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第138話 根回し

 閉鎖区域の境目までテイルを連れて戻ると、テイルは俺に礼を言い警備隊の詰め所に足早に向かって行った。

 王都へ経過報告と増援要請をして、その後は冒険者ギルドに救援依頼を出すと言っていた。


 俺はテイルの後姿を見送るとボコポがいるであろう貴族屋敷の方へと戻ることにした。

 ボコポや神殿関係者に俺の事をテイル達に話さないように釘を刺すためだ。


 俺がミノタウロスを倒せると知ったら俺に倒させようとアレコレと面倒なことを言って来るに違いない。

 そこで舌戦をするのも面倒だし、ちょっとした意趣返しも終わっていないしな。



 そんなことを考えながら貴族屋敷の方へと戻ってみると、見知らぬおっさんがボコポと揉めていた。


「ボコポ!いいからライナ達を街の防衛に回せ!もう手遅れだ!この地区を隔離して他の市街地を守るんだ!」


「手遅れじゃねぇっつってんだろうが!この屋敷の壁を直せば被害は最小限に抑えられんだよ!

 何もできねぇ手前ぇは黙ってやがれ!三下ぁ!!」


「なんだと?!」


「やんのか?!」


 知らないおっさんは額の血管が切れそうな位青筋立ててるし、ボコポは腕まくりして一触即発状態だ。


 話に出てたライナ達は俺の言付け通りに壁の補修をしているヤコボ親方一派を守るように周囲の警戒にあたっている。

 ふむ、感心感心。


 ヤコボ親方達も手を止めずに作業に集中してくれている。


 となると、この場で邪魔なのはあのおっさんだな。


 軽く状況判断を済ませると俺はボコポの方へと歩き出す。

 後少しと言った所でヒートアップしていたボコポが俺に気付く。


「ラク、終わったのか?」


「あぁ?」


 ボコポの声に釣られて俺の方を振り向いたおっさんと、その連れらしい数人の男が俺に対し険しい視線を向けてくる。


 ふむ、敵か?


「取り敢えずなんとかしました。

 それよりこれは何です?」


「あー、こいつはなサントゥス=クレメンスって言ってこの街の冒険者ギルドのギルド長をやってる奴だ」


 ・・・微妙に厄介な奴が現れたものだ。

 うーむ、少し探ってみるか。


「ほぉ、それでそのお偉いギルド長様が何のご用ですかね?」


「お前に話す必要はない!とにかくボコポ、一刻を争うんだ!

 早く撤収しろ!撤収が嫌なら《スピードスウィング》と《誰がために》が受けている依頼は俺の権限で破棄する。

 おい、ライナ! さっさと撤収の用意をしろ! ボコポ!お前もこんな所で遊んでねぇでさっさとバリケードを作りに行け!」


 その台詞に少し切れそうになるが、踏み止まり声をかける。


「そこのおっさん。寝言は寝てから言ってもらえませんかね?」


「邪魔すんじゃねぇクソガキが!

 時間がねぇんだよ!!」


 そう言って俺に殴り掛かって来たサントゥスの拳を半身を捻って躱し、カウンターで顔面に拳を叩き込むと、サントゥスは10メートル程吹っ飛び、数回地面を跳ねて転がった。


「「「・・・」」」


 一瞬の沈黙の後、「ギルド長ぉぉぉぉぉ!!」「お前、何をやったのかわかってるのか?!」「只じゃすまさんぞ」等と言った物騒な声が上がった。


「全く、無礼な奴等ですね。

 冒険者は何時から破落戸(ごろつき)集団になったのか・・・」


「なんだと?!」


 威勢の良い声を上げて俺を取り囲むように武器を向けてくる冒険者一同。

 正直うんざりする。

 これ以上言葉を交わすのも無駄だろう。


「武器を向けたってことは、殺されても文句は言えませんよね?」


 俺はボコポに確認する。


「あ、あぁ、その通りだ。

 だが、出来るだけ殺さない方向で対処してくれねぇか?

 できるだけ遺恨は残したくねぇんだ」


 その言葉が冒険者達のプライドを傷付けたのか、冒険者の誰かが「ふざけたこと言いやがって、やっちまえ!」と言う言葉を合図に冒険者達が俺目掛けて襲ってきた。


「これで正当防衛成立ですね」


「はぁ、阿呆共が・・・」


 ボコポは呆れたような声で独り言ちた。










 俺は道端に寝転がる男達が落とした凶器を回収してからボコポに改めて声をかける。


「ボコポさん、実はちょっとした事がありまして、逃げ出したミノタウロス達は別の場所に隔離しています。

 まぁ、余程の馬鹿でもいない限り暫くは大丈夫でしょう。

 後は、衛兵の許可を貰った上でこの地区への出入り口を中央の一箇所以外全て封鎖しました。

 なので出入りの際はそちらからお願いします」


 あちこちに寝転がる冒険者達を見てどうしたものかと頭をかいていたボコポが俺の声掛けで急に現実に戻されたように、なんとも言えない表情で答える。


「あー、了解だ」


「ところで、そこの阿呆共・・・サントゥスでしたっけ?

 彼らは何をしに来ていたんです?」


「なんでも、倒せない程強力な魔物が街中に出たんでこの地区を見捨てて封鎖しろとさ。

 その為にライナ達を封鎖した箇所の防衛に就けたいから俺達もここからさっさと避難しろって言ってきたんだよ」


 つまり、俺の屋敷があるこの地区を放棄しようとしたのか、それでボコポとの交渉が決裂した途端に強権発動で俺がライナ達に依頼した仕事を強引な手段で放棄させようとした、と。


 護衛が居なくなれば流石にボコポも撤退せざるを得なくなると踏んだってことだな。

 ふむ、つまり・・・


「敵ってことでいいですよね?」


 俺は回収した凶器の一つを手に取り、剣呑な表情を浮かべると慌ててボコポが否定する。


「ま、待て待て待て!!サントゥスは確かに馬鹿だがそれだけだ!

 普段は害のない馬鹿なんだよ。敵って言う程じゃない馬鹿だ」


「つまり馬鹿ってことですか?」


「そうだ。まぁ、偶に拗らせて道化になる事もあるがな・・・」


 その言葉に吹っ飛んで伸びているサントゥスを見て何とも言えない表情になるが、起き上がる気配もないので俺はボコポと話を続ける。


「因みに私がライナ達にした依頼はギルドを通していないのですが、それを勝手に破棄する権限が冒険者ギルドのギルド長にはあるのですか?」


「いや、ない」


「もう一つ質問ですが、冒険者ギルドのギルド長が勝手に職人ギルドへ出した依頼を取り消したり、勝手に命令する権限って持ってます?」


「持っていない」


「最後に、街中で暴力を振るったり、人に凶器を向けて攻撃する権限が冒険者ギルドにはあるのですか?」


「全くない。普通であればに言って暴行罪に殺人未遂で衛兵に捕まる・・・

 結果は返り討ちにあったからあれだが、冷静に言葉にすると申し開きも出来ねぇな」


「つまり犯罪者集団ってことですね」


「「・・・」」


 ボコポと俺はどちらからともなく、溜息を付いた。


「そうそう、ボコポさん、先程の続きなんですが、実は王都の騎士団の方と出会ってしまいましてね。

 倒す所を見られるのは不味いので隔離だけしたんですよ。

 なので誰かに俺の事を聞かれても適当に誤魔化しておいてください。

 そこで聞き耳を立てているライナさんも他の者に伝えてくださいね」


「は、はいっ!」


 急に話を振られたライナは慌てて返事をした。


「ふむ、俺は良いんだが、キュルケ教の連中はどうするんだ?」


「そっちにも口封じをお願いしても良いですかね?」


「く、口封じ?!」


「おっと、間違えました。口止めです。口止め」


 俺が慌てて言い直すとボコポはホッと胸を撫で下ろした。

 うーむ、俺が本気で口封じすると思ったのか?

 心外だ。幾ら俺でもそこまでは…… と思ったが、相手に敢えて誤解させる言動をとっていた自分の行動を省みると否定し辛い。


「一応、伝えることは伝えるが、正直、阿呆のモニカが黙っていられるとは思えんのだがな・・・」


 なんとも歯切れが悪い返答だ。

 確かモニカって戦闘に駆り出されていた子供、いや、ドワーフか。

 うーむ、仕方ない。

 悪魔のダンジョン攻略を理由に口止めしてもらうとしよう。


 俺はボコポ達から少し離れたところで(おもむろ)にスマホを取り出し、とある神様に電話する。


「あ、もしもし、私、山並 楽太郎と申しますが、キュルケさんでしょうか?

 大変申し訳ないのですが、少しお願い事がありまして・・・」


 そんな感じでキュルケさんに神託で俺の情報流出を止めてもらうようお願いした。

 圧力ってのは下や横からじゃなく上から掛けないとね。


「さて、これでできるだけの手は打ったと思うんですが・・・」


 そう考えつつボコポ達の方へと向かうと、ボコポがポツリと溢した。


「・・・『キュルケ』さんとか聞こえた気がしたが、誰と話してたのかは聞かないでおこう」


 そう言って諦めたような顔をボコポにされたが、今更だ。

 と言うか、ボコポはかなり耳が良いようだな。

 次からはもう少し距離に気を付けよう。


 俺は気持ちを切り替えようと話題を変える。


「さて、それじゃヤコボ親方達の進捗はどんな感じですかね?」


「あぁ、壁の修復だが、突貫ではあるが何とか1カ所は塞げたぜ。

 今2カ所目に取り掛かってんだが、日が大分傾いてきたからな、そろそろ切り上げた方がいいんじゃねぇか?

 なぁ、親方もそう思うだろ?」


「そうじゃのぉ、流石に暗くては仕事にならんでな。

 そろそろ切り上げるとするかのぉ」


「了解です。

 ライナさん!」


「は、はい!」


「ヤコボ親方達の作業中、中の様子はどうだった?

 何か壁を叩くような事はありましたか?」


「いえ、今回は中を刺激しないように屋敷の外からの警護をしましたが、特に何もありませんでした。

 他の2カ所も異常はありません!」


 ふむ、それなら夜の警戒はあまり必要なさそうだ。


「そうですか、では今日は撤収しましょう。

 ヤコボ親方達もまた明日、作業の続行をお願いします」


「あいよぉ、ん~ならお前ぇ等!仕事は終わりじゃ!

 さっさと帰ぇんぞぉ!」


「「「へい!親方ぁ!!」」」


 言うが早いか作業をしていたドワーフ達はサクッと仕事に切りを付けると撤収準備を始めた。


「リサさんはヤコボ親方達の護衛をお願いします。

 中央の通り以外は道を塞いだので注意してください。

 ライナさんは他の所を警護している人達に今日は撤収するように伝えてください。

 あと、この後の夕食は私が奢りますので、皆さん例の酒場・・・ボコポさん、あそこ名前なんて言うんです?」


「あぁ?そぉ言やぁ、俺も名前は知らねぇなぁ~」


 ボコポも知らないのか・・・

 少し意外に思いながらも店のマスターに聞けば良いことに思い至る。


「そ、そうですか、では・・・乱闘場のある酒場に集合と言う事でどうでしょう?」


「「「ご馳走()んなりま~す!!」」」


 そして全員が撤収していく後姿を見送りつつ、ボコポに声をかける。


「なんだ?」


「先に行ってて貰えますか?

 申し訳ありませんが、私は小用がありまして、少し遅れます。

 念のために夕食代も先に渡しておきます」


 そして俺は金貨を2枚渡す。


「そうか、わかったぜ。先におっ始めててもいいんだろ?」


 そう言ってボコポはニヤリと笑う。


「えぇ、楽しんでください」


 俺も笑顔で返すと小用を済ませる為に俺もその場を離れようとして、道で伸びてるおっさんを見付けてしまう。


「このおっさんどうします?」


「・・・はぁ、俺が冒険者ギルドまで運んでやるよ。

 ヤコボ親方ぁー!サントゥスの馬鹿を運ぶんでそこの荷台を貸してくれ!」


「別にええぞぉ~、ただぁ、明日にゃ返せよぉ~!」


「助かるぜ!」


 そんな会話を背に改めてその場を離れた。








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小説家になろう 勝手にランキング
ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新再開! 新たなおバカ登場! 面白い展開が期待出来そう。 [一言] 執筆活動頑張ってください、応援してます。
[一言] 更新お疲れ様です。 これからも更新を楽しみにしております。 何もわかってない馬鹿みたいな感想?は無視されて、次回更新を楽しみにしております。
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