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第98話 もう1つの戦い

 倒れた子供を見下ろし、なんとも遣る瀬無い気持ちにさせられる。

 子供が嬲られているのを見た時、俺はミノタウロスに全力で天秤棒をぶん投げ、全力で走った。


 天秤棒は狙い(たが)わずミノタウロスに命中し頭を爆砕したが、俺の意識は倒れている子供に向いていた。


 嬲られた後の子供を見るのはキツイ・・・

 全身鎧を着ているお蔭で痣などはあまり見えないがそれでも歪んだ鎧が加虐の激しさを物語る。

 俺は即座に「エクストラヒール」を唱えて近くで転がってる女性と共に掛ける。

 みるみる内に2人の怪我は完治するが汚れまでは落とせず、無残な姿はそのままだ。


 「汚物は消毒だ!フィルス・バーンズ・アップ」を使うかと一瞬考えたが、あれはかなりヤバい。

 浄化はされるが鬼畜認定されてしまう気がするので踏み止まった。

 俺だって謂われのない誹謗中傷はされたくないのだ。

 なので俺は彼女達の顔などに付いた砂や土をゆっくりと払い落とし、歪んだ鎧を外して楽な状態に横たえる。

 そして改めてこんな子供にまで戦いを強いるのかと宗教に憤りを感じる。


 そんな感じで彼女達の介抱をしているとルインが近付いてきた。


「ルインさん。あなた方キュルケ教はこんな子供まで戦場に送るんですか?」


 面倒だからと敬称を辞める許可を取ったが、物理的にも精神的にも距離を取ろうと意識的に敬称を付ける。


「子供ですか?」


「えぇ」


「いえ、そんな非道な事は致しません」


「なら、この子は何なんですか?」


「え?・・・・モニカ神殿長?!なんで?!」


 神殿長? こっちの女性の事か?


「女性の方ではなく女の子の方を見てください」


 一段階低い声で真剣に言うと、ルインは何を言っているんだと言う顔で答える。


「えぇ、ですからそちらの方がモニカ神殿長です。あちらの方はエリさんと言って神殿長の補佐をしている方です」


 ・・・うん?


「・・・えーっと、そこの女の子が?」


 俺は女の子を指差す。


「モニカ神殿長です」


「こちらの女性が?」


 俺は女性を指差す。


「エリさんです」


 えーっと、えーっと・・・


「それじゃ、この女の子はお幾つで?」


「正確なお歳は教えてくださいませんが、私が子供の頃に初めてお会いした頃には既に20歳は過ぎていた筈です」


「えーっと、ルインさんは・・・」


「21歳です」


 ・・・ルインが子供の頃。15歳と仮定しても25。10歳と仮定したら30過ぎ・・・だと?!


「子供・・・ではないのか?」


「えぇ、モニカ神殿長はドワーフなので見た目がその・・・あれなんです」


 ・・・ドワーフ。

 その言葉で納得・・・できるのか?

 確かに酒場のレーネさんもドワーフで見た目は子供だ。


 ロリババア製造種族・・・ドワーフ、恐ろしい種族だ。


「あのぉ、何に驚愕しているのかはわかるんですが、戻ってきてください! 今は楽太郎さんだけが頼りなんですから!」


「あ? あぁ、うん。一旦考えるのをやめるよ」


 まだ整理しきれない心の内ではあるが戦いに目を向けて切り替えよう。

 モニカ神殿長の倒れた姿を思い出すと居た堪れない気持ちになるのでルインに一任しておこう。


「ルイン。悪いが少しここで待っててくれ、ここなら暫らくは敵が現れないはずだ。俺はこの先の敵集団を殲滅してくる」


「大丈夫なんですか?」


「あれくらい余裕ですが?」


 俺は軽口を叩いて先に進む。

 今度は最初から全力で疾走したのですぐに戦場に着いた。










 その戦場では1人の男が取り残されていた。

 敵の方が強く、数も多い。

 そんな絶望的な状況でも男は諦めず、必死に(しの)ごうと奮戦していた。


 敵の攻撃を受け流し、払い、吹き飛ばされてもすぐに立ち上がり護ろうとする。


「悪いが、私を殺すまでこの先には進ませない!」


 己を鼓舞するように叫ぶと男から離れて逃げ去った他の者を追おうとしたミノタウロスの背中を斬り付けようと走り出す。

 その様子を見て他のミノタウロスが一声上げるとそのミノタウロスは振り返り、剣を蹄で受け止めて男に蹴りを入れて吹き飛ばす。


 男も反撃は予想しており、盾を挟み込むと後ろに自ら飛ぶことでダメージを軽減させるが、吹き飛ばされた先で別のミノタウロスから追撃を喰らい金属がぶつかり合う甲高い音を響かせて跳ね飛ばされた。

 男は起きようとして片足に激痛が走り、慌てて足に目を向けると右足がありえない方向に曲がっていた。


 これで終わりか・・・


 激痛で引き戻された意識の中、ついに男が、トッチーノが折れそうになった時、それは起こった。


 トッチーノに追撃を掛けたミノタウロスが突然倒れた。

 それをスローモーションのように見ていたトッチーノには何が起きているかわからなかったが、次の瞬間。自分の身体から痛みが消えていくのがわかった。


「はぁ、一応間に合ったが、あんただったとはな・・・」


 後ろから聞こえる声に振り返ると、トッチーノはそこに見知った顔を見付ける。


「ラク、タロー君?」


 トッチーノは確認するように名前を呼ぶと、楽太郎は嫌そうに「あぁ、そうだ」と短く答える。


「なんでここに?」


「ここは俺の家の敷地だからだ。あんたこそなんでここにいるんだ?」


 そう言われてトッチーノは言葉に詰まる。

 元々ここに湧いた魔物を討伐しに来たのに逆に殺されかけた所を助けられたのだ。

 それもなんて事も無いと言った様子でラクタローは会話の間にも次々とミノタウロス達を屠っている。


 こうなるとトッチーノとしてはまるで冗談のような光景に苦笑が漏れてしまう。


「笑える状況か?」


 耳聡(みみざと)く聞いてくる楽太郎にトッチーノは苦笑いで答える。


「いや、私達が束になっても敵わなかったのに、君はなんてこと無いと言った感じで次々と倒してしまうのでね。

 私としてはもう笑うしかないよ」


 そう言って座った状態で両手を揚げてお手上げのポーズをとる。


「意外に余裕があるな?」


「いや、一度死を覚悟したからだろうね」


「嫌な腹の据わり方だな」


「はは、だが、君には感謝している。

 助けてくれてありがとう」


 そう言って真顔で深々と礼を言うが、楽太郎は戦いながらなので見ていない。


「礼は良いからさっさと立って身を守ってくれないか?

 護りながら戦うのは意外と疲れるんだが?」


「おっと、すまない」


 そう言って立ち上がると近くに落ちていた愛用の剣と盾を拾い周りを警戒しつつ構える。


「それじゃあんたは自分の身を守っててくれ、その間に殲滅する」


「手を貸そう・・・と言うのは烏滸がましいな。

 すまないがよろしく頼むよ」


 トッチーノは手を貸そうと思ったが、目の前の戦闘を見て思い直した。


 目の前では楽太郎が1匹のミノタウロスに棍を振り下ろすとミノタウロスの頭が(ひしゃ)げ、ゆっくりと倒れる。

 その間に数匹のミノタウロスが四足(よつあし)で楽太郎に突撃するが楽太郎はそれを紙一重で躱しながらミノタウロスの頭や足、背中に棍を打ち付け1撃でミノタウロス達を行動不能に追い込んでいる。

 そんな事をしつつトッチーノとも会話しているのだ。

 こんな冗談染みた戦いに参加できるだけの実力をトッチーノは持っていない。


 それに今やミノタウロス達は楽太郎を囲むように包囲しており、トッチーノは完全に蚊帳の外に追いやられている。

 こうなると逆に手を出せば足を引っ張るだけだろう。


 こうして楽太郎の戦いをトッチーノは見せ付けられる事になり、こんな化け物染みた楽太郎と敵対しないように必死で立ち回った自分の正しさを再認識すると共にこれほど自分を褒めてやりたいと思った事は無かっただろう。


 そうしてミノタウロス軍団と楽太郎の戦いは一方的な蹂躙で終わった。

 掠り傷1つ負わず悠然と立っている楽太郎を見てトッチーノは一言零す。


「君は英雄だ・・・」


「その台詞はやめい!」


 何故か楽太郎から突っ込みが入ったが、トッチーノは純粋にそう思った。

 釈然としないものを感じつつ楽太郎を見ていると肩から下げていた鞄を掴むとミノタウロスの死体を入れ始めた。


「それはマジックバックかい?」


「あぁ、そうだ。一応素材になるだろうから回収するんですよ」


 そう言って次々とミノタウロスを鞄へと放り込むと、楽太郎はルイン達の元へと一旦戻る事にした。


 トッチーノとしては他の者の安否が気になったがせっかく助かった命をまた捨てる気も無いので楽太郎の安全策に乗って合流する事にした。





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ホラーが大丈夫な人はこちらの短編もよかったらどうぞ。
ナニかがいる。
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