第123話 入手
「チェスト!チェスト!チェスト!チェストォォォォォォ!
ごぉぉぉぉぉっついタイガー・ニー・キーックぅぅぅ!!!」
掛け声と連続蹴りをロブルにかまし、フラフラになった所で飛び膝蹴りを顎に入れてロブルを乱闘場の外に吹き飛ばす。
それを信じられないモノを見るような目で追っていたジョエルを捕まえると恥ずかし固めを極める。
「ちょ!?なんて格好させ!きゃぁぁ、い、痛いぃィィィ!無理無理無理無理ィ!!!」
最初は羞恥、そして悲鳴。
その光景に観客は沸き返る。
俺はジョエルがぐったりしたところで技を外しジャイアントスイングで乱闘場の外へと放り投げる。
乱闘場の外に落ちたジョエルが動かないことを確認すると俺は一息ついて乱闘場から降りた。
「お疲れ、ありがとよ!」
自席に戻るとボコポが労いの声をかけてくれる。
「いえいえ、ご迷惑をおかけしていたようで申し訳ありませんでした。
これでしばらくは大丈夫でしょう」
そう言って視線を向けた先には弟子5人が屍を晒している。
「それでこの後もやるんだろ?」
ボコポが期待したような目でこっちを見てくるが迷惑なだけだ。
既に何度か言っているが俺は戦闘狂ではない。
「やりませんよ。
既にいい運動はしましたし、今日は他にも予定があるんですよ」
そう言って乱闘場の外で伸びている5人を指差す。
ボコポもそちらを一瞥すると質問してきた。
「他の予定ってのはなんだ?」
「以前から頼んでいたものが今日届くんですよ。
受け取り場所をこの店に指定したのであとは待つだけですけどね」
「ふむ、それなら仕方ねぇか。じゃあ俺だけでも楽しんで来るぜ!」
そう言って乱闘場へ向かうボコポを見送ると酒場の入り口からノインが入ってきたが、入ってきたのはノインだけではないようだ。
後ろから入って来た2人は大きな箱のようなものを2人で抱えている。
一息つく暇もないな。
入り口で俺を探しているのかキョロキョロと辺りを見回していたので声を掛けるとノインはすぐに気付き後ろの2人に声を掛けると1人で近寄って来る。
「山並のお師匠様、ご無沙汰しております」
師匠と言う言葉が何ともこそばゆい。
「あぁ、堅苦しい挨拶は必要ないですよ。ノインさん」
俺はこそばゆさを隠しつつそう言ったが、ノインはどこか緊張したような表情のままで動きが硬い。
まぁそんな事はどうでもいい。
そんなことより早くドリンクサーバーを渡せ。
そんな事を考えているとノインが口を開く。
「実は、私、ウェイガン様の巫女に選ばれまして、神託を受けたのです」
「ほぉ、それはおめでとう」
「あ、ありがとうございます」
ふむ、緊張したままではあるが、話が出来る事にホッとしている様だ。
巫女になっる事は知ってたから、それよりもドリンクサーバーをサッサと寄越せ。
俺はにこやかな表情を作っていたが逸る気持ちが抑えられず殺気が漏れたようでノインが小さい悲鳴を上げた。
おっと、いかんいかん。
俺は空惚けて話の先を促す。
「それでどうしました?」
「は、はい。それがですね。
初めて神託を受けたんですが、その内容がそのぉ、悪魔のダンジョンについての事と、お師匠にある物を渡す事だったんです」
うん。知ってる。
「なるほど。それで私に渡す物はどこに?」
逸る気持ちを押さえつつ要求する。
恐らく後ろで待ってる2人が抱えている箱だろう。
俺はそちらに視線を向けるがノインは全く気付いていない。
「実はその事でお師匠様にも相談をしようと思いまして・・・」
「はぁ、相談ですか?
それよりも私に渡す物は?
サクッと渡して貰えると助かるのですが?」
「相談はそちらの事ではなく悪魔のダンジョンの事なんです」
そう言って真剣な表情でこっちを見て来る。
いや、俺からするとそんな事よりドリンクサーバーをサッサと寄越してほしい。
「悪魔のダンジョンなら私が今攻略を進めていますので心配ありませんよ。
まぁ、私も命が惜しいので無理はしませんけどね。
それよりも「それなんです!」」
ドリンクサーバーを渡して貰おうと言葉を継ごうとした正にその時、ノインが喰い付くように体を乗り出し大声で遮る。
「ウェイガン様の神託も悪魔のダンジョン攻略を促進する内容だったのです!
お師匠様はウェイガン様に先だって攻略を始めましたよね?
それにウェイガン様もお師匠様の事を・・・」
そう言って言葉を区切るとノインは顔を青くして慌てて辺りをキョロキョロと見回す。
人に聞かれると不味いのか?
「人に聞かれると不味いのですか?」
「す、すみません。内容が内容なだけに・・・」
そう言って言葉を濁す。
「ふむ、それなら場所を変えますか?」
「よろしいのでしょうか?」
「えぇ、なのでその前に荷物を渡して貰えませんかね?」
さっさと寄越せ!!
「あ、はい!
お渡しします」
そう言うとノインは後ろの2人に声を掛けて箱を持って来させると俺の眼の前に置いた。
「こちらです。
使い方についてはこちらの説明書をご覧くださいとの事でした。」
そう言ってノインは俺に小冊子を手渡した。
「ありがとう。
ようやく手に入りましたよ」
俺は思わず頬ずりしそうになる衝動を抑えて礼を言うが満面の笑みを隠す事は出来なかった。
そして素早く『箱』と『説明書』を鞄に仕舞う振りをして「無限収納」に仕舞うと席を立つ。
宿に戻って早速試そう。
「あの? どちらへ?」
俺が急に立ち上がった事でノインが声を掛けて来る。
なんだっけ?
・・・
あぁ、忘れてた。
「場所を変えるんでしょう?」
「そ、そうですけど、どちらへ?」
「私の宿の部屋ではどうです?」
「「「え?」」」
後ろの2人からも驚きの声が上がると同時に見下すような視線が飛んでくる。
俺がノインを誘っているとでも思ったのか?
「どうせあなた1人だけとか言うと下種の勘繰りをされかねませんからね。
後ろのお2人も同行してください。
これでどうです?」
少し嫌味を込めて言うと俺は相手の返事を待たずに歩き出した。
「おいラク!!どこ行くんでぇ?!
今日の主役なんだぞ?」
「すみません。少々問題が起こりましたので対処してきます」
俺がノイン達3人に親指を向けると酒場中の視線が3人に集まり、剣呑な空気が生まれ、ノインの後ろにいた2人が短い悲鳴を上げる。
おっと、これだけだとボコポ達に心配させちまうな。
「問題の方は些細な事なので心配いりません。
ただ時間が掛かるので今日はここまでしか付き合えず申し訳ありません。
非常に心残りですが、お先に失礼します。
皆さんは私の分も存分に楽しんでください」
そう言って頭を下げるとボコポが剣呑な視線のまま笑顔を張りつかせて言う。
「わぁったよラク!
お前ぇの分も楽しんでるぜ。
ただ、困った事になったら力になるぜぇ」
そう言ってノイン達の方に睨みを利かせると、周りのドワーフ達もそれに合わせて含み笑いをする。
「ありがとうございます。
そうなった時は素直に頼らせて頂きます」
そうボコポに挨拶を返して酒場を出た。
因みにノインについていた2人は若干震えていたがどうしたのかな?
疚しい事でもあったのかもしれない。
今回の最初のネタがわかった人は私と同じくらいのおじさんです。
わからなかった人はもっとおじさんかもしれませんが・・・
因みに関ヶ原の方じゃないですよ?




