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第108話 酒場で料理

 さて、鶏肉を手に入れたので唐揚げを作ろうと思う。


 一応今持っている材料としては鶏肉、小麦粉、大蒜(にんにく)、塩、食用油、本当は日本酒が欲しいところだがワインで代用するか。

 それ以外で欲しい食材としては卵だ。

 これは必須だろう。


 後は・・・できれば胡椒、生姜、片栗粉、芥子かな。

 まぁ、胡椒は売って無いだろうから代用できる辛味調味料ってところか。


 これらを売っている場所を考えるか・・・


 まず卵だが・・・どこで売ってるんだろう?

 ・・・肉屋か?

 そう思ってお姉ぇ店主の店に戻って聞いてみたが売ってなかった。

 なんでも『肉屋じゃ扱わないわ。卵なら薬屋にでも行ってみたら?』と言われたので薬屋の場所を聞いておいた。


 次に胡椒だが、これは高級調味料として存在し、貴族や大商人位しか持っていないらしい。

 と言う事で一般的には売られていないらしいので庶民の口には・・・まず無理だろう。


 そして生姜。これは食材として売っている可能性がある。

 野菜を売っていたおばちゃんの所に行けばあるかもしれない。

 もし無くても生姜は生薬として使われる事もあったから薬屋で手に入るかもな。


 片栗粉はジャガイモから作られるが、この世界に製造方法が存在しているかってところから調べる必要があるかもな。

 作り方はネットで調べると意外に簡単そうだったが、すぐに作れるものでもないので無ければ今回は諦めよう。


 最後に芥子だが・・・これはカラシナの種を粉にしたものだ。

 葉は食用にもなるからもしかしたら栽培されているかもな。野菜のおばちゃんに聞いてみよう。


 ふむ、結論として薬屋と野菜売りのおばちゃんの所に行けば有無がわかりそうだな。


 お姉ぇ店主に聞いた薬屋の方が近いからそっちから行ってみるか。

 そうして俺は薬屋に足を向けた。









 数分後、俺はなんとも言えない匂いのする店の前に来ていた。

 店に入る前からかなりキツイ匂いがする。

 甘い匂い、鼻にツンと来る匂いに青臭い匂い。

 それ以外の匂いも混ざり合っていて気持ち悪くなりそうだ。


 躊躇しそうになる気持ちを抑えて店の扉を開ける。

 そして一歩踏み込み中を覗くと薄暗い店内を幾つかのランプが照らしていた。

 そして色々な薬草なのだろう干乾びた草が店内に並んでいたり、色々な薬瓶だろう瓶も整然と並んでいた。


 その中に吊るされたとある植物に俺の眼は釘付けにされた。


 その植物は茎は鮮やかな緑で実は真っ赤に熟しており、ヒョロ長く動物の爪を想起させるフォルムを持っていた。


「鷹の爪やんけ!?」


 思わずどこの方言とも形容しがたい方言が飛び出した。


「え?!何ぃ~?」


 でっかい独り言を零したつもりが返事があった。

 いや、店屋の中だから店員がいてもおかしくないか。


「あ・・・えーっと、すいません。

 ちょっと思い掛けないものを見付けてしまい大声を出してしまいました」


 そう言って謝ると店員さんも納得したのか「そうですか~、それは良かった?でいいのかな、まぁいいか。良かったですね~」とどこか眠そうに間延びするような声で言われ、店員さんはカウンターにグデッと身体を前に倒した。

 ・・・やる気のない店員さんのようだ。


 俺は念のため「鑑定」スキルで確認する。





----------------------------------------

名前 :レッドタスク

効能 :地球では唐辛子、鷹の爪、レッドペッパー等と呼ばれている。

   :夏バテ防止の薬として使われたり防虫剤として利用される。

   :非常に辛く、薬としては少量ずつ飲むのが一般的。

   :

   :





 ・・・思い掛けない物を見付けてしまったが、これは使える。

 購入リストに追加だな。


 さて、それでは本命を聞いてみますか。

 俺はカウンターの前に立ち、未だにカウンターに上半身を投げ出している20歳(はたち)位のお姉さんに声を掛ける。


「すいません! 少しお聞きしたい事があるんですが、よろしいでしょうか?」


 少し遅れて反応があり、お姉さんは俺の方を見上げると返事をする。


「・・・はい?なんでしょう?」


「今探している物がありまして、こちらで扱っているかお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」


「えぇ、どうぞ」


「えーっとですね、鶏の卵って言えばいいんですかね、食用の鳥の卵を探しているんですが、ありますか?」


「ありますよ~」


「おぉ、それは僥倖、あと他にも生姜と芥子に胡椒ってあります?」


「ジージャならありますよ~。

 あとカラシ?はわからないですねぇ~。

 それと胡椒はありませんよ~?

 胡椒が欲しいなら貴族御用達の大商会にでも行かないと売ってませんよ~

 まぁ、大商会に行っても売って貰えないですけどねぇ~」


 ジージャ?ショウガの事かな?

 うーん。俺の言葉が自動翻訳されてるようだな。

 異世界(こっち)での固有名称は俺に翻訳されずにそのまま聞こえるって事か?

 あんまり深く考えてなかったけど・・・まぁどうでもいいか。

 しかし、胡椒は翻訳されていないって事はこっちも同じ名称なんだな・・・


「やっぱり胡椒は無いんですね。

 あとは芥子・・・あーっと、こっちではなんて言えば良いんですかね?

 マスタード・・・と言っても通じ無いかな?」


「マスタード?すいません。ちょっと聞いた事ないですね」


 ふむ、やっぱりわからないようだ。

 うーん、芥子はまだ作られてないんだよな?

 となると原材料を手に入れられればいいんだよな。


 そこで俺はスマホを取り出し、芥子について検索する。

 お、あった。なるほどね。

 カラシナって植物の種が原材料か。

 それにカラシナ自体が野菜として食べられているのか。

 それならカラシナで通じるかもな。


「すいません。それならカラシナと言う植物はありますか?」


「タカナンね。それなら八百屋に行けば多分売ってますよ~

 薬の材料じゃないから家では扱ってませ~ん。

 申し訳ありませんねぇ~」


 なるほど、


「どうもありがとうございます。

 それで、卵と生姜とあと・・・あそこに吊るされてるレッドタスクを買いたいんですけど、どれ位あります?」


「えーっと、卵は・・・」



 そんな感じで卵、生姜、唐辛子を手に入れることが出来た。

 因みに唐辛子はすり潰して粉にしたものもあったのでそれと原型のままの唐辛子の両方を買った。


 その後、ジャガイモを売ってくれたおばちゃんの所に行く例の酒場の店主(マスター)がジャガイモを大量に買ってくれたそうでその事を感謝された。

 そして俺もまたジャガイモを大量に買い付け、序でにカラシナの事を聞いてみると売っていた。

 なのでカラシナの種を売って貰えるよう交渉すると明日5キロ程持って来てくれることになった。


 何に使うか聞かれたがちょっとした実験に使うと言う事で詳しい話は誤魔化した。

 まぁ、間違ってはいないだろう。料理と言う名の実験に使うのだから・・・


 そんな感じで材料も揃ったし、後は調理するだけとなった。

 もちろん行く先は例の酒場だ。












「マスター!厨房貸してください!」


 俺は『Close』と書かれた木板を無視して例の酒場の扉を開けた。


「ラクタローさん?!」


 驚いた顔で返事を返したのはレーネさんだった。


「あれ?マスターは居ませんか?

 厨房をお借りしたいのですが?」


「マスターなら奥にいますよ。

 ちょっと聞いてきますね」


「お願いします」


 そう言うとレーネさんは奥へと行き、厨房の使用許可を貰って来てくれた。

 これで調理場所は確保!


 早速調理へと取りかかる事にした。



 まずはコカトリスのデカイ肉塊を一口大のサイズに切り分ける。

 切り分けた肉は3つのボールに分ける。


 次に3つのボールに塩を振り揉み込んだ後5分程時間を置く。

 揉み心地は鶏肉らしいムニムニとした感触で少し安心した。


 その間に新たに買い付けたジャガイモを水洗いし、芽をくり抜いて行く。

 大分減って来ていたのでフライドポテトも新たに作る事にしたのだ。


 そうしてジャガイモを蒸すと次に生姜を取り出し、皮をむいて摩り下ろそうとしておろし金がない事に気付く。


 ・・・みじん切りにしてすり潰すか。

 ショウガを包丁で適当に切り刻み当たり鉢に放り込んで粗くすり潰す。


 そして頃合を見てボールを確認すると余分な水分が抜けて心なしかお肉がぷりぷりしている気がする。

 良い感じだ。そう思いつつ水を切り改めて肉に塩を振る。


 そしてすり潰したショウガとワインをそれぞれのボールに入れて1つ目のボールのお肉を揉むと水が抜ける前より少し弾力が上がった気がした。

 この感じならコカトリスのお肉は美味しい唐揚げになりそうだ。


 そう期待しつつ俺は次に大蒜(にんにく)をみじん切りにして2つ目と3つ目のボールに放り込む。

 そして2つ目のボールの中身を揉む。


 そして最後の3つ目のボールはちょっとピリ辛にする為、唐辛子を入れようとしてふと視線を感じた。

 俺は素早く厨房の入り口に視線を向けるとレーネさんを筆頭に従業員の方々が数名こちらを見ていた。



 ・・・



 うん。


 見てるだけだよね?


 ・・・チラッ


 駄目だ。


 奴等の眼は獲物を狙う狩人(ハンター)の眼だ。



 前回は試食と言う名の布教をした結果、フライドポテト狂信者(ゾンビ)集団を作ってしまった。


 今回は前回と同じ轍を踏む訳にはいかない。

 流石に食材が高級すぎるからな。


 ・・・


 ふーむ。


 仕方ない、罠を張るか。


 俺は3つ目のボールを更に2つに分け、1つには軽く唐辛子を振り、もう1つには唐辛子を・・・多目に振った。

 いわゆる激辛って奴だな♪


 そうしてお肉を揉み込み、味が染み込む間に俺は蒸し上がったジャガイモを揚げる作業に移る。


 フライパンに油を敷いて温め、蒸し上がったジャガイモを入れるとジュワァ~っと言う良い音を立て、暫らくするとパチパチと言う音に変わる。

 フライドポテトを引っ繰り返し、きつね色に変わったところで引き上げる。


 うむ、こっちもポテトの良い匂いがする。

 ボールに引き上げたフライドポテトに塩を軽く振って(まぶ)すと無造作に1つ取出し味見をする。

 口に入れるとカリッと言う音がするほど外側はカリカリに仕上がっているが、中はほくほくでジャガイモ特有の甘さと塩味が絶妙の美味さを醸し出している。

 うむ、良い仕上がりだ。


 そうして次々とポテトを揚げ続け、揚がったものは片っ端から『無限収納』へと放り込んだ。


 その間も(ゾンビ)共は入れ代わり立ち代わり見張りの眼を光らせていた。


 そうしてジットリとした視線を浴びつつ今度は卵をボールに落として素早く溶く。


 な、なんか見られていると意識すると緊張するな。

 そんな事を思いつつ、卵を溶き終えると多目の小麦粉をボールに入れて衣を付ける準備をする。


 さて、塩味大蒜無しのお肉から行こう。

 ボールからお肉を取り出すと布巾で包み、軽く押して水気を切る。

 そして溶き卵に放り込み、万遍なく卵を塗し、次に小麦粉を塗す。


 この作業を只管繰り返し、揚げる準備を整える。

 そうして次々とボールのお肉を小麦粉塗れにすると最後に激辛仕様のボールのお肉に小麦粉・・・を塗す前に小麦粉にも唐辛子を混ぜ込む。

 そうして衣を付けると、最初に激辛仕様のお肉から揚げる事にした。


 冷めた油を温め直し、軽く衣を落として適温であることを確認。

 スッとお肉を投入する。


 ジュワァァァ~と言う音と共に油が弾け、お肉が沈む。

 俺は次々とお肉を投入し暫し待つ。


 お肉の表面がきつね色に変化して来るとフワァッとお肉が浮き始める。

 俺は浮いて来たお肉を引っ繰り返す。

 そうして次々と浮いて来るお肉を引っ繰り返し、待つ事暫し。

 何となく頃合だ!と言う感じがしたのでサッとお肉を引き上げる。


 心なしか少し赤味が強い気がするが、唐揚げが完成した。

 フフフ、完璧だ。


 香りも香ばしくとても美味しそうにできた。

 試食をする・・・のは危険だな。


 俺はチラッと入口の方に目をやると、やはりゾンビ共が目を光らせてこちらを監視している。

 よし、行くぞ。

 俺は覚悟を決める。


「はぁ、ようやく出来た。

 後は試食だけど、先にトイレ行ってくるか」


 俺はそう独り言を零し、厨房からトイレへと向かう・・・振りをする。


 厨房から出た直後位までは監視の目が厳しかったが廊下を曲がると途端に視線のプレッシャーから解放される。


 そして周りに誰もいないことを確認すると俺は「隠密1」を発動し厨房へと戻る。


 そこではゾンビ5匹の話し声が聞こえてくる。


「ねぇ、これ。すごくおいしそうな匂いがするんだけど?」


「え、えぇ、そうね」


「ちょっと摘まんじゃおうか?」


「だ、ダメですよ。これはラクタローさんの新作なんですから・・・うぅぅ」


「そう言っててもレーネも食べたいんでしょ?

 みんなもどうなの?」


「「それは食べたいですけど・・・前みたいに試食させて貰うのはだめですか?」」


「多分試食はさせて貰えないと思うわよ?」


「え?どうしてです?」


「だってこれ、お肉でしょ?

 イモと違って高いもの、きっと無理よ」


「そ、そうよね」


「ラクタローさんって優しいから後で謝れば許してくれるわよ」


「「「そ、それもそうかも・・・」」」


「だ、ダメですよぉ!」


 お、レーネさんは他のゾンビ4人に駄目出ししている。


「じゃぁ、レーネは食べなきゃいいじゃない。

 私達だけで試食しちゃいましょう♪」


「うぅぅぅ、わ、私は・・・やめておきます」


 そう言ってレーネさんは厨房を後にした。

 おぉ、ゾンビ化が解けた。


 しかし残りのゾンビ3人は試食に賛成のようだ。

 ゾンビ4人は既に手遅れのようだな。


 そうして俺はゾンビ共が激辛唐揚げを頬張る瞬間を見届け、彼女達の絶叫を満面の笑みを浮かべて聞くことが出来た。


 そして悶絶して地面に転がるゾンビ共の姿を心行くまで堪能すると、厨房から出て「隠密1」を解除して何食わぬ顔をして厨房に戻る。


「おや、どうしました皆さん?

 何かありましたか?」


「「「?!」」」


「ち、ちぐぁうぁうぐぅぐあぁぁぁぁ!」


「ご、ごべんばざぁぁぁぁぁぎぃぁぁぁ!」


 声にならない声を上げる彼女達に親切そうに水を渡して落ち着かせると、一言伝える。


「美味しかったですか? 激辛仕様のお仕置き唐揚げの味は?」


 俺はニンマリとドヤ顔で彼女達を見詰めた。




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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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