第104話 奴等が来た
さて、夜中のレベル上げも3日目を迎えるとインディとメルのレベルも100を超えた。
この3日間どういう訳か敵の数は殆んど減る事なく時間経過で追加されて来ていた。
当初は貴族屋敷内の魔物を間引きする事で街への被害が出るリスクを下げる意味も含んでいたのだが、ダンジョンでもないのに再配置されるのでこちらの目論見は少し外された感じだ。
敵の湧きポイントを確認してみたがやはり屋敷から続々と魔物が排出されるので恐らくダンジョンから次々と送られているのだろう。
決してこの貴族屋敷が悪魔のダンジョンに取り込まれた訳ではない!・・・と、思いたい。
話がズレてしまったが、そう言った感じで魔物の数は申し分なかったのでレベル上げに集中していたんだが、そろそろレベルが上がらなくなって来たし、ここまでにするか。
そう決めると俺はインディとメルを伴って屋敷の塀を軽く飛び越え、家路の最中、次はどうするかを考え始めた。
現状はボコポに情報を聞く限りでは焦りを隠せなくなってきたサムソンは王都に悪魔のダンジョン攻略の為の冒険者の追加を打診したらしい。
正直、サムソンが何を考えているのかわからない。
ダンジョン攻略を念頭に置いた場合、下層へのショートカットが出来るかも知れない道が出来たと言うのはメリットと捉えることが出来るだろう。
しかし、街の住民からしたらダンジョン下層の強い魔物が街中に野放しになっている。と言う悪夢でしかないデメリットとしか捉えられないだろう。
一応、国はダンジョン攻略を優先させると言う名目で下層への穴を閉じるのを禁じているが、現状ウェルズの最精鋭である神殿関係者や国が集めた精鋭の冒険者が手も足も出ない魔物が野放しになっているのだ。
普通なら攻略を諦めて穴を塞ぐ事を王に進言するのが筋ではないだろうか?
それなのにサムソンは攻略の為の人員を催促している。
サムソンがどんな立場で何を考えているのか俺には分からない。
それでもサムソンの、いや、この国のお偉いさん達の行動はこの街の住人にとっては害悪でしかないだろう。
俺はボコポにこの街を救うと約束した。
そうなるとサムソン達の排除が今後の課題になるだろう。
うーむ、サムソン達の排除か・・・いや、排除しなくても攻略を諦める方向に持って行けばいいのか?
それなら・・・ふは。
これならイケる!
たぶん大丈夫だ。
俺は思いついた事を実行する為、翌日ボコポの所にある物の作成依頼をした。
ボコポには口外無用の秘密裏に作成して貰えるよう伝え、何に使うかも隠したので「何かヤバい事にでも使うんだろ?」と詮索しようとしてきたが俺は「知らなければ『知らない』で通るが知ってしまったら共犯になってしまいますよ?」と答えるとボコポも黙ったが、1つだけ念を押された。
「街の為に必要なんだよな?」
真剣な表情でそう言われてはこちらも誠意をもって答えるしかない。
「街の為に必要です。まぁ、私の溜飲が下がる副次効果もありますがね」
そう言ってニヤッと笑うと、ボコポも溜め息を吐きつつ了解してくれた。
「わかった。急ぎで作ってやっから、明日取りに来い!」
「よろしくお願いします」
そう言っておれはボコポの工房を後にした。
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翌日、ボコポの工房に向かう途中、見知った男女10人を見掛けた。
ようやく到着か、思ったより時間が掛かったな。
そう思いつつ、声は掛けずに無視してボコポの工房へと足早に向かう。
工房に入りボコポを呼んで貰うとボコポは工房の奥に俺を案内して昨日頼んでおいた物を見せてきた。
「これで良いか?」
そう言うボコポに俺は物を引っ張り、耐久力を確認する。
「えぇ、これなら良さそうですね。
あ、それと近い内に武器作成依頼を出すと思うので、予定を空けておいて貰いたいんですがいいですかね?」
「ラクよ。こう見えても俺はそれなりに腕の立つ鍛冶師なんだぜ?
そうそう専属鍛冶師みてぇな真似は・・」
俺は皆まで言わせず「無限収納」から黒鉄と魔銀を取り出し、ボコポの言葉を遮る。
「こいつで10人分の武具を作って貰えませんか?あと、余ったものはボコポさんへの報酬って事でどうでしょう?」
「・・・お前ぇ、そりゃ、ずりぃぜ・・・そんな事言われたら断れねぇじゃねぇか」
俺はにやりと笑って苦笑いのボコポをやり込めた事に満足した。
ちょうどそんなやり取りをしていると部屋を叩く音がしたので俺は慌ててブツを「無限収納」に仕舞うとボコポが入室の許可を出す。
「入れ!」
「失礼しやっす親方!親方に会いたいってお客人がお見えです」
「誰だ?」
「それが、ブラック=カンパニーとか言う奴からここへ行けって言われたそうでやす」
俺とボコポは顔を見合わせると苦笑した。
例の集団がようやく来たようだ。
「わかった。そいじゃ、ちょいと面ぁ拝んで来るぜ!」
そういってボコポは何かを期待するような顔で出て行った。
・・・少々、ほんの少々、人格を歪めたかもしれないが・・・多分、大丈夫だろう。
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ボコポは工房から店へと顔を出すと声を掛ける。
「おう、待たせたな。俺がボコポだ」
そう言うと冒険者風の風体をしている者達を眺める。
1人は前に出ているが、他の9人は横一列になって整列している。そしてどの顔も精悍そうな顔付きだ。
そしてその中に1人、見知った顔をボコポは見付けたが、敢えて気付かないフリをした。
「この度はお目通り下さりありがとうございます。
私は今は6番と名乗っておる者です」
「うん?6番?」
「はい、そうです」
「変わった名前だな・・・」
「恐縮です」
「まぁいい、それで俺に何の用なんでぃ?」
ボコポは空っ惚けてそう質問すると、6番が答える。
「はい、実は『ラクタロー』と言う人物を探しておりまして、街でお聞きしたところ職人ギルドのギルド長殿と一緒にいる所をよく見かけるとお聞きしました。
よろしければご紹介願えないでしょうか?」
そう言って深々と頭を下げる6番に合わせるように残りの9人も頭をさげる。
およそ冒険者らしくない規則正しい動作にボコポは訝しそうな表情を作るが、気を取り直して答える。
「ふむ、確かに俺にはラクタローって名前の知り合いがいるが、お前さん達の事は知らねぇ。
知らねぇ奴を紹介して何かあったら俺の責任にもなるんでな、悪いが他をあたってくれねぇか?」
「そこを何とかお願いしたい」
そう言って頭を下げる6番。
「ふむ、悪い奴等じゃなさそうだが、どんな用があるんでぇ?」
「実は我らの師からラクタロー様宛に手紙を預かっております。それと我々には『指示を仰ぐように』とも言付かっておりまして、ご紹介頂けないのであればせめてこの手紙だけでもお渡し願えないでしょうか?1番!」
6番がそう言うと後ろから男が1人前に出てきてボコポに手紙を差し出す。
「まぁ、それ位なら構わねぇぜ」
そう言ってボコポが手紙を受け取ると6番を始めとした10人が同時に「ありがとうございます」と大きな声で返答したのでボコポは一瞬呆気に取られてしまった。
「あ、あぁ、使いを出すから隣の部屋で待っててくれねぇか?
まぁ、他に用事でもあるんなら明日辺りにでもまた来てくれれば問題ねぇけどよ。どうする?」
「お気遣い感謝します。それではお言葉に甘えて待たせて頂きます」
「おう、わかったぜ」
そう言ってボコポは隣の部屋へと6番達を案内し、中へ入って行く彼らの中の1人を呼び止める。
「お前ぇさん。ひょっとしてウェイガン神殿のノインじゃねぇか?」
「お久しぶりですボコポさん。以前は確かにそう名乗っておりましたが、今は『8番』と呼ばれています。今後は『8番』とお気軽にお呼びください」
そう言って微笑むと8番は部屋の中へと入って行った。
「・・・8番って言われてもなぁ」
全員が部屋に入った後、廊下に取り残されたボコポは困ったような表情を浮かべて楽太郎の待つ奥の部屋へと向かった。。
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「おい、ラク!お前ぇ、一体何したんだ?」
ボコポは戻ってくると開口一番そう言って来た。
「何がです?」
「何がですって、あいつ等どっか壊れちまってんだろ?」
「はて、壊した覚えはないんですが?
「自分の事を番号で呼べって言ってんだぜ?
完全に壊れてんだろ?」
「あぁ、それはまだ未熟だからですよ」
「はぁ?どういうことだ?」
「例えば、ボコポさんだと武器を作った時に銘を入れませんか?」
「そりゃ入れるぜ、俺の作品だってわかる様にな」
「では未熟な弟子が銘を入れますか?」
「いや、入れさせねぇ。鈍しか作れねぇ頃から銘なんて入れてたら後々恥になっちまうからな」
「それと同じですよ。私の流派ではまず流派を名乗るにも実力を認められなければなりません。
そして一門の弟子を名乗るにもある程度以上の下地が出来て初めて弟子を名乗れるのです。
そして弟子を名乗れない者は己の本名ではなく番号で呼び習わすのが仕来りです」
「だが、あいつ等は別にお前の弟子じゃねぇんだろ?」
「・・・弟子にする訳ではありませんが、我が流派の教えは流布するものではないのです。
一部とは言え技術提供をしているんですから、これ以上技術の流出に繋がらない様に秘匿したいんですよ。
その為の刷り込み作業とでも思ってください」
そう言うと俺は口をとがらせてボコポを黙らせた。
俺としてはあの10人には俺やブラックーカンパニーの事は誰にも話さない様に徹底させるつもりだ。
もし噂でも流されたら面倒な事になるに違いない。
「ま、まぁ、それはわかったが、この後どうする?」
そう言ってボコポは手紙を渡してきた。
ブラック=カンパニーが楽太郎に宛てた手紙をだ。
俺は手紙を受け取りながら答える。
「取り敢えず修行の仕上げをして最後に仕事を与えます」
「仕事?」
「えぇ、この街の勢力では俺の家の監視は出来ても警備は出来ないでしょう?」
「そりゃ、お前ぇ以外に真面にミノタウロスの相手が出来る奴が居ねぇからな」
「なので、警備が出来る程度には鍛えてこの件が収束するまでは警備を仕事として割り振るんですよ」
「それなら神殿の奴等も鍛えてやりゃ良いんじゃねぇか?」
「敵を育ててどうするんです?」
俺がギロリと睨むとボコポは喉を鳴らして一言漏らす。
「・・・そう言う事か」
「そう言う事です」
「お前さんに敵扱いされるってのは恐ろしいな」
「そうですかね?」
「あぁ、おっかねぇぜ」
ボコポは苦笑いしつつ、今後の予定について話し合った。




