第10話 カーチス防風林
なんとか書き終えました。
見て貰えたら幸いです。
やってきましたカーチス防風林。
ここまで来る途中にあった畑で、働く農夫さん達には先日インディの事でお騒がせしたことを詫びておいた。
向こうが勝手にビビっただけだとは思うけど、一応謝っておいた方が物事スムーズに運ぶだろうしな。
ま、そんなことは置いといて、早速前回オークと戦った辺りに行ってみる。
もう死体は無いだろうけど、ひょっとしたら死体を漁ってる魔物がいるかもしれないしね。
そう言った魔物が居る事を期待して先に進む・・・うん?
なんか、自分。 好戦的になってるな。なんでだろ?
自分が強いことが確認できてハイになってるのかな?
そう考えると、不安になってくる。
慢心は良くない、気を引き締めて行こう。
そう思い直すと、十文字槍を「無限収納」から取り出すのも忘れていたことに気付き、一気に冷や汗が出た。
戦う前で良かった。 ホントに良かった。そう思い意識を新たに林に入って行った。
暫らく進むと、インディが何かに気付いたようで、低く唸り声を上げた。
俺はインディを見ると、インディが鼻先を振って注意を促す。
俺は気を引き締めて息を殺し、気配を探る様に先に進む。
オーク達を倒した辺りに近づくと・・・居た。なんか木の葉に隠れてしまいそうな緑色の何かがいた。
目を凝らして見ると、「鑑定」が発動した。
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名前 :-
性別 :雄
年齢 :3
種族 :ゴブリン
職業 :-
称号 :-
レベル:8
ステータス
HP : 230/230 (+100)
MP : 27
STR : 190 (+100)
VIT : 190 (+100)
INT : 8
AGI : 190 (+100)
DEX : 190 (+100)
MND : 90
LUK : 6
特記事項
ゴブリンキングの加護
※ 効果 対象のHP,STR,VIT,AGI,DEXにゴブリンキングのレベルに応じた補正が付く。
・・・なんかすごいぞ、特記事項。それにレベルもそれなりに高めじゃね?
なんか、非常に嫌な予感がするんだが・・・ ま、まぁ、狩り続行しますか。
俺は更に警戒し、他にも敵がいないか気配を探る。
集中すると、少し離れたところに2つ反応があった。お、居たな。
そう思ったら、なんかピコーンって音がしたと思ったら、
「楽太郎は『気配察知』を覚えたのじゃ」
って猿田彦様の声が頭の中で響いた。
突然の出来事に声を上げそうになったが、何とか呑み込み、声を殺す。
あ、危なかった。敵に察知されるとこだったよ、ホント。
しかし、何だよこれ、突然なんなんだ。後で猿田彦様に聞かんとな。
もしゲームみたいな感じでスキル取得する度に音が鳴るんだったら、何とか修正してもらいたい。
一々鬱陶しそうだ。
もう一度、今度は「気配察知」のスキルを意識して気配を探ると、先程よりも広い範囲を探れた。
敵性の気配とそうでない気配に分かれて出てきた。
敵性の気配は先程の3つより少し離れた左側で3つ。それに敵性以外の気配が2つその横に居る。
どうやら戦っているようだな。
俺は最初に目視出来た1匹に集中し、残りの2匹はその後に始末することに決める。
俺は見付からない様にゆっくりと近付き、木の陰に隠れる。
俺は足元にある小石を拾い、ゴブリンの後ろ側にある木に向けて小石を軽く投げつける。
小気味良い音を立てて小石が木にぶつかると、ゴブリンはそちらを振り向いた。
その時には俺はゴブリン目掛けて走り出していた。
後ろを向いているゴブリンの盆の窪辺りに槍を突き立てると、そのままゴブリンの頭が宙を舞った。
意外と呆気なかったな。
そう思いつつ、確か魔石は心臓の辺りだよな。
そう考え、ゴブリンの死体を槍で仰向けに転がして胸を開くように槍で薙ぐ。
すると、生臭い匂いと共にグロい光景が目の前に・・・ なんか、吐きそうです。
涙と吐き気を堪えて胸の辺りを覗くと、黒っぽい石が顔を見せる。
お、魔石か。よし、これで・・・と腕を伸ばすが、ゴブリンの体に触れる前に手が止まる。
だって、死体の中に手を突っ込むなんて無理だよ。 俺の豆腐メンタルじゃ・・・とても無理。
ゴブリンの死体の前で手をブルブル震わせていると、インディが寄って来て、ゴブリンの胸の辺りをカプリッとやって、モゴモゴ口を動かし、魔石をペッと吐き出した。
「インディ・・・お前・・・ なんて良いやつなんだ!」
俺は感極まって、インディに抱き着いた。
インディも嬉しそうに鳴き、少しの間俺達はじゃれ合った。
その後、魔石を回収し、ゴブリンの討伐証明部位の耳を剥ごうとしたが、やっぱり無理。
仕方ないのでゴブリンの頭部(頭頂部付近ね)を触り、そのまま「無限収納」に仕舞っった。
その頃には残り2つの気配が近付いて来ていたので、木の陰に隠れて様子を見ると、またゴブリンだった。
俺はもう一度「鑑定」スキルを発動する。
----------------------------------------
名前 :-
性別 :雄
年齢 :3
種族 :ゴブリン
職業 :-
称号 :-
レベル:8
ステータス
HP : 250/250 (+100)
MP : 27
STR : 200 (+100)
VIT : 200 (+100)
INT : 10
AGI : 180 (+100)
DEX : 180 (+100)
MND : 90
LUK : 4
特記事項
ゴブリンキングの加護
※ 効果 対象のHP,STR,VIT,AGI,DEXにゴブリンキングのレベルに応じた補正が付く。
ステータスに誤差はあるが、概ね同じだ。加護も同じ。
同種族ならステータスはほぼ同じなのかもな。
そう思ってもう1匹を鑑定してみると・・・
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名前 :-
性別 :雄
年齢 :5
種族 :ゴブリン
職業 :分隊長
称号 :-
レベル:10
ステータス
HP : 285/285 (+100 +25)
MP : 31
STR : 235 (+100 +25)
VIT : 210 (+100)
INT : 35 (+25)
AGI : 235 (+100 +25)
DEX : 210 (+100)
MND : 110
LUK : 6
特記事項
ゴブリンキングの加護
※ 効果 : 対象のHP,STR,VIT,AGI,DEXにゴブリンキングのレベルに応じた補正が付く。
おい! 更にステータス補正掛かってるぞ! 分隊長!
なんてこった! 魔物が軍隊化してるのか?
今のところ、統制が取れてるようには見えんが、今後はわからんな。
「ゴブリンキングの加護」も気になるし、どうしよう。
そんなことを考えていると、2匹のゴブリンはもう1匹の死体を見付けた。
その後、警戒するように辺りを見回している。
俺はジッと見守っていたが、暫らくすると分隊長の方がもう1匹に何やら指示を出して左の方に走らせた。
不味い! あっちって、確か、敵3 対 不明2 で戦闘中だったよな。
背後からの奇襲付きで 敵4 対 不明2 になったらヤバいかもしれん。
トレインしたわけじゃないけど、不明2が人だったら良心が痛む。
「インディ! こっちのは任せた!」
俺はそう言うや、左に消えたゴブリンを追う。 少し後ろでインディの咆哮が聞こえた。
俺は前方を走るゴブリン目指して全力で走った。
そうすると、100m位走ったところで追いついた。
向こうも俺に気付いて戦闘態勢に入ったが、俺はそのままの勢いで槍を一閃。
ゴブリンの首がポロリと落ちた。
ふぅ、これで良し!
魔石は後回しにして、ゴブリンの頭を「無限収納」に入れる。
額の汗を拭い、一息入れる。
その序でと思い「気配察知」で先程の 敵3 対 不明2 がどうなったか確認する。
ん? かなり近くに来ちゃったみたいだな。それに数も変わってない。
接戦なのかな? ちょっと観戦してみるか。 そう思うと、好奇心の赴くまま交戦中の気配に近付いて行く。
もちろん魔石のことがあるのでゴブリンの死体は十文字槍の横手に引っ掛けて持っていく。
ことが片付いた途端、弛緩しちゃったけど、警戒はしてるからいいよね?
木を避けながら進んでいくと、少し拓けた場所から金属のぶつかり合う音が聞こえてきた。
俺は木陰に隠れて戦闘を覗き見すると、戦っているのはどうやら女性冒険者の二人組のようだ。
一人は片手剣と盾を持って、皮の鎧かな?を着込んでいる。もう一人はローブを着て片手に木の棒を持っている。
相手を見ると、やはりゴブリンのようだが、3匹が戦ってるんじゃなくて、2匹が戦っていた。
残りの1匹は座るのに丁度良さそうな石の上に座って戦いを眺めていた。
戦いは片手剣持ったゴブリン2匹を女冒険者の一人がもう一人を庇いながら戦っている。
もう一人は木の棒持ってなんか集中してる感じだな。
もちろん相棒を庇っている女冒険者の方が必死で盾になっているが、均衡が崩れるのは時間の問題だろう。
それ以前に、動かないもう1匹が気になるな。
そう思い、座っているゴブリンを「鑑定」する。
----------------------------------------
名前 :-
性別 :雄
年齢 :8
種族 :ゴブリン
職業 :小隊長
称号 :-
レベル:15
ステータス
HP : 385/385 (+100 +50)
MP : 42
STR : 310 (+100 +50)
VIT : 260 (+100)
INT : 65 (+50)
AGI : 310 (+100 +50)
DEX : 260 (+100)
MND : 160
LUK : 7
特記事項
ゴブリンキングの加護
※ 効果 対象のHP,STR,VIT,AGI,DEXにゴブリンキングのレベルに応じた補正が付く。
「?!」
俺はあまりの数値に驚いた。
MP,INT,LUK以外、俺とタメだ・・・今んとこ脳筋一直線の俺と、脳筋一択しかないゴブリンが肉体的ステータスがほぼ一緒って・・・
これは不味いぞ・・・ 奇襲で倒すしかないな。
残り2匹も「鑑定」する。
----------------------------------------
名前 :-
性別 :雄
年齢 :3
種族 :ゴブリン
職業 :-
称号 :-
レベル:8
ステータス
HP : 220/230 (+100)
MP : 27
STR : 190 (+100)
VIT : 190 (+100)
INT : 8
AGI : 190 (+100)
DEX : 190 (+100)
MND : 90
LUK : 6
特記事項
ゴブリンキングの加護
※ 効果 対象のHP,STR,VIT,AGI,DEXにゴブリンキングのレベルに応じた補正が付く。
もう一匹もほぼ同じだったので割愛だ。
次に冒険者2人を「鑑定」する。
----------------------------------------
名前 :メリッサ
性別 :女性
年齢 :16
種族 :人間
職業 :冒険者(ランクF)
称号 :-
レベル:10
ステータス
HP : 180/210
MP : 90
STR : 110
VIT : 130
INT : 100
AGI : 210
DEX : 130
MND : 70
LUK : 21
特記事項
----------------------------------------
名前 :シェリル
年齢 :17
種族 :人間
職業 :冒険者(ランクE)
称号 :-
レベル:11
ステータス
HP : 150/160
MP : 181
STR : 80
VIT : 80
INT : 210
AGI : 90
DEX : 160
MND : 130
LUK : 21
特記事項
うーむ、補正が無きゃ楽勝だったんだろうが、こりゃあかん。
何とか手数でカバーしてるが、俺が助けないとホントに死ぬな。
そういや、小隊長が居て分隊長が居たってことは、ひょっとして他にも居るのか?
そう考えるや、「気配察知」で周囲を確認する。
案の定、俺の思った通り、小隊長の更に奥の離れたところに敵性気配が3つ。
俺から見て右側の方に離れたところに敵性気配が3つ。
俺から見て左側の方に離れたところに敵性気配が3つあった。
俺のすぐ後ろから、インディだな。味方の気配がした。
合計9匹いるのか。
こりゃ、奇襲でサクッと小隊長倒さんと、後が大変だ。
そう考えていると、後ろからインディが現れた。
「待ってたぞ、インディ」
そう言うと、インディはこちらに近寄ってゴブリンの頭と魔石をペッと吐き出した。
俺は礼を言うと共に事態を話し、作戦を伝える。
インディが理解できるか不明だったが、インディは「了解!」と言うように一声吠えて応えてくれた。
「それじゃ、作戦開始だ!」
俺がそう言うと、ゴブリン達に見付からない様にインディは小隊長の左側に回り込む。
俺は右側だ。
慎重に注意しながら回り込む。
冒険者2人組はまだ何とか凌いでいる。
オッケオッケ。これならイケるな。
俺は配置に着くと、「気配察知」で周囲を確認する。
インディも位置に着いたようだ。
他のゴブリン達はほとんど動いていない。
よし! それじゃ、作戦開始だ。
俺は手近なところにあったバレーボール大の石と掌サイズの石を拾うと、十文字槍を木に立て掛け、バレーボール大の石を山形で投げ、小隊長の右斜め前の辺りに落とす。
低く響く音がし、小隊長がそちらを振り向いた瞬間、俺は掌サイズの石を小隊長目掛けて思いっきり投げつけた。
狙い違わず小隊長の後ろ頭に命中すると、甲高い音が響き、石が炸裂するように砕ける。
インディはその音が合図であったかのように小隊長目掛けて突進する。
俺も小隊長目掛けて突進する。
小隊長は衝撃で前のめりに倒れ、そのまま起き上がらない。
インディは小隊長の手前で止まったが、俺はそのまま突進し、小隊長の首を刎ねた。
え?! 終わりか? 一瞬そう思ったが、小隊長を含め、周りを警戒すると、冒険者2人組とゴブリン2匹がこっちを見て呆然としている。
俺は残り2匹のゴブリンに向かって駆け出すと、
「獲物を横取りするようですまんが、倒させてもらうよ!」
そう一声叫び、呆然としているゴブリン2匹の首を槍の一閃で切り飛ばした。
「ふぅ、これで一段落だ」
そう言って一息吐く。
しかし、小隊長は呆気なかったな、まさか投石で気絶するとは・・・
そう回想しつつ、ゴブリンの首を3つ共「無限収納」へ仕舞う。
「インディ、魔石取ってくれないかな」
そう言うと、インディがゴブリンの胸元を齧り、魔石を取り出す。
冒険者2人組はインディが近付くと一瞬ビクッと身を竦めたが、すぐに警戒を解いてインディの作業を見ていた。
冒険者2人組は俺達の作業が終わってもボーっとしている。
どうしたもんかな、こっちから声を掛けた方が良いのかな。
「あのー、すいません。大丈夫ですか?」
「・・・」
無視された・・・ なんだ? この恥ずかしさは・・・ 無性に恥ずかしい。豆腐メンタルの俺にはかなり堪えるよ・・・
さっさとこの場を去ろう。そして忘れよう。 女の子から無視されたことを・・・ 無かった事にするんだ。
ショックを受けた俺は、次の獲物(ゴブリン分隊)にインディと共に向かおうとすると、後ろから声を掛けられた。
「あ、あの、ありがとうございます」
そう声を掛けてきたのはローブを着たシェリルちゃんだ。
「うん?」
「いえ、私達だけじゃ、多分死んでいました。本当にありがとうございます」
そう言ってぺこりとお辞儀をする。
「いやいや、偶々通り掛かっただけだから。気にしないで下さい」
そう返事を返すと、もう一人が起動した。
「ちょっとあんた! 人の獲物横取りするなんてどういう事よ!」
いきなり怒り出したよ。
「いや、だから先に断っただろ? 嫌ならすぐに言ってくれれば良かったじゃないか」
「返事する間もない程、素早く倒しちゃったじゃない!」
「それなら、俺より先に倒せば良かったじゃないか」
「あんたみたいな高レベルじゃないのよ!そんな真似できるか!」
「俺、レベル7だけど?」
「?! そんなわけないでしょ!あんだけ素早くて強いのに私達よりレベルが下ってありえないんだけど!」
「いや、ホントにそうなんだが・・・ あ、そか、ギルドカード見てみるか?」
「もちろんよ!」
そんでもって、首から下げてるギルドカードを見てみると、レベルが上がっていた。
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名前 :山並 楽太郎
年齢 :16
レベル:10
冒険者ランク G
「お、レベルが上がってるな」
「わ、私とおんなじ?!・・・嘘でしょ?! そんなのありえないわよ!!」
どうにも納得いかないらしいが、ホントなんだから仕方ない。
尚も食って掛かろうとするが、シェリルちゃんに止められる。
「メリッサ! そんな事より、助けられたんだから、お礼をちゃんと言わなくちゃ駄目よ!」
シェリルちゃんに怒られると、肩を竦めてしゅんとするメリッサちゃん。
あー、やっぱ、元がオッサンだから、10代の子はなんかちゃん付けになっちまうよ。
子供を見てる様な感じがする。なんか、悲しい現実・・・
「シェリル・・・ゴメン」
「謝る相手が違うでしょ、メリッサ!」
そう言われ、俺の方に向かって頭を下げると、
「すいませんでした。助けてもらってありがとうございました」
と、大きな声で謝ってくれた。
うんうん、この子もいい子じゃないか。
「はい、どういたしまして、それじゃ、私は残りのゴブリンを始末するんで、ここでお別れですね」
おっと、敬語になっちまった。まぁ、いいか。
「?! 他にもいるんですか?」
「いますよ。ここを囲むようにゴブリンの分隊が四方に散らばっていますよ。もっとも右側の分隊は私が潰しましたがね」
「・・・なんか、急に敬語を使われると不気味なんだけど」
と、メリッサちゃんに言われた。 なんて失礼な!
しかし、まぁ、わからんでもないか・・・
「すいません。私は普段仲間以外の人と話す時は誰に対しても敬語を使ってるんですが、気が抜けたり、さっきの様に戦闘などで興奮してたりすると地が出てしまうんですよ。申し訳ない」
そう謝っておく。
「そうだったんですか、どうもすみませんでした」
そう言って謝ってくれたのはシェリルちゃんだった。メリッサちゃんは納得したような顔だ。
「それより、ここを囲むようにゴブリンの部隊があと3つあるのよね?」
「そうですよ」
「じゃぁ、私達も狩りに参加するわ!」
「・・・」
参ったな、どうやって断ろう。
どう考えても、足手まといなんだよね。この子達。
そう思案していると、シェリルちゃんがメリッサちゃんに注意する。
「ちょっとメリッサ! 彼に付いて行ける訳ないでしょ! 私達じゃ実力不足よ」
お、正解! しかし、メリッサちゃんも負けていない。
「大丈夫だよ。さっきのは偶々強い奴等に当たっただけだって! それに他のゴブリンも見てみないと依頼が達成できないでしょ!」
「それはそうですが、さっきと同じ強さのゴブリンがまた出てきたら、今の私達じゃ歯が立ちません。戦争のせいで魔物が大繁殖してしまった今、ひょっとするとキングが生まれているのかもしれませんよ?」
既に生まれてます・・・キング。
「それを確かめるのが今回の仕事じゃないの!」
「調査を行うのは私達だけじゃありません。私達では歯が立たないゴブリンが居たことを報告するのも今回の仕事内容です。身の丈に合っていない依頼で命を落とすのは蛮勇です。引くことも1つの勇気です」
そう一息に捲し立てると、シェリルちゃんは悔しそうに下を向いた。
彼女も今回の事は悔しいんだろう。
普段であれば格下のゴブリンなんぞに殺されかけたんだから・・・
そういや、ゴブリンって、普段のレベルはどんなもんなんだろう?
「あのー、普段ゴブリンって、レベルはどれくらいなんでしょう?」
「知らないの?」
「えぇ、今のところ、彼方達が強いと言っているゴブリンでさえ私では1撃で仕留められる雑魚ですから、違いが分からないんですよ」
「・・・」
そう答えると、嫌味に聞こえたのか、メリッサちゃんは頬を膨らましこっちを睨んでくる。
なんか、頬を膨らませたハムスターみたいで、かわいく見えるな。
緩みそうになる頬を必死に取り繕い、謝る。
「気を悪くしたのなら謝ります。すいません」
「いえ、お気になさらずに。事実ですから。それと、ゴブリンは普段はLv1~2ですね。ちょっと強い個体でもLv4位でしょうか。一応初級冒険者向きの討伐対象ですから」
そう答えてくれたのはシェリルちゃんだ。色々と物知りっぽいな、この子。
しかし、ホントに弱いなゴブリン。そう考えると、今日出会った奴等は軒並み標準を超えてるじゃねーか。
そうなると、ゴブリンが強くなったことを何とかギルドに伝えないとな。
うーん、この子達の依頼を出汁にしてギルドに報告してもらうか。
「なるほど、わかりました。それじゃ、私の討伐に付き合いますか?」
「え? いいの?!」
嬉しそうに答えたのはメリッサちゃん。
「えぇ、但し、私の言うことには絶対従って貰うのが条件です」
「わかったわ!」
「ちょっとメリッサ!勝手に決めないでよ」
「良いじゃない。連れてってくれるって言うんだから」
「もう!ホントにこの子は!」
「まぁ、どうしても嫌なら私は別に付いて来て頂かなくても構いませんよ」
俺がそう言うと、怒っていたシェリルちゃんも血相を変えて賛成してくれた。
「それじゃ、自己紹介が遅れましたが、私は山並 楽太郎と言います。見ての通り、槍をメインに使ってます」
「ヤマナミさん?」
「あぁ、そっちは名字で楽太郎が名前です」
「名字?」
「家名の事です」
「貴族だったの?!」
「違いますよ。私の地方では名字・・・家名を持っている人が普通だったんですよ」
「そうなの、あ、えーと、私はメリッサって言います。私は片手剣と盾で前衛をやってます。よろしくね」
そう言うと、ニカッと笑うメリッサちゃん。
「こちらこそよろしくお願いします」
そう返答すると、次はシェリルちゃんが自己紹介をしてきた。
「では改めまして、私はシェリルと言います。私は見ての通り魔術師をしております。以後お見知りおきください。よろしくお願いします」
そう言って丁寧にお辞儀をした。
「こちらこそよろしくお願いしますね」
メリッサちゃんと同じように挨拶を返す。
「それじゃ、早速って、あ、そだ、忘れてた。インディ」
そう呼ぶと、インディが近寄ってくる。
「こいつが俺の相棒のインディだ。とても頼りになる相棒だが、こいつに変なチョッカイは掛けない事。もしかけたら、俺が何するかわからんからな。その辺肝に銘じておいてくれ」
俺の口調と行動が砕け、僅かに殺気が出たせいで2人が一瞬固まった。
「わ、わかったわ。 肝に銘じとく・・・本気で肝に銘じとく」
そう言ってメリッサちゃんが再起動した。些か動きがぎこちないが大丈夫だろう。
シェリルちゃんはメリッサちゃんに呼ばれて気が付いたようだ。
「よし、それじゃ反時計回りでゴブリン分隊を狩りに行きますね」
そう宣言して狩りへと赴くことにした。
2時間位たった頃には、ゴブリン分隊を2つ撃破した。
作戦はシンプルで、俺が「鑑定」し、分隊長と雑魚1匹を俺とインディで倒す。
その後の残り1匹を2人で倒してもらった。
「どうです? ゴブリンは強くなってますか?」
そう聞くと、メリッサちゃんが答える。
「そうね、今のところ強いゴブリンしかいないわ。最初のゴブリンと同じくらい強いわ」
「そうですね。これでは初級冒険者では歯が立ちません。瞬殺されてしまいます」
シェリルちゃんはそう答えると、考え込んでいる様に顎に手を当てている。
「シェリルさん、考えるのは良いことですが、今は林の中ですよ」
沈思黙考しかけたシェリルさんに注意を促す。
「あ、すいません。申し訳ありませんでした」
そう言って周囲を警戒し始めるシェリルちゃん。
うーん、次は分隊長と戦ってもらうか。
そう考え、最後の分隊へと向かう。
今回は俺とインディで雑魚2匹をサクッと倒した。
残りの分隊長を2人に任せたが、大分苦戦したようだ。
倒し終わった後は、二人とも座り込んでしまった。
「さ、最後のゴブリン。今までのよりはるかに強かったわ・・・」
メリッサちゃんはそう言って倒れた。
俺は仕方ないので、周りを警戒しつつ、2人が回復するのを待った。
暫らくすると2人が起き出したので、声を掛ける。
「これで調査の方はできましたか?」
「はい、お蔭様で何とか達成できそうです。後は王都に戻って報告するだけです」
よし、そいじゃこれでギルドへ報告されるな。
これで無駄な死人が減るだろう。
今日の収穫は魔石12個、討伐部位12個だ。
さぁ、今日はもう疲れた。さっさと帰ろう。
「それじゃ、私はそろそろお暇させて頂きますね」
「え?!どういう事?」
「帰るんですよ。王都へ、疲れたんでね」
そうにこやかに笑いかけると、納得したように頷くシェリルちゃん。
「あぁ、そうですね。早く帰って報告しないと」
そう言ってシェリルちゃんも歩こうとするが、よろけている。
「ま、待ってよシェリル~」
そう言って歩こうとするメリッサちゃんもフラフラだ。
俺はため息をついて、インディを呼ぶ。
「すまん。インディ。この2人乗せてってくれないかな?」
インディは「くぅ~ん」と仕方なさそうに鳴いた後、伏せの状態になり、2人を載せてくれた。
もちろん「乗せる」ではなく「載せる」だ。
2人を簀巻き状にした後、インディの背中に固定した。
文句は言われたが、死ぬよりましだろう。
俺はインディと荷物の2人を連れて王都への帰路についた。
登場人物の名前って、考えるのが大変なんですが、誰か考えてくれないかな・・・




