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第134話 サムソンサイド 2

 さて、聞きたい事は聞き出せた。


 現場の指示も出し終わった。


 後はお仕置きを実行するだけだ。


 現場の指示を出し、街中に逃げたミノタウロス達に対処する為に動こうとした頃、キュルケ教のトッチーノが慌てた様子でやってきた。


「お、遅れてすまない!

 今、ミノタウロスが街中に解き放たれたと聞いたんだが、どういう状況なのかね?」


「遅れてやって来てなんか偉そうですねぇ、全く役に立っていない神殿関係者が・・・」


 俺が嫌味を盛大に言うとトッチーノがたじろぐ。


「ラク、まぁそう言ってやるなぃ、確かにその場にいた神殿関係者は冒険者達を止める事も出来なかったし、壁を壊す事も阻止出来なかったし、ミノタウロス達を倒す事も出来なかったが・・・

 すまん。言っててフォローできねぇわ」


「ちょっと待ってくれないか、確かに我々では倒す事は出来ない。

 それは認めよう。

 だが、我々でも街の人達の避難誘導くらいはできる。

 だからそっちを優先していたのだよ。それに誘導は今も続けているぞ!

 それとこの辺りの街区を我々と衛兵が協力して封鎖していたお蔭でミノタウロス達の行動範囲もかなり絞られているんだ。

 それなりに役には立っている筈だ!・・・と思う」


「そ、そうだよな?

 俺達やラクでは手が足りない部分をしっかり補ってくれたんだよな?」


 そう言ってボコポが話に乗っかり、トッチーノの言葉尻は若干弱かったが、自分たちの存在意義のアピールには成功したようだ。


「ふむ、となるとこの辺りは今ミノタウロスとの遭遇率がかなり上がってるんじゃないですかね?」


 俺がそう言うとボコポとトッチーノの2人が肯定する。


「それって、ヤコボ親方達がかなり危険になるんじゃないですか?」


「「あ」」


 ふむ、こうなるとヤコボ親方達が心配だ。

 先程の話し合いではヤコボ親方達にはエリアルとノインを護衛に付けて残った俺やライナ達がミノタウロス達を討伐する予定だったが、こうなると護衛が2人じゃ不安だ。


「仕方ない。

 ライナ、君達は全員ヤコボ親方達の護衛に残ってください」


「え?! あ、はい、わかりました!

 しかしそうなると街中のミノタウロス達はどうします?」


「私1人で対処します」


「だいじょ・・って、山並のお師匠なら楽勝ですね」


「えぇ、楽勝ですね。ただ、1人なので複数の対象がいると何匹かに逃げられて(・・・・・)掃討するのに多少(・・)時間が掛かるかもしれませんけどね」


 そう言ってやれやれと肩を竦めてニヤリと笑う。


「す、すまない。

 我々があの冒険者達(アホ共)を止めることが出来ていればこんな事にはならなかったのだが・・・」


 そう言ってすまなそうにするトッチーノだが、権力(サムソン)武力(冒険者ギルド)経済力(商業ギルド)が相手じゃ宗教だけでは太刀打ちできないだろう。

 それに神様サイドは悪魔のダンジョン攻略を推進している関係上、悪魔のダンジョン攻略の短縮化(ショートカット)と言うお題目があるので反対するのも難しいのかもしれない。


 ただ、街の住人の安全を完全に無視している時点で施政者が出す方針としてどうかと思う。

 その上、施政者側の人間が誰も攻略に乗り出していない時点で誰も納得しないだろう。

 そして俺の怒りが収まる筈もなく、爆発しかしない。


 まぁ、サムソン達にはこんな事になるならさっさと穴を塞いでしまえば良かったと後悔させてやる。


「今更過ぎた事をグチグチ言っても仕方ないですよ。

 トッチーノ(役立たず)、いや役立たず(トッチーノ)はこれ以上被害が広がらないようにウェイガン教の人達と協力して引き続き区画封鎖をしてください」


「わ、わかった」


 そう言うとトッチーノは貴族屋敷の正門へと戻っていく。

 指示を出しに行ったのだろう。


 さて、これで逃げ出したミノタウロス達をようやく追える。


 軽いため息を吐くと俺は「気配察知」を発動させて貴族屋敷を離れた。























 楽太郎がリイナから凶報を受ける2日程前。


 サムソンは早朝に先駆けとして訪れた伝令から悪魔のダンジョン攻略に訪れる追加人員の到着を知らされ、彼等を出迎える準備に取り掛かる。


 そして到着した彼等を見て驚いた。


 勅書では冒険者を増員との事であったが、実際に訪れたのは王都の第1騎士団1個中隊で200名。

 それに冒険者が10パーティで50名程。


 明らかに冒険者の数が少なかった。

 前回の半数程度しかいない。


「サムソン=グレイライト近衛騎士殿でありますな?

 私は王都第1騎士団、第1大隊所属、第3中隊長のテイル=マッサーであります」


 軍人らしいハキハキとした敬礼をした中隊長に向けて軽く返礼すると俺は早速疑問に思った事を質問する。


「テイル中隊長、1つ質問がある」


「は!何なりと」


 しっかりとした敬礼に少し面食らう。

 儀礼的な挨拶は既に終わっていると思ったのだが・・・


「私が受け取った勅使には攻略に冒険者を送るとあったのだが、貴殿らが現れたのには何か理由があるのかな?」


 俺の質問にテイルは困ったように眉を寄せる。


「どうした?言えないような事か?」


「いえ、少々申し上げにくい事なのですが、よろしいでしょうか?」


「構わん、答えてくれ」


「は!実は王都で攻略の為に冒険者ギルドへ追加依頼をしましたが、人員が集まらず急遽我々が対応する事になりました」


「集まらないだと?

 それはどういう事だ?」


「どうも先の攻略に参加した冒険者達から過酷な状況が伝えられたようでして・・・」



 そう聞いて納得した。

 彼等は王都でも一流と言われる冒険者達だ。

 その彼等がどれほど危険であるかを実際に目の当たりにしたのだ。

 当然自分が所属する王都の冒険者ギルドにも報告するだろう。


 となれば幾ら国からの依頼であれ冒険者ギルドだって態々冒険者を無駄死にさせようとは思うまい。

 警告は十分にしただろう。

 だが、冒険者ギルドとしても全く人員を出さないと言う訳にも行くまい。

 そうなると・・・

 今参加している冒険者は冒険者ギルドで持て余しているような者か己の力を過信した馬鹿のどっちかと言ったところだろうか。


 良く見てみると大半が凶相の持ち主のようで面構えが何処となく怪しく見える。


 まぁ、彼等は捨て駒にされたのかもしれない。

 どういった言葉で懐柔されたのかは知らないがあの魔物、ミノタウロスの群れを見れば戦意喪失して逃げ出すに違いない。


 そう結論付けると俺はテイルに声を掛けた。


「つまらない事を聞いてしまったな、すまない。

 長旅で疲れただろう。

 宿は手配してある。

 今日明日はゆっくりと休み、明後日からの悪魔のダンジョン攻略に励んでくれ。

 詳細はそこにいる商業ギルドのギルド長のカタリナ=スフォルツェンドに聞くように。

 では、失礼する」


 俺はそう言うとカタリナに視線を向け、彼女が頷くのを見届けてからその場を離れ、ミーネ様に騎士団が攻略に参加する事を報告する為、屋敷に足を向けた。












 宿の手配等の雑事も片付け、落ち着いた頃には日は既に暮れていた。

 俺はテイルを労う意味で夕食に誘うことにした。

 もちろん、王都の情報が欲しいと思う多少の下心も有りはしたわけだが・・・


「遠路ご苦労だったな。

 さぞ疲れただろう」


「お気遣いありがとうございます」


 そう言って盃を交わし、一息に飲み干すと、テイルが一息ついた。


「流石に疲れただろう。

 明日はゆっくり休むといい」


「はい、有り難く休ませて頂きます」


 そうして食事を楽しみ、人心地吐いた頃、話題を振る。


「そう言えばテイル殿はあの屋敷の補償金について何か聞いているかね?」


「補償金?」


「あぁ、実はあそこは長い間、持ち主不在で商業ギルドの預かりであったんだがな・・・」


 そう言って経緯を話すと、テイルは驚愕した。


「それではあまりに無体ではないですか?」


「あぁ、国の沽券にも係わる事だ。

 俺はその事もしっかりと報告書に書いたのだが、勅使にはその事については全く触れられていなかった。

 なのでテイル殿にもお聞きしたのだが、知らなかったようだな」


 そう確認するとテイルは首を縦に振り「知りませんでした」と肯定した。


「『悪魔のダンジョンから魔物が街中に出てきた』と言う事態はこの1月程で周辺各国には知られている」


 そう言うとテイルは頷いた。


「それにも係わらず悪魔のダンジョン攻略の為と称して魔物が這い出る地下の穴を塞がず、攻略に乗り出すも失敗。

 現場の指揮官から攻略はほぼ絶望的だと言う報告を上げているのに失敗した時と同じように再度攻略に乗り出す。

 その上、正式に土地を買い取った者に対して何の補償もしない。

 それどころかタダ同然の値段で召し上げようとする。

 そんな国の話を聞いたらどう思う?」


「その国の王はあん・・・」


 答えようとしてテイルは途中で言葉を飲み込む。

 恐らく彼は『その国の王は暗愚であるだろう』と言おうとしたのだろう。

 俺だって他国の話であれば大いに暗愚、もしくは冷酷とでも言っていたと思う。

 だが、その対象が自国の王である事で、言葉にするのを躊躇ったのだ。


 先程まではそれなりに温まっていた会話が一気に冷えた。


「まぁ、テイル達が悪魔のダンジョンを攻略してしまえばそんな事にはなるまい」


 気分を変えようと冗談めかして俺が言うと、テイルもホッとしたのか「その通りですな」と乗って来た。


「取り敢えず、攻略はどう進める予定なんだ?」


「前回の失敗を踏まえて、初日から最奥を目指すのではなく実際の魔物の強さを調べようと思います」


「ほぉ、中々慎重だな」


「はい、今回中々冒険者が集まらなかったとはいえ、国から冒険者達に依頼した案件なのです。

 なので『我々騎士団はあくまでも数合わせとして存在する』と言う事になっているので、冒険者達に花を持たせると言う事でダンジョン攻略の先手を譲る事になっています」


 テイルの答えに納得した。

 騎士団が出ての失敗と言う事は国の威信に関わる事にもなる。

 ならば先に冒険者に花を持たせると称して炭鉱のカナリアになって貰うと言う事だ。

 攻略が不可能だと理解すればテイルもダンジョン攻略を無理に進める事は無いだろう。


「なるほど、ダンジョン攻略については理解した。

 あと残る問題は・・・」


「補償金の件ですな。

 確かに補償については王にどうにかして頂かないと、国の沽券に係わりますな」


 そう言ってテイルが苦笑いする。


「私もその事で色々と苦労している」


 そう言って深く(うなず)くとテイルの苦笑が深くなる。


「わかりました。

 私の方からも報告を上げましょう」


「有り難い。

 正直、助かるよ」


 俺がそう言って笑い掛けるとテイルも笑った。


 そうして他愛ない話をしながら夜が更けて行った。












 そうして悪魔のダンジョン攻略当日。


 神殿関係者と多少の揉め事はあったが、冒険者ギルドのサントゥスや商業ギルドのカタリナの助言もあり、問題なく攻略が進められ冒険者達が貴族屋敷の敷地内へと侵入していく姿を見送る。


 テイルはこの場に止まり現場の指揮を続けるそうだが、俺は冒険者達が貴族屋敷の敷地内に入り、正門が閉められるとミーネ様の元へと戻る事にした。

 私の任務はミーネ様の護衛が最優先だ。

 護衛対象からあまり離れるのはよろしくない。


 テイルに挨拶をして戻ろうとするとサントゥスが話があると切り出して来たので屋敷に戻ってから聞くことになった。

 それを耳聡く聞いていたカタリナも何故か付いて来ることになったが、正直この女が何を考えているのかさっぱりわからない。


 まぁ、害は無いだろうと思うので同行を許可して屋敷へと向かった。










 屋敷に戻るとミーネ様へ報告をする。

 大分退屈をされているようだが、まだ暫らくは我慢して頂かねばならない。


 幼くとも王族だ。

 王族が街を離れては街を見捨てたと取られかねない。


 実際、この街の悪魔のダンジョン攻略においては失策続きだ。


 そんな事を考えていると、不意に近衛騎士になったばかりの頃に先輩から聞かされたこの国の裏話を思い出す。

 と言うか表に出せない本当の歴史と言うか、ウェルズの街の悪魔のダンジョンに纏わる王家の失策の数々を思い出してしまった。



 まず、200年前までの事だが、キュルケ教やウェイガン教からダンジョンが出来た当初から約100年程、早期の攻略をとの嘆願が毎年あったのを放置していた。

 もちろんキュルケ教やウェイガン教も嘆願するだけではなく進んで攻略に乗り出していたが、悪魔のダンジョン攻略は彼等の本分からはかけ離れている。

 その上、難易度も高いのでどうしても犠牲者が絶えない。


 熱心な信者であってもこればかりはどうにもならなかったのだ。


 因みに悪魔のダンジョンが出来た当時の王は武断の王として有名であったゴドフリール王で、攻略に旺盛な意欲を持って当たっていたのだが攻略できなかった。

 当時のゴルディ王国が誇る最精鋭の騎士、兵士合わせて2000名がダンジョン攻略に向かったのだが、(ことごと)くが戻る事なく全滅した。


 業を煮やした王がさらに追加の兵を1万投入したが彼らも戻って来なかった。


 そこでゴドフリール王は数で押す事を諦め、当時最強を誇った剣聖ルード・タイランに聖人メイム・スチームと賢人サルカン・ボールスを招聘して悪魔のダンジョン攻略に充てたが彼等が生還する事は無く、ゴドフリール王も止むを得ず、悪魔のダンジョン攻略を断念せざるを得なかった。


 だが、ゴドフリール王はそれでも悪魔のダンジョン攻略を諦めなかった。

 数年後、ゴドフリール王は後継であるザブリール王子が成人を迎えると王位を即座に譲り、自身は昔からの側近等を引き連れて悪魔のダンジョン攻略に乗り出した。


 ゴドフリール王は悪魔のダンジョン攻略を慎重に進めて行き、少しずつ進ん行った。

 一見すると順調に攻略が進んでいるかに見えたが、ある時、ゴドフリール王に同行していた者が1人だけで帰還した。


 帰還した彼は口を開かず、暫らく宿で震えていたが、数日後には行方知れずとなった。

 そしてその彼が泊まっていた宿の部屋には一冊の手記が残されていた。


 その内容は攻略に関する情報が事細かく記されていたが、最後の方の文字は歪み、滲んだ文字でこう記されていた。


 『20階層の深層に辿り着くと大きな門があり、その手前には、絶望を湛えた一匹の魔物が居た。


 奴には勝てない。


 私は恐怖のあまり動く事が出来なかった。


 王が、友が、部下が次々と奴に向かって行く中、私は向かうことが出来なかった。

 それどころか、私は皆が戦いに身を投じている中、それに背を向け、我が身可愛さに逃げ出した。


 すまない。

 みんなすまない。

 だが、あれには絶対に勝てない。


 あんなモノに戦いを挑む勇気を私は持てなかった。

 私は弱者だ。

 本当に申し訳ない。


 誰か、

 誰かあの牛面の悪魔を倒してくれ・・・』




 その手記が回収され、ザブリール王の元に届けられるとゴルディ王国は悪魔のダンジョン攻略を完全に断念した。


 そして王家では悪魔のダンジョンの話題は禁句となった。

 勿論、キュルケ教やウェイガン教からの嘆願は何度も行われていたが王家は無視を続けた。




 そして約200年前、王家の意識の底に沈められた悪魔のダンジョンにより更なる災厄が王国を襲った。

 その災厄を王国が収められれば良かったのだが、そうではなかった。

 王国の力では対処しきれなかったのだ。


 そして悪魔のダンジョンの暴走を抑えたのは当時、1人の冒険者でしかなかった勇者だ。

 彼が冒険者仲間と共に死力を尽くした結果、悪魔のダンジョンの暴走を収めることが出来たのだ。


 そして彼はキュルケ教やウェイガン教から勇者認定され、勇者となった。


 対して王家はキュルケ教やウェイガン教から糾弾を受ける事になった。


 神の意向を無視し、奢った王家の所業で無辜の民が大勢死んでしまったと。

 その罪を王家は償わなければならないと糾弾したのだ。


 国内の2大宗教から弾圧された当時の王家はかなりの窮地に立たされ王の首が飛んだらしい。

 物理的になのか比喩的な表現なのかはわからないが・・・


 まぁ、そんな事があってからキュルケ教は国に頼らず自らの力で悪魔のダンジョン攻略に乗り出し、ウェイガン教はそれを支える為の武具の生産に力を入れるようになった。


 そして王家はそんな2大宗教の武力増大に危機感を募らせるが、それを止める正当な理由も無い為、止めることが出来ずに国内の不安要素を抱える事になった。


 良く続いたなゴルディ王国。


 そして、今現在頭の痛い立場に立たされている俺は溜め息を吐く。


 さて、ミーネ様への報告は終わった。


 次はサントゥスの話か・・・

 厄介事でなければいいが・・・いや、厄介事でしかないか。


 そう思うが早いか、俺の口からは再び溜め息が漏れた。










「だから、そのような事はないと何度も言っているだろう!」


「そうは言われましても、冒険者を使い潰すような為さりようでは我々も依頼をお受けする事は出来ません」


 サントゥスからの話はこの街の冒険者に悪魔のダンジョン攻略の指名依頼は出来ないと言う宣告であった。


 本来、冒険者ランクC以上の冒険者しか指名依頼を受けられないので指名依頼を受けると言う事自体が冒険者にとっては一流と認められた証となる。

 所謂名誉な事として扱われるのだが、その反面、指名依頼は基本的には断れないのだ。

 と言うのも指名依頼自体、依頼があった時点で冒険者ギルドが依頼内容を精査するので依頼が通った時点で普通はかなり割のいい仕事になるのだ。


 冒険者ギルドとしても優秀な冒険者を失う事は大きな損失に繋がるので難易度が高い依頼についてはそれなりに精査されるのが常である。

 その上で指名依頼ともなれば万が一があってはならないので達成が困難であると判断した場合は冒険者ギルドが冒険者を護る為にギルドが表に立って先に断るのだ。


 と言う事で、冒険者が指名依頼を断ると言う事は冒険者ギルドの名前に泥を塗る行為であり、冒険者自身の信用を落とす事にもなるのだ。

 なので殆どの場合は断れないのだが、今回、通常の依頼では冒険者が集まらなかった事で王国は冒険者への依頼を指名依頼に変更した。


 今回の王国の依頼はハッキリ言って無謀である。

 貴族屋敷の敷地内を徘徊しているミノタウロスでさえLV80を超えているのだ。

 こんな依頼を指名依頼なんてされるのは死刑宣告としか思えない。


 指名依頼の受諾についてはそれぞれの街の冒険者ギルドのギルド長に一任されているらしく、サントゥスは王国からの依頼があった時点で『不可』と判断し、俺に断りを入れてきたのだが・・・


 正直に言うと、俺にはその情報が来ていない。

 ・・・頭の痛い問題だ。


 それとなく話を誘導しつつ要点を纏めると王国から王都の冒険者ギルドに指名依頼がかなりの量、為されたようだ。

 そして王都の冒険者ギルドに所属していない冒険者への依頼については各冒険者ギルドへと依頼が流されたらしい。


 そして依頼の精査と言う事で実際に悪魔のダンジョンのあるウェルズの街の冒険者ギルドに各地の冒険者ギルドからの問い合わせが引っ切り無しにあると言う半分以上が愚痴でもあったが、そう言った事もあり各冒険者ギルドへの返信には正直に答えたそうだ。


 その答え自体は納得できるものであり、情報が来なかった俺としても仕方ないと思う。


 しかし、王国の近衛騎士であり、現場の指揮官である俺としては王の意向に沿わなければならない。

 と言う事で指名依頼を受けて貰えるよう何とか交渉しているのだが、お互い少し熱が入り過ぎてしまったようだ。


「どうにも埒が明かないようだ。

 続きはまた後日としないか?」


「いえ、こちらの意見は変わりませんので、これにて終わりと言う事でお願いします」


 そうですね。


 なんて言えれば楽なんだが、交渉を頑張っていたと言う言い訳ができる程度には粘らないと後々困る事になる。


「そう言わずに・・・では、暫し昼食を挟もうではないか」



 そうして交渉を続ける事数時間。


「サムソン様! 大変です!!」


 扉を荒くノックする音と共に凶報が飛び込んできた。


 例の貴族屋敷の壁が壊されミノタウロス達が街に解き放たれた。


 この報せを聞いた俺は即座にテイルへ伝令を走らせてミーネ様の居る屋敷の敷地へと入る出入り口を内側から固めさせた。


 幸い屋敷の敷地はそれなりに高い塀に囲まれており、内側もそれなりに広さがあるので200人と言う中隊規模の人員を配置する事に難は無かった。

 テイルの部隊が敷地内の防備を固めると、その内の50名程を街の防衛に当たらせた。

 地元の民を危険に晒した原因を作っておきながら自分たちの事しか守ろうとしなかったなんて事を言われる訳にはいかないからな。


 因みに冒険者ギルドのギルド長であるサントゥスは報せを聞いて街の防衛に参加する為に屋敷を飛び出して行った。


 一通りの指示を出し終えた俺は改めて現状を確認し陰鬱な気持ちになる。

 そして暗いため息と共に言葉が漏れる。


「最悪だ」


「そうですわね」


「?!」


 誰もいないと思って口にした独り言に返事が返って来て驚いて顔を上げるとそこにはカタリナがいた。


「・・・お前は帰らないのか?」


「こうなりますと、ここが一番安全かと思いまして・・・」


 そう言ってニッコリ笑ってお茶を嗜むカタリナ。


 ・・・


 ・・・・・・


 再度深いため息が出た。






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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
― 新着の感想 ―
[一言] 現在の国の対応はちょっとアレだけど昔の国の動きはいうほどひどくはないよな… やれるだけやってたくさん犠牲出した結果やむを得なく断念しただけだもんな まあそれはそれでやれることはあっただろうけ…
[気になる点] 私が受け取った勅使には ↑ このお話で「勅使」という言葉がいくつか使われていますが前後の文脈から考えると「勅書」や「王命」、もしくは「勅令」ではないでしょうか。 勅使であれば王からの…
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