第102話 楽太郎式ブー○キャンプ
「貴様等ァ!それでも走ってる心算かぁ?」
俺は前方に見える集団に声を掛ける。
「「「ヒ、ヒイィィィィ?!」」」
前方の集団からは悲鳴しか上がらない。
「ほらほら、周回遅れの場合どうなるかわかってるだろう?」
「「「い、嫌だぁぁぁぁぁ!! 助けてぇぇぇぇぇ!」」」
そして俺から逃げるように速度を上げようとしているが既に体力は限界のようだ。
速度は少ししか上がっていない。
「ははははは、嫌なら走れ!もっと走れ!」
そう言って俺は速度を上げると追い付いた者の尻にハリセンを叩き付ける。
「3番アウト!」
悲痛な悲鳴が上がるが気にせず俺はメモを取るとそのまま走り抜け、次の獲物へと視線を移した。
「貴様等ァ!助かりたくば必死に走れぇ!」
「「「嫌ァァァァ!」」」
そして次々と悲鳴が上がった。
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「えー、それでは結果発表だ」
「「「・・・」」」
「1番15回。2番10回。3番19回。4番12回。5番17回。6番9回。7番8回。8番13回。9番7回。10番16回だ!
10番、惜しかったな」
「そ、そんな?!」
そう言うと10番と呼ばれた女性は膝から崩れ落ちた。
この回数は森の中を走らせて俺が周回遅れになった奴をハリセンで叩いた回数だ。
それを伝えた結果、各人の表情は大分異なる事になった。
ある者は悲壮な表情に変わり、ある者の顔には安堵が浮かぶ。
「さて、事前に説明したとおり、5回以下は馬歩・・・じゃなくて空気椅子を1時間、その後は素振りに移行。10回以下は空気椅子を2時間、その後は素振りに移行。15回以下は空気椅子を3時間、その後に素振り。それ以上は空気椅子4時間、その後に素振りだ」
「さて、それでは2番、6番、7番、9番。こっちに来て空気椅子だ」
俺の声に4人が立ち上がり横並びになると空気椅子の体勢になり両腕を前に突き出す。
俺は姿勢をチェックし、修正すると次のグループを呼ぶ。
「1番、4番、8番。こっちに来て空気椅子だ」
俺はこちらも姿勢をチェックし、修正すると次のグループを呼ぶ。
「3番、5番、10番。こっちに来て空気椅子だ」
俺はこちらも姿勢をチェックし、修正すると各人の両腕、両足に小石を乗せる。
「よし、それでは始め!」
「「「はい!」」」
「そうそう、今乗せた小石を落としたら最初からやり直しだから気を付けろよ」
「「「んな?!」」」
そうして俺は木陰で訓練を監視する。
今の所、反抗的な態度は殆んどない。
何故なら我が流派の最初の儀式。『股割り』を強制的に行った結果だろう。
何しろ説明して最初の1人目に行っただけで何人か逃げようとしたので逃げようとした奴を全員凹って縛り上げ、1人ずつ念入りに『股割り』をしてやったら全員が大泣きしたからな。
まぁ、股を擦って泣き喚く10人の大人・・・そんな光景はある意味で地獄絵図だろう。
その後も柔軟体操を念入りに行い、それだけで1日を費やした程だ。
その後は毎朝柔軟体操を義務付けているから体の柔軟性は改善しただろう。
そしてそれに伴い、反抗すれば更なる地獄が待っていると言う意識も刷り込まれたようで、反抗的な態度は鳴りを潜めた。
そんな中、30分もすると何人かは姿勢が崩れ始める。
「10番!もっと腰を落とせ!背筋は伸ばすんだ!お前は腰の曲がったババァか!」
「は、はい!申し訳ありません!」
10番は俺の罵倒にビクつきながらも何とか姿勢を立て直そうと必死になる。
「3番!どうした?足が震えているぞ!小便でも我慢しているのか?」
「い、いえ、違います」
「貴様のレベルなら3時間は余裕で続けられるはずだ!怠けるんじゃない!」
「す、すみません!」
3番もすぐに姿勢を正そうとするが、そこで左足に乗っていた小石が転がり落ちる。
「あ?!」
「3番!1時間追加だ!」
俺はハリセンで3番の尻をぶっ叩くと「痛ぁい!」と悲鳴が上がるが無視して続ける。
「いいか貴様等!ただ突っ立っているんじゃないぞ!大地と一体化するイメージをしろ!」
大雑把な言い方だが、大地をしっかりと踏みしめ、下半身の力を上半身に伝えることが出来るようになれば全身の力を使いこなす事が出来、より効率的な身体操作が出来るようになる。
それに足腰も鍛えられ、同じ姿勢を長時間取り続ける事で精神修養にもなる。一石二鳥どころか一石三鳥だ。
因みに『股割り』をさせているのも嫌がらせじゃなく、柔軟性が上がれば肉体の可動域が広がり、衝撃を全身に分散する事も出来、攻防力も上がる。それに体の故障も減ると言うメリットがある。
決して俺が受けた痛みを多くの者に味あわせたいと言う意図ではない!
そんな事を考えつつ、時々罵声を飛ばしながら1時間が過ぎる。
「2番、6番、7番、9番!空気椅子終了だ!
お前等は10分休憩しろ」
「「「「ありがとうございます!」」」」
そう言うと4人が一斉に崩れ落ちるように座り込む。
まぁ、これをやらされている時って時間がわからないから精神的にも大分きついんだよな。
ただ、こいつ等はレベルが高いから肉体的な苦痛はそれ程でもないと思ったんだがな・・・
そう考えると大分不甲斐ないようにも感じる。
まぁ、次は素振りだからしっかりと見てやらんとな。
俺は残りの空気椅子組の型が崩れていないかチェックしつつ、休憩組に水を渡して10分が経過するのを待つ。
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10分後。
「よし、休憩終わり!次は素振りだ」
俺がそう声を張り上げると嫌そうな顔をしながら4人が立ち上がる。
その気持ち、わからんでもないがそう言った表情は隠すものだぞ?
「貴様等、何か不満でもあるのか?」
「「「「い、いえ!ありません!」」」」
「そうかそうか、では2番から素振りを見せろ」
俺がそう言うと2番の女は小剣を右手に持って右手右足を前に出し、左手を腰に添えると半身になって構える。
「よし、突け!」
俺の指示を受けると2番は右足で地面を滑らせるように一歩踏み出し、突きを繰り出す。
そして左足を右足に引き付けるように移動する。
「ふむ、いいぞ。そのまま続けろ、今日は1000回だ」
「はい!」
そう言うと真剣な表情で突きの動作を繰り返し始める。
「次は6番。素振りを見せろ」
「はい!」
そう言うと今度は6番の男が小剣を2本両手に持ち、構えたかと思うと素早く左右の剣を振るう。
俺は6番の男の頭にハリセンをかますと悲鳴が上がるがお構いなしに指摘する。
「誰が速さを競えと言った!型が疎かになっているから剣先がブレているし、腕だけで振っていたんじゃ意味が無いだろうが!」
「す、すみません!」
俺の叱責に6番の男は青い顔をしながら頭を下げてくるので俺は溜め息を吐きつつ6番の動きを矯正する。
「今度は型が崩れない様にゆっくり振れ」
「は、はい」
「腰が高い!もっと膝を使え!手足の動きがチグハグだ!」
その後も何度か矯正し、ようやく問題なさそうな形になった所で素振りの回数を言い渡す。
「6番は素振り3000回だ!」
「は、はいぃぃ!?」
「型が崩れない様にゆっくり振るんだぞ!」
「はい!」
そうして次々と素振りを見て回り、問題のあるところは矯正して行った。
ただ、今回は時間が無いので教える型は1人1つに絞っている。
各人の素振りを見せて貰い一番マシだった型を矯正する事にしたのだ。
全部なんてやっていたら時間がいくらあっても足りないからな。
お、そろそろもう1時間たったか。
「1番、4番、8番!空気椅子終了だ!
お前等は10分休憩しろ」
そんな感じで1週間が経過するのであった。




