第117話 悪魔のダンジョン攻略 裏2
訓練場へと向かった結果、ケインが訓練場の床に両手をついて膝から崩れ落ちる事になった。
「し、信じらんねぇ・・・」
その言葉を残してケインは動かなくなった。
しばらく待ってみたがケインが復活する事は無かったので俺は奴をそのままにして訓練場を後にした。
さぁ、さっきの依頼を受けておこう。
そうして無事依頼を受けた俺は冒険者ギルドを出ようとして声を掛けられた。
振り返ると以前色々とお世話になった『鉄の絆』リーダーのヘイゲルさんだった。
「ヘイゲルさん?」
「おぉ、久しぶりだな」
「お久しぶりです」
「にしても、さっきの勝負を見てたが、随分と強くなったな」
「えぇ、お蔭様で」
「それにえらく謙虚になっちまって、どうしたんだ?」
お師匠様の修行を受ければどれだけ自分が卑小な存在かを思い知らされる。
あれを受けて謙虚になれない奴がいるなら、そいつは馬鹿か余程の大馬鹿だ。
「世の中の広さを知りましたから」
そう答えておいた。
「そうか、何だか遠い目をしている所悪いが、お前、腕試ししたいとか言ってたよな?」
「え?あぁ、そうです。
今の実力がどの程度なのか確認したいと思ってます」
その話を知ってるって事はケインとの会話は最初から全て聞いてたって事か?
「それでケインとやって確認できたか?」
「正直、ケインだと物足りなさ過ぎて今一でした」
「ははは、確かにあれじゃ戦いとは言い難い。
まぁ、最近調子に乗り過ぎてた所があったからケインにはいい薬だろう」
「はぁ・・・」
「まぁ良い、実はな、武器防具なしで己の身一つで戦う事になるが、絶好の場所がある。
良かったら紹介しても良いぜ?」
「素手ですか?」
「あぁ、そうだ。素手ではあるがそこなら強者が山ほどいるぞ?」
そう言ってニヤリと笑う。
挑発している様にも聞こえるが、お世話になったヘイゲルさんの誘いだ。
悪い事ではないだろう。
「是非お願いします」
「よし!それじゃ今夜は俺が奢ってやる。
夕方またギルドに来てくれ、連れてってやるよ」
「ありがとうございます」
そう言ってお礼を言うと俺は冒険者ギルドを後にした。
どうしてこうなった。
今、俺の眼の前にはロブルが居る。
そしてここはヘイゲルさんに連れて行ってもらった酒場の『乱闘場』と言う場所だ。
なんでもこの場所だけは喧嘩可能の無法地帯。
らしいのだが、その上で俺はロブルと対面していた。
「な、なんでロブルが?」
「な、なんでライナが?」
・・・腕試ししたいが、訓練で戦ってた仲間とじゃぁ、変わり映えしなさ過ぎて腕試しにならない。
そんな事を考えている間にも野次馬は増えて行く。
「「「おらー、サッサと闘えー!」」」
「やらねぇなら俺が引き摺り下ろしてやるぜ!!」
「ヒャッハー!」
乱闘場に乱入してくる酔客を片っ端から叩き出しつつ、叫ぶ。
「腕試しに来た意味ねぇじゃねーか!!」
「腕試しは神のダンジョンで行うって言ってませんでしたか?」
「いや、ヘイゲルさんに腕試しに丁度良いところがあるって連れて来てもらったんだよ。
そう言うロブルはなんでこんな所に?」
「私もドワーフですよ?酒と喧嘩が止められると思います?」
「・・・ちくしょぉッ!」
そうして俺はロブルと喧嘩と言う名の模擬戦を始める事になった。
乱闘場のある酒場の夜は更にヒートアップしていく。
そうこうする内にいつの間にか乱闘場は俺とロブルの一騎打ち状態でお互いがボロボロになって来た。
そろそろ決着か?
俺やロブル、周りの客達もそう思い始めた頃にケイブリスが顔を出す。
「お前等もここに来たのか?
まぁ、腕試しがしたかったってところだろうが、俺も混ぜて貰うぜ!」
そう言って挨拶代わりとでも言うようにロブルにドロップキックをかます。
しまった!
ここは決闘場じゃなく乱闘場、1対1じゃなかった!
俺とロブルは既にボロボロでグロッキー寸前。
対してケイブリスは無傷だ。
「ズルいんじゃねぇか?」
「喧嘩で泣き言は言うもんじゃねぇぜ」
そう言っていい笑顔で笑われた。
畜生!今日は無理!!
明日絶対ボコボコにしてやる!
そう思っているとドロップキックを喰らったロブルが倒れたままケイブリスの足を押さえて叫ぶ。
「ライナ!今です!」
俺は怒号と共にケイブリスに襲い掛かった!
「ちょ?!2人掛かりは卑怯だぞ?」
「喧嘩で泣き言は言うもんじゃないんだろ?」
そう言いつつ、ケイブリスの背後に回りガッチリとホールドしてバックドロップの体勢に持ち込み、ロブルの上に叩き付けようとしたがそれを察したロブルが慌てて転がり難を逃れる。
「チッ!一石二鳥を狙ったんだがな・・・」
「ライナ、恩を仇で返すなんて酷いですよ!」
「ここは乱闘場だぜ?
タッグを組んだ覚えはない!」
「?!」
「お前等、俺を忘れてんじゃねーか?」
俺とロブルは背後からコッソリ近付いていたケイブリスの蹴りを躱す。
「忘れてねーよ!」
「忘れてません!」
「クソ!」
俺はロブルとケイブリスの2人を視界に捉えつつ間合いを取りつつ考える。
腕試しがしたかっただけなのに、どうしてこうなった・・・
追伸。
ヘイゲルさんは左頬に大きな青痣を作っていたが、とても良い笑顔で寝転がっていた。