第114話 悪魔のダンジョン攻略 4
エマからの説明で悪魔のダンジョンで他の探索者に避けられていた理由は俺が臭かったから。
と言う事ではなかった。
理由を簡潔に言うと俺が戦闘奴隷ではなかったからと言う事らしい。
元々犯罪奴隷や戦闘奴隷を悪魔のダンジョン攻略に投入し始めたのは200年程前からで、当時はダンジョン内は魔物が溢れ返っていた。
なので奴隷達は文字通り生き残りを掛けて死にもの狂いでダンジョン攻略を進めた。
そして150年ほど攻略が進むと悪魔のダンジョンでも極僅かではあるが安全地帯がある事が判明していく。
更なる階層へと向かう為の休憩所として利用されるはずだった安全地帯は死地へと強制的に向かわされた奴隷達にとって唯一生き残れる可能性が生まれたのだ。
それは生き残れると言う希望を奴隷達に齎したが、更なる地獄の始まりでもあった。
何故かと言うと投入される奴隷の数よりも圧倒的に安全地帯の数が少なかったのだ。
そうなると人間は生き残ろうと必死で他者を蹴落とすようになる。
そうして攻略はそっちのけで奴隷同士の殺し合いが悪魔のダンジョン内で始まったのであった。
そうして殺し合いにも一段落着くと、今度は新規に投入される奴隷達に牙を剥く。
安全地帯を手に入れた奴隷達は今度はその場を奪われまいと更に殺し合いを続け、結果、攻略は滞る。
そんな悪循環が続く事10年。
下層から強力な魔物の集団が上層へと溢れる様に昇り始めた。
それまで安全地帯であった場所にも魔物が襲って来るようになり、安全地帯や殺し合いの事がようやく明るみに出る。
因みにそれまで明るみに出なかったのは『死人に口なし』と言う事だそうだ。
生きる為になんでもする覚悟を決めた人間と言うのは恐ろしい程に凄まじいものである。
まぁ、そんな訳でダンジョン内で魔物の暴走の前兆が見られた為、当時の冒険者ギルドにゴルディ王国軍の精鋭達は相当な苦労をしながらダンジョン内で魔物の討伐を行い、少なくない犠牲を払ったそうだ。
因みにその当時、魔物の暴走が起こりかけた事は秘匿されたらしいが、この話は古参の奴隷達が口伝えで新しい奴隷達に伝えられている話らしい。
それ以来、悪魔のダンジョンに入れられる奴隷には1つの制限が付いた。
それは『人に害を為す行為の禁止』である。
これによって殺し合いは出来なくなり、攻略を進められるようになったそうだ。
ただ、この事は関係者のごく一部にしか知られていない秘密であった。
抵抗が全くできない人間がいる事が知れ渡れば悪魔のダンジョンであろうとも不貞を働こうとする輩が出て来ることを懸念しての事だ。
そうして40年が経つ間に今度は関わっていた。もしくは関わっている人が増え、秘密はどこからか洩れ始める。
その結果、人に対して抵抗できない奴隷達を体の良いサンドバッグ。もしくは憂さ晴らしの道具や特殊性癖の捌け口にしようとする異常者が悪魔のダンジョンに現れ始めた。
と言う事で悪魔のダンジョン内にいる探索者=奴隷達は奴隷でない探索者を避ける様になったそうだ。
なんでも『悪魔のダンジョンに入るような変人は神殿関係者かドS趣味の超絶変態しか来ない!』とはキャシーの言だが、そう言われると俺の立つ瀬がない。
そう言った話を聞いたので俺は安心した。
決して俺の体臭が原因ではなかったのだと・・・
ホッとした俺はお礼の意味もかねて食事を提供した。
オーク肉のステーキを焼き、ドミグラスソースで作ったシチューにフライドポテトと唐揚げにパン。
そして炭酸ジュー・・・スはやめて水を出した。
肉々しいメニューだったが、キャシーとエマの2人は美味しそうに食べてくれた。
途中キャシーががっつこうとするとエマが窘めて上品に食べていたのが印象的だ。
やはりどこかの貴族か上流階級にいたのだろう。
詮索は藪蛇藪蛇。
あぁ、忘れていたが下種男集団は彼女達に聞いたら「後腐れなく殺しておいてほしい」と頼まれたが、流石に人殺しにはまだ抵抗がある。
なので身ぐるみ剥いで顎を外してから両手足を圧し折って放置した。
魔法が使えると生存の可能性が上がるからな。
これで生き延びたのならそれは下種男達に奇跡ともいえる運が在ったことになる。
その場合は仕方ないが、まず生き延びられないだろう。
食後にそんなちょっとした作業をした後、2人と別れたのだが・・・
翌日、トレント狩りをしながらの建材集めも十分な量になって来たので再び攻略に当たろうと30階層のボス部屋まで進むとキャシーとエマが居た。
・・・なんだぁ?
訝しく思っていると声を掛けられた。
「ラクタローさん!やっぱり来たんですね。そろそろ来るんじゃないかと待ってたんですよ」
「き、昨日は助けて頂いたのに失礼な事をしてしまい・・・申し訳ありませんでした」
キャシーは明るく、エマは昨日俺にビンタをかましたことを後悔したのか、それとも黒歴史に気付いて落ち込んでいるのか萎らしく謝罪の言葉を述べてきた。
「こんにちは、お2人さん。エマさんはもう気にしなくていいですよ。それよりここで何をしているんですか?」
「それはもちろん30階層のボスを倒しに来たんですよ」
そういえばダンジョン攻略の為に放り込まれているんだったな、彼女達は。
聞くまでも無かった。
「そうですか、ではキャシーさん達が先に着いていたんですから、どうぞお入りください」
そう言って俺はジェスチャーで先に行くよう促す。
「いや、その件なんですけど・・・」
そう言って頬を掻くキャシー。
何かあるのか?
そう思いエマを見るとこちらは軽く頭を振って気を取り直したのか、真剣な顔になる。
「実は、私達と一緒にボス部屋に入って頂きたいのです」
「はい?」
頓狂な声が出てしまったが、理由を聞いて納得した。
ボス部屋は入ると密室状態になり、ボスを倒すまで絶対に出られないのだそうだ。
もちろんここの階層のボスであれば彼女達だけでも大丈夫だと思っているそうだが、万が一のことを考えると戦力は多いに越した事は無い。
そこで先日助けて貰った俺に白羽の矢を立てたらしい。
基本的には彼女達が戦い、危なくなったら俺が手助けすると言う形で一緒にボス戦を!との事だった。
まぁ、俺も無駄に戦わなくて済むならと了承した。
そうして30階層のボス部屋に入ったんだが・・・
正直、謀られた感が半端ない。
30階層のボスは大ネズミだった。
そう、30階層にしてネズミ。
レベルは20と大した事は無いのだが、その数が半端ない。
具体的な数はわからないがボス部屋の半分を埋め尽くしていた。
ボスだろう個体はレベル20なんだが、他の雑魚ネズミと見分けがつかない。
サイズも色合いも一緒。
その上ボスネズミはふんぞり返っているのではなく、雑魚ネズミに紛れている。
しかも俺の事を警戒しているようで俺には全く近付いて来ない。
全く、ロマ〇ガのア〇ジャーノンみたいな厭らしいネズミでイライラする。
それにネズミの集団を最初に見た時はあまりの数に気持ち悪くなったが、現在はそれどころじゃなくなっている。
1人で入ったなら小型爆弾を連射で終わっただろうが今回は足手纏いが2人もいる。
うっかり巻き込んで殺しかねない。
レベルの上がった俺の『小型爆弾』はちょっと引くぐらいの威力になっている。
なので仕方なく俺は「無限収納」から取り出した黒鉄の槍でちまちまと周囲に寄って来るネズミを殺しているのだ。
因みに足手纏い2人は必死に戦い続けている。
キャシーは剣士なので戦い続けるスタミナは十分みたいだが、エマは魔術師のようで近接戦闘は苦手なのか時々ネズミに齧られたりして悲鳴を上げている。
まぁ、これだけ数が多いと詠唱を邪魔されるんだろう。
そんなエマに俺は『ヒール』を掛けたり『リフレッシュ』を適宜掛けていたんだが、流石に30分も戦い続けると面倒になってくる。
そこで俺は塹壕を掘る事を思いつく。
さっさと終わらせる為に自分の後ろに『土壁』で壁を作るのではなく床に穴を空けてみた。
すると思った通りに穴が空いたので2人に指示をする。
「キャシー!エマ!
そこの穴に避難してください!」
「「え?!」」
「良いから早く!」
イライラした所為か少しきつい言い方になってしまった。
それを聞いた2人は一瞬ビクリとなったが、その後すぐに塹壕の穴に向かって走り込み、落ちるように中に入る。
俺は2人を追って来ていたネズミ共を槍で一薙ぎすると、『小型爆弾』を掛けた小石を数発「無限収納」から取り出し辺りに適当に投げ付ける。
爆発音が連続して続き、砂煙と共に爆風が室内に吹き荒れる。
もちろん俺はビクともしない。
そうして砂塵が落ち付いて来ると、そこには夥しい血の海と辺りに散らばる肉片に所々抉られた壁や床が姿を現す。
「はぁー、スッキリした!」
ストレス発散した俺はスッキリしたいい笑顔になったが、俺の声を聴いておずおずと頭を上げたキャシーとエマは辺りの惨状に絶句した。
「さて、これで30階層のボス攻略は終わりましたね。お疲れ様でした」
「「お、お疲れ様でした・・・」」
その後も呆然としているキャシーとエマを余所にさっさと先へと進み、31階層へと足を運んだ。