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第102話(裏) 変人現る?

 私の名前はノイン。


 A級冒険者です。

 パーティ「誰がために」に所属し、鍛冶神ウェイガン様を信仰している神官戦士でもあります。

 現在(いま)お師匠様(ブラック=カンパニー)から8番と呼ばれています。


 あの日、お師匠様に襲わ・・・お会いした時、私は衝撃を受けました。

 自慢ではないのですが、私のパーティを含むゴルディ王国でも屈指のトップパーティが勢揃いと言っていい程に集まった100人からなる集団にお師匠様はたった1人で喧嘩を売り、その尽くを打ち倒したんです。

 正直信じられない気持ちと、たった1人に勝てなかった不甲斐なさを味わい。ゾクゾクしてしま・・・ショックを受けました。


 それに私もあのハリセン?とか言う武器で一撃の元に気絶させられてしまいましたが、その時の衝撃ときたら、それはもう!すっごい良かっ・・・ごほん。


 その(あと)、目覚めた私がお師匠様を見た瞬間。


 脳天から足先まで、全身を突き抜けるような衝撃と共に『この人に付いて行かなければ!』と言う思いが私の中を駆け巡りました。


 こんな感覚に襲われたのは初めてで、私は体が震える程の無上の喜びを感じると共に、直感などと言う生ぬるい表現では言い表せない程の使命感で私の胸は一杯になっり、気付くと落涙までしていました。


 その姿を見た仲間は私が恐怖のあまり泣き出したのだと勘違いしていたようですが、これ程の喜びを感じている私にとっては些末な問題なので無視しました。


 そして私はこれ程の歓喜を齎してくれたであろうウェイガン様に感謝しつつ、彼が迫る選択に対して『英雄に辿り着けるかもしれない希望に満ちた道』を進むことを即決しました。

 勿論仲間も説得するつもりですが、説得できずに仲間と別れる事になっても私は構わない。

 そう思えるほどの確信を私は得たのだから。






 結果としてケイブリス(6番)、エリアル(7番)は快く承諾し、エアロ(9番)は渋々。そして10番のジョエルは仕方なさそうではありましたが承諾してくれました。

 こうして仲間は全員私の説得に応じて彼の指導を受ける事になったのですが、お師匠様から1つだけ条件を付けられました。

 それは名前を名乗る事を禁じられたのです。

 なんでも「未熟な雑魚の名前など覚える気も起きない。俺が一人前と認めるまで貴様等が名乗る事を禁ずる」との事でした。

 その為、私達は番号で呼ばれ、仲間内でも番号で呼び合う事になったのです。


 そして最初に受けた「マタワリ」の儀式は私の想像を超える至ふ・・・地獄だった。


 1人目の儀式にてお師匠様は泣き叫ぶライナ(1番)の悲痛な声に対し、「全く五月蠅い奴だ。これでも筋を痛めないよう手加減してゆっくり伸ばしてやっているんだぞ?感謝の言葉くらい言えんのか?」と背筋がゾクゾクす・・寒気を覚える程の冷たさの言葉を投げかけておりました。


 私は指導の厳しさに圧倒され歓・・に震えていましたが、ジョエルとエアロ。それに何人かが逃亡を図り(ことごと)くがお師匠様に捕縛され、更なる拷問(マタワリ)を受ける事となりました。


 その日は私を含め、全員が恥も外聞もなく泣き叫び、股を(さす)りながら皆が黒歴史を共有しました。

 誰もこの事については他言しないでしょう。



 次の日も朝からマタワリとジュウナン体操?とか言う体操をすることになり、何人かはまた泣く羽目になりましたが昨日のように逃亡を計る者はいませんでした。

 逃げたらどうなるか昨日で骨の髄まで刻まれてしまったのだろう。


 そして私達は森の中を走り込むと言う訓練を受ける事になりました。

 なんでも体力は冒険者だけではなく戦士の基本との事。

 この言葉に前衛職の者は皆さん納得したのですが、魔術職のジョエルがお師匠様に意見を述べました。


 ジョエルは「私は魔導師だから関係ないわ」と言うと、お師匠様が「強大な敵と遭遇した際、どうやって逃げるんだ?」と聞かれ、ジョエルが「身体強化の魔術を使って逃げるわ」と少し反抗的に答えるとお師匠様は「なら、俺から逃げて見ろ?」と言ってジョエルのお尻をリズム良くハリセンで叩きのめしていた。

 その後、お師匠様はジョエルに「元々の身体能力が低すぎるから魔術で強化しても意味が無い」と吐き捨てるように言われました。


 ジョエルは泣いていましたが私は羨まし・・・、ジョエルの迂闊さを教訓としました。

 多分、教訓としたのは他のみんなも一緒だと思います。


 そんな感じで走り込みが始まり、最初の1週目はコースを覚えると言う意味でお師匠様が先頭になって走られました。

 そして1週目を終えて元の場所に戻るとお師匠様がこう宣言されました。


「それじゃ、これから50週走ってもらう。

 俺に追い越された回数で次の訓練の厳しさを変える事にしよう。

 地獄を見たくなければ本気で走れよ。

 ああ、そうだ、俺に追い越された瞬間、俺はこいつで貴様等に喝を入れる。

 躱すのも反撃するのも受け止めるのも許可するから、頑張れよ!」


 そう言ってハリセンをスパーン!と一度鳴らすと信じられない速度で遠ざかって行った。


 私達は呆然と見送ってしまった後、慌てて後を追う羽目になった。


 結論。

 みんなお尻を叩かれました。

 お師匠様の強さは異常です。





 次の訓練は『クウキイス』と言うものでした。

 簡単に説明しますと椅子が無い状態で椅子に座ったような体勢を維持する訓練でした。

 この訓練は最初は大してきつくないのですが、時間が経つにつれて徐々に足腰に負荷が掛かるのか、体が震えてしまいます。


 お師匠様は体勢が崩れたり体が震えたりした者にハリセンを叩き付け喝を入れていましたが、これは地味にキツイです。

 私も4回ほどお尻を叩かれ興ふ・・・反省を余儀なくされました。


 クウキイスが終わると私は地面にへたり込み、暫らく立てませんでした。

 他の皆さんも同じような感じで肩で息をする者、地面に倒れ込む者と様々でした。


 そんな中でも魔術師であるリサ(3番)とジョエルは走り込みでの追い越された回数が多い為、未だにクウキイスを続けていて足を体全体を生まれたての小鹿のようにプルプルとさせています。

 神官であるロブル(5番)はドワーフなので種族的に走り込みは不利ですが、種族的に頑健なので体が震えることもなくクウキイスを続けていました。


 そして次の訓練は素振りでした。


 これに異を唱えたのはリサ、エリアル、エアロとジョエルの4人でした。

 それぞれ得意とするものが魔術、弓、精霊術、魔術だったので近接戦闘術ではなくそれぞれ得意とするものを伸ばしたいと言い出したのです。

 これに対してお師匠様は「確かに一理あるが、後衛職であっても敵に接近される事はあるだろう。そう言う時はどうするのだ?」と返すとそれぞれが押し黙ってしまいました。


 結果、リサはワンドを使った型を習い、エリアルは体技、エアロは剣技、ジョエルは杖技を習う事になりました。


 そして素振りの訓練となったのですが、今回は時間が無いとの事で、それぞれが1番得意な攻撃の型を矯正するとの事でした。


 お師匠様は1人ずつ素振りを見ては動きを細かく矯正して行きました。

 ライナ(1番)は戦鎚(メイス)と盾を持った戦士なのですが、これまで誰かに指示を仰いだことが無く、我流だったので殆んど腕の力だけで戦鎚を振り回しているような状態でした。

 今まではレベルもそれなりに高く、無茶苦茶に振り回しても敵を倒せていたのでしょう。

 それをお師匠様が全身を使って振り下ろすように矯正されていました。

 本人は不満そうな顔をしていましたが異を唱えることなく型をなぞる様に何度も素振りを繰り返していました。

 そんな感じで全員がそれぞれの武器に合った型を1つだけ矯正され、延々と素振りをすることになりました。



 そうして3日間、同じ訓練を続けると、お師匠様がライナに言いました。


「1番。ちょっとそこの岩を叩いてみろ」


「はい?」


「良いから、3日間続けた素振りと同じ動作で思いっきりそこの岩を叩いてみろ」


「俺の力じゃこんなデカい岩、壊せませんよ」


 ライナが否定的な意見を述べるとお師匠様はニヤリと笑って更に言い募ります。


「良いからやってみろ。おもいっきりな!」


 そう言われライナは渋々了承するとライナと同じくらいの大きさの岩の前に立って武器を構えます。

 右足を1歩前に出し、下半身のバネを使って上体を後ろに逸らすとその勢いを乗せて戦鎚を振り下ろす。

 そうした素振りを2、3回繰り返すと、ライナは覚悟を決める。


「行きますよ」


 そう断りを入れ、戦鎚を振りかぶり思い切り岩に叩き付けます。

 すると腹の底に響くような重い音を鳴らしながら岩が破砕されました。


 その結果に戦鎚を振り下ろしたライナ自身が信じられないと言った顔をして固まっています。


「ふむ、まだこの程度か・・・『先に開展を求め、後に緊湊に至る』というが、まだまだ開展の段階と言う事か、まぁ、3日しか経っていないし、仕方ないか。

 おい、この程度で満足するんじゃないぞ!この程度の威力ではまだまだだ!」


 そうぼやきながら不満そうな顔をするお師匠様に私は戦慄を覚えました。

 やはりこの人に付いて行く事は正しかった。


 その後、ライナや他の皆さんもお師匠様の凄さに畏怖だけでなく敬意を払うようになっていきました。



 あぁ、彼こそが私の運命の人です。


 この先、何があろうとしがみ付いてでも付いて行こう。


 そうすれば私は幸福になれる。


 そう確信を持って私は前へと進む。








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ナニかがいる。
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