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第119話 マルコムの苦悩 2

 キャシーとエマに国に売られ悪魔のダンジ(死刑)ョンに入る事(宣告)を伝えるとキャシーとエマの表情が凍る。


 私はその後、泣き喚き罵詈雑言を吐かれるだろうと予想していたが、その予想は外れた。

 暫らく表情は強張ったままだったが、既に予想していたのか、罵詈雑言の代わりに真剣な表情で1つのお願いをされた。


「私達が40階層まで辿り着けたなら、買い戻す。もしくは私達を見初めた者に私達を売ってはもらえないだろうか?」


 そのお願いに私は少し考える。


 私も悪魔のダンジョンに関わる商売をしている者としてある程度の情報は持っている。

 なので説明もしたのだが、31階層から40階層は様々な毒を持つ魔物が跋扈する危険地帯なのだ。


 解毒魔法か解毒薬、もしくは毒耐性や状態異常耐性を持っていないとほぼ攻略は不可能な階層郡。

 そしてこの2人はそう言った魔法やスキルは持っていない筈だ。


 と言う事はこの階層郡を抜ける事は不可能に近い。


 その事を確認すると、2人も頷く。


「それでも、これくらい可能性が無いような条件でなければ、このお願いを聴き入れては頂けないでしょう?」


 ふむ、いや、万が一のことを考えるとそのお願い自体聴き入れる気はないんだがな。


「地獄に落とされるんです。

 僅かで良いのです。ほんの僅かな希望を頂けないでしょうか?」


 地獄か・・・

 私もお前達の所為で商人としてかなりの危険(ピンチ)に立たされているんだけどな!


 しかし、確かに、確かにただ『死ね』と死刑宣告だけすると言うのも寝覚めが悪い。

 それに他の奴隷がもし40階層を突破したとしたら、私は喜んで買い戻すだろう。


 ・・・?!


 喜んで買い戻す?


 そこでふと思い至る。

 もし、もし本当に彼女達が40階層を突破した場合、それだけ優秀な奴隷を使い潰すようにそのまま悪魔のダンジョンへと向かわせるだろうか?

 戦闘奴隷として軍へと引き抜く可能性もある。

 その場合国に所有権を移すことに・・・   不味い?!

 そうなったらこの呪いの事が明るみに出る上に、呪いを移したと言う事で何らかの処罰を受けるかも知れない。


 ・・・


 不味い・・・かも知れない。



 不味いとは思うがそんな事は万に1つもない程に有り得ない事だ。

 それ程に有り得ない事だが、それこそ万が1と言う事も考えられる。

 ここは彼女達の願いを聞き入れておいた方が安全だろう。


 それと共に買戻しをスムーズにする為に役人にも事前に根回ししておかねば。

 根回しの費用で多少損害は増えるだろうが、呪いが明るみに出るリスクは無くなる。


 よし、少々焦ったが、穴は塞いだ。

 私は気を取り直すと、彼女達の願いを聞くことにする。


「ふむ、良いだろう。

 絶対と言っていい程有り得ない事だが、君達が、いや、君達のどちらか一人でも生きて40階層まで辿り着いたのであれば私が買い戻そう」


「私達を見初めた者に売って頂けませんか?」


 悪魔のダンジョンに入るアホ共の中にこの2人を買い取れる者などいる訳がないだろう。

 金が無くて女を襲おうと考える下種か、神殿関係者と言う聖職者しかいない悪魔のダンジョンで2人を買い取ろうとする酔狂なアホなぞ居る訳がない。

 こっちは万が1どころの確率もない。『そんな奴はいない』と断言できるレベルだ。


「あぁ、わかった。

 君達を見初めた者がいればその者に君達を売ろう。

 誓約書にもそう書いておこう」


「「お願いします」」


 私は二人の返事を聞くとジェロームに誓約書を持って来させ、誓約内容を記述して間違いがない事を2人にも確認させサインを書き、血判を押す。

 そして2人にもサインをさせ、血判を押させる。


「これで良いか?」


「「ありがとうございます」」


 そう言って頭を下げる2人を少し疑問に思う。


「君達は恨まないのか?」


 そう聞くとキャシーが答える。


「何を?」


「君達は場所が場所ならばそれなりの権力があった筈だ。

 それなのに今では奴隷の身分。

 私やあのカタリナ=スフォルツェンドのような者を恨みはしないのか?」


 そう聞くとキャシーは口の端を上げると自嘲気味に言う。


「恨む?恨むか・・・恨むなら私自身の愚かさを恨むのみだ。

 神の意志であったとしても、私は考えるべきであったのに、それなのに、神に言われるがままに・・・」


 そう言うと拳を握った手は悔しさで震えているようだった。


 その表情は後悔を強く滲ませ、涙を流さずに泣いている子供のようにも見え、その姿は憐みを誘う。


 何とも言えない空気が流れる中、私は彼女達を置いて私は部屋を出た。









「さて、ジェローム」


「はっ」


「役人への根回しをどうするべきかね?」


 私はジェロームに質問を投げかける。

 私の中ではある程度回答は出来上がっている。

 今回の質問はその答え合わせのようなものだ。


「そうですね・・・2人の代わりに外した奴隷2名を追加で悪魔のダンジョンへ向かわせましょう。

 その代りにもし今回送った奴隷の中で40階層以下の下階層まで到達したものが居れば最優先で買い戻せるようにしては如何でしょうか?」


 ふむ、私の考えとほぼ同じだ。


「ふむ、理由を聞かれたらどうする?」


「高レベルの戦闘奴隷が品薄になっているのでその補充とでも言っておけば疑われる事も無いでしょう。

 実際、高レベルの戦闘奴隷は我々の護衛以外はカタリナギルド長(あの女狐)に買い占められておりますから」


 そう言えばそうだった。

 しかし、他の奴隷商からも高レベルの戦闘奴隷を買い集めている様だが、何を考えているのかさっぱりわからない。

 だが、都合の良い言い訳には使える。


「ではそれで頼む」


「畏まりました。

 誓約書も保管してまいりますね」


「よろしく頼む」


 さて、これで悩みの種の1つは片付いた。


 後は・・・この呪いを何とかせねば!



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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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