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第99話 不運

遅くなりました。

 ルイン達と合流した俺は取り敢えず彼女達を貴族屋敷の門まで送ることにした。


 その事についてトッチーノ達が「他の仲間も助けて欲しい」と言って来たが「足手纏いが大量にいる状態じゃ助けられませんよ」と事も無げに却下した。

 その時、それまでの経緯を知らないエリと言う女性が俺に喰って掛かろうとしてきたがトッチーノとルインが慌てて止めに入っていた。

 全く、これだから宗教関係者は・・・

 仕方ないので俺はエリに説明する。


「私も自宅で人が死ぬなんて縁起でもない事が起こって欲しくないので、できれば救助に向かいたいんですけどね。

 無力な人間4人を1人で護衛って時点で既に無茶なんですよ。

 だからあなた達を先に安全な所に連れて行って自由に動けるようになってから救助に向かう予定です。

 因みに普段の私はあまり失礼な物言いはしませんが、あなた方に対して棘のある言動になっていると思われるのでしたら理由はそこのお2人から聞いてください」


 そう言うとエリはトッチーノとルインを見るが、見られた2人はばつの悪そうな表情でエリから視線を外した。


「コラ!逃げるな」


「「・・・」」


 2人は渋々エリに「彼が(くだん)のラクタロー君だ」と一言告げるとエリの表情が劇的に変化した。

 「件の」ってなんだ?


 まぁ、そんな感じで話は進み、その後ルインは無言でモニカの乗った荷車を牽き、トッチーノとエリは徒歩で荷車を守る様に左右に別れて俺の後に付いて来ていた。

 俺以外の3人の表情は暗く、俺も「件の」と言う表現で「俺が何か問題になっているのか?」と言う何ともモヤモヤとした気持ち悪さがあり、居心地の悪い時間を過ごす羽目になった。


 そんな気分を一転させてくれるのは道中で襲いかかって来た数匹のミノタウロス達であった。

 何も考えずただ怒りをぶつけるだけ。

 そんなシンプルな行為がストレス発散に繋がる。

 あぁ、少しスッキリして心が癒される。


 その時はそう思っていたが、落ち着いてからよくよく考えると、戦いだけが癒しの空間って何の罰ゲームなんだ・・・と気付いてちょっと虚しくなった。


 因みにミノタウロスの評価だが俺の実感としては今まで戦ってきたゴブリンやオークと然程(さほど)変わらない感じだ。


 レベルが135となった今ではミノタウロスは雑魚だが、俺がルインと同じ位のレベルでも1対1なら完勝できる相手だと思う。


 それよりもこれからだ。


 まずは魔物の掃討だ。

 キュルケ信者共を外に連れ出した後は救助活動をしつつ敷地内の魔物狩りをしよう。

 一応ミノタウロス以外の魔物もいるかも知れないから用心は怠らない様に心がける。

 そして元凶となっている隠し通路を取り敢えず「地魔技」で埋めて後顧の憂いを断つ!


 後は荒れた敷地の整備や屋敷の改修をセドリックに続けてお願いする。

 今回の件は結構な事件に発展しているから人足が集まらないかもしれない。

 そう言った観点から言っても依頼料の上乗せは必要だろう。

 はぁ、またしても金が飛んで行く。

 全く、なんて金が掛かる家なんだ。


 そして最後に商業ギルドだが、奴等にも責任を取らせよう。

 売買時に隠し通路の事を隠していた事を責める材料にして話を進めよう。

 「知らなかった」とか言ったらそれまでの管理の杜撰さを(あげつら)って管理に必要な家屋の調査もしていなかったって事で更に責めよう。


 後は落とし処をどの辺りに持って行くべきかも考えるか。

 思案に更け込みかけた時、又もミノタウロスの集団が後方から現れた。


 まったく。本当にまったく。


 そう思いながら俺は駆け出した。














 あの後、ミノタウロスの集団を潰して門前まで移動するとトッチーノのパーティメンバー達は無事に逃げられたようで全員揃っていた。

 そこに絶望視されていたトッチーノも戻った事から、キュルケ信者一同は泣いて喜んでいた。


 俺はその光景を余所にボコポに俺が中に入ってからの経過を聞いていたが、幸いミノタウロス達は外に出て来ようとはしていなかったようだ。

 その事に疑問を覚えた俺はボコポと話していたんだが、1つの推論として奴等ダンジョン産の魔物は「屋敷内がダンジョンであると錯覚しているのでは?」と言う事になった。


 どうしてそうなったかと言うと、ダンジョン産の魔物は基本的にダンジョンそのものへの攻撃をしない。と言う習性があり、ある程度知能のある魔物でもダンジョン内の扉やドアの開閉は基本的にしないらしい。

 ボコポからの情報だが、それを前提条件に考えた結果、そう言った推論に落ち着いた。


 例外としては侵入者が居た場合、逃げた侵入者の後を追う為に侵入者が閉めた扉やドアを開けることはあるらしいが、それ以外では基本的に扉やドアの開閉はしないらしい。

 ダンジョンから魔物が溢れて来る魔物の暴走(スタンピード)の時は魔物は狂乱状態なのでこちらも例外だろう。との事だった。


 それなら隠し通路の扉を閉めれば良いのか?と安直に考えたが、それだとこの厳戒態勢は解けないだろうとボコポに言われたので当初の予定通り外と繋がる隠し通路そのものを潰す方針は変わらなかったが、敷地内の魔物の掃討は後回しにすることにして、先に隠し通路を潰すことにした。


 そうして改めて屋敷内に戻ろうとした所、馬車が2台近付いてきた。

 なんだろう。



 2台の馬車は俺の屋敷の少し手前で止まると中から男女2組と1人の少女が出てきた。







































 俺は例の酒場で頭を抱えていた。


「まぁ、こうなっちまったら仕方がねぇよ」


 そう言ってボコポが俺を慰めてくる。


「そうは言ってもですね、買って1カ月ちょっとで家を取り上げられるってありえないじゃないですか。それにせっかく運んできた木を植えることも出来なくなったんですよ?」


「家は取り上げられたんじゃなくて国が一時的に召し上げ・・・まぁ、一時的とは言え取り上げられたって事だな。それに木を植える場所も・・・思いつかねぇな」


 ボコポも何とかできないかと考えながら言葉を発するが最後には匙を投げた。


「でしょう?」


 そう言いつつフライドポテトを噛み千切る。

 理不尽な状況に苛立ちを募らせる俺にボコポは諦めろと声を掛ける。


「仕方ねぇだろ?御上からのお達しなんだからよ」


「はぁ、本当(マジ)で国ってのは碌な事しやがらねぇ。いっそ王族を暗殺で皆殺しにでもするか?」


 そう言って炭酸ジュースを(あお)る。

 それを見たレーネさんが物欲しそうな視線を向けて来るが俺の雰囲気を察して離れて行く。

 俺の眼は大分据わっているいる様だ。


「ラク? 本気で言ってねぇよな?」


「・・・7割くらい冗談ですよ」


「3割は本気かよ!」


 ボコポが目を見開いて驚く。


「そんな面倒臭い事する訳ないでしょう?」


「だ、だよなぁ」


 そう言って胸を撫で下ろすボコポに小声で「チマチマ殺るの面倒だから殺るなら王都ごと吹き飛ばしますよ」と一言呟くとまたボコポの表情が引き攣った。


 そんな感じで管を巻き、こうなってしまった出来事を思い出す。


















 屋敷の手前で止まった馬車から出てきたのはサムソンとレイラ、それにミーネだった。

 ただ、ミーネの姿は道中の庶民的な格好ではなく、高級感あふれるドレスに身を包んでいた。

 そしてもう1台の方から出てきたのは白くなった髭を蓄え、紳士然とした格好をしたドワーフのオッサンとドレスに身を包んだ恰幅の良いドワーフの女性だった。


 その姿を見た瞬間、何か嫌な予感がした。


 そしてレイラは目敏く俺の姿を見付けると嬉しそうな顔をしたが、すぐに顔を引き締めていた。

 そして隣のサムソンが声を発する。


「私は近衛騎士団所属の騎士サムソンと申します。急な事で大変申し訳ないが、こちらにキュルケ教の神殿長はおられるか?」


 そう言われて他の面々が驚きや訝しむような表情をするが、トッチーノはあまり間を空けずに返答する。


「私は神殿長補佐をしているトッチーノと申します。大変申し訳ありませんがモニカ神殿長は先の戦闘で負傷し、今は意識がありません。私で宜しければ御用をお伺いさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 その返答を受けてサムソンはミーネに視線を向けるとミーネは首を縦に動かす。


「了解した。ではトッチーノ殿、これは王命である。心して聞くように」


 そう言うとサムソンは懐から丸めた書状を取り出し、書状の内容を読み上げる。


 内容は俺の屋敷に出来たもう1つのダンジョンへの入り口に付いてだった。


 簡単に言うと今回の変遷でかなり下の階層と繋がってしまった隠し通路を利用して悪魔のダンジョン攻略を国が主導で行うと言う事。


 それに伴い、その出入り口である俺の屋敷を国が一旦召し上げると言うものだった。


 その(くだり)で俺は異議を申し立てようとしたがボコポに止められた。

 小声で「お前さんが言いたい事はわかるが王命の発布中に異議を唱えるのは不敬罪になるんだ。ここは堪えてくれ」と言われて仕方なく抑える。

 『発布中は』と言う事はサムソンの発言が終われば異議を唱えても大丈夫ってことだろ?

 この程度の事で国と事を構える気はない。


 そうしてサムソンの発言が終わると俺が異議を唱える前にトッチーノが質問を投げかける。


「王命について幾つか質問があるのですが、よろしいでしょうか?」


「何かね?」


「王命には悪魔のダンジョン攻略の為、穴を塞がず、開けたままにせよとの事でしたが、現在魔物が敷地内を占拠している状況です。

 我々も対処しようと先程討伐隊を組みましたが全く歯が立ちませんでした。

 今の所魔物は外に出ようとする気配はありませんが、いつ何時街中に出てきてもおかしくない状況です。

 その辺りはどのようにお考えでしょうか?」


「その件については今国の精鋭部隊を編制中である。到着し次第、包囲とダンジョン攻略に向かう予定だ。それまではキュルケ神殿やウェイガン神殿の者には申し訳ないが今少しの間魔物を留めて頂きたい」


 サムソンの言葉にトッチーノも納得したのか理解を示す。

 そして俺に一瞬視線を向けると話を続ける。


「わかりました。

 ではもう一つ質問なのですが、よろしいでしょうか?」


「まだあるのか?」


「次で最後となります」


「わかった。聞こう」


「土地を召し上げるとありましたが、土地の所有者にも生活がありましょう。それに付いて何か補償があるのでしょうか?」


「何?! 所有者が居るのか?」


「はい、そこにおりますラクタロー氏が所有者です」


 そう言って俺の方を示すトッチーノに視線を俺に合わせてサムソンが驚く。


「ラクタロー・・?!あ、あなたは!」


「『お久しぶり』とでも言えばいいんですかね?サムソンさん」


 そう声を掛けると一瞬バツの悪そうな顔をするが、すぐに取り繕うとサムソンさんが答える。


「その節は世話になりました。

 それで、あなたがこの土地の所有者なのですか?」


「えぇ、1月ほど前に購入し、リフォームの最中でした」


 そう答えるとサムソンは「なんて間の悪い・・・」と呟いた後、正直に返答をする。


「私の所には商業ギルドの預かりと聞いていたので商業ギルドに国が一時的に召し上げる事を伝え、補償金を渡す事になっていました。

 あの物件は長い間所有者不在の所謂(いわゆる)不良物件と言うのはかなり有名だったのでそれで問題ないと考えていたが・・・ふむ、どうしたものか」


「因みに補償金はお幾らほど?」


「金貨30枚だ」


「少な!?」


 つい反射的に声が出てしまった。


「なに?」


 片眉を上げて不愉快そうな声をサムソンが上げるが、俺は怯まず失笑混じりに答える。


「おっと失礼。あの土地は先日相場で大金貨1800枚と言われて購入したものなので、それに対しての補償金としてはあまりに・・・」


「持ち主が居なければその額で問題なかったのだ。持ち主が居ると知っていれば金額は変わっていた事だろう・・・」


 そう言うと不愉快そうな表情はそのままに言葉を濁す。


 少々雰囲気が悪くなったところでトッチーノが割って入る。


「そうなると土地の所有者への補償が十分とは言えない状況で召し上げると言うのはあまりにご無体ではないでしょうか?」


「ふむ、そうなのだが・・・」


 そう言ってサムソンはまたミーネの方を振り向くと、またしてもミーネが頷く。


「わかった。一旦召し上げの件は保留とするが、隠し通路は埋める事を禁じ、敷地内への立ち入りも禁止とする」


 ぐぅ・・・自分の家なのに入れなくなってしまった。


「すみません。私からも質問なのですがよろしいでしょうか?」


「なんだ?」


「召し上げの期間は何時まででしょうか?」


 そう聞くとサムソンは事も無げに言った。


「悪魔のダンジョンが攻略されるまでだ」


 ・・・それって不可能って事だろ?

 正直、モニカ達キュルケ神殿の人間のレベルはかなり高いと思う。

 そんな連中でも最深部まで到達する事が出来ていない状況でいきなり下層から始めようと言うのは無茶だろう。



 次第に痛くなってくる頭を押さえて俺は呆然と立ち竦んだ。


 街に戻って早々家を失いました。


 ・・・全く、これだから異世界は!

 俺が何か悪い事でもしたのかよ?!


 そんな思いが虚しく俺の心を占めていた。




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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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