですから、私一人では食べきれませんよ」


 そう言うとリゼルは更に呆気にとられた表情になる。


「売ったりはしないのですか?」


「あれを?」


「はい」


「うーん。外に出すのはちょっとね・・・

 甘味って貴重でしょ?」


「えぇ、ですから売ればそれこそ一財産になります」


「その代わり、危険にも晒されますよね?」


 そう言うとリゼルは押し黙る。


「現状お金には困っていないし、君達をお金で困らせてもいないはずです。

 それなら態々自分から厄介事を持ち込むこともないでしょう?」


 メープルシロップを売った場合、物が物だけにその出処を突き止めようと躍起になるものが出てもおかしくない。

 それこそ法に触れるような行為を犯してまで追求する者も出るだろう。

 そんな面倒はごめんだ。

 そんな意を込めて話すとリゼルは何か言いたそうに口籠る。


「何か言いたいことがありるならどうぞ」


 そう促すと、意を決したようにリゼルが言葉を紡ぐ。


「ご主人様、あなたは以前にも魔銀(ミスリル)のインゴットをお売りになりました。

 その時点で既にその危険に晒されていると思います。

 ならば既に危険な状態であることは変わらないのですから、今回のメープルシロップも売ってしまっても問題は無いと思います。

 それにその売ったお金で護衛を雇っても良いですし、更なる事業拡大を行うことでそう言った危険に対処する方がより安全ではないでしょうか?

 それに財を多く手に入れる事でご主人様の名が知れ渡れば何れ地位や名誉だって手に入るでしょう。

 そうなればご主人様に手出ししようと思う者などいなくなる筈です」


「リゼルさん、ここは迷宮都市ウェルズですよ?鉱石はこの街の特産品なのです。

 魔銀の出処がどこかなんてすぐわかるでしょうし、私が魔銀を手に入れたのは『運が良かったから』そう思われるだけですよ。

 だけど、メープルシロップは違います。

 元からこの街にあるものではありません。

 だからこそ安易に売る事はできませんし、それこそ売ってしまえば厄介事の種にしかならない。

 それに私は元々目立つのは嫌いなんです。地位や名誉なんてそれこそ必要ない」


 リゼルの発言はこちらの行動を誘導しようとしているようで話を聞くに反論するのも面倒臭い。

 そう思っているとリゼルが声を荒げる。


「ですが!これほど素晴らしいものを生み出せるのですよ!

 どうしてそれを皆に知らしめ誇らないのですか!」


「リゼル、お前が欲しいものだからと言って俺にそれを望むんじゃぁない。

 俺は要らないと言っているんだ」


 面倒臭くなった俺はリゼルを睨み付け、話はこれで終わりだと言わんばかりに言い捨てるとリゼルは悔しそうな表情で食堂を後にしようとしたが、俺が呼び止める。


「リゼル、命令だ。

 メープルシロップを屋敷から持ち出すことを禁じる。

 メープルシロップの取り扱いについてお前が関わることを禁じる。

 誰かにメープルシロップの事を伝える事を禁じる。

 言葉だけでなく筆記や暗号・ボディランゲージ等も含めてあらゆる手段で誰かに伝える事を禁じる。

 ただ、メープルシロップを食べる事は許可する。命令は以上だ」


 そう言うとリゼルは驚き振り返る。


「わかったか?」


「・・・わかり・・ました」


 リゼルは引きつった表情で俯くと、今度こそ食堂から出て行った。


 彼女の退室を見計らったようなタイミングでランドが朝食を運んで来た。

 彼は奴隷(従業員)達があまりご飯作りが得意でない事が判明した後に慌てて買い足した元料理人の奴隷の一人である。


「朝から大変だったな旦那」


「そう思うならもっと早く持って来てくれても良かったんですよ?」


「厄介事に巻き込まれちゃ敵わねぇよ」


 そう言って顔を顰めた彼に恨めしそうな視線を向けると、ばつが悪そうにする。


「悪かったよ旦那」


「ゲルドにも行ってるんですが、その『旦那』って呼び方何とかなりませんかね?」


「無理だろ?他の呼び方だと『ご主人様』とか『楽太郎様』とかどうやっても『様』付けでしか呼べねぇぜ?」


「・・・それは嫌ですねぇ、普通に楽太郎ではダメですか?」


「あのなぁ、仮にも俺は奴隷だぜ?主人を呼び捨てになんてできるわけねぇだろ?」


「その言葉使いで言われても説得力無いんですけどねぇ」


「まぁ、主人と奴隷のケジメだと思って諦めな」


 そう言って快活に笑って食堂を出ようとするのでその後姿に声をかける。


「あぁ、そうだランドさん。先程話に出てたメープルシロップですが、ランドさんが好きに使ってください」


「あぁ?マジでか?!」


「えぇ、どうぞお好きに使ってください」


 そう言うと笑顔で調理場へと走って行った。





 ・・・朝から疲れた。




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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 犯罪者認定した者に対しては何してもいいと思ってるのに他の事すべてに対してチキンやな 奴隷の躾しないなら買わなきゃいいのに
[一言] さぁ、定期的に投下しようか!( ゜Д゜)
[一言] 貴族とか貴族につながりがある商人などの連中が、メープルシロップの利権を得るための主人公さんに冤罪事件を仕掛けてきたㇼ美人局などで脅しを仕掛けたり暗殺者を送ってくる可能性を考えていなくて、主人…
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