第130話 奴隷商との商談? 2
「すいません、呪いを解く前にポーションを用意して貰えませんか?」
「はい?」
俺の言葉にマルコムが驚きの返事をする。
「いえ、解呪の際、私の体力が削られる可能性があるので念のために用意して貰いたいのですが・・・できます?」
「わかりました。
ジェローム、ポーションをあるだけお持ちしろ」
マルコムは初老の男に言いつけると初老の男は一礼して退出して行った。
ポーションを要求したのは以前蘇生魔法を使った際、MP以外にHPも削られた事があったからだ。
流石にあの頃と比べれば圧倒的にMPもHPも増えているが念には念を入れるってことでお願いした。
そう言えばポーションって手持ち無かった気がする。
・・・素材はあるから帰ったら作ってみるか。
そんな事を考えている内に初老の男ことジェロームがワゴンにポーションを沢山乗せて戻って来た。
「こちらで宜しいでしょうか?」
「えぇ、ありがとうございます」
ジェロームの確認の言葉に返礼すると、俺は早速マルコムに向き直る。
「それでは始めますよ?」
「よろしくお願いします」
マルコムの返事を聞くと、俺は早速始める事にした。
使う魔法は『リムーブカース』と言う解呪の魔法。
聖人になった際に手に入れた回復魔法の1つだ。
俺は「リムーブカース」と一言唱えると俺の両手が白く発光し、次いでマルコムを見ると首から上の頭部全体が黒い霧のようなものに覆われているように見えた。
「うわぁ・・・」
なんか、正に呪われてますって感じが出てて危険な雰囲気がひしひしと伝わってくる。
「な、なんですか?」
俺の呟きにマルコムが敏感に反応する。
「いやいや、かなりヤバいですね。これ」
「「「?!」」」
初めて使う魔法だが、何となくどうすれば良いかは直感でわかった。
俺はマルコムの後ろに回ると、円形脱毛症が5カ所ある事に気付き、なんか、悲しい気持ちになった。
まぁ、丁度良いか。
俺は「ちょいと失礼しますね」と一言断りを入れてから左手で首を掴む。
「な、何を?」
マルコムが声を上げるのとほぼ同時に俺が右手を円形脱毛症の箇所に指を当てる様にして後頭部を掴むと俺の両手から白い光がマルコムの頭に流れ込む。
それと同時に俺体力が両手から抜けて行くような感覚に囚われる。
「ぐぅ?!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「だ、旦那様?!」
「邪魔をするな!!」
悲鳴を上げるマルコムにジェロームが駆け寄ろうとするが俺が一喝する事でボコポが間に入り、ジェロームを止める。
それから暫らくマルコムの悲鳴が続くが、中々魔法が終わらない。
マルコムの黒い霧も抵抗するように激しく揺らめいている。
呪い解除ってこんなに続くのか?
そんな疑問を浮かべ、自身のステータスを確認して血の気が引いた。
HPが500程削れていたのだ。
MPに至っては800程削れている。
・・・これ、低レベルで使ってたら俺死んでるんじゃないか?
そんな事を思いゾッとするのと同時に俺はポーションを要求する。
「すみません、ポーションを飲ませて貰えませんか?
今手が離せないんです!」
「お、おう」
そう言ってボコポがポーションを1本取り出し、栓を抜くとマルコムの口に突っ込む。
「いえ、私に呑ませてほしいんですが?」
「わ、わりぃ」
そう言ってマルコムの口に突っ込んだポーション瓶をこっちに向けて来る。
「ちょっと待てぇぇぇ!?
新しいのに変えろやぁぁぁ!」
「わ、わりぃ」
「わりぃじゃねぇわ!」
思わず素で返事をしてしまった。
まぁ、そんな感じでポーションを飲むと一旦HPが回復する。
しかし少しするとまた徐々にHPが削れていく。
その間もマルコムの悲鳴が途切れる事は無い。
そんな状況がしばらく続くと、ようやく黒い霧が萎み始め、頭部全体を覆っていた霧もマルコムの眼窩と鼻と口だけとなり、眼窩から消え、次いで口からも消え、最後は鼻からも消えた。
そしてダメ押しとばかりに俺の両手から放たれていた白い光がマルコムの頭部を覆い尽くすと、一瞬眩く光を放ち、マルコムの悲鳴も途絶えた。
俺はぐったりしているマルコムを手放し、マルコムのステータスを見て呪いが解けたことを確認する。
「よし、これで呪いは解けました」
そう言うとジェロームはマルコムに駆け寄り、ポーションを飲ませてソファーに座らせた。
「ほ、本当に、呪いが、解け、たん、ですか?」
息が乱れている中でマルコムが訊いて来る。
「えぇ、解けましたよ。
ステータスを確認してみてください」
「ほ、本当に呪いが解けて、いる?」
自身のステータスも確認したのだろう声が上ずっている。
「なんなら試してみます?
呪いで言えなかった言葉が言える筈ですよ?」
そう言われてマルコムは暫し考え、覚悟を決めると一言発する。
「キャシーとエマを買うと呪いが掛かる」
そう言って目を瞑ったマルコムだったが、暫らくしても何も起こらなかった。
「は、ははは、はははははははは!
や、やった!やったぞぉぉぉ!」
マルコムは暫らく小躍りしていたが、現状を思い出したのか慌てて身なりを繕い、咳払いで誤魔化そうとする。
「いや、大変失礼をしました」
「いえいえ、大変楽しい踊りでしたよ」
「ラクタローさん。
あなた、少し意地が悪いですね」
「まぁまぁ、良いじゃないですか。
それとお巫山戯はここまでにして、そろそろ本題に入りませんか?
私はそのために今日ここへ来たんですから」
そう言うとマルコムは表情を引き締める。
「そうですね、では商談と参りましょう」
こうしてキャシーとエマは晴れて俺の奴隷になった。
キャシーとエマを手に入れて2日目。
俺は借家住まいとなっていた。
理由は単純で、マルコムが呪いを解いた礼と言って賃貸用の持ち家の1つを俺に貸してくれることになったのだ。
マルコム曰く、「流石に奴隷の主が根なし草では外聞が悪いでしょう」との事で無料で貸してくれることになったのだが、実際にその家に行ってみるとかなりデカかった。
俺は最初こぢんまりとした一軒家を想像していたんだが、実際見てみると家というよりお屋敷と言った方が良い大きさだったのだ。
「確かにとても素晴らしい家、と言うかお屋敷ですが、流石に3人で住むには大きすぎるので申し訳ありませんが・・・」
そう言って断ろうとすると、マルコムが賺さず言葉を返す。
「何を仰います。
これくらいの家で気後れしていてはあの貴族屋敷にお住みになられた際はもっと気後れされる事になってしまいますよ?」
「た、確かにそうかもしれませんが、流石にこんな立派なお屋敷を無料でお貸し頂く訳には・・・」
「その点はお気になさらないでください。私の感謝の気持ちでもありますので、どうぞお使いください。
それに広い家に慣れると言う意味でも、まずはこの家にお住みになり、大きな家に住むことに慣れてみては如何ですか?」
「確かに慣れる為に住むと言うのは良い考えかもしれませんが、こんな大きなお屋敷の管理をする者が2人だけと言うのは流石に心許無いのですよ」
そう切り返してみるが、マルコムは更に言葉巧みに誘導する。
「それでしたら使用人を増やしてみてはどうです?
そうすればラクタロー様の悩みも解消されるでしょう。
幸いな事に我が商館にはそう言った仕事に精通した奴隷も居りますので、よろしければご覧になられては如何です?」
そんな感じで立て板に水と言った感じの流れる様なマルコムの話術で話がどんどん進んで行ってしまったのだ。
呪いを解く前の悲壮感はどこへやら・・・
まったく商魂たくましい商人だ。
そんな感じで他にも奴隷を買う流れになってしまった。
幸いにして今の所お金には困っていなかったのも流された要因の1つだと思う。
他にも奴隷購入と言う現代日本に存在しないイベントに中てられたのかもしれない。
まぁ、そう言う事で新たに奴隷を購入する流れになったのでテンプレとも言うべき肉体的な訳あり奴隷の購入へと話を誘導した。
テンプレとも言える訳あり奴隷購入だが、これは恩を売ると言う打算もあり、実行する事にしたのだ。
ただ、誤算だったのはそう言った訳あり奴隷は意外と多かった。
特に冒険者から奴隷になった者はどこかしら怪我の後遺症を持つ者が多くいた。
なんでも『魔物の討伐に失敗して生き残りはしたが怪我で仕事が出来なくなり奴隷落ち』と言うパターンが多いそうだ。
まぁ、そんな訳で何人か追加で奴隷を何人か購入した。
と言う訳で借家にいるのだが・・・
「ご主人様、これから何をすればよろしいでしょうか?」
「あ、はい・・・えーっと・・・」
『何やって貰いましょうかね?』続けそうになるその一言を咄嗟に飲み込むと、「あー、そうですねぇ・・・今日は屋敷の清掃と食事作りをお願いします。空いた時間はゆっくりと体を休めてください」と言うのが精一杯だった。
正直、雇ったはいいけどこれと言った仕事は・・・ない。
・・・奴隷の運用計画立てなきゃ。
俺は机に向かって頭を悩ませる事になった。




