第103話 レべリング
「さて、この一週間で貴様等は最低限の心構えとほんの僅かではあるが技術を磨けただろう。
よって次の段階へと進む!」
「「「はい!」」」
俺がここでの訓練の終わりを告げるが、何故か全員神妙な表情を浮かべ、こちらの言葉を真剣に受け止めているようだ。
予定通り・・・だとは思うんだが、なんか怖い。
「が、残念ながら私は忙しいのでな、次の段階はウェルズにいる兄弟弟子に任せる事にする。
これをウェルズの街にいる楽太郎と言う者に渡し、以後その者の指示に従え!」
そう言って1番に手紙を渡す。
ブラック=カンパニーと自分の繋がりをどうしようかと考えたが一番無難な同門の冒険者と言う事にして楽太郎の指揮下に置く事にした。
全員少し驚いた顔をしたがすぐに真顔に戻り「「「はい!」」」と返事をする。
大分訓練が行き届いている様だ。
うん?8番だけなんか絶望したような顔をしている・・・気がするが、気の所為だろう。
こいつ等に関しては実戦でレベルを上げてウェルズの防衛戦力とする予定だ。
それが終わったらまた冒険者として生活して行って貰えば良い。
心配なのはレベルを上げた後、増長して馬鹿をやらないかだが、この一週間で徹底してわからせたつもりだ。
それでも馬鹿をやるならどうしようもない。
見限るだけだ。
「貴様等とは短い時間ではあったが俺が指導したのだ。
今後その力を悪用する様な事があれば俺が直々に性根を叩き直しに行く。
もちろん手遅れと感じれば即刻殺してやるから肝に銘じておけよ?」
そう言って俺は威圧するが、その場にいる者は誰も怯むことなく即答する。
「「「はい!肝に銘じます」」」
「うむ、今回は中々に充実した時間だったぞ。
次に会う時までに貴様等は更に腕が上がっているだろう。それを楽しみにしておく。
ではさらばだ!」
そう言って背を向けて走り去ると、その背中に「「「ありがとうございました!」」」と言う大きな声が聞こえてきた。
その感謝の言葉に俺は少し驚いた。
俺からすれば本当に基礎の基礎である戦いの手解きをした程度にすぎない。
教えを乞うかどうかを選択はさせたが、それは俺の都合で一方的に押し付けたものだ。
普通であれば地獄が終わって清々したと感じるだろう。
それを感謝されるとは思わなかったのだ。
こいつ等、俺よりも人間が出来ているのかもしれない。
そう思うと少し申し訳ない気持ちになったが、また直に楽太郎として接することになるのだ。
その時にもう少し優しく接してみよう。
そう思い、奴等の姿が見えなくなるのを確認すると木々に隠れて鎧を脱ぎ「隠密1」を発動して反転。
ウェルズの街へ全力で疾走した。
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俺はウェルズの街に辿り着くと真っ先にボコポの工房へと向かった。
「いらっしゃい!って、ラクタローの兄貴?!」
「ボコポさんは居るかい?」
「は、はい!少々お待ちを!」
そう言ってドワーフが店の奥へと走り去る。
どうやら店番はボコポの弟子がしていた様だ。
俺はボコポが来るまでに呼吸を落ち着けるように深呼吸を数回繰り返す。
そんな事をしているとドタドタと足音がして、すぐにボコポが顔を見せる。
「ラク!帰って来たか!」
「はい、それで街に変化はありましたか?」
そう聞くとボコポは苦虫を噛み潰した様な顔になり返事をする。
「街そのものには問題は無いんだが、冒険者ギルドがちと暴走してな・・・」
そう言ってボコポは教えてくれた。
俺がウェルズを離れた日から貴族屋敷の警備はキュルケ神殿とウェイガン神殿の神官戦士や神官等が総出で行っていたそうだ。
そして俺がウェルズを離れてから3日後、冒険者ギルドが悪魔のダンジョンの攻略に乗り出してきた。
どうもウェルズを統治している貴族のラグン子爵がサムソンに促されて冒険者ギルドに援助と圧力を仕掛けたようだ。
元々ウェルズを拠点にしている冒険者からしても余所者に悪魔のダンジョンを攻略されたのでは面子が立たないと言う理由もあったようで、そこに多額の報奨金の話が乗っかりウェルズの冒険者達もやる気になった。と、そう言う事らしい。
正直傍迷惑以外の何物でもないがそんな感じで10PT、総勢50人の冒険者が貴族屋敷に向かったそうだ。
そこで警備に当たっていたキュルケ神殿とウェイガン神殿と一悶着あったそうだが、領主貴族のラグン子爵の要請とゴルディ王国第3王女のミーネから攻略の申請と言うか許可があった為、神殿側は通す他なかったそうだ。
俺は「敷地内への立ち入りは禁止だったのでは?」と聞くと、それは許可なく立ち入りを禁じただけで領主やミーネの許可があれば問題ないそうだ。
俺は不快感も顕に「土地の所有者への補償が行われていないのに好き放題やってくれるもんだ」と吐き捨てるように言うとボコポに宥められた。
まぁ、そんな感じで冒険者達の攻略が始まるのだが神殿関係者からも2つの条件が出された。
1つは冒険者達が逃げ帰って来た際、魔物を引き連れていた場合は門を開けないと言うものだ。
簡単に言うと『敵を引き連れて来た者は見殺しにする』と言う条件だった。
そしてもう1つは敵を引き連れておきながら尚も外へ出ようと門や塀を登ろうとしたり、攻撃を加える者は容赦なく攻撃対象とすると言うものだ。
こちらは『身勝手に街を危険に晒す者は殺す』と言う条件だ。
この条件に冒険者側は難色を示したが敷地内の魔物の1匹1匹が神殿関係者よりも格上である事。
街に野放しになった場合の責任問題等、様々な理由を付けられては貴族や王女が後ろに居ても冒険者側は条件を飲むしかなかった。
それに冒険者達はダンジョンを攻略する事を前提にしているのだ。
『逃げ帰る事を前提にした条件が飲めない』なんて、そんな事を言える筈がない。
まぁ、最初の『敷地内の魔物の1匹1匹が神殿関係者よりも格上』と言う説明を受けた冒険者達の反応はモニカやトッチーノ達を小馬鹿にしたような態度だったそうだが、敷地内に入ればそれが間違いだったと気付くだろう。
そう考えてつつ、その後どうなったかをボコポに聞くと、思った通り全滅だったそうだ。
50名中35名が魔物に殺され、10名が魔物を引き連れたまま逃亡を計り門や塀を壊そうとしたので神殿関係者に撃退され敢え無く死亡。
残りの5名は他の冒険者達が虐殺されてる隙に戦場を離れて生還したそうだが、恐怖に震えて暫らくは再起不能との事だ。
まぁ、思った通りと言えば思った通りだが、俺の家で人死にが大量に出ている。
『俺は人が死なない様に努力して行動しているのに・・・それなのに・・・』と貴族やサムソン、ミーネと言った馬鹿共への怒りが込み上げてくる。
正直、知らない冒険者が何人死のうが心は殆んど痛まない。精々アホだな。とか、可哀想に。と言った程度だが、死んだ場所が俺に関わっているのであれば話は別だ。
それも被害を最小に止め様と努力しているのに現実を見ない馬鹿共の所為で俺の土地が穢れた。俺にとっては迷惑以外の何物でもない。
怒りに震えている俺にボコポが更に話を続ける。
その後、更に1週間ほどして王都からの攻略組の冒険者達が現れたそうだ。
俺は驚きはしなかった。
何故なら最初から全員が王都へ戻るとは考えていなかったからだ。
半分くらい戻ってくれればラッキーとしか考えていなかった。
そう言った意味では予想以上に運が良かった。
攻略組の冒険者の数は32人。6PTで、半数以下になっていた。
そして到着翌日、サムソン率いる攻略組は貴族屋敷の前まで来ると攻略に臨もうとしたが、そこで神殿関係者が『待った』をかけた。
1週間前の惨劇を冒険者達に話し、同じ条件を突き付けたのだ。
その結果、攻略に乗り出したのは1PTのみで、それも30分も経たずに逃げ帰って来ただけだったそうだ。
そして現実を知り、ウェルズに来た攻略組はあっさりと途中退場してしまったそうだ。
まぁ、攻略組は俺の洗礼を受けた後だから俺の言った事が事実だった事を確かめただけだろう。
情報を確定させた時点で見栄ではなく命を選んだだけだ。
リタイアした攻略組はそのまま神殿関係者と一緒に貴族屋敷の警備に当たっているそうだ。
それを聞いた俺は攻略組の連中を少し見直した。
俺の考えでは現実を知れば王都に逃げ帰るだろうと思っていたのだ。
思ったより真面な連中だったのかもしれない。
「・・・とまぁ、そんな感じで今日まで来ているんだが、ラグン子爵やサムソンとか言ったあの若造達は思った通りに事態が動かない事に焦っている様だ」
ふむ、となると貴族連中が暴走する可能性もあるか・・・
少々キツイお仕置きが必要だべぇ・・・
「説明ありがとうございます」
「これくらいどうってことねぇぜ。それとお前さんから頼まれた木だが、一応俺の家に植えといたぜ」
「目立ちませんか?」
「俺ん家にも木ぐらい生えてるからな。多少増えても誰も気にしねぇよ」
「それなら良かった」
「おう!」
「それと私のアリバイ工作は上手く行きましたか?」
「そっちもバッチリよ!お前さんは怒りをぶつける対象を求めて神のダンジョンに籠ってるって事にしてあるから、今日帰ってきて素材を俺に売ったって事にすれば証拠も問題ねぇ」
「そうですか、それなら黒鉄と魔銀を渡しときますね」
そう言ってボコポに黒鉄と魔銀の塊を数個渡した。
「お、おう。お前ぇ、どんだけ持ってんだ?」
そう言って呆れるボコポに俺は幾つか武器の作成依頼をして更にその材料もボコポに渡して工房を出ると宿屋へと向かう。
宿屋に行き、宿の親父さんに挨拶すると追加の宿代を支払い裏手に回ってインディとメルに会いに行く。
匂いで気付いたのか、インディは千切れんばかりに尻尾を振り、メルは飛び跳ねていた。
うーむ、なんでこんなに懐かれてるんだろう。
結構おざなりな対応しかしていないんだがな・・・
何となく2匹に申し訳なく思い、インディにはオーク肉の塊を与え、メルにはメープルシロップを飲ませると2匹とも嬉しそうに飲食を楽しんでいた。
「よし、これからお前たちのレベル上げをするからな!」
俺がそう言うと意味が解っているようで、気を引き締めるようにそれぞれが一声鳴いた。
「よし、それじゃ今夜、夜陰に乗じて俺の家でレベル上げだ!」
「ワウ!」
「ガウ!」
そうして俺達は家の塀を飛び越えて敷地内に入ると明け方近くまでミノタウロスを狩り続け、インディとメルは見事にレベルを上げたのであった。
誰のレベリングとは言っていない!
ってことで、タイトル詐欺じゃないよ?
 




