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第122話 お仕置き

 ボコポの工房でドワーフ達と合流した俺は酒場に向かう。

 ボコポと数人のドワーフは少し残業するとの事で後で合流する事になった。


 向かう際中でもインディとメルは上機嫌なようで俺達の周りをグルグルと回りながら進む。


 その様子に若干ドワーフ達が怯えた感じになったが俺が2匹に干し肉を投げると空中でキャッチして器用にそのまま食べた。

 すると気を良くしたのかインディが次をせがむので何回か肉を投げるとメルもキャッチの際に決めポーズを取る様になる。

 そんな光景を見て若干怯え気味だったドワーフ達も感心するようにその曲芸を眺めていた。


「なんか、ラクの兄貴の魔獣は芸が細かいっすね。

 まるで旅芸人みたいだ」


 えーっと、たしかエッポだったっけ?


「教えたわけじゃないんですけどね、何故か芸達者になっていくんですよ」


「冒険者やめても食って行けそうっすね」


 うーん。冒険者やめて旅芸人になる?

 一瞬鞭を持った俺と曲芸に励むインディとメルを想像したが見世物になるのはなんか嫌だな、却下。


「その選択肢はないですね」


「そうっすか?」


「エッポさんも今の仕事を辞めて酒場で働くとか考えますか?」


 暫し空を見詰めるエッポ。


「確かに考えねぇっすね」


「そう言う事ですよ。成れる成れないじゃなくてしたいかしたくないかですよ」


「なるほどっす」


 そんな感じで雑談をしつつメルとインディに肉を投げながら酒場へと歩いた。

 そんな様子を街の人達は見世物を見る様な感じで眺め、小さな子供は「クマさんとワンチャンすごいね!」と(はしゃ)いでいるが視界に入れないようにした。



 酒場に入るとまだ時間が早いのか殆んど客がいない。

 俺は好都合とばかりに店の隅の目立たない席に座る。


「ラクの兄貴?もっといい席空いてますぜ?」


「ここで良いんですよ。

 調子に乗った弟子達(アホども)を楽しく凹る為に最初は見付からないようにしないとね」


 そう言って俺は気配を薄める。

 存在感を場に溶け込ますような感じだ。

 「隠密1」を使って気配を断つと誰にも認識されないから飲み食いするのに不便だと思ったからだ。


「なんかラクの兄貴の存在感が無くなってる?!」


「騒いだら私が気配を殺してる意味がなくなるでしょう?

 気にせず楽しんでください」


「今日の主賓を気にせず楽しめって・・・「「無理っす!」」」


 ドワーフから一斉にダメ出しを喰らった。


「ではボコポさんが来るまでは適当に楽しみましょう。

 主演が居ても主宰が居ないんですから、

 ボコポさんが来てから本格的に宴会を始めると言う事でどうです?」


「そ、それなら問題ないっす」


 そう言ってドワーフ達は軽めのツマミと酒を注文し始めた。










 そうして暫らくすると徐々に客足が伸びてくる。


 酒場の席はすでに半分ほど埋まり、それなりににぎわい始めた頃、乱闘場に冒険者風の男が立ち入り声を上げる。


「さぁ、そろそろ今夜も始めようじゃねぇか。

 相手してくれるよな?ドワーフの腰抜け共ぉー」


 良い感じに酔っている様だ。

 冒険者が名乗りを上げるのが早いか、すぐさまドワーフが立ち上がり乱闘場へと乱入する。


「貴様のような青二才なんぞ一捻りだぜ!」


 そう言うが早いかドワーフが冒険者風の男に殴りかかる。


「おっと、そう簡単には喰らわねぇぜ」


 そう言って冒険者風の男はドワーフのパンチを躱すと距離を取る。


「ほぉ、中々楽しめそうだな」


 そう言ってドワーフと冒険者風の男が戦い始めた。


 しばらく見ていたがお互い楽しそうに喧嘩しているように見え、一進一退の良い闘いをしている。


 多少荒っぽいが遊びに近い感覚で喧嘩、いや、じゃれているように見えるので酔客達もヤジを飛ばしたり声援を送って楽しんでいる。


 暫らくすると2人共息が切れて来たのか攻撃が単調になり冒険者風の男が放った蹴りがドワーフの腹に決まる。

 だが蹴りの戻りが遅かったのかそれを耐え切ったドワーフが冒険者風の男の足を掴んで思いっきり振り回すと冒険者風の男をそのまま場外へと投げ飛ばす。


「かっかっかっ!見たか青二才!」


「くっそぉー!

 まだまだ俺はやれるんだ!」


「これぞまさしく負け犬の遠吠えだな!かっかっかっ!」


 そんな感じで勝鬨を上げるドワーフに新たな挑戦者が現れる。


「そいじゃ、今度は俺の相手をして貰うっす!」


「何?エッポだとぉ?!」


 いつの間にかエッポが乱闘場に乱入してた。


 さっきまで横にいたと思ったんだが、いつの間に?

 まぁ、ドワーフ(戦闘狂)だから仕方ない・・・のかな?


 そんな感じで乱闘場も盛り上がり始め、酒場の喧騒が更にヒートアップしていく。


 俺もそれを眺めつつ注文したフライドポテトを齧りつつ果実ジュースを飲んで間を持たせる。

 インディは俺の横でステーキを頬張り、メルは器用に椅子に座ってシチューを舐めている。


 なんか、俺の気配を薄くしてもこいつ等が居ると目立つんじゃ・・・

 ま、まぁ、今更考えても無意味だ。気にしない事にしよう。

 バレたらバレたで凹れば良いだけだしな。


 因みに炭酸ジュースは残り少ないので自重している。

 ドリンクサーバーが届けば魔力だけでいくらでも飲み放題になるはずなので作り直す必要もなくなる。

 と言う事であと少しの辛抱だと我慢しているのだ。


 そんな感じでインディとメルを時々モフりながら乱闘場を肴にまったりとプロレス観戦しているような気分に浸っているとようやくボコポがやってきた。


「待たせたなラク!」


「いえいえ、大丈夫ですよ。エッポさんが頑張って楽しませてくれてますから」


 そう言って乱闘場の方を親指で示すとボコポが破顔する。


「おうおう、楽しんでるじゃねぇか。

 俺も早速!っと行きてぇがその前に喰わねぇとな、流石に腹が減ったぜ!

 おーい、レーネ!注文頼む!」


 そう言ってボコポは次々と料理や酒を注文する。


 そうして注文を待つ間、雑談を交わす。


「そう言えばボコポさんも忙しそうでしたね?」


「俺は何時でも忙しいぜ。

 特にラクの仕事をしている時はかなり忙しかったんだが、楽しくもあった。

 ただ、今やってる仕事はちょっとな・・・」


 そう言って言葉を濁した。


「何かあるんですか?」


「いや、黒鉄(ブラックアイアン)を加工できることがどっかからバレちまってな、黒鉄製の武器の作成依頼が引っ切り無しに来て往生してんのよ」


「はぁ」


 仕事としては良い事なんじゃないか?


「ラク、わかってねぇな。

 普通は半年待ち以上が当たり前の黒鉄製武器の作成依頼が素材を持ち込めば数日で出来るんだぜ?

 欲しがる奴がわんさか来やがってな、もう3か月先の予約まで埋まっちまったよ」


「ボコポさん1人で作るんですか?」


「流石に俺1人じゃ無理だぜ。

 それに俺の御眼鏡に適う客なんて一握りもいねぇから殆んどは弟子に作らせてんだが、それでも中々終わらねぇんだ」


 そう言って疲れた溜め息を吐くボコポ。


「ご愁傷様」


「はぁ、まぁこっちはそんな感じなんだが、お前ぇの方はどうなんでぇ?」


「どうとは?ダンジョン攻略についてですか?」


「いや、奴隷を買うって件だよ」


 いきなりかよ?!


「まぁ、確かに奴隷を買うんですけど・・・」


「ふむ、しかし、何で今なんだ?」


「簡単に言いますと、悪魔のダンジョンで営業(セールス)を受けまして・・・」


「はぁ?!

 悪魔のダンジョンでだと?」


「えぇ、一応、先に言っておくと営業をしてきたのは犯罪奴隷ではなく戦闘奴隷なんです」


「はぁ、なるほど。

 それなら納得だ」


 そう言ってボコポはうんうんと頷いた。


「ラクが買っても良いと思えるって事は戦闘能力(じつりょく)は十分あるんだな?」


「えぇ、家事能力(じつりょく)は十分あると思います」


 そう答えるとボコポは暫し考えるそぶりを見せる。


「なるほど・・・わかった!

 明日は俺も出来るだけ協力するぜ!」


「えぇ、お願いします」


 そんな感じで話をしていると、丁度注文した料理が届いた。


「お待たせしましたー!」


 そう言ってレーネが次々と料理をテーブルに乗せて行き、周りのドワーフ達のテーブルにも料理が並ぶ。


「おっし、料理と酒は行き届いたな?」


「「「ありやーっす!」」」


 こ、声がデカい!

 俺は慌てて辺りを見渡すがこちらに注意を向けているのは店員さん数名と近くの席に数名程度。

 他は乱闘場の方を夢中になってみている様だ。

 この様子なら大丈夫か?

 そんな事を考えている間にもボコポの挨拶が続く。


「そんじゃ始めるか」


「「「はい!」」」


「えー、今日はラクタローが悪魔のダンジョンから無事生還を果たし、なんと40階層まで攻略した!」


「「「おぉー!!」」」


「ラクタローの生還を祝い、又、これからの躍進を期待してぇ~ 乾杯!!」


「「「かんぱぁ~い!」」」


 乾杯と共に全員が一気飲みだ。


 俺の挨拶は無しかよ!

 一瞬そう突っ込みそうになったが自嘲した。

 逆に『じゃぁお願いします』と言われても今更返す言葉が見つからないからな。


 俺は雰囲気に呑まれつつ、祝われながら果実ジュースを飲む。


「ラクタローさん。悪魔のダンジョンに入るなんてすごい豪胆ですね!」


「え?」


 そう言ってきたのはレーネさんだった。


「普通この街でダンジョンに入るなら神のダンジョンですよ。

 なんで死の危険を冒してまで悪魔のダンジョンに入ったんです?」


 そう聞かれて返答に少し詰まる。


「依頼されたからですよ」


「依頼されたからって普通は中々できないですよぉ、やっぱりラクタローさんはすごいですね」


「いえ、元々断わり難い相手で、しかもその方が男気も見せたものですから断れなかったんですよ」


 そう言ってボコポに視線を向けるとバツが悪そうに視線を逸らされた。


「そうなんですかぁ、ラクタローさんも大変なんですね」


「まぁ、色々とありまして」


 そんな感じで当たり障りなく過ごしていると今日のターゲットが店に入って来た。


 俺は見付からないように少し隠れ、相手の様子を窺うと、乱闘場を挟んで向かい側の席にターゲットが座った。


 ふむ、今回のターゲットは5人のようだ。

 1番、4番、5番、6番、10番か・・・

 いや、ライナ、マッシュ、ロブル、ケイブリス、ジョエルと言うべきだな。


 この5人が酒場に入ると、酒場の空気が一変した。


 何とも嫌な緊張感が漂う。

 そんな中、周りの空気を読まずに注文を終えたジョエルが乱闘場へと上がる。


「さぁ、私も楽しませて貰うわよ」


 満面の笑みでそう言うと乱闘場で闘っていたドワーフ2人に素早く拳を打ちつける。


「「ぐぁ!」」


 後ろに仰け反ったドワーフ達に容赦なく回し蹴りを喰らわせて吹き飛ばすと蹴り倒したドワーフには目もくれず周りの客席に声を飛ばす。


「さぁ、私に挑戦する気概のある男は居ないの?」


 挑発ともとれる言葉に冒険者風の男やドワーフが殺気だって殺到する。


「・・・じゅ、ジョエルって、確か魔術師だったよな?」


「さぁ?俺にはわからんがここじゃ女帝気取りで自身の強さをこれでもかとアピールしてるぜ?」


 あっるぇ~?

 あいつって、確か鍛えた中じゃ一番弱かったんじゃなかったっけ?

 魔術師だから身を守れる程度の鍛錬しかしなかったんだが・・・

 それに性格も大分・・・こんな脳筋だったっけ?


 そんな感じで戦いを見ていたが、ジョエルの戦い方がえぐい。

 レベル差がハッキリしてるのに相手を挑発したり嬲るような言動が見て取れる。

 自身の強さを確認している・・・と言うより強さに酔っているようにしか見えない。

 一方的な展開で正直、弱い者いじめにしか見えず胸糞悪い。


 俺も傍から見るとあんな感じなのだろうか?

 そう思うと寒気がする。


「ラク、何を考えてるかわかるぞ?」


「え?」


「安心しな、お前ぇはあんな胸糞悪い感じは無い。

 闘うのが面倒臭そうにしている感じだが、ちゃんと喧嘩(対話)してるぜ。

 むしろ俺達が無理に乱闘場に引っ張ってるからなw」


 そう言ってボコポがニカッと笑う。

 その言葉に少し安堵したが、流石に笑えない。


 俺が鍛えた結果、人格が破綻したんじゃ意味が無い。

 そろそろ乗り込むか。


 そんな事を考えているとロブルがジョエルの言動を窘めつつ乱闘場に上がる。


 そしてジョエルとロブルが戦うが、今度はロブルが一方的に・・あ、ジョエルが援軍を呼んだぞ。

 呼ばれてケイブリスが乱闘場に上がる。

 おぉ、今度は2対1でロブルがやられそうだ・・って、今度はマッシュが乱入か。


 なんか次第に混沌としてきた所で料理を食べ終えたライナが更に乱入した。

 もちろんその間も冒険者やドワーフも乱入しているが瞬殺されてる。

 そうして新たな乱入者がほぼいなくなった。


 ・・・も、申し訳ない。

 本当に弟子(バカ)共が申し訳ない!


「まぁ、こんな感じで大体あの5人に乗っ取られちまうんだよ」


「申し訳ありません」


 俺は謝る事しか出来なかった。


 俺はサッサとこの馬鹿共を黙らせるために行動に移す。


「インディ、メル。

 少し頼みがあります」


 俺は2匹にお願いをすると、2匹は快く引き受けてくれた。


 さて、あとは・・・


「ボコポさん、レーネさんと一緒に乱闘場での出来事を少しふざけた感じで解説して貰っていいですか?」


「あぁ?どういう事でぇ?」


「なに、私があの5人を凹るのでそれを面白おかしく大声で話して貰えればいいんです」


「ふむ、ならこの拡声の魔導具を使うか」


 そう言ってボコポが取り出したものを見ると・・・な?!

 め、メガホンだとぉ?!








 と言う事で場が整ったところで俺は乱闘場へと向かう。


 乱闘場では5人がバトルロイヤルへと突入したのか膠着状態となっている。


 そんな中、メガホンを持ったレーネさんの声が酒場に響き渡る。


「おぉーっと、ここで新たな挑戦者が乱闘場へと向かいました!」


 その声で客席の視線がレーネさんに向かい、次に俺に向かう。

 俺はフードつきの上着を着て顔を隠し、一っ跳びするとそのままリン・・乱闘場へと降り立つ。


「誰だお前!」


 そう言ってライナが襲い掛かって来たので軽く躱し、足を引っ掛けて転ばせる。


 すると次にジョエルが殴り掛かって来たので半身をずらして拳を受け流して投げる。


「新たな挑戦者、凄い!

 ライナの突撃を躱し、ジョエルの拳打を投げで返したぁー!」


 その声に客席が一斉に湧く。


 俺の動きに何かを感じたのかケイブリスとロブル、マッシュが視線を交わし俺に狙いを定める。


「くっそ、おい、一斉に掛かるぞ!」


 起き上がったライナが声を上げるが、3人は静かに距離を置く。


「待てライナ、こいつ只者じゃない」


「えぇ、強者の匂いがします」


「・・・」


 3人の様子にライナも警戒するが、ジョエルがそれを無視する。


「そんなの関係ないわよ!

 舐められて堪るものですか!」


 そう言って俺に再度突っ込んで来る。


 左右の拳を交互に打ち込んでくる。

 ボクシングで言うところのワンツーパンチだ。

 俺はそれを上体を逸らす事で躱し、反動を付けてワンツーを打ち返す。


「ぎゃぁ!」


 顔面に諸に喰らったジョエルが女性にあるまじき声を上げるが気にしない。

 俺はジョエル以外の4人を警戒しつつジョエルの様子を見ると、信じられないモノでも見るような顔で俺を睨むと腰を低くして突撃してくる。


 ストライカーかと思ったらグラップラーに成長したのか?いや、トータルファイターの可能性も・・・

 って、こいつ魔術師だよな?


 そんな事を考えつつ、ジョエルの突進を最小限の動きでヒラリヒラリと躱す。


「おぉーっと、挑戦者、華麗な動きでジョエルを翻弄しています!」


 ジョエルだけじゃなく、他の4人も警戒しているんだが、中々動かないな。

 俺は少し焦れているジョエルの突進を躱し、ジョエルの後背(バック)を取ると腰に手を回してバックドロップをかます。


「あがぁ!」


「おぉーっと、突進で攻勢を掛けていたジョエルがカウンターでバックドロップを喰らったぁぁぁぁぁ!」


 歓声がドッと湧く。


 俺はジョエルが悶絶しているのを尻目に残りの4人に掌を上にして左手を向け、クイクイと手招きして口の端を吊り上げる。


「「「「?!」」」」


 残りの4人が一斉に襲って来る。


 ライナが正面から飛び掛かり、左手からケイブリスが、右から少し遅れてロブルが突進を掛け、マッシュが後ろに回ろうとする。


 俺は飛び掛かってきたライナを半歩ずらして避け、すれ違いざまにライナの背中を押して後ろに回ろうとするマッシュにぶつける。


 そして左から来るケイブリスの蹴りを左手一本で受け流し、ロブルの突進をヤクザキックで正面から返り討ちにする。


「おぉーーーーっと!挑戦者凄い!いや、凄まじいぃぃぃ体捌きだぁぁぁぁぁ!

 あの地獄の5人組の猛攻を華麗に返り討ちだぁぁぁぁ!」


 なんか、レーネさんが上手い事言ったみたいなドヤ顔してる。

 しかも客たちも乗ってるし。


 俺はノリで軽く手を上げてみると客席から歓声が更に湧く。

 ・・・ちょっと照れるな。


 そんな事をしつつ、俺の不意を突こうとライナとマッシュが背後から襲いかかって来たがバックキックで出端を挫くと振り向き様の回し蹴りでライナがコーナーに吹っ飛ぶ。


「な?!」


 驚愕の表情で一瞬動きが止まったマッシュにシャイニングウィザードをかまして前屈みになった所を捕まえパワーボムで仕留める。


 それを見てケイブリスが不利を悟り乱闘場から逃げ出そうと乱闘場から飛び上がる。


「ワウ!」

「ガウ!」


 そう一声吠えてインディとメルがケイブリスに体当たりをして乱闘場に引き戻す。


「おぉぉぉぉっと!卑怯にも逃げようとしたケイブリス!インディ君とメルちゃんに逃亡を阻止されたぁぁぁぁぁ!

 逃げられない!逃げられないぃぃぃぃぃ!」


 なぜか「ワァァァァァ」と言う歓声が湧きおこる。


「な?!魔獣だぞ?!」


 そう言ったケイブリスの後頭部をがっしりと掴みそのまま飛び上がるとケイブリスの後頭部に右膝を押し当てる。


「カーフ・ブランディング!」


 そしてそのまま乱闘場へと叩き付けようとするとロブルが体当たりで邪魔をしたがその所為でケイブリスの首が曲がってはいけない角度になってしまい慌てて「ハイヒール」でこっそり治療する。

 味方になんてことするんだ?!


 意識の無いケイブリスが地面に叩き付けられると、その衝撃で目を覚ます。


「危なかった、大丈夫ですか?」


「うん?あ、あぁ、助かった」


 危ないのはお前だよ!

 そして助かってないから!


 内心そう突っ込むが冷や汗が止まらない。

 改めて思う。

 馬鹿の相手って大変だ。


 ケイブリスや他の3人もヨロヨロと起き上がって来たので俺はこれ見よがしに声を掛ける。


「ふぅ、馬鹿共の相手をすると疲れてしまうな」


「「「「「な、なにぃ?!」」」」」


「何とはなんだ?貴様等ぁ!」


 俺は声を荒げてフードを外す。


「「「「「や、ヤマナミのお師匠?!」」」」」


「なんと!、なんとなんとなんとぉぉぉぉぉぉ!挑戦者は絶対王者(チャンピオン)だったぁぁぁぁぁぁぁ!」


 レーネさんのアナウンスに客が「ワァァァァ」と湧き上がる。

 どんだけ認知されてんだよ俺・・・


「な、なんでお師匠が・・・」


「なんでも何もあなた達がこの酒場に迷惑を掛けているからでしょう?

 力試しがしたいならそれなりの魔物を屠るかダンジョンに潜りなさい!」


 そう言うと俺は5人を威圧する。


「し、しかし、ここは乱闘場で対戦可能な酒場ですよ?

 俺達が利用したって問題は無い筈です」


 ケイブリスが反論する。


「この乱闘場が出来た理由を知っていますか?」


「・・・いいえ」


 ケイブリスが気不味そうに答えるが、ロブルが「私は知っています」と答えた。


「言ってみなさい」


「私達ドワーフは・・・なんというか種族的に少々荒っぽい言動をすることが多く、又お酒を大変好む思考があります。

 そして酒の席では拳で語らう事もコミュニケーションの1つとされています。

 余談ですが飲みニケーションとも言われてます。

 その特性の為、酒場での乱闘が問題となり、解決策の1つとして乱闘場を作ったとの事です」


「その通りです。

 では、その乱闘場の本意とは?」


「ドワーフの飲みニケーションの補助・・・でしょうか?」


 俺の質問にロブルが答える。


「その通りです。

 なのにあなた達が占拠してしまっていてはドワーフ達が困るでしょう?」


「「「「・・・」」」」


「私はドワーフなのですが・・・」


「あぁ?」


「いえ、何でもありません!」


 俺の威圧にロブルが直立不動で答える。


「と言う事です。以後力試しがしたいのであれば他でやりなさい。

 わかりましたか?」


「「「「「はい!わかりました!」」」」」


 そう言って乱闘場から降りようとする5人に待ったを掛ける。


「まぁ、待ちなさい」


 不思議そうな顔でこちらを見詰める5対の目。


「力試しをしたいと意気込むあなた達の為に、今日は特別にこの場を貸して頂きました。

 足腰立たなくなるまでお相手差し上げますので、私とコミュニケーションを取りましょう!」


「「「「「はぁ?!」」」」」


「要約すると、『お痛が過ぎるからお仕置きしてやんよ。

 ゴチャゴチャ言わず掛かって来いや!』ってことですよ」


「「「「「・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」


 一瞬の間の後、5人が一斉に乱闘場から抜け出そうとするがインディやメルに加えてボコポやドワーフ、冒険者が周りを囲んで乱闘場に5人を蹴り返す。


「これより始まりますはランバージャック・デスマッチ?

 えぇー、まぁ、完全決着型の決闘の始まりでーす!」


「「「「「決闘はコミュニケーションじゃないです!!!」」」」」




 5人の馬鹿の悲鳴が酒場中に木霊した。





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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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