表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/199

第107話 一休み一休み

 さて、地獄の荒行を3日程続けたところで冒険者達の目が大分死んで来た。


 まぁ、一瞬の油断が死を招く極限状態を休憩を挟むとは言え3日続ければ幾らリフレッシュでその場凌ぎのテンションアップをしても限界は来るだろう。

 実戦訓練後に「俺 対 冒険者全員(・   ・・・・・)」での2時間程の組手は原因として考え(にく)いしな。

 だって死ぬ危険はないし、怪我をしたり動けなくなっても『ヒール』と『リフレッシュ』で全快させて組手を続行させてただけなんだから。


 心なし実戦訓練より俺との組手の方に真剣味が増している気もするが俺の技を盗もうと努力しているのだろう。


 修業の効率を考えるとそろそろ休みが必要か。


「えー、皆さん。私としては不本意ではありますが明日はお休みとします。

 心と体をリフレッシュさせてください。

 次回は2日後ですので間違えないようにして下さい」


 そう言って俺は解散を告げる。

 俺が『リフレッシュ』と言葉に出すと数人が身構えたり、若干1名が恍惚の表情を浮かべたが敢えて無視した。


「それでは解散です」


 そう言うと全員から満面の笑みで「ありがとうございました!」と言う声が返ってきた。


 まぁ、飲んだり遊んだりすれば気分転換になるだろうから明日は命の洗濯をして来れば良い。

 そう考え、ふと思う。

 そう言えば、こいつ等修行してばかりでお金稼げてなかったよな?

 今回受けた依頼も違約金とか掛かるんじゃ・・・


 そう考え、ブラック=カンパニーとしてその辺フォローし忘れた事に内心冷や汗が出る。

 ど、どうしよう?

 ちょっと聞いてみるか。


「おっと、すみません。ちょっと思い出したので1つお聞きしたいんですが、よろしいですか?」


「「「はい?」」」


「そのぉ、兄弟子からの手紙にあなた方は元々ここの悪魔のダンジョンの攻略に参加される予定だったとありました。

 もしその依頼をキャンセルされたのでしたら、お金の方は大丈夫でしょうか?

 違約金等の支払い等で困っていたりはしていないでしょうか?」


 俺がそう聞くと冒険者達がお互いの視線を交わし、代表して6番が答える。


「えーと、ですね。一応今回の依頼なんですが、悪魔のダンジョンの攻略に失敗に対しては違約金はありません。

 違約金が発生するのは挑戦しなかった場合なんですが、我々の場合はこの貴族屋敷に入る事で挑戦はしていると見做されるので違約金の支払いはありません。

 ただ、我々も修行の日々で金銭を稼ぐことが出来ていない事も事実でして・・・まぁ、『宵越しの金を持たない』と言った主義の馬鹿も多いもので・・・」


 と最後は言葉を濁したが金銭的な余裕は無さそうな感じなのかな?

 まぁ、いつ死んでもおかしくない冒険者なんてものになっているんだから日々を楽しむためにお金を惜しむ様な事はあまりしないのかもしれない。

 そう言う職業柄なのかもな。


「ふむ、明日は心と体のリフレッシュを掲げた以上は仕方ないか。

 皆さん、受け取りなさい」


 俺はそう言うと「無限収納」から金貨を10枚取り出してそれぞれに1枚ずつ投げつける。


「それで明日は楽しんできなさい。

 但し、問題は起こさない様にお願いしますね」


 俺はそう言うと引き留めようとする声や歓喜の声を無視してその場を離れた。


 俺も明日はゆっくり休もう。







 翌日、俺は日課の柔軟体操や型の練習を終えると宿の親父に肉屋の場所を聞きそちらへと向かう。

 因みにこの街の肉屋は3軒あるそうだ。


 何故肉屋に向かうのかと言うと、俺の貴族屋敷(いえ)はダンジョンではない。

 なので倒したミノタウロスの死体は残るのだ。


 つまり倒したミノタウロスは「無限収納」に収納してある。

 そしてミノタウロスは食材として食べる事が可能と言う事も冒険者達やボコポから聞いている。

 食べられると言うよりとても美味しいと言う事だが、ほとんどの人が食べた事が無く、超高級食材とされているらしい。


 確かにレベル80オーバーじゃ手に入れる事自体相当難しいのだろう。

 俺の「無限収納」には既に100体以上あるけどな・・・


 そんな事を考えていると1軒目に到着した。

 扉を開けるとシンプルなカウンターがあり、テーブルが1つに椅子が2脚あったが、店の人は誰もいなかった。


「すいませーん、誰かいませんか?」


 そう声を掛けると店の奥から声が返ってくる。


「はいはーい!少々お待ちくださーい」


 そう声が聞こえると同時にバタバタと足音が近付いて来る。


 そして出てきたのは細身のコックコートを纏ったヒョロッとしたチョビ髭のオッサンだった。


「あら、初めてのお客さん?」


「あ、はい」


「いらっしゃーい♪」


 そう言って諸手を上げて歓迎された。・・・な、なんかお姉ぇっぽいんだけど。

 思ったのと大分違う人物が出て来たので少し驚いたが、用件は変わらない。


「すみません。この店に来たのは初めてなんですが、少しお聞きしたい事がありまして」


「何かしら?」


 小首を傾げる仕草が実にお姉ぇっぽい。

 蟀谷(こめかみ)に人差し指を当てるのを止めて欲しい。


「・・・えーっと、ですね、実は魔物の解体をお願いしたいんですが、出来ますか?」


 そう聞くとオッサンの表情が申し訳なさそうに変わる。


「ごめんなさいね。うちじゃそう言うのはやらないのよ。

 魔物の解体なら冒険者ギルドに行くのが一番手っ取り早いわよ?」


 ぐぅ、「そこに行きたくないからこっち来てるんですよ」とは言えない。


「そうですか、それなら他の所を当たります。

 ありがとうございました」


「あら、他の所って、他の所でも断られると思うわよ?」


「え?どうしてです?」


 オッサンの言葉に思わず質問してしまう。


「だって、この街の肉屋は魔物の解体が出来ないのよ」


 衝撃の事実に驚いた俺はオッサンに説明を求めた。


 その結果、解体できない原因はこの街の特徴に在った。


 そもそもこの街は神のダンジョンが出来て以降、冒険者達はダンジョン目当てで訪れる者が殆んどだ。

 この街のダンジョンは基本的に鉱石がメインで食肉は出ない。


 そして街の外に関する魔物の駆除等はあるがゴブリンや虫等の低級の魔物が殆んどで食肉に向いた魔物は滅多に出現しない。


 だからこの街に入ってくる食肉の殆んどは余所の街からの輸入品なのだが、輸送コストを考えても解体前の状態で持って来る訳がない。

 その為この街に入ってくる食肉は既に加工済みなのでこの街の肉屋は魔物を解体する必要が無い。

 と言う事だった。


 ・・・使えねぇ。

 俺はガッカリして肩を落とすと礼を言って帰ろうとする踵を返す。


「あら、これだけ話したんだから何か買って行ってちょうだいよ」


 そう言われ、それもそうだなと思い直す。

 情報だけ貰って何も買わずに帰るのは失礼だろう。

 ショックで失念していた。


「申し訳ありません。忘れていました」


「わかって貰えたならいいのよぉ、それで何にする?」


「そうですね、どんなお肉があるんですか?」


「そうね、お手頃なところで行くとマトン、ヴェンスンにボアかラビット辺りかしら・・・

 ちょっとお高いお肉だとオークかレッドボア。

 珍しいのだとアクアピッグってところかしら」


 うーむ羊肉でジンギスカン、ボアかレッドボアで(しし)鍋。

 うーん。今一ピンとこない。それにどっちも醤油が欲しい。

 どうしたものかと悩んでいるとお姉ぇ店主が思い出したように付け加える。


「後は・・・本日の目玉商品!コカトリスのお肉もあるわよ!

 とぉってもお高いけどね!」


 コカトリスって、石化光線出す鳥の化け物か? となると鶏肉かな?

 まぁ、見せて貰った方が早いだろう。


「すいません。コカトリスのお肉を見た事ないので見せて貰っても良いですか?」


「えぇ、良いわよ。ちょっと待ってて」


 そう言うとお姉ぇ店主が店の奥に消えると暫らくして両手にコカトリスの肉を抱えて戻ってくる。


「これよぉ」


 自慢するように見せてくれた。

 切り取った一部だろうが、持ってきた肉だけで普通の鶏3匹位の重さがありそうだ。

 大きさに驚かされたが見た目はやはり鶏肉だ。

 張りがある艶々とした薄いピンク色をしており、とても綺麗だ。


「触っても良いですか?」


「えぇ~と、まぁ良いわ」


 少し考えるような素振りを見せたが許可が下りた。


 軽く触れて弾力を確かめると結構しっかりした触り心地でゴムのように指を押し返してくる。

 残念ながら皮はついていないがこれなら大丈夫だろう。


「良い肉ですね。因みにこれはどこの部位です?」


「モモ肉よぉ。他にはムネ肉と砂肝が少しあるわよ?」


 ふむ、これは唐揚げにするしかないな。


 カラッと揚げた唐揚げを口に放り込む。

 するとジュワァ~っと肉汁が口内に広がり得も言われぬ旨味が駆け巡る。

 あぁ、いかん。想像しただけで旨そうだ。


「決めました。コカトリスの肉をください。

 ムネ肉とモモ肉を10kgに砂肝はあるだけお願いします」


「えーっと、高いわよ?」


「お幾らですか?」


「ムネ肉とモモ肉はkg単価で金貨1枚と大銀貨2枚ね。

 砂肝はもう少し高くてkg単価金貨1枚と大銀貨5枚よ。

 お客さんが行った量だと・・・全部で大金貨2枚と金貨7枚よ?」


 心配そうにお姉ぇ店主が見てくる。

 ちょっと頭大丈夫?みたいなニュアンスが含まれていてちょっとムカつく。


「ふむ、砂肝は2kgですか」


「あら、計算速いのね。そうよ」


「ではそれでお願いします」


「え?」


 俺は「無限収納」から大金貨3枚を取り出して渡すとお姉ぇ店主は驚く。


「お客さん。若いのにお金持ちなのねぇ~」


「まぁ、色々ありましたから」


「そうなの、その色々っての、聞いてみたいけどまた今度にしておくわね。

 それじゃ早速お肉取って来るからちょっと待っててちょうだいね」


 そう言って店の奥に戻って行くと両手に包みを抱えて戻ってくる。

 そして包みをカウンターに乗せるともう一度奥へ戻り今度は小さめの包みを持って来る。


「お待たせ♪

 これがムネ肉で今包んだのがモモ肉ね。

 そしてこっちの小さいのが砂肝よ」


 包みを開いて確認をし、また包み直すと俺はそれらを受け取る。


「はい、ありがとうございます」


「またのご来店お待ちしてるわよ~♪」


 そう言ってホクホク顔のお姉ぇ店主が俺を見送った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


小説家になろう 勝手にランキング
ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ