第115話 悪魔のダンジョン攻略 5
31階層へと降りると20階層と同じような木々の青臭い香りと共に湿った空気が出迎えた。
20台の階層と同じ森林地帯かと思ったけど、空気がジットリとしているし、良く見ると生えている木々も樹木というか、ヤシの木の様に幹に繊維を巻いている感じだ。
それになんかやたらと蔓植物が多いし、虫もブンブンとんでてなんかジャングルにでもいる様な・・・って、ジャングル階層か?!
そう思って辺りを見回すとたしかにジャングルのようだ。
実際にジャングルに行ったことは無いので確証はないけど、多分ジャングルで良いだろう。
幸い「地図2」スキルでオートマッピングされているので迷子にだけはならない自信はある。
さて、適当に狩りをしながら探索を始めるか。
俺は「気配察知」に引っ掛かった魔物の気配に向けて進む。
進む先がわからないのであればポップする魔物を只管狩り続けて「無限収納」に入れる事で悪魔のダンジョンのエネルギーを少しでも減らす作戦だ。
それに魔物を狩り進んで行けば多分下階層への扉ないし階段がきっと見つかるだろう。
そんな感じで狩りを続ける事3日。
現在37階層にいる。
ダンジョンの環境は相変わらずのジャングルで視界が悪く道も無いので手に持つ黒鉄製の槍で先に進むのに邪魔な雑草やその他の木々を纏めて薙ぎ払いながら進んでいる。
つまりジャングルを破壊しながら行軍しているのだが、相変わらず肌に纏わりつく様なじめっとした空気が不快感を底上げしてくれている。
それに気温も段々上がっている気がする。
こんな不快な暑さを感じていると服を脱ぎたくもなるのだが、そう言う訳にもいかない。
何故なら、この階層は虫が多いのだ。
それに蛇も多い。
蛇とか虫って、生理的に受け付けないんだよな・・・
そんなのを倒すたびに触って「無限収納」に収めなきゃならないから尚ストレスが溜まる。
そんな事を考えているとまた魔物の反応が出る。
近付くとそれはダークマンバだった。
こいつがヤバい。
LVは25程度で攻撃は噛み付きだけだが、デカくて猛毒を持っている。
体高は1メートル程で全長は10メートルもある。
おまけに噛み付かれると猛毒で30秒で全身が麻痺し、1分で意識を失う。
そして5分で死亡という恐ろしい毒を持っている。
そしてこいつの一番厄介な特徴は身体の模様や顔つきが獰猛な魔物のイメージとは程遠い事にあるのだ。
クリッとした目玉に丸みのある卵型のフォルムをしている頭部を見ると無害そうに見える。と言うよりむしろ愛嬌がある様に見えてしまう。
そして鱗はあるが地味な黄土色をしているので猛毒を持つ危険な蛇とは一見して思えない見た目なのだ。
そんな外見でありながら先ほど言ったように猛毒があり攻撃性も強い。
下手に刺激すると襲い掛かって来るのだ。
因みに毒を持たない蛇は突かれたりすると逃げる傾向が強いので木の棒などで突いて襲って来るものは要注意だ。
※ 突いた結果噛まれても自己責任で何とかしてください。
まぁ、そんな感じでレベル以上に危険な魔物だ。
因みに俺は状態異常無効なので噛まれても問題ないが、それでもやっぱり痛い思いはしたくないので噛まれたくない。
と言う事で俺は遠距離から斬撃を飛ばすとダークマンバの首を刎ねた。
ついでに辺りに生えてた木々も切り倒す結果になったが誰も困らないから問題ないだろう。
そうして絶命した事を確認するとダークマンバの頭と体を「無限収納」へと仕舞う。
こんな感じでこのジャングル階層での戦いは俺が一方的に遠距離からの攻撃で仕留めるだけであった。
因みに虫系の魔物は数で襲って来るので『小型爆弾』で一掃し、ドロップアイテムだけ「無限収納」に入れている。
なんで徹底して遠距離攻撃を行っているかと言うと、この階層の魔物は鑑定するとその殆んどが以下の様に出る。
----------------------------------------
名前 :-
性別 :-
年齢 :5
種族 :地獄蟻
称号 :-
レベル:27
ステータス
HP : 970/970
MP : 100
STR : 350
VIT : 550
INT : 30
AGI : 150
DEX : 120
MND : 230
LUK : 220
特記事項
VIT以外のステータスは低めだが蟻酸は強力な麻痺毒である。
噛まれると3分で全身が麻痺するが決して死ぬことはない。
殺さないのは捕食した食料を腐らせない工夫と思われる。
ゆっくりと生きたまま捕食されるので巣に連れて行かれた時点でほぼアウト。
特記事項に洒落にならない文言がひっきりなしに出て来るのだ。
これまでの階層に比べてダンジョンマスターの厭らしさが全開である。
やっぱりここは速やかに攻略を進めて更に下の階層へ向かおう。
そう決意し、まずは後ろからコッソリ隠れて付いて来れていると思っている2人組をどうしようかと思案する。
・・・取り敢えず、声掛けとくか。
見殺しにするのは俺の精神衛生的に堪えるし・・・
「後ろからコソコソと付いて来ているお2人さん。そろそろ姿を見せて貰えませんかね?」
そうして暫らく待つが出てこない。
「気配察知」でばっちり確認しているが、出て来ることを躊躇っている様だ。
「出て来ないなら敵対者として始末しますよ?」
言葉と共に軽く殺気を放つ。
「「ちょ、ちょっと待ってください!今行きますから!!」」
軽い冗談を言ってみると隠れていた2人が慌てて出てきた。
「やっぱりあなた達でしたか、キャシーさんにエマさん」
そう言うとバツが悪そうにキャシーは視線を逸らして頬を掻き、エマは恥ずかしそうに下を向いた。
「それで、どうして私の後を付け回していたんです?」
「「つ、付け回すだなんて、そんな?!」」
「ずっと気配を感じていたので間違いないですよ?」
「ごめんなさい」
「・・・申し訳ありません」
「それで、本題なんですが、どうしてそんな事を?」
そう言うと、キャシーは本音を話し始めた。
と言うか、一言で答えた。
「私達、死にたくないからです」
「・・・はい?」
「死にたくないからです!」
端的な答えに思わず聞き返してしまったが、どういう事だ?
「えーっと、ですね・・・」
言葉を飲み込めずにいるとエマが割り込む。
「申し訳ありません。
端的に申し上げますと、31階層以降の階層では猛毒を持つ魔物や狡猾な魔物が多く、
とても私達だけで進むのは難しいと判断しました。
その為、ラクタローさんが通った後を追わせて頂き、その後を追う形で切り抜けようと考えていました。
コソコソと隠れて体よく利用するような真似をして申し訳ありませんでした」
ふむ、つまり俺を避雷針にして楽して進もうって事か?
いや、このジャングル階層は確かに厄介だ。
回復薬か回復役がいないと無理ゲー臭い。
そう言えばそういう薬とかは支給されてるのか?
「すみません。1つ質問ですが、回復薬や解毒薬なんかは支給されていますか?」
「いえ、武器と防具に食料は支給されますが、薬関係は支給されません」
つまりこのジャングル階層は最低限の支給しか受けられない奴隷では攻略不可能って事か?
「お2人は回復系の魔法は?」
「「使えません」」
「・・・毒耐性などは?」
「「持ってません」」
詰んどるやんけ。
あまりに酷い状況に可哀想になる。
「あー、えー、えーっと・・・頑張れ!」
「「憐れまれた?!」」
「いやいや、奴隷の時点で憐れだろ!」
「「そ、それは確かに・・・」」
そう言って2人共膝を折る。
あー、精神にグッサリと刺さってしまったようだ。
しかし、相手の事情を聞いたのは不味かったな。
突き放し難くなる。
こっちもさっさと攻略を進めたいんだよな。
お荷物背負って足が鈍るのは勘弁して欲しい。
「あ、あのぉ。ラクタローさん」
考えているとキャシーから声が掛かる。
「はい?」
「私達を買って頂けませんか?」
「「はい?!」」
俺とエマの声が跳ね上がる。
「だって、私もエマもまだ若いのよ?
こんな所で死にたく無いもの。
エマだってそうでしょ?」
「そ、それは・・・いえ、確かにその通りでした。
取り乱して申し訳ありません」
エマも頓狂な声を上げていたが、キャシーの言葉に首肯すると、顔を真っ赤にして見詰めて来る。
と言うか、睨んで来ているように見える。
「そ、それで・・・買って頂けませんか?」
うーん。
確かに奴隷は買う予定なんだけど、ここの攻略が終わってからと考えていたんだがなぁ・・・
まぁいいか、有望そうなら先に買っておくのも良いだろう。
「取り敢えず、あなた達は何が出来るんですか?
まずはそれを聞いてから買うかどうか考えさせてください」
そう聞くとまずはキャシーが居住まいを正して答える。
「私は文字の読み書きや計算ができます。
それと礼儀作法や踊りも嗜む程度ですが、学んでおりました。
護身術として剣術と魔法も習いましたが、剣はそれなりに得意なのですが、魔法は不得意で炎魔技を少し使える程度です」
ふむ、鑑定で見てみるか。
そう思いキャシーを視界に入れる。
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名前 :キャシー
性別 :女性
年齢 :20
種族 :人間
職業 :奴隷
称号 :-
レベル:35
ステータス
HP : 710
MP : 291
STR : 430
VIT : 500
INT : 360
AGI : 535
DEX : 360
MND : 360
LUK : 63
特記事項
隷属(マルコム=スタンリー)
----------------------------------------
所持スキル
[礼儀作法2] :熟練度 62
[剣技] :熟練度 82
[槍技] :熟練度 41
[炎魔技] :熟練度 35
[小回復] :熟練度 45
[舞踊2] :熟練度 92
[危機察知] :熟練度 10
大体は本人が言った様な所持スキルだが、得意と言った剣も剣技だし、苦手と言った魔法も炎魔技だからどっちもどっちじゃないのか?
それに礼儀作法と舞踊が高いのが高貴な出身を物語るな。
それと特記事項の・・・
「マルコム=スタンリー・・・か」
買うとなるとそいつと交渉する必要があるのか。
「?!」
「な、何故それを?!」
「うん?」
「マルコム=スタンリーは私達がいる奴隷商館の主で現在私達の主人でもあるんです」
あ・・・やっちまった。
な、なんとか誤魔化さないと。
「あ、あー・・・そうなんですか。
実は私こう見えて奴隷を買ったことが無いんですよ。
なので誰に相談しようか考えていたんです。
この街の奴隷商は確かマルコム=スタンリーさんだったと思いだしたので彼に相談しようかと・・・
つい声に出ていたようですね。
お2人のご主人様がマルコム=スタンリーさんだったとは思いませんでしたよ」
「「・・・」」
「まぁ、それは良いとして、エマさんは何が出来るんですか?」
2人共訝しそうな顔をしたが、話を切り替える事で何とか流せた。
「私は読み書きと計算、それに家事全般が得意です。
それと礼儀作法ですね。
あと踊りは嗜む程度です。
戦いについては・・・あまり得意ではないのですが、魔法での支援が出来ます」
と言う事で鑑定で確認をば。
----------------------------------------
名前 :エマ
性別 :女性
年齢 :21
種族 :人間
職業 :奴隷
称号 :-
レベル:37
ステータス
HP : 454
MP : 810
STR : 306
VIT : 269
INT : 602
AGI : 306
DEX : 454
MND : 528
LUK : 77
特記事項
隷属(マルコム=スタンリー)
----------------------------------------
所持スキル
[礼儀作法3] :熟練度 73
[家事3] :熟練度 56
[炎魔技] :熟練度 96
[水魔術] :熟練度 71
[風魔術] :熟練度 45
[舞踊1] :熟練度 81
[教導1] :熟練度 55
ふむ、これは・・・中々に、いや、非常に良い。
ディ・モールト ディ・モールト (非常に 非常に) 良いぞッ!
「家事3」スキルが素晴らしい!
これならダンジョン攻略後に貴族屋敷の管理を任せられるじゃないの!
この瞬間、俺は奴隷2人の買取を決めた!
が、それを表情に出すのは禁物だ。
久々に心湧く出来事ではあるが、表情は隠して無表情に徹する。
ここからは交渉の時間だ。
どれだけの好条件を引き出せるか。
これからの交渉に掛かっている。
「さて、お2人の出来る事は確認しましたが、それを踏まえた上でお2人のお値段は幾ら位になりますかね?」
そう聞くと2人は言い難そうな顔をした。
「値段がわからなければ買うかどうか決められませんけど?」
「わかりました。
申し上げにくいのですが、私達2人で大金貨10枚です」
ふむ、払えない金額ではない。
ただ、それが高いのか安いのかはわからない。
大金貨10枚だと約1000万円だろ?1人500万か?
いや、それ以前になんで俺がそれを払えると思ってるんだ?
「結構な金額だと思うんですけど、その額を俺が払えると思ってるんですか?」
「これまでの戦闘を見ればわかります。
体け・・・いえ、見た目の鈍じゅぅ・・・。
コホンッ。
年齢からは想像もできない程に卓越した戦闘能力。
それにその武器は黒鉄製ですよね?
それ程の業物であれば大金貨20枚は下らないと思います。
そんな品をかなり粗略に扱っておられたのです。
その点だけをもってしてもかなりの財力があると考えました」
エマが言葉を選びつつ、つらつらと答える。
最初の方で少し引っ掛かる部分もあるが今は流しておこう。
それよりもエマの目利きに少し驚かされる。
スキルは持っていないが中々に目が肥えているようだ。
そして槍の扱いが粗略って言われたが、普通に武器として扱ってるんだけどなぁ。
粗末に扱っているつもりが無いので少し不服に思ったが、それは心の中に仕舞って置く。
「なるほど、中々に目が利くようですね。
確かに私にはあなた達を買い取るだけのお金があります」
そう答えると2人の顔に喜色が浮かぶ。
「ただ、私が買うかはこれからの交渉次第です」
「「・・・はい」」
「では、最初にお聞きしますが、私に買い取りを求めている現状で何か希望はありますか?」
「「希望・・・ですか?」」
なんか、良く理解できていないようだ。
「ですから、どんな仕事や条件を希望するかと言う事を聞いているんですけど?
お2人は戦闘奴隷と言う事でしたが、戦い以外の仕事を任せても良いのか?とか、
お2人はこれまで性交渉"なし"と言う条件でしたが、私が買う際は性交渉"有り"にしても良いのか?
そう言った具体的な契約の条件の希望ですよ」
「・・・ありでも構いません」
「わ、私もそれ位の覚悟は・・・しました」
「うん?
性交渉有り?」
「「・・・はい」」
2人は赤くなりながらもじもじしつつも真剣に答えた。
『あのぉ、冗談で言ったんですけど?』とは流石に言えない雰囲気だ。
取り敢えず交渉を進めよう。
「そ、そうですか、では、それ以外についてどんな仕事をお望みですか?」
そう聞くとキャシーは考え始め、その様子を見たエマが答える。
「すみません。私は戦闘奴隷と言う事になっていますが、出来れば戦い以外のお仕事をさせて頂けないでしょうか?」
「戦い以外の仕事ですね、例えばどんな仕事が御望みですか?」
「そうですね、出来れば主人の側仕えないしメイドと言った辺りでしょうか」
ふむ、無難な所だが、側仕えはいらない。
メイドとして雇うか?
そう考えているとキャシーも思い付いたのか声を上げる。
「私もー!私もメイドが良いと思います」
ふむ、こちらもメイドか。
まぁ、概ねはメイドの仕事をして貰って、それにちょっとだけ別の仕事もして貰おう。
「私からの要望なんですが、メイドの仕事に上乗せするんですが、貴族屋敷の管理をしてくれませんかね?」
「お家の管理?」
「はい。それとメイドの仕事とは少し違いますが、最近とある商売をしようと考えているのでそのお手伝いもして貰えればと考えてます」
「商売?」
「商売・・・ですか?」
キャシーは良くわかっていない様子だったがエマは興味深そうに聞き返す。
「まぁ、今は秘密ですが、関わるなら守秘義務が発生すると考えてください」
そう言うと2人が緊張したような顔をするが、砂糖の取引だから大した仕事ではないんじゃないかな?
ただ、砂糖自体が出回り難いものだから生産方法については秘匿したい。
あと、ここは中世ヨーロッパ風の世界っぽいから読み書きに計算が出来て礼儀作法等の教養があるなら管理職として雇っても問題ないだろう。
エマは多少の目利きは出来るみたいだし、余計な事をしなければ大丈夫な筈だ。
「それでもよろしければ、お2人を買い取るのも吝かではないのですが、どうでしょう?」
「是非やらせてください!」
「わ、私もお願いします!」
そう言って2人は即断した。
こうして俺は奴隷ゲット!をすることになった。
うーん。ダンジョン攻略を始めたら奴隷を買う事になりました。
面倒だけど、一旦街に戻って奴隷商と交渉?それともゴルディ王国との交渉?どっちになるんだ?
それを2人に聞くとマルコム=スタンリーとの交渉だけで良いそうだ。
基本的に犯罪奴隷は捕まった犯罪者を国が奴隷身分に落とすのでそのままこのダンジョンに投入されるのだが、
投入される犯罪奴隷が少ない場合や緊急の際は国が奴隷商に金銭で依頼するそうだ。
この時投入される戦闘奴隷の契約は国から出た金額と要求される人数で奴隷商が奴隷の質を変えるらしいのだが、
国側はダンジョンに投入される奴隷を見ないらしい。
どうせダンジョンで散る命。
死が確定している者をわざわざ見ようとは思わないのだろう。
奴隷商の方もそれをわかっているので金額を抑えて粗悪な奴隷や売れ残り等を処分する手段としている面もあるらしい。
と言う事でマルコム氏に商談を持ち掛ければ買い取り可能との事。
さて、やることが決まれば後は実行するのみ。
俺は2人を連れて40階層のボス部屋の前まで来るとポータルを使って地上に出る。
さぁ、初めての奴隷購入。
ちょっとドキドキして来たぞ。




