第101話 冒険者への洗礼
街道をこちらに向かってくる集団を見据えて俺は真っ黒な兜を被る。
ようやく奴さん方がお見えになったようだ。
集団の先頭は統一された装備に規則正しい行進をしている。
馬にも乗っているので国の騎兵だろう。
だがその後に続く者達の装備はてんでバラバラで4、5人単位で纏まって歩いているが全体でみると歩きもバラバラだ。
まぁ、全体で大体100人前後ってところか・・・
騎兵らしき奴等は除外として、後は・・・
まぁ、実戦で試してみるか。
俺は今までの憂さをこいつ等で晴らす事を決めている。
と言う事で俺は今、真っ黒の全身フルプレートアーマーを着込み、左右の手には鉄と何かの革で出来たちょっと大きめのハリセンを持っている。
・・・ちょ、ちょっと、ちょっとだけ間抜けな格好かも知れないが、正体がバレナケレバイイノダ。
と言う事で早速ボコリに・・・じゃなくて、実力を確かめに行くか。
俺は悠然と偉そうに見える様な感じの歩き方で集団に近付くと一方的に宣戦布告をする。
相手の迷惑なんて関係ない。
既に迷惑かけられてんのはこっちなんだからな。
「我が名はブラック=カンパニー!
この先にあるウェルズの悪魔のダンジョン攻略に参られた御一行とお見受けするが如何か?」
俺の問いに先頭の騎兵が声を上げる。
「如何にもその通りだが、何か用か?」
ビンゴ!当たりだ。
これで心置きなく叩きのめせ・・・じゃなく、実力を確かめられるってもんだ。
もちろん試す方法は実戦形式しかないけどな!
俺は兜の中の表情を悪辣な笑顔に歪めながら返答する。
「そうか・・・では、貴様等の実力を試させて頂く!
いざ、尋常に勝負!」
そう言って騎兵に向かって走り込むと先頭の騎兵の頭にハリセンを一閃。
『スパァーン』と言う小気味いい音が辺りに響き、男が馬から落馬する。
「貴様は失格だ!」
そう告げると俺は次の獲物へと襲い掛かる。
「ちょ!」
「待て!」
そんな声も聞こえてきたが俺は一言「問答無用!」と切り返しハリセンを閃かせる。
そうして一団を蹂躙しつつ最後尾まで駆け抜けると立っているのは俺だけとなった。
「ふぅ、大分ストレス発散になったが、思った以上に弱い・・・」
俺は肩をガックリと落とすと俺に凹られて気絶している奴等を縄で縛りながら今後の予定を少し変更することにした。
こいつ等の教育を更に厳しくする方向へとな。
「む、むぐぅ?!」
俺の眼の前で転がっている騎兵の男が意識を取り戻したようで声を上げる。
「ようやく起きたか」
「んぐ?!」
俺の声に反応したのか俺の方に顔を向けてきたが、何処か怯えたような顔をする。
「ふむ、何も殺そうなどとは思っておらんから安心致せ」
一応普段より大分声を低くして普段使わない言葉使いに替えて話をする。
バレると即お尋ね者扱いになる可能性が大分高いからな・・・
まぁ、と言う事で口を塞いでいた縄を解く。
「お、お前は何者だ?!何が目的で我らを襲った!」
殺されないと分かったら強気だな。
「最初に伝えた筈だが・・・頭を叩いたから記憶が飛んだか?
まぁいい、俺の名はブラック=カンパニーと言う。
襲ったと言うのは人聞きが悪いな。俺は貴様等の実力を試させて貰っただけだ」
「実力を試すだと?何様のつもりだ?」
騎兵の男は怒りも顕に言葉を返す。
「貴様こそ何様のつもりだ?100人以上いても俺1人に手も足も出なかったではないか?」
「ま、まさか?!」
そう言って騎兵の男は改めて辺りを見回して唖然とする。
自分の周囲には仲間や連れて来た冒険者達が軒並み縛られて拘束されていたからだ。
「な、なんてことだ・・・」
「わかったか?貴様等は全員不合格だ。
貴様等はダンジョンに入るどころかウェルズの貴族屋敷の敷地内にいる魔物と遭遇しただけで全滅確定だ」
「そ、そんなわけが・・・」
そんなわけがない。そう言いたかったのだろうが俺1人に手も足も出せなかったのだ。
信じたくない事実だろうが呑み込んで貰わなければ始まらない。
そんな事を考えていると、少し怯えた表情で騎兵の男が声を掛けてくる。
「おま・・あなたの目的は一体何なのですか?」
ふむ、自分が置かれた立場を理解したようだな。
現状得体のしれない男に拘束され、生殺与奪の権利を握られている。
そんな状況では下手に出るのが無難だろう。
この男も良くわかっているようだ。
「目的か?目的はウェルズの街を救う事だ」
「それならば何故我らの邪魔をするのです?」
「無駄な犠牲を出さない為だ。
ウェルズの街を救って欲しいと頼まれたのでな。
引き受けたからには犠牲は少ない方がいいだろう?
それにキュルケさんとウェイガンさんは知り合いだからな、その辺を少し配慮したのだ」
「キュルケさん?ウェイガンさん?・・・・ま、まさか、か、神の使徒?!」
うん?なんか、勝手に妙な勘違いをし始めている様だな。
キュルケとウェイガンの名前出しとけば勝手に神殿関係者と勘違いしてくれるかと思ったんだが、少し違う感じになってきた気がする。
それに神の使徒ってなんだよ?! 俺は神の使徒なんて知らんぞ?
「神の使徒とはなんだ?」
「知らないのですか?」
なんで急に敬語になってるんだよ。
「知らん」
「神の使徒とは神からの神託を受けて使命を与えられた者を指す言葉です。
他には神託の勇者とも言われることがあります」
うーむ、そのまま勘違いさせると厄介そうだな。
「いや、神の使徒ではない」
「そ、そうですか・・・いや、そうか。そう言う事ですね」
男は俺の返事に一度は落胆したが、すぐに考え直して勝手に何かを察した感じになった。
・・・なんか、神の使徒であることを隠してる的な勘違いされてそうな感じだ。
素直に言葉通りに受け取ってほしいんだが、良い方法が思いつかない。
仕方ない、流れに任せるか。
「まぁ、そう言う事で貴様等を試したのだが、清々しい程に全員実力不足で失格だった!」
俺がそう言うと騎兵の男はバツの悪そうな顔をするが、今度は反論しなかった。
「それで我々にどうしろと言うのですか?」
「そうだな・・・貴様等の中に合格者が居れば良かったんだが、予想以上に実力が無かったからな。
とりあえずお前は王都へと引き返して王にウェルズの隠し通路を封鎖する事を認めるよう嘆願しろ。
さもなくばウェルズの街が滅びる可能性が高い」
「な、何だってぇ?!」
俺は騎兵の男の言葉を無視して話を続ける。
「とは言え何の情報も無く嘆願するのも難しいだろうから、あの街に出現している魔物について教えよう。
まず種族はミノタウロスだ。そしてレベルは大体80を超えている。
そいつらが貴族屋敷の敷地内だけでも30匹以上は徘徊していた」
「なぁ?!ば、馬鹿な、そんな危険な状態なのか?」
「だから俺に救いを求められたのだ」
「・・・わかった。難しいが嘆願の件は早急になんとか奏上してみよう」
しばし驚愕していたが、なんとか我を取り戻したようだ。
そして俺の要求が思いの外スムーズに通る。
こいつ、中々物分りが良いな。
あとは・・・と考えて他の伸びてる連中が目に入ると俺はちょっとしたことを思いついた。
こいつ等には悪いが、ちっとばかし地獄を見せるか。
行き当たりばったりではあるがウェルズの街を救う事を考えると駒は必要だろう。
「悪いが、この中で攻略組以外のお前と同じ引率役の国に仕えている兵士とか騎士は他にもいるのか?」
「私を含めて12名いる。何か問題か?」
「いや、それならその仲間も一緒に王都へと連れ帰ってくれ」
俺がそう言うと少し考えた後に質問をしてきた。
「俺達が帰るのは問題ないが、残りの冒険者達はどうするんだ?」
「まぁ、俺が少しばかり鍛え直してやろうと思ってな。
そうすれば今よりは遥かにマシになるだろう。詳しくは聞かない方が良い」
俺の表情はフルフェイスの兜に隠れて視えない筈だが、声のニュアンスで感情が伝わったのだろうか。
騎兵の男は口の端を引き攣らせて固まる。
その後は国に仕える騎兵や兵士を起こして騎兵の男が説明。少々拗れそうになった時は俺が出張ってオハナシして納得してもらった。
「・・・と言う事でお前達には2つの道がある。
1つは今から王都へ逃げ帰って負け犬に相応しい惨めな仕事をこなして生きて行く道だ。
そしてもう1つは地獄を見る事にはなるが、やがて英雄に辿り着けるかもしれない希望に満ちた道だ。
後者を選ぶのであれば、俺が貴様等を鍛えてやろう。勿論地獄は見せるがな!」
俺は騎兵や兵士を王都へ帰した後、残った冒険者を集めると拘束を解き威圧した。
逃がさないようにするためと、絶対的な実力差を見せ付ける為にだ。
ただ、威圧しすぎたようで再度気を失う者が続出したのは誤算だったがな。
そんな感じで余計な手間がかかったがその分面倒な抵抗も少なかったので俺の話を聞かせる事はできた。
「さて、貴様等はどちらを選ぶ?」
冒険者達の表情は恐怖が7割、好奇心が2割、良くわからないのが1割と言ったところだろう。
まぁ、後はこいつ等のやる気次第だが、半数位は残ってもらいたいものだ。
「あ、あのぉ・・・」
そんな事を考えていると冒険者の1人から声を掛けられた。
「なんだ?」
「それって、つまり依頼失敗として王都に帰るか、あんたの指導を受けるかを決めろって事か?」
「あぁ、優しいだろ?」
「どこがだよ」
そうボソリと誰かが声を漏らす。
「十分優しいだろう?貴様等が依頼通り悪魔のダンジョン攻略を実行していた場合、全滅だったんだ。
それを事前に試す事で実力不足を教えてやったし、その際も殺さない様に手加減してやった。
もし俺が賊だったら男は皆殺しで女は慰み者だ。
貴様等の現状を考えたら感謝こそされ、非難される謂れも無いんだがな?
何ならもう一度、今度は手加減なしで相手をしてやろうか?」
そう言って俺は右足を大地に叩き付けると地面が振動した。
「「「うぉぉ?!」」」
短い悲鳴が上がり、冒険者達が縮み上がる。
「さぁ、返答は如何に?」
結論から言うと、『脅しが過ぎた』と言う事だろう。
100人ほどいたのに残ったのは10人だけだった。
 




