第11話 楽太郎 冒険者ギルドで舌戦
なんとか書けました。
小気味いい内容ではないかもしれません。
すいません。
王都への帰り道、俺はインディとのんびり街道を歩く。
インディの後ろに乗せた荷物達はどうやら疲れて眠ってしまったようだ。
時々鼾が聞こえる・・・ 女の子なのに何とも豪快な・・・ふは、少し笑いが込み上げて来るよ。
事が終わったと考えれば、今日はそこそこ稼げたかもしれんな。
それでも俺は帰り道での警戒は怠らない様に気を配る。
それにしても、この世界に来てから気の休まる時がほとんどないよな、俺・・・
異世界に来てから2日目、トラブルだらけの様な気がする・・・ このまま続かないよな、トラブル・・・
まぁ、さっさとこの国とは縁を切りたいので、ある程度お金貯めたら、この国に迷惑かけられたリンド獣王国にで行ってみるか。
そこならここと同じように魔物退治でお金稼げそうだしね。
ある程度貯まったら、材料集めて炭酸水作らなきゃ!
まずはそこからだ! 最初はサイダー。お次はレモンスカッシュと来て、そしていずれはコーラを・・・
っと、トリップしそうだったよ。
気を引き締めて「気配察知」を意識すると、昨日薬草を取った草原の辺りに敵性気配が2つ現れた。
まだ今日の冒険は終わってないってことね。
そう思いながら「無限収納」から十文字槍を取り出し、戦闘態勢を取りつつ街道を進む。
念の為、インディには俺の少し後ろに回ってもらう。背中の荷物達が居るからね。
俺は敵性気配を警戒しつつ、王都へと進む。
今日の俺はもう戦う気が無いからね、向こうが襲って来なければそのまま見逃してやるのさ。
別に視界の悪い草原に入って戦うのが不利だと感じてるからじゃないよ? ホントだよ?
そんなこんなで、ゆっくりと警戒しつつ進むと、向こうは気付かなかったようで、そのまま敵性気配とは離れて行って、俺の「気配察知」の範囲外に出て気配が感じられなくなった。
ホッと胸を撫で下ろし、歩く速度を少し上げる。
そこから暫らく、荷物の上げる豪快な鼾をBGMに歩き続け、漸く王都が見えてくると、荷物達に声を掛けて起こし、インディから降ろして歩かせた。
そのままじゃ、まるで人攫いでもしているような見た目だったからな。
一応2人には調査の時、俺が協力したことは内緒にして貰うようお願いした。
2人とも「どうして?」と聞き返してきたが、「俺自身がトラブルに巻き込まれたくない」って事と、「悪目立ちしたくない」ってことを主張して何とか納得してもらった。
後は、彼女達2人を先に行かせ、俺とインディは暫らく休憩した。
一緒に王都に戻ったら関係性を疑われるかもしれないからな。
俺は休憩がてらに辺りを見回し、何か面白いものでもないかと「錬金術」スキルを意識しながら「鑑定」を適当にあちこちに使うと、街道の脇にある木の根元辺りで錬金素材を発見した。
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名前 :倍茸
効能 :食用としてそのまま食べる事も可能。
:ポーション作成等の素材。
:常緑樹の根元に生える事が多い。
:1本=「銀貨1枚」
見た目はシイタケみたいに傘がある茸だが、常緑樹と溶け合う様に密着しているので、気を付けて見ないと見落としそうだ。
「錬金術」スキルで薬草と倍茸で出来そうなレシピを思い浮かべると、なんとその2つで普通のポーションが作れることが分かった。
俺は薬草の時と同じようにインディに見付けて貰うようお願いすると、インディは直に見付けてくれ、なんとか30本収穫できた。
倍茸を収穫していたせいで、少々時間は取られたが、まぁ、良い時間潰しが出来た。
そう思い、王都へと歩き出し、冒険者ギルドへ向かった。
あと、途中で農夫の方々に遭遇したが、朝の挨拶が効いたようで、農夫の皆さんが慌てることはなかった。
ほんと良かった良かった。 また警備隊でも呼ばれたら堪らんからね。
王都へ帰還し、その足で冒険者ギルドに向かう。
ギルドの扉を開け、中に入ると、朝と同じような喧噪だが、朝とは少し違い、ロビーには酒を片手に歓談する冒険者達があちこちに見受けられる。
ロビーを抜ける際、何人かはやはり俺に気付いたようで、青い顔で俺に道を空けてくれる。
2日続いての公開お仕置きが効いてるのかな? 良いことだ。
俺はそのまま進み、ロビーとカウンターの間の仕切りの所まで来ると、インディにいつもと同じように待ってもらおうとしたが、なんとインディは仕切りを乗り越えてカウンター側に渡ってしまう。
なるほど、最初からそうしとけば良かったのか。
俺はインディの行動に感心しつつカウンターにエミリーさんの姿を探すと・・・ いた。
俺は早速エミリーさんの列に並ぶ。インディの巨体が邪魔になるかと思ったのだが、他の冒険者はインディを避けて動いてくれてるようで、文句は言われなかった。
と言うより、インディの迫力に気圧されている様だ。
10分くらいすると、順番が回ってきた。
早速カウンターへ向かう。
「こんにちはエミリーさん。と言うか、もう こんばんわ ですかね」
「あ、ラクタローさん! 朝の騒動は貴方でしょ! あの後大変だったんですよ!」
そう言って立ち上がるエミリーさん。
うーん、朝の1件かぁ、面倒くさいから、ここはしらばっくれとこう。
「朝って何のことです?」
「惚けないでください!」
「いや、本当にわからないんですが?」
「周りの人の証言は取ってあるんです!フォレストウルフを猟獣にしてるのは貴方しかいないんですよ!」
「・・・」
うーん、バレバレか・・・
そう思って見上げると、頬を膨らませて怒っているエミリーさん。
説教する気満々だな。 あぁ、面倒くさい。
「えーっと、ひょっとして、朝ロビーで全裸で寝てた男女についてでしょうか?」
「その件です!」
「それなら私がやりました・・・って、言うと思います?」
「なんで認めないんですか?」
「私の名誉の問題でもありますから、それに人の相棒に手を出したのはそのアホ共が先ですからねぇ」
「それを言われると・・・」
そう言って黙り込むエミリーさん。
そりゃそうだ、本人は説教したいのだろうが、本来俺は被害者だから説教される謂れはないのだ。
八つ当たりもいい所だ。うーむ、腹立ってきたな、反撃しますか。
「それに、ギルドにも問題があるんじゃないですか?」
「それはどういう事です?」
「昨日の1件ですが、あの時私は冒険者ではありませんでした。 よって、あの時の私は一般人ですね?」
「はい、そうですが、それが何か?」
「あの時、一般人である私の猟獣が、冒険者ギルドの一員である冒険者に略奪されそうになる事件が発生しました」
「?!」
「これに対し、ギルド員のあなた方は見て見ぬ振りをしています」
「そんな訳ないでしょう!」
俺の台詞に被せる様に否定するエミリーさん。
「そんな訳あるでしょうが、私が彼らと直接対峙するまでに誰か彼らを止めていましたか?」
「?! ・・・いえ、でも! その後止めに入りましたよ! 私が!」
「あなたが止めたのは私でしょう。 彼らの暴挙を止めた人間は誰一人いないでしょうが」
呆れたように俺が言うとエミリーさんは黙ってしまった。
俺の正論が覆せないのだろう。
だが俺は更に話を続ける。
「これらの事実を踏まえると、あなたは犯人の協力者と捉えられます」
「そんな訳ないでしょう!」
「そんな訳ありますよ。 事件が起こっているのは冒険者ギルド内です。 冒険者ギルドの仲間である犯人が犯罪を起こしているのに止めもしない。それどころか奪われまいと行動を起こす被害者の私に対して『喧嘩はやめてください。怪我しますよ』なんて、素晴らしい脅し文句ですね。猟獣を差し出せと言っているようなもんですよ」
「?!」
自分の言動がどういう風に受け取られるのかを初めて知ったようだな。
「彼らの犯罪を止めもせず、被害者の介入を妨害。その上彼らが失敗すると、今度は彼らを助ける為に私を止めた。十分協力者じゃないですか」
厭らしい笑みをエミリーさんに送る。
その俺の顔を見てエミリーさんの顔が引き攣る。
俺の口撃はまだまだ続くんだがな。
「ところで、この国は窃盗や強盗を罰する法律はないんですか?」
「ありますけど?」
「じゃぁ、その場に居た冒険者ギルドの職員と冒険者全員共犯で逮捕ですね」
「どうしてですか?!」
「犯人に協力してるでしょ。共犯ですよ」
「今回の件をよく整理してみてください。普通に考えれば、犯人グループは実行犯。エミリーさんは実行犯のサポート役で、ギルドの上層部が黒幕。ね。犯罪組織の出来上がりですよ」
俺は厭らしい笑顔をエミリーさんに向ける。
エミリーさんは、最初の内は意味が分からなかった様だが、俺の言葉の意味が浸透してくると、青い顔をして震え始めた。
俺の言ってることが理解できたのかな?
「お分かりですか? エミリーさん?」
今度はにこやかに笑いかける。
エミリーさんはぶるぶると震えているだけだ。
「何も言い返さなくてよろしいのですか? それなら私はこのまま警備隊に届け出を出しましょうかね。幸い警備隊第5班の隊長さんとは知り合いなので、話はスムーズに通ると思いますよ」
そう言って席を立とうとする俺。
因みにハンスさんに対して俺は『ラーク=エンジョイ』と名乗っているので『楽太郎』では話が通らないのだ。
「ま、待ってください」
そう言って俺に追いすがるエミリーさん。
「嫌です。犯罪者の言うことには耳を貸せませんよ」
からかい交じりに、きっぱり断ってギルドから出て行こうとする俺。
俺も出て行くと討伐報酬が手に入らないので困るのだが、なんか面白くなってきた!と思ったのだが・・・
「違います!私は協力者なんかじゃありません!神に誓って無実です! ホントです! だから許してくださいぃぃぃぃぃ!」
そう言って半狂乱になって謝罪し始めるエミリーちゃん。
あらー・・・ 打たれ弱いんだねぇ、エミリーちゃん。
報復できて気分はスッキリしたけど、泣き喚いて謝り続けるエミリーちゃんをどうしよう?
エミリーちゃん放置で他のカウンターでさっさと討伐報告して金受け取って帰るか・・・
そう考えていると、40代位の紳士然とした職員の男が声を掛けてきた。
「どうもすみません。うちの職員が何か粗相したようですが、何があったのでしょうか?」
そう声を掛けられたので、つい反射的に素で答えてしまった。
「あんた誰?」
「私は冒険者ギルドでサスティリア支部のギルドマスターをしているジェラルド=ベルジュです」
おぉ、早速ギルマス登場だ。俺は敬語の仮面を被り直して対峙する。
「自己紹介、ありがとうございます。 私は山並 楽太郎と申します。 昨日冒険者登録したばかりの新参者です。 よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる俺。
「こちらこそよろしくお願いします。それで、何があったんでしょうか?」
そう投げ掛けられたので、今に至る事の顛末を話すと、ギルマスの顔が曇った。
「エミリー君。昨日と今日、楽太郎君に迷惑をかけた冒険者達だが、どうなっているのかね?」
厳しい表情でそう言うと、エミリーさんに話を振る。
「え? あ、はい、謹慎処分3か月にしています」
「温いな。その者達は即刻除名処分して警備隊に窃盗と殺人未遂で突き出し給え」
「え?! それはやり過ぎじゃないですか?ギルドマスター、結果的には何事も無かったんですし」
「エミリー君。何か勘違いしていないか? 他人の所有物を盗めば窃盗であり、 人に凶器を振るえば殺人だ。我々は冒険者であって破落戸の集まりではないのだよ? 冒険者ギルドは『盗め』・『殺せ』を容認する気はない」
「それはそうですが・・・」
尚も納得しないエミリーさんに、ジェラルド氏は溜め息を吐くと、他の女性職員を2名呼び出すと、こう告げた。
「アロマ君。クレオ君。 申し訳ないが、エミリー君を拘束し、警備隊に突き出してくれ、罪状は窃盗幇助と殺人幇助だ」
場の空気が一気に凍る。
「え・・・? えぇ?! どうしてですか!!」
訳が分からずそう叫ぶエミリーさん。
「我々ギルド職員は冒険者の支えになると同時に、冒険者から犯罪者や犯罪被害者を出さないよう導くことも必要だと私は常々思っている。それなのに、君の言動は犯罪を助長するような事ばかりだ」
「そんなはずないですよ!」
「ラクタロー君の説明で十分わかるはずだ。残念だよエミリー君。我々冒険者ギルドは『黒幕』ではないが、君は『実行犯のサポート役』だったようだ」
そう言って大袈裟に悲しそうな顔を作るジェラルド氏。 うん? ひょっとしてお芝居か?
そう思ってジェラルド氏を見ていると、目が合った瞬間、口角を上げてウィンクされた。
オッサンのウィンクは嬉しくないが、どうやらお芝居のようだ。内心で胸を撫で下ろすと同時に、そのお芝居にお付き合いしようと心に決める。
だって、その方が面白そうだもの。
その間にもアロマ氏とクレオ氏に拘束されるエミリーさん。
お、慌ててるな、エミリーさん。
「ち、違います! 私はそんな事してません! 無実です!」
「それならば何故、被害者であるラクタロー君に偉そうに説教をしたんだね? 本来なら、我々は彼が言ったように謝罪する立場なのに」
「そ、それは・・・」
そこで言い淀むエミリーさん。
「エミリー君。君は物事の本質を見ていない。ラクタロー君は賢いから、最初は君の説教に付き合ってくれたのだろう。受付の君と揉め事を起こすより、冒険者になり、仕事を手にすることを優先させた。我慢したんだよ。 それなのに君は気付いていない様だが、『冒険者ギルドの受付』と言う権力を笠に着てラクタロー君を好きなように詰ったのだろう」
そう言われたエミリーさんは血の気が引いたように顔色が青くなる。
「ラクタロー君からしてみれば、君の機嫌を損ねて不採用とでも言われたら仕事が出来なくなるかもしれないと、怯えていたんだよ」
その言葉でエミリーさんは俺の方を向くが、俺はジェラルド氏に激しく肯いていた。
その方がエミリーさんが面白い反応をしそうだ。
「で、でも! 実力はラクタローさんの方が圧倒的だったと思います。だってレベル7ですよ!」
「ほぉ、なるほど、アロマ君。ラクタロー君に迷惑かけた冒険者たちのレベルは?」
「昨日の事件ですと、餓狼の牙のリーダー、ペリスがレベル10です。他3名はレベル9で、後、彼を背後から襲った女性はレベル12でしたね」
「全員彼より格上じゃないか。 どういう事だい? エミリー君?」
その報告とジェラルド氏の底冷えのするような声音で震え始めるエミリーさん。
「そ、そんな?! だって、圧倒的だったじゃないですか!」
「おそらくだが、それは彼がスキルを使ったのだろう。どういったものかはわからないが、肉体強化系の極端なスキルだと、3分程は通常の10倍の力が出るが、その数分後には全身に激痛が走り、気絶することも許されない地獄の苦しみがあるとか、数日間は弱体化する等のペナルティ付の能力だな。何れにせよ、ラクタロー君はそれだけのリスクを冒している。それでも相手を殺していないのは称賛に値するほどの優しさだ。まるで聖人のようだ」
能力解説は間違ってるが、都合がいいので訂正はしない。それよりも、エミリーさんが凄いことになってる。肌の色が青を通り越して白くなってる。
「そんな優しい彼でも、謂れのない説教は聞きたくないだろう。それも見当違いの八つ当たりなど、腹を立てて当たり前だ」
「それならそう言ってくれれば私だって・・・」
そう呟いたが、ジェラルド氏はそれにも反論する。
「それは違うよ、エミリー君。そんなリスキーなスキルを会ったばかりの他人に話せるわけがないだろう。スキルと言うものは確かに強力だが、知られれば弱点にもなる。おいそれと人に話せるものではないことぐらい、ギルド職員をやっていれば知っていて当然の事だろう。そんなことも知らなかったのかい?エミリー君」
初歩的なものだったのだろう。エミリーさんの顔色が白から土気色になりそうだ。
「すいませんでしたギルド長・・・私が間違っていました」
そう言ってエミリーさんがジェラルド氏に謝罪する。おい!俺にじゃねーのかよ!
そう思っていると、ジェラルド氏が眉間に皺を寄せて言った。
「謝罪なら私ではなく、ラクタロー君にだろう。 そんなことも理解していないのでは、何に対して謝罪しているのかもわからんよ」
おぅ、出来る男の見本みたいな感じだな。よくわかってらっしゃる。
エミリーさんは急いで俺の方を向くと、謝罪の言葉を述べた。
「申し訳ありませんでした」
ここだ! 俺はそう思い、会心の1ネタを披露する。
「ようやく認めてくださったんですね。えぇ、わかりました。それでは、これからのお勤め頑張ってください」
「はい、本当にご迷惑をおかけしました」
「それではアロマ君。クレオ君。エミリー君を警備隊まで送り届けてくれたまえ」
そう言ってエミリー君を送り出そうとするジェラルド氏。
アロマ氏とクレオ氏は粛々とジェラルド氏の指示通り動いている。
エミリーさんも途中まで付き合っていたが、何かに気付いたように慌て出す。
「ちょ、ちょっと待ってください! どうして私が警備隊まで連行されるんですか!」
「「それはエミリーさん(君)が『実行犯のサポート役』をしていたことを認めて謝罪したからだろう?」」
「な・・・」
エミリーさんは唖然として絶句している。
「まぁ、自白したし、反省もしているのでその点を加味すれば刑期は少しは短くなると思いますよ」
と、空っ惚けて言う俺。
「まぁ、罪を償うんだ。これからは一生懸命お勤めに励んでくれ給え」
そう言って俺に便乗するジェラルド氏。
「そ、そんな馬鹿なぁー!!」
その一言を最後にエミリーさんはギルドの受付から追い出されて行った。
俺とジェラルド氏はお互いの顔を見ると、どちらからともなく笑い出した。
一頻り笑いあった後、ジェラルド氏からギルマスの部屋へ案内された。
「今回の事は本当に申し訳なかった」
そう言うと、深々と頭を下げるジェラルド氏。
「いえ、もう過ぎた事ですから、大丈夫ですよ。 それよりエミリーさんは大丈夫ですよね? ホントに警備隊なんかに連れてってないですよね?」
俺は確認の為、言質を取る。
「エミリー君は大丈夫だ。今頃はアロマ君とクレオ君に再教育されているだろう」
「良かった」
「こちらこそ助かったよ。あの娘の考え方は前々から少し危ういと思っていたのだ。今回の件は良い教訓になっているだろう」
「・・・そうなると良いですね」
「それじゃ、本題に入らせてもらおうか」
「ええ、どうぞ」
「今回の件は本当にすまなかった。本来はああいった事件は上級の冒険者が睨みを利かせているので起こらないんだが、今のこの国には上級の冒険者が殆んどいない。理由は知っているかね?」
「ええ、リンド獣王国との戦争ですよね?」
「その通りだ。馬鹿な戦争を起こした所為で、大半の実力ある冒険者は他の国に逃げて行ったよ。残った上級冒険者達も馬鹿な国王の所為で殆んど戦死。残った上級冒険者も増えた上級魔物の討伐でギルドには殆どいない」
「なるほど、本来秩序を守らせる上級冒険者が居ないから、粗悪な中級冒険者が幅を利かせ破落戸の様な事件をあちこちで起こしていると」
「そうはっきりと言われるとこちらも立つ瀬がないのだが・・・」
そう言って、何かタイミングを計っている様だ。 こちらを見る目付きが真剣だ。
ひょっとして・・・
「もしかして、私にその秩序を正せと言うつもりですか?」
「?! ど、どうしてそれを?」
「今までのやり取りと、人払いをしたギルマスの部屋と、その態度でなんとなくですかね」
「察しが良い。それではやって「お断りします!」・・・」
ギルマスの言葉を遮り俺は断る。
だって、俺はお金稼いで移住予定だからね。
「ギルマスは動かないのですか?」
「私も出来る事なら動きたいのだが、私も戦争の所為でこの通りだ」
そう言って左足のズボンの裾を上げると、脹脛のあたりに一筋の傷跡が見え、そこから下を皮のバンドの様なもので固定してあった。
「治らないんですか?」
「傷そのものは治ったが、どうにも動かないんだ。傷跡の下の感覚もほとんどない」
おそらく神経が切れているのだろう。 人体の構造もあまり知られていない様だな。 「活法」で治せるかもしれないな。
そう考えると、俺はジェラルド氏に1つ提案した。
「一つ提案があるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだい?」
「私がその足、治せるかもしれないと言ったら、どうします?」
「本当か?!」
「やってみないと分かりませんが、恐らく出来ると思います」
「それならば、治して貰えないだろうか?」
「条件があります」
「どんな条件だろうか?」
喰い付き過ぎだろジェラルド氏・・・
「1つ、俺が行使する力について他言無用でお願いします。 1つ、冒険者ギルドの秩序をあなたが正してください。 1つ、いつかあなたの力が必要になった時は私を助けてください。 この3つでどうです?」
「いいだろう。私にデメリットは殆んど無さそうだ」
いあ、俺異世界出身だから、色々とトラブルに巻き込まれるぞー、ギルマス。
「わかりました。それでは契約成立ですね」
「ああ」
「では、脚のバンドを外してそこのソファーに横になってください」
「了解した」
そう言うとジェラルド氏はバンドを外し、素早く横になる。
「それでは始めます」
そう言うと、俺は「活法」を使うため、集中していく。
結果から言うと、ジェラルド氏の足は治った。
ほんの10分程で神経は繋がり、20分経った頃には完全に治った。
本人はあまりの嬉しさに窓から飛び降り、夜の街に駈け出して行った。
よっぽど嬉しかったんだろうな。
なんか、もう疲れたよ・・・
それでもがんばってもう一度カウンターに並んで討伐成功を伝え、討伐報酬を受け取ってから帰路に着いた。
受付にはアロマさんが座っており、ギルマスの事を聞かれたので、「部屋の窓から飛び降りて夜の街に消えて行きました」と素直に伝えたら、「冗談がお上手ですね」と笑われた。
因みに討伐報酬はゴブリン12匹で大銀貨2枚と銀貨4枚になった。
宿屋へ着いた後に、魔石を売り忘れたことに気付くが、今日はそのまま休むことにした。