第133話 穴を塞ぐ
今年最後の更新です。
皆さん良いお年を~
喧噪が際立つ街のメインストリートを俺は必死に駆け抜ける。
冗談じゃない!
全く冗談じゃないぞ!?
リイナの話は俺を激怒させるには十分な内容だった。
簡潔に言うと、冒険者ギルドと商業ギルドがやらかした。
そして問題の貴族屋敷の右側面に着くと、大きな穴が開いていた。
信じられない気持ちで暫し見詰めてしまったが、怒号や剣戟等の戦闘音ですぐ我に返る。
「人ん家の壁に大穴開けやがったのは誰だぁぁぁぁぁ!!」
俺は音のする方へと駆け出し、3番に肉薄しようとしていたミノタウロスに拳を叩き込んで吹き飛ばす。
そして1番に群がる穴の周囲にいたミノタウロス達を手当たり次第に殴りつけて吹き飛ばすと声を飛ばす。
「1番!状況を説明しろ!」
「は、はい!」
近くにいた1番・・・おっと、ライナだったな。に視線を向けると右手を蟀谷に当てて敬礼するように畏まる。
「現在、この屋敷に無謀な突貫を仕掛けた冒険者が逃亡を計り、この屋敷の壁が3ヶ所壊されました!
俺達は破壊された穴からミノタウロス達が出て来ない様に防戦していたのですが、
次々と穴を空けられた所為で人手が足りず、この穴からは2匹ほど逃がしてしまいました!
申し訳ありません!」
ライナの説明に怒りで手が震えるのが自分でもわかった為、落ち着くように一旦大きく息を吸ってゆっくり吐く。
ビークール、ビークール、ビークール。
オーケイ、オーケイだ。
俺はまだ冷静だ。
そう言い聞かせながら群がってくるミノタウロスを吹き飛ばし、次の行動へと思考を移す。
「・・・わかりました。
取り敢えず穴を塞いでミノタウロスの流出を止めます」
そう言って『土壁』を唱え、敷地側に穴を隠す様な形で半円状に土壁を隆起させる。
そして穴に群がって来るミノタウロス達を3人で倒し続け、最後に逃げようとした数匹を仕留めた頃にはミノタウロスの死体がちょっとした小山になっていた。
「ふぅ、これで暫らく持つでしょう。
えーっと、1ば、いや、ライナさんと3、じゃなくてリサさんはここを守ってください。
私は他2か所の穴を塞ぎに行きます。
それとリイナさんにはボコポさんに伝言を頼んでいるので暫らく遅れると思います」
「「了解しました!!」」
そう言って2人は敬礼をする。
俺は2人に背を向けると無限収納から天秤棒を取り出し、次の戦場へと駆け出した。
暫らく駆けると2つ目の穴が見えてきた。
一つ目より横に広く開けられている。
それを見た瞬間、更なる怒りで体が熱くなるが、何とか堪える。
そこでは4番マッシュと5番ロブルが穴以外にも何かを背後に庇うようにして戦っていた。
どうもその所為で思う様に動けず、ミノタウロス達相手に苦戦している様だ。
まぁ、暫らくの辛抱だ。
それまで持ちこたえてくれ。
俺は彼等を囲むミノタウロスの背後に回ると「無限収納」から「小石」を幾つか取り出し、ミノタウロス達に向かってバラ撒くと小石が爆発してミノタウロス達が吹き飛ぶ。
騒然となるミノタウロス達に向かって俺は更に小石を取り出して投げる。
狙い違わず一匹のミノタウロスの頭に小石が減り込むと同時にそいつの頭が弾けて周りのミノタウロスに頭蓋や脳症の散弾をぶちまけ、更に混乱するミノタウロス達に怒りと共に投げ付ける。
「ふ、ふはは、ふははは、ふははははは!」
気付くと口から暗い笑い声が響いていた。
ミノタウロス達もようやくこちらに気付いたようで襲って来る。
流石に「小型爆弾」の投擲だけでは対処するのが難しくなって来たので地面に置いた天秤棒を拾って近接戦へと移行する。
ミノタウロス達が次々に突進してくるが最初の一匹目の脳天に突きを放ち沈黙させ、軽く飛び越える。
俺を一瞬で見失ったミノタウロスの背後から後ろ足を薙いで圧し折る。
そして再度突進しようと反転するミノタウロス達の中の一匹の角に天秤棒を絡めて捻り首を折る。
確実に1匹ずつ行動不能へと追い込む。
俺の行動は作業の様な的確な動きではあるが、俺の表情は怒り面であり、嗤っている。
ミノタウロス達の処理が一旦終わった時、マッシュとロブルは武器を構えたまま何故か震えていた。
そして最後の穴でも似た様な事があり、そこにいたエリアルは青い顔をして震え、ノインは恍惚の表情で震えていた。
3つあった穴を何とか塞ぎ終わった頃、ようやくボコポ達が資材などの大荷物を馬車に載せてやって来た。
「ラク、待たせたな」
そう言ってボコポ達ドワーフが俺の元に集まってくる。
「いえ、丁度一息入れた所です。
それよりも大丈夫でしたか?
何匹かミノタウロスが屋敷から抜け出しているので依然としてこの周辺は危険ですよ?」
「そんなのは百も承知だぜ!
それにこいつ等にもその事は十分に伝えてある。
今更怖じ気付く奴なんかここには1人もいねぇぜ」
そう言ってボコポは苦笑しながら後ろを指し示すと「「「街を守りに来やしたぜ!!」」」とドワーフ達が唱和した。
有り難い限りだ。
「・・・皆さん、ありがとうございます」
心からの感謝を伝えようと色々言葉を考えたが、結局シンプルな言葉になってしまった。
「いつも世話になってんだからお互い様だぜ」
そう言ってボコポが頭を書くと、その後ろから白髪混じりの髭を扱きながら頑固そうな顔つきのドワーフが声を掛けてきた。
「挨拶が済んだんならサッサと仕事をさせてくれんかのぉ?」
「おっと、すまねぇヤコボ親方」
「気にせんで良い。それよりも壁を直すんじゃろ?サッサと現場を見せてくれんかのぉ」
なんかせっかちな爺さんだな?
そう思っているとボコポが紹介してくれた。
「こちらはヤコボ親方だ。
セドリックの師匠だ」
へぇ、そうなんだ。
「お初にお目に掛かりますヤコボさん。
私は山並 楽太郎と言います。
セドリックさんには大変お世話になっております」
俺が自己紹介をすると、ヤコボは俺の眼を覗き込むようにじっと見つめ、にっこりと笑う。
「えぇえぇ、こっちも弟子が迷惑をかけておるようじゃて、気にせんでもえぇよ」
「いえいえ、そんなことはありませんよ。
こちらとしては大変助かってますよ」
「ふむ、そう言ってもらえるんはありがたい。
セドリックの奴も腕は中々のもんなんじゃが喋りが苦手でのぉ・・・」
そう言って弟子自慢が始まりかけるがボコポが呆れた顔で待ったを掛ける。
「ヤコボ親方、わりぃが時間がねぇんだ。
挨拶が終わったんなら仕事の話を詰めようぜ」
「おっと、こりゃぁ一本取られたのぉ」
そう言うと笑い声がドワーフ達から上がる。
この爺さん、見た目と違って茶目っ気があるようだ。
そんな事を思いながらドワーフ達に出来るだけ壊される前と変わらないように復元するようにお願いする。
「もっと頑丈にすることもできるが?」
ヤコボ親方がそう言うが、見た目が前と同じになる事を優先して貰う事にした。
ダンジョンの魔物にはダンジョンの建造物を意図的に破壊しないという特性があるからだ。
見た目が周りに溶け込めるなら魔物に破壊される事もない筈だ。
それに今は何よりも一刻も早く穴を塞ぐことを優先したい。
今も街に抜け出した魔物は健在なのだから。
そう言った諸々を伝えるとヤコボ親方は納得してくれた。
「わかった、儂らに任せときぃ」
そう言ってヤコボ親方はニッカリと笑った。
さて、これである程度の目途が付いた。
ここからはちょいとお痛の過ぎるアホ共に報いを受けさせてやる。
「ラク・・・なんか、恐ろしい事考えてねぇか?」
「え?」
「口元は笑ってるのになんか纏った雰囲気が剣呑な感じがするんだが・・・」
「大丈夫ですよ。
最近少し、少しだけストレスが溜まってましてね。
発散する良い方法を思いついただけです」
「そ、そうか」
「えぇ、つきましては少しお聞きしたい事があるのですがよろしいですかね」
そう言って俺はニッコリと笑った。




