第131話 奴隷
さて、一晩奴隷の勤務表を作るのに当ててしまったが、何とか決まったので奴隷達をリビングに集めた。
まず1人目はエリクと言うエルフの男性だ。
兄妹で冒険者をしていたが、依頼を失敗して兄妹2人共大怪我を負う。
怪我を治す為に高額の借金をして治療を受けたそうだが、命は助かっても失った指は元に戻らず得意の弓が引けなくなり借金返済が出来ずに奴隷落ちしたそうだ。
因みに借金はエリク1人で借りた事にしたそうで妹さんは奴隷にならずに済んだらしい。
2人目はラルスと言う人間の男性だ。
彼は農夫をしていたそうだが、天候不順で不作が続き借金。
止めとばかりに魔物の襲撃で畑は荒らされ本人も怪我をしてしまい借金が返せず奴隷になったそうだ。
魔物の襲撃で受けた傷は治らず、右腕が動かないそうだ。
そして3人目と4人目は同じ冒険者パーティにいた人間のクルトとティム。
元々は5人パーティだったのだが、依頼失敗時に3人が死亡。
2人も片腕を無くしたり、片足を無くしたりと満身創痍で命からがら生き延びたそうだ。
ギリギリで命だけは助かったがそんな身体では真面に働けず、治療費を返すことも出来ずにやっぱり奴隷に落ちたと言う事らしい。
そして5人目はゲルドと言うドワーフの男性だ。
彼はヤコボ親方の弟子で独り立ちの際、商業ギルドの嫌がらせを受け、片腕を失う大怪我を負い事業失敗。
立ち上げや仕事で負った借金が返せず奴隷落ちしてしまったらしい。
商業ギルドってヤバいな。
裏社会にも進出してるってか?
6人目はエロイーズと言う人間の女性だ。
彼女は元々とある貴族の娘さんの御付のメイドをやっていたそうだが、不祥事があってその責任を取らされる形で両目を失い奴隷に落とされたらしい。
彼女の顔はかなり美人の部類だが、眉間と両目に掛けて横一文字の傷跡があり、元が整っているだけに痛々しい感じがした。
詳しい話は聞かなかったが、貴族って無茶苦茶だな。
7人目と8人目と9人目は同じパーティを組んでいた女性冒険者達でメリザンド、サロメが人間でセルマがエルフだった。
こちらもお決まりのパターンで依頼を受け、目的地へと移動する際、魔物に襲われ3人共大怪我を負って治療費が払えず奴隷落ち。
3人共、顔に酷い火傷のような跡がありこちらも痛々しい。
10人目はジーナと言う狼の獣人女性だ。
見た感じ人と違うのは頭の上にある千切れかけの大きな犬耳と腰の少し下あたりから垂れている尻尾。それと話す際に時々見える鋭く尖った犬歯位だろう。
彼女は戦争奴隷だった。
元々はリンド獣王国の戦士だったそうだが、戦争中に神聖王国サスティリアの兵に捕らえられ奴隷にされたそうだ。
彼女は捕らえられる際にかなりの抵抗をしたそうで真面に抵抗できないように両腕を潰されたそうで左肩は上手く動かせず右手は指を砕かれた所為で指が動かなくなったそうだ。
11人目はエリザベート=マンティスと言う人間の女性だ。
元はジルキル帝国の貴族令嬢だが、帝城のメイドとして働いていたそうで礼儀作法や家事等は得意分野だそうだ。
彼女は特に失敗らしい事はしていなかったそうだが、実家がやらかしたそうだ。
その所為で御家お取り潰しの上、彼女は奴隷に落とされたらしい。
12人目はリゼル=フォンタナと言うエルフの女性だ。
元はスキーム王国の貴族令嬢だったとの事で柔らかな笑顔や洗練された身のこなしは美しい。
彼女は実家が貧乏貴族で借金が返せず没落してしまい奴隷になったそうだ。
かなり苦労していたお蔭か、お金の管理や数字にはめっぽう強く、マルコムも時々経理を手伝って貰っていたそうだ。
と言う感じで俺はこの12人を購入した。
と言うか、正直に話そう。
テンプレとも言うべき肉体的な訳あり奴隷の購入をマルコムに言った後、連れて来られた奴隷の身の上話や実際の状態を目にして俺は10人でギブアップした。
流石に序盤の数人までは俺も『うわぁ~』と思いながらも何とか耐えられたが、途中からは無理だった。
最後のジーナなんか傷の治療はされているが完治はしておらず、眼が見える、身体を動かせると言うだけで動く度に呻き声を出していたし、両腕は見るも無残だった。
そんな状態の人を実際に見てしまい。
俺の豆腐メンタルではもう無理、ギブアップ。お腹いっぱいです。すんませんでした!
そんな後悔の念に囚われ、俺からはもうNoとは言えない心境になっていた。
だって、俺なら多分、治せるから・・・
その後、マルコムに新しい奴隷の紹介を即座に断ったのは言うまでもないだろう。
そして既に紹介された彼等彼女等の質問を受けると「本当に買って貰えるのか?」「こんな身体でも大丈夫なのか?」と言った事が殆んどだった。
それらの質問に俺は「問題ない。大丈夫だ」と答え、仕事内容を話した上で最後に1つだけ問いかけた。
「ヤル気はありますか?」
その問いに彼等彼女等の答えは全員「Yes」一択だった。
そして最後に俺が怪しまれない様に健常な奴隷も購入するつもりだったのでマルコムのお勧めを見せて貰い、面接の真似事をして採用したのがエリザベートとリゼルだった。
と言う事で予定よりかなり多く購入した。
そんな彼等彼女等が集まったのを見計らい、声を掛ける。
「さて、皆さん。
呼びつけてしまって申し訳ないのですが、早速お仕事の話をします」
そう前置きすると何人かが息を飲む音が聞こえた。
そんな音が聞こえるくらい静かで重苦しい空気が流れている。
「最初に確認をしたいのですが、誰か料理が得意な方は居ますか?」
そう聞くと誰も手を上げなかった。
なんでだよ?!
「キャシーさんとエマさんも料理は出来ないんですか?」
「申し訳ないのですが、作った事がありません」
そう答えたのはキャシー。
「私は作った事はあるのですが、人様にお出しするレベルではありませんので・・・申し訳ありません」
エマはそう言って頭を下げる。
「・・・誰も料理できない?」
そうボソッと俺の声が漏れると奴隷達がビクッと震える。
・・・空気が悪い。
そんなに怖いのか?
俺は重苦しい空気を変える為に努めて明るく優しい声音で声を掛ける。
「あー、別に怒ってるわけではないので気楽にしてください。
宮廷料理を作れとかじゃなくて私や皆さんが食べる食事なので一般的な家庭料理で良いんですけど、いませんか?」
そう聞くが誰も声を上げない。
マジか?!
「あ、あのぉ、申し訳ありません。
以前は作れたんですけど、目が見えなくなってしまったので今は作れないんです。
本当に申し訳ありません」
エロイーズがそう声を上げると、ゲルドとメリザンド、ジーナも同じような事を言って来た。
そこで俺は思い出す。
そう言えばまだ完全には治していなかった。
流石にマルコムの前で完全に治す訳にも行かなかったので昨日はミドルヒールで痛みを和らげる程度に留めて移動をスムーズにしたんだった。
その後も奴隷契約を交わしたり、新居への引っ越しをしたりと色々忙しくて食事も適当に買って来て貰ってそれで済ませていたしな。
その後も一息ついたところで奴隷の運用計画や勤務表を考えたり作ったりと色々していて忘れていた。
「あー、申し訳ありません。
最初にやる事を忘れていました」
そう前置きをすると俺は命令する。
「これからあなた達に1つ命令をします。
これからここで起こった事は他言無用です」
そう言って俺が微笑むと俺以外の全員が息を飲む。
これから何が起こるのかと戦々恐々としているようだ。
「まずはエロイーズさんから始めましょうかね」
「ヒィッ?!」
俺の台詞にエロイーズが悲鳴で答える。
「前を失礼しますね」
そう言って俺はエロイーズの両目を覆う様に右手を当てる。
「な、何を?!」
驚き慌てるエロイーズに俺は「動くな!」と少し強めに声を掛けるとエロイーズが固まった。
周りの者達はこれから何が起こるのかと事態を見守っているが、そこには恐怖の感情が見て取れた。
全く面倒な・・・と思いながらも俺はエロイーズに「エクストラヒール」を掛けるとエロイーズの全身が青白い光に包まれ、彼女の顔にあった傷が消える。
「「「な?!」」」
エクストラヒールを掛け終えた俺は次の獲物に視線を向ける。
「次はジーナさんですね」
そう言って笑い掛けると、ジーナが固まった。
俺が彼女の方に足を向けると彼女は俺を警戒しているのか後ずさるように下がる。
「面倒なので動かないでください」
俺がそう言うとジーナは後ろに下がるのを止めて顔を強張らせたまま立ち止まる。
そして俺は彼女の腕を掴み「エクストラヒール」を掛けると、彼女の全身が青白い光に包まれる。
そして千切れかけていた犬耳が綺麗に治り、歪な形になっていた右手の指が元々あったであろう形に修復される。
変化はそれだけではなく、彼女の全身が完全な形で治癒された。
ジーナは呆然としている。
「さて、次はゲルドさんですね」
「お、おう?!」
そんな声を上げた彼の肩に手を当て「エクストラヒール」を掛けると彼の全身が青白い光に包まれ彼の右腕が生えてくる。
「「「ば、馬鹿な?!」」」
そんな声が聞こえて来るが俺は無視して全員を治して回った。
結果、健常な身体を取り戻した彼等は涙を流して大喜び、そして食事作りはエロイーズとメリザンド、ジーナが交代で作る事になり、これで最低限の食を確保できた。
そして次に仕事内容を説明し、勤務表を発表。
そして奴隷強化計画を発動した。