第128話 カタリナの暗躍
カタリナはサムソンとの面会を終え、女性であることを強調してサントゥスに商業ギルドまで送らせると、自身の執務室に入る。
部屋に入ると執務用の机と息抜き用のソファーがあり、一瞬どちらに座ろうかと迷うが、机の上の書類の束を見付けてしまい、ソファーに座る事は諦めて机に向かうと、溜め息を吐く。
「はぁ、全く。
あの伝令使えないわね、来るのが遅いのよ。
お蔭で説得する為の茶番を演じる羽目になったわ!」
そう言って机を蹴って少し八つ当たりをするが、つま先が痛むだけで気は晴れなかった。
「はぁ、まぁ良いわ。
一応上手く行ったからこれで一先ずは大丈夫」
「ほぉ、首尾よくいったか?」
「?!」
カタリナは声なき悲鳴を上げそうになったが、声の主を見て顔を引き攣らせる。
声の主は全身を黒いローブで覆い、顔も隠すように布が巻かれ、男女の違いも見分けられるか怪しい姿であった。
「あ、あなたでしたか」
だが、カタリナは誰かわかっているような口振りで確認するように声を出す。
「あぁ、私だ。それでどうだった?詳細を頼む」
そう言うとカタリナが説明を始める。
「わかりました。
まず、近衛騎士サムソンから王都への悪魔のダンジョン攻略についての書状は伝令が宿に泊まった際に上手くすり替えることに成功しました。
その後はあのお方が上手くやってくださったようで、例の貴族屋敷に開いた穴からのダンジョン攻略を続行させることに成功しました。
この街の冒険者はもちろん、王都でも攻略に必要な追加人員が募集され近々こちらへ向かうとの事です」
「ふむ、良くやった。
で、お前が疑われる様な事はないな?」
黒ローブの眼光が鋭くなると、カタリナが一瞬震える。
「はい、商業ギルドだけで貴族屋敷を冒険者達に解放するよう説得する。と言うのは不自然な為、最近話題になっていた急に強くなったという冒険者達の噂を利用させて頂きました」
「ほぉ、どんな噂だ?」
「はい、なんでも急に実力が伸びたと評判の冒険者PTがあったので少し調べたところ、神殿関係者に混じって例の貴族屋敷の警備に当たっていました。
なので『彼らが貴族屋敷の中を狩場にして効率よくレベルを上げている』という類の噂を幾つか流させました」
「中々面白いな」
カタリナの話に黒ローブは満足そうな声で言う。
「ありがとうございます。
続きになりますが、その後、噂を信じ始めた冒険者達を少し扇動して冒険者ギルドへ『貴族屋敷での戦闘行為を認めろ』と訴えるようにしたところ、ギルド長のサントゥスは断固反対の姿勢を取っていましたが、ギルド職員の中でも意見は割れている状態でした。
そこにあのお方より王都からダンジョン攻略を続行させる方向に進んだと連絡があり、伝令の予定進路と人相書きが送られてきたので状況を見計らい、書状が届くであろう日に先んじて近衛騎士サムソンへの直談判にサントゥスを伴い、行ってきました」
「そして首尾よく貴族屋敷が冒険者達に解放される。という訳か、なるほど、書状の件を知っていれば結果は確定している。
反対していたサントゥスを連れていても結果は変わらない。
となると、何も知らない人間が傍から見れば近衛騎士サムソンがお前とサントゥスの直談判に折れた、乃至認めた。と思う訳か・・・」
「はい、そしてそう言う噂を流す予定です。
実際、私とサントゥスは犬猿の仲ですが、知らぬ者からすれば仲が良い様にも見えるでしょう」
そう言ってカタリナがほほ笑む。
「ふ、中々にあくどいな、が、サントゥスとやらはその事に気付かないのかね?」
「あの男は冒険者としては大成したようですが、こう言った駆け引きは苦手のようですから・・・」
「ふははは、お前が優秀な事が良くわかった。
今回はご苦労だったな。
今後も予定通りに進めてくれ」
「畏まりました」
そう言ってカタリナが頭を下げると黒ローブは既に消えていた。
「どうやって移動してるのかしら?」
カタリナの呟きだけが室内に響いた。