第8話 楽太郎、買い物へ行く
中々話が進みませんね。
すいません。
このままお付き合い頂ければ幸いです。
宿屋で一晩過ごすと、頭はスッキリしたが、自分の体臭が少し気になった。
自分の服装を確認すると、靴はトレッキングシューズで、岩場でも問題なく歩ける。
まぁ、買った時はデザインで選んだらトレッキングシューズだったんだけど。
ズボンは穿き古したジーンズ。上着は半袖のカットソーにシャツとジャケット。
普段着のままだ。
あ、シャツにちょっと血が付いてる・・・なんてこった。
うーん、そう言えば着替えもなかったな。
仕方ない、店屋で買うか。
そう考えながら宿屋の裏庭に出て、朝の柔軟体操を始める。
入念に体を伸ばしていると、リンスさんが挨拶してきた。
「おはようございます。ラクタローさん! 昨日はよく眠れましたか?」
両手に大きな水瓶を持っている。
「えぇ、お蔭様で、ほっ、よっと、良く眠れましたよ。久しぶりにね」
俺はそう返答を返しつつ前屈する。
「先程から何をやられてるんですか?」
「柔軟体操ですよ。これを毎日やらないと体が硬くなってしまうんですよ」
「そうなんですか、でも体が柔らかいと何か良いことあるんですか?」
「体が柔らかいと怪我をし難くなるんですよ。それに基礎代謝が上がって血行も良くなるんですよ」
「基礎代謝? 血行? どういう事です?」
あ、そか、こっちじゃまだ知られてないんだっけ。現代知識とのズレだな。こりゃ。
「えーっと、血の巡りがよくなるんですよ。そうなると、疲労回復が早くなったり、肩凝りや腰痛も緩和されたり改善されたりするんですよ」
「へぇー、そうなんですか。私もやろうかしら。最近肩凝りが酷くて・・・」
「それなら、簡単な体操を教えましょうか?」
「良いんですか?」
「えぇ、良いですよ」
と俺はニッコリ笑いかける。
「それじゃお願いします。ラクタローさん」
リンスさんも笑顔で応じ、水瓶を地面に置いた。
「それじゃ、俺のまねをしてください」
「はーい」
返事を待ってから俺は自分の右腕を真っ直ぐ上に伸ばした後、肘を曲げ、自分の背中側に回す。
リンスさんも同じように腕を回す。
その後俺は左手で右肘を持ち、後ろ側へ軽く引っ張る。
それを見たリンスさんも左手で右肘を掴むが、それだけだ。どうやら引っ張ってるのが分からないらしい。
「リンスさん、そのままの体勢でいてくださいね」
そう言って俺はリンスさんの後ろに回ると、リンスさんの右肘を持ってるリンスさんの左手に手を添えて軽く後ろ側に引っ張る。
「え? ちょっ、い、痛あぁぁぁぁー!」
俺は慌てて手を放す。
軽く伸ばしただけなんだが、すごい悲鳴だったな。
「すいませんリンスさん、加減したつもりなんですが、大分肩が固まってますね」
「あ、あれで加減してるって、ホントですか?私は思いっきり引っ張られたと思ったんですけど・・・」
うーん、ステータスが高いせいかな? ホントに軽く引っ張っただけなんだが・・・
「すいません。 ま、まぁ、柔軟体操は最初の内は多少痛いんですが、自分でやる時は調節して少しずつ筋を伸ばしてください」
涙目のリンスさんに謝罪すると、俺は肩周りの柔軟体操を幾つか教え、機嫌を直したリンスさんと一緒に水瓶を片手に抱えて食堂に向かった。
食堂にはラディッツ氏が朝食の準備を進めていた。
「おはようございます」
「おう! 早いなラクタロー! 早速朝飯喰ってくか?」
元気な大声でラディッツ氏が笑いかけてくる。
迫力あるなー、子供が見たら泣きそうだよ・・・ホント。
俺は水瓶をラディッツ氏の前に置き、
「それじゃ、よろしくお願いします」
そう言って食堂のカウンターに座る。
「おう!まかしとけ! リンス!瓶の水、いつものとこに入れといてくれ!」
そう言って猛然と朝食を作り始めるラディッツ氏。 良いねぇ、朝から肉焼いてくれるとは。ジュウジュウと美味しそうな匂いが流れてくる。
「了解よ、お父さん!」
そう言って水を移すと、リンスさんは食堂から出て行ってしまった。
朝だから洗濯とか色々あるのだろう。
ラディッツ氏の作業を見ながら、そう言えば服屋どこあるんだっけ?と思い聞いてみる。
「ラディッツさん。そう言えば、この町で服を買いたいんですが、どこか良い所ないですかね? 着心地の良い服が置いてある所がいいんですけど。あと、値段は金貨1枚くらいで一式揃えたいんですけど」
「仕立ての良い服なら貴族街の方だな、 お前冒険者だろ。丈夫な服にしとけ、それなら店の右3軒先で売ってる。値段も手頃だぞ」
「そう言われればそうですね。それじゃ三軒先の店で買った方が良さそうですね」
「おう!そうしとけ、俺の紹介って言えば多少安くしてくれるぜ!」
そう言って朝食を俺の前に置いてくれる。
朝食はジャーマンポテトっぽいのとサイコロステーキっぽいのにサラダとスープだ。
「おう!ありがとう。美味そうだ。 早速頂きまーす!」
「おう!」がうつっちまった。ま、いいか。そう思いながら朝食に集中する。
美味しいんだけど、みんな塩味テイストなんだよね。この世界、他の調味料があまり無いのかな?
その事もこれから何とかしないとな、食生活の向上・改善 ・・・ やることが多いな、ホントに・・・
そんなこんなを考えながら食事を終える。
俺はラディッツ氏にお礼を言って席を立つ。
食堂を出るとリンスさんが丁度宿屋のカウンターに居たので、インディへの餌やりをお願いし、俺は服屋へ足を向けた。
ラディッツ氏に言われた通りに右3軒先に行くと、看板に『サンチョの冒険』と書いてあった。
そこはかとなく、嫌な予感がする・・・
店の前で数秒固まっていたが、ま、入ってみないとわからんよね?と思い、扉を開く。
カランコロンとベルが鳴り、店員さんの声が響く。
「いらっしゃいませ。『サンチョの冒険』へようこそ」
そう言って丁寧に挨拶をしたのは、鼻の下にチョロッと髭を生やした20代半ばの青年だった。
俺はあまり派手でなければ服装に拘りはないので、店員さんに全部お任せしよう。
「すいません。冒険者が着るような丈夫な服一式お願いします」
「はい?一式とは?」
チョビ髭青年から質問が飛んできた。 一式って言わないのか?
「上着とかズボンとかの服装全体のコーディネートをお願いしたいんですよ。できれば下着込みで」
「そう言うことですか、わかりました。では少々採寸をさせて頂きますね」
そう言ってチョビ髭青年は俺の肩幅や胴回り、股下等、その他色々と採寸してメモを羊皮紙に書き付けて行った。
「お客様のサイズですと、このあたりでしょうか」
そう言って無難なチュニックみたいな服や簡素なズボン・ベルト・パンツ等を幾つか出して来てくれたんだが・・・
それに混じって何かグルジア辺りの民族衣装っぽい服も何点か紛れ込んでいた。
俺は当然無難な服装のみを選んで4~5着購入する予定だったんだが、チョビ髭青年に頻りに民族衣装っぽい服を勧められ、断り切れずにそれらも一式買う羽目になってしまった。
断り下手な日本人気質が災いした形だ・・・
「お代は締めて金貨1枚と大銀貨2枚です」
そう言われ、俺は金貨2枚を出すと、お釣りを貰い店を出た。
両手一杯に持った荷物は店を出る瞬間「無限収納」に仕舞い込んだ。どこで盗難に遭うかわからんからな。 外国旅行時と同じ様に警戒は必要だろう。
「無限収納」様様だな。
服屋を後にした俺は宿屋に戻り、インディを連れ出すと、早速冒険者ギルドへ向かうことにした。
今日は稼ぐぞー!